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J/53  作者: 池金啓太
三十三話「世界の変転 後編」

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彼らの事情

七月の終わり、普通の学生であるのなら夏休みを享受するというある意味有難い期間である、それは去年までは静希達も同じだった


だが静希達は今日本にいない、日本から遠く離れたロシアの地で夏休みの始まりを過ごしている


旅行などという悠長なものでは決してない


失敗すれば世界が亡びる、それほどの危機の中に静希達はいた、その事件の解決のために、世界の崩壊を防ぐために


もし失敗すればヨーロッパの大半が歪みの中、あるいは消滅することになる、そうなれば地球は人が住むことのできる星ではなくなるだろう


それを防ぐために静希達はいるのだ


現場に向かう途中、敵の悪魔の妨害を受けながらもなんとか到着し、今は戦力がそろうのを待っているところだった


静希達が休息をとってどれくらいが経っただろう、静希達は深夜近くにやってきた町崎達と合流していた


日本からの協力員はこれですべてそろったことになる


悪魔の契約者である五十嵐静希、そしてそのサポートとしてやってきた清水鏡花、幹原明利、響陽太、城島美紀


そして町崎が連れてきた部隊に加え静希達と行動を共にする大野と小岩

これだけそろうと壮観である


さらに言えば今回行動するのはそれだけではない、日本以外の国からも協力員がやってきている


特筆するべきは静希と同じく悪魔の契約者エドモンド・パークス、非公式ではあるが悪魔の契約者カレン・アイギス、そして二人の連れとしてアイナ・バーンズ、レイシャ・ウェールズ、さらにカレンの使い魔であるリット・アイギス


それに加えロシアの軍に他の国からもいくつか部隊が派遣されている、さすがに軍服を確認してどこの国からというのは把握できないが、恐らく師団クラスの規模になっているのではないかと思われる


これだけの規模での作戦行動は初めてだ、はっきり言って自分たちがいる意味があるのかは微妙なところではあるがそれぞれ役割を考えると必要になるのは間違いないだろう


現在確認できている相手の戦力は大まかに分けて三つ


リチャードを含んだ契約者三人


アモンを含んだ悪魔三人


そして悪魔であるブファスの操る多数の奇形種


相手が陣取っているのは静希達が拠点にしようとしていたキーロフの町の北にある森、一部魔素過密地帯となっている危険地域である


他国から空爆などの要請もあったのだが、ロシア側からの許可が下りずに陸上からの攻略作戦を決行することになる


空中からの無人索敵機は一定範囲内に近づくと撃墜されてしまう、恐らくは長距離への攻撃が可能な悪魔があの中にいるのだろう


相手の能力は契約者と悪魔、それぞれ三分の二ずつ判明している


主犯格であるリチャード・ロゥ、本名チャーリー・クロムウェル、強化系統身体能力強化


その共犯者である契約者、変換系統を用いる能力者、アジトなどの建築物を作っていたことからそれなりの出力を持っていることが予想される


そしてリチャードの契約する悪魔アモン、炎を発現し操る能力を持つ


悪魔の一人ブファス、生き物を操る能力を持つ、現状から推測すると操れるのは体の動きと能力のみでその個体の持つ五感を操ることはできないと思われる


そして悪魔一人と契約者一人の能力は未だ不明、そこが一番の不安要素でもある


こちらの兵力は先も記したとおり、それぞれ主力級の悪魔とそれをサポートする能力者が存在し、つい先刻火砲支援用の戦車などが到着している


準備を進め、行動開始できるようであれば攻め込む構えをとっている


どれだけの戦いになるのかはわからないが、少なくとも周囲を巻き込んだものになる可能性が高い


なにせそれぞれ悪魔が三人ずついるのだ


無論それぞれ一人ずつ非戦闘要員の悪魔がいるのは否定できないが、それでも十分すぎるほどの、所謂過剰戦力を備えている


両者が高い戦力を有していることと、相手が加減をするつもりがないことを考慮に入れればこちらの被害が大きくなるのは間違いない


だからこそそれを何とかしようと静希は策を講じているのだ


その策が成功するかどうかは未知数、はっきり言って一種の賭けのようなものだ


決して分のいい賭けとは言えないだろう、だがその勝率は静希の考える中では六割以上、やってみる価値はある


静希達が町崎との合流を果たしてから数時間後、この部隊全体を指揮しているラヴロフ少将から呼び出しがかかっていた


恐らくは顔見せも含めた激励でもするつもりなのだろう


実際自分たちの顔を見ている人間は少ない、興味半分で静希達の顔を見に来た軍人もいたが、準備段階で攻撃を仕掛けられたという事もあってあちこち忙しそうにしている


顔を見るだけの余裕がないものがほとんどだったのだ


外部からの協力員、悪魔の契約者、今回の戦いにおける主力


ロシア側からは正直あまりいい気はしないだろう、なにせそれだけ自分たちの力が頼りないと言われているようなものなのだから


正直に言えばその通りなのだ、だがそれは仕方のないことである


悪魔の契約者相手ではただの能力者はどうしても力不足に陥る、それが数の力だとしても限界があるのだ


自分達が傷つくのを恐れる限り悪魔に対して決定打は打てないのである


静希やエドは大勢の部隊が並ぶ中、ラヴロフのいる建物の中に呼び出されていた


悪魔の契約者のお披露目というのもあるのだろうが、今後の流れを確認するという意味もあるのだろう、各部隊の隊長格もその場に集められていた、町崎もその一人としてこの場に同席していた


「では今後の大まかな流れを確認しておく、作戦開始はおよそ三時間後、夜明け前、先行索敵部隊と共に一気に敵陣へと進攻をかける、各部隊の配置はこのようになる」


ラヴロフが見せるボードの上にはそれぞれの配置が記されていた


外周をロシアの部隊が囲み、その内部に各国からの協力員が配置されている

特に静希とエドは配置の中心からやや後方気味、恐らくは一番安全と思われる場所に配置されているのだろう


万が一にも静希達を敵陣中心へと送り込むための配置である


相手の能力の一部が判明したことから相手の配置を大まかに予測しているようで、別のボードには相手の配置らしきものが表示されていた


外周部には奇形種の群れで壁を作り、その内部にそれぞれの悪魔と契約者が配置されており、その一番深くに今回の事件の発端でもあるリチャード、そして召喚陣があると予想されていた


配置としてはキーロフの方に偏った防衛陣と考えていいだろう、もちろん索敵代わりとして多方向に奇形種を配置しているだろうが、悪魔の配置はとにかくキーロフの方に寄っているという印象だった


この配置は確かに間違いはないだろう、こちらがキーロフにいるという事をすでに分かっていたからこそ相手は奇襲を仕掛けてきたのだ、静希としても異論はない


相手がただの人間だったのなら


「それぞれの配置は以上だ、何か意見や疑問はあるかね?」


ラヴロフが周囲を見渡すと静希が手をあげる


「俺とミスターパークスの近くに転移能力者を一人ずつつけてほしい、すぐに現場に駆けつけることができるように」


「了解した、他に要望は?」


「うちのチームメイトを一人、少し前の方に配置転換してほしい」


静希の言葉にラヴロフは眉をひそめていた、ロシアの戦闘で外部の人間、しかも学生を負傷させたとあっては問題が発生する、そのことは十分わかっていた


だが静希の言い分をラヴロフはすでに理解している、静希が何をさせたいのかもわかっているつもりなのだ


「この陣営からしてそれは必要ないと思うが?君の策が必要になるのは後半だ、それまではまだ」


「無論相手がそのままで待っていてくれるのであればそれでいい、何も最前線に配置しろとは言わない、俺たちの本来の配置より少し前にしてくれればいいってだけだ」


静希の言葉にラヴロフは難色を示しているようだった、他の部隊長たちからもやめておいた方がいいのではないかという声が聞こえてくる


なにせ静希達はこの場にいる唯一の学生だ、周りの軍人たちからもある意味守る対象であるという位置づけにある


無論静希以外の話である


静希も無理にとは言わない、もしそれがかなわないのなら様子を見ながら徐々に先行させるだけの話である


何よりこれはあくまで保険の話なのだ、万が一に備えての対策でもある


「・・・わかった、ミスターイガラシがそう言うのだ、きっと意味があるのだろう、君のチームメイトの人員配置に関しては君の自由にしたまえ、ただし危険な行動はとらないように」


「ありがとうございます、そのように取り計らいましょう」


事前準備の一つ目はクリアした、あとは他にもやっておくことがある


いろいろとやることが多くて嫌気がさすが、少しでも勝率を上げておくための手段だ、どんなこともやっておいて損はない


「それでミスターイガラシ、ミスターパークス、君たちには一つ頼みが」


「俺たちの悪魔を見せろっていうんだろ?」


「前にもあったからもう大体事情は察してるよ」


静希とエドがため息交じりにそう言うと、ラヴロフはまぁそう言う事だと言いながら苦笑して見せる


今回は相手も悪魔が数人いるのだ、万が一にも自分たちの味方である悪魔に対して攻撃をさせるわけにはいかない


誤射を防ぐためにもあらかじめ姿形を覚えておいて損はないのだ


「じゃあついでに部隊の人間にいろいろと教育してやるか、どうせ悪魔と対峙することになるんだ」


「あぁなるほど、確かにそれはいい考えだ、何もしないよりかはいいだろう」


一体何をするつもりなのか


静希とエド以外の人間は非常に心配そうに眺めている


「五十嵐君・・・一応聞いておくけど、手荒な真似はしないでくれると助かる」


「大丈夫ですよ、適当にちょっと威圧するだけです、悪魔と対峙するなら少なくとも慣れておいてくれないと」


町崎の心配はもっともだが、これから悪魔と対峙するというのにその悪魔に対して耐性を持っていないのでは話にならない


少しでも慣れてもらうためにはある意味刺激が必要なのだ


その刺激がどの程度のものになるかはさておき、やっておいて損はないのである


せっかく全員の前でお披露目するのだ、ちょっとくらいはしゃがせた方がいいと思ったのである


何より誤射をさせないためにも、これは必要なことなのだ










全部隊が並んでいる前に、静希達は並んでいた


各部隊の隊長が並ぶ中、静希とエドも同様にその場に立っているのだが、静希とエドにかなりの数の視線が向けられている


特に静希に向けられる視線は強い、何故この場に子供がいるのか、そう言う視線もあれば静希のことをある程度知っているのか畏怖の念も込められている視線が静希にこびりついていた


少し高い場所に作られた演説台のようなところでラヴロフが今回の作戦についての説明と鼓舞の演説をする中、静希は小さくため息をついていた


「やっぱり注目されてるな」


「仕方がないさ、これも悪魔の契約者の務めみたいなものだよ、君の場合はそれだけじゃないと思うけどね」


「日本人は幼くみられるっていうけど・・・そう言う意味じゃ損だよな」


「若く見られてるってことなんだからいいじゃないか、若作りし放題だ」


それっていいことなのかと静希とエドが小声で話していると、ラヴロフの視線がこちらを向く


事前の打ち合わせ通り静希とエドはラヴロフが立っている場所まで歩み寄る


「相手も強大な悪魔の力を借りているだろうが、今回は我々も悪魔の契約者の力を借りることに成功した、紹介しよう、日本の悪魔の契約者シズキ・イガラシとイギリスの悪魔の契約者エドモンド・パークスだ」


それぞれがラヴロフの隣に立つと先程まであった視線がさらに強くなる


特に静希にこびりつく視線が強い、やはり日本人でなおかつ子供というのが注目を集めているのだろう


子供だからと舐められるのは非常に不本意ではあるが、確かに子供がこの場にいれば不思議がられるのも当然だ


実際明利やアイナ、レイシャ、そしてリットなども強い視線を向けられていたのである


無理もない反応だと思いながら大人しくしていると、ラヴロフがさらに言葉をつづけた


「これからこの二人の連れる悪魔を諸君らに見せてもらう、今回は味方だ、決して誤射しないようにその姿を見ておくこと、そしてその姿を覚えておくのだ」


今回は味方


その言葉に若干思うところはあるが今はそれを言及したところで仕方がない、静希とエドは一歩前に出ると自らの体から悪魔を出すような演出をした後でそれぞれの相方をこの場に出す


黒い角を持ち褐色の肌に銀色の髪、美しい容貌と豊満な肉体を持つ悪魔メフィストフェレス


獅子の顔と胴体、そして異形の四肢と尾を持つ悪魔ヴァラファール


それぞれが姿を現すと同時に自分たちを見ている人間たち相手に全力で威圧を始めていた


その場にいた人間のほとんどが、その威圧に対してリアクションをとっていた


足を竦ませ、中には直立不動を命じられていながらも座り込んでしまうものまでいる始末


やはりただの人間に対して全力の威圧を行えばこうなる、かなりの数の人間はオーバーリアクションをとっているが、中にはしっかりと悪魔の姿を視界にとらえている者もいる


よほど強い胆力を持ち合わせているのだろう、そして軍以外の人間で全く平然としている人間は他にもいた


静希やエドの連れの者たちである


特に鏡花、陽太、明利、城島、大野、小岩、アイナ、レイシャ、カレン、リットは全く気にした様子もなく静希達を見続けている


軍の大半が瓦解しかけているという状況にラヴロフはため息をついてしまっていた


彼に対しても威圧を放っていたはずなのだが、そのあたりはさすが少将といったところか、しっかりと立っていられるだけの胆力を持ち合わせているようである


「今のような威圧を相手の悪魔も行ってくると思われる、諸君らにはまず悪魔という存在自体に慣れてもらわなければならない、戦えるだけの精神状態を作りなおかつ挑まねばならないのだ!」


ラヴロフが何事もなかったかのように演説を続ける中、悪魔二人は威圧を続けている


演説の様子を見て少しずつ軍人たちも立ち上がり姿勢を正し始めた


あの悪魔たちは今は自分たちの味方なのだ、相手の悪魔はあの悪魔が押さえてくれる


そう考えることで何とか自分たちを鼓舞しているようだった


ラヴロフの演説の効果もあるだろうか、作戦の内容や現状を含めた攻略方法、そして相手の行ってくるであろう攻撃を知らせていくと徐々にではあるが軍人たちはしっかりとした足取りと表情になっていく


鼓舞のための演説ができるというのは指揮官の強みでもある


自らの持つ力と材料と情報、それらを勝利へとつなげることができるという証明をすることによって味方の力を高めるのだ


実際にそれができるかはわからない、できるかのように演出するのだ


静希にはできない芸当だ、静希にはまだ誰かを鼓舞するような演説はできそうにない、少なくともこれ程の数の人間のやる気を出させることなどできそうにない


「退屈なものだね、こういう話を聞くのは」


「まぁな、演説って内容があってもなくてもいいんだよな、結局のところ自分たちは勝てるってことにつなげられればいいんだから」


ラヴロフの演説が続く中静希とエドはそれを聞きながら再び小声で話をしていた


鼓舞のための演説


自らの勝利につなげることで味方のやる気を上昇させる、言ってみれば簡単なのだがそれにはいろいろとテクニックが必要である


一朝一夕で身につくものではなく、話術とはまた別の才能が必要になるのだ、それもまた指揮官になるにあたって必要なことでもある


ラヴロフの演説の後、部隊の人間は作戦行動開始に向けてそれぞれ行動を開始していた


各種装備の点検だけではなく配属される戦車の整備、さらにこれから転移のゲートを用いてキーロフのやや北側から進行するために必要な道づくりとやることは多い


実際に戦う能力者たちは休息し、後方支援系の能力者たちはとにかくより有利に戦えるように準備を進めている最中だった


その中で静希達もまた装備の最終チェックを行っていた


自分たちにあてがわれた建物の一室で体を休めながら装備の点検を続けている


装着する仮面に加え無線の状態を確認し、それぞれの装備を逐一確認していく


「明利、種は全員に行き渡らせたか?」


「うん、もう結構な数行き渡ってるよ、静希君が頼んでくれたから話が早く済んだね」


今回静希達が行動するにあたって明利の種を軍人全員に持たせていた


ラヴロフに指示して全員に種を行き渡らせ状況を逐一報告させるのだ、状況からして明利を連れていかない方がいいのではとも思ったのだが、広範囲にわたり状況を確認できる明利の能力はかなり有用だ、周囲を軍人が囲う事もあってかなり安全な場所に配置するという事もあり今回は一緒に来ることになったのである


軍に種を渡すというのもその携帯性の良さからすぐに受け入れられているようだった、索敵において手間がかかる明利の能力も数がいればカバーできる


相手の陣地に対して種をまくのは無理だが一人一人に持たせることで状況を把握させるというのは非常に有効な手段だ


実際に戦闘行動を行うのは全部隊のうち約半数程度だろう、それでもかなりの数の人間が動くことになる


それだけの数の人間が広がればかなりの範囲を索敵下に置けるのは間違いない


「陽太、分かってるな?しっかり体力残しておけよ?」


「おぉよ、ガンガンカロリー入れておくぜ、丸一日でも戦い続けてやんよ」


そう言いながら陽太はまるでお菓子のような感覚でカロリーメイトを口の中に放り込んでいく


それぞれ一個に含まれるカロリーがかなりの量であることを考えると陽太の言うように一日中戦い続けることもできるかもしれない


だが相手も相手でかなり強い、強い相手と戦えばその分消耗も激しくなる

どれだけ陽太の体力がもつか、そのあたりも重要になってきそうではあった


「鏡花、陽太の体力はどれくらい持ちそうだ?お前の方がよく知ってるだろ?」


一年以上陽太と訓練をし続けた鏡花だ、陽太の手の内も合わせてその体力や調子も十分以上に理解していると言っていい


陽太のことに関しては鏡花に聞いた方が正確だ、だからこそ鏡花に意見を求めたのだが、鏡花は何やら難しい顔をしていた


「体力的には一日戦うってのも無理じゃないと思うわ・・・問題は集中力ね、どこまで集中状態を続けていられるか・・・」


「・・・今までの訓練ではどのくらい維持できてた?」


鏡花は自分の記憶をたどって陽太の集中状態がどれくらい続くのかを思い出しているのだろう


正直なところ高い集中を維持するというのはそこまで難しい動作ではなくなりつつある、鏡花の指導のおかげで陽太はオンオフをしっかりと分けられるようになり、さらに言えば戦いにおいて重要な集中状態を高いレベルで維持できるようになってきている


だがそれも数十分の話だ、数時間から十数時間にわたり維持できるようなものではない


「調子が良ければ一時間弱、調子が悪ければ十数分ね」


「振れ幅大きいな・・・今の調子は?」


陽太の様子を見ながら鏡花は眉をひそめる、陽太の今の状態が良いものか悪いものか、鏡花も図りかねているのだ


歯車がきっちりかみ合えば、恐らく最高の状態に近くなるだろうが、もしうまくかみ合わなかった場合


「最高か最悪の一歩手前ね・・・状況によって変化するとしか言えないわ」


人間の調子というのは数値化できるものではない、時と場合によって異なるためにそれこそ状況によって変化する物なのだ


体調とは違い集中できるかどうかはその精神状態によって変わる


現状陽太の体調は悪くない、あとは精神的な調子によるのだが、その判断は鏡花自身わかっていないのである


最高の集中状態を維持できれば、陽太は最高のパフォーマンスを発揮できる、だがその逆なら


そう考えると鏡花は不安になる、陽太は今妙にやる気をみなぎらせている、何度かこういう状態を見たことがあるが、その時は最高の結果かダメダメになるかの二極だった


今の状態がどのように作用するのか鏡花はわからない、だからこそ静希にはその通りに告げた


そうすることで少しでも何か策を講じさせるべきだと思ったのである


「最高か最悪か・・・とりあえず鏡花がいろいろケアしてやってくれ、最高の状態になるように」


「・・・一応やっておくけど・・・不安だわ」


陽太の調子を整えるのは鏡花が一番だ、それこそ鏡花が一声かければ陽太の調子はかなり上がるだろう


その一声が問題なのだ、なんと声をかければいいか


今の陽太は非常にデリケートな状態だ、最高にも最悪にもよりかねないような不安定な精神状態と言っていい


本人は自覚できていないだろう、それを鏡花は任されているのだ


残った二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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