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J/53  作者: 池金啓太
三十二話「世界の変転 前編」

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ここに来るまでに

「となれば、単純に相手の性能の問題と考えるのが妥当だね」


「つまり、相手の能力は『肉体の操作と能力の操作』だけで、五感への同調と操作は行われていないってことか」


「可能性としては十分にあり得るね」


つまり、相手の能力はその肉体に同調し一定範囲内の様子を大まかに知ることはできるが、同調している動物の五感を利用して周囲の状況を知ることはできないという事だ


明利の能力にも少し似ている、明利も同調した生き物の周囲を大まかにではあるが知ることはできる、そして生き物そのものの五感を利用することはできない


そう考えれば一定距離が離れたことで見失うというのも納得のいく話である、問題はどの程度まで知覚できているかという事だ


森林地帯で視界が悪いとはいえ数十メートル離れてその知覚範囲から逃れたという事は、平地ではかなり広い範囲を知覚できると考えていいだろう


そのあたりはさすが悪魔の能力だと言わざるを得ない


なるほど、だからこそこちらの陣地内に踏み込まず、遠距離からの能力攻撃だけに留めたのだろう


物資の被害は出たものの人的被害は出ず、なおかつこの場所が確認できていないというのはそう言う理由があったのだ


「となれば通常の奇形種戦闘は通じないな、対人戦等も少し違う・・・長距離からの攻撃で確実に削っていくくらいしか確実な戦い方はなさそうだ」


「そう言う意味ではこっちは楽なものさ、なにせ相手は武器や道具を使ってこない、確実に被害を与えられるこちらと、大雑把にしか狙いをつけられない向こうではどっちが優勢かは明らかだ」


純粋な兵力での攻略戦という意味では今のところこちらの方が情報と支援では勝っていると考えていい


相手の視界が限られているのならその視界外からの攻略が可能、問題は相手がどれだけ接近してくるかという事である


こちらは死にたくないと誰もが思っているただの能力者部隊、対して相手は死んでも問題なく、簡単に特攻が可能な奇形種部隊


そのあたりの認識にも気を付ける必要だろう


あとの問題はどれだけ相手の悪魔に対しての対応ができるかという点である


「ミスターイガラシ、ミスターパークス、君たちの悪魔の力でどれほどの相手を殲滅できる?参考までに聞いておきたい」


奇形種たちを悪魔の力で一掃できるのであれば部隊の被害は抑えられる、そう考えているのだろう


確かにメフィ達の力を借りればそれはかなり楽にできるだろうが限界がある


「俺の悪魔はあまり精密な行動はできないからな、辺り一帯を更地に変えていいのなら請け負うが・・・まず間違いなく許可が下りないだろう?」


「僕の悪魔は射撃などは得意だけど、あくまで局地戦での行動になるね、対生物に向いた能力ではあるけど一掃は難しい上に周囲の被害も大きいだろうね」


メフィの能力はそれこそ周囲の地形ごと変えることができるような強力な能力をいくつも有している


地図を書き換えることを許してくれるのであればメフィが対応してもよかっただろうがまず間違いなくロシア側は許さないだろう


そしてヴァラファールの能力は対生物に有効である


呪いという能力は即効性こそ薄いものの、一発でも当たれば相手に致命傷を与えることだってできる


ただ問題は、その呪いが周囲にまき散らされた場合どうなるかわからないという事である


手加減をしている状態であれば、骨折やら肌荒れ程度で済む呪いではあるが、もしヴァラファールが本気で呪いを放った場合、どうなるかは全くの未知数である


少なくとも今まで静希はヴァラファールの本気の一撃を受けた生き物がどうなるのかを見たことがない


静希が思っているよりもずっと、考えているよりもずっと恐ろしくえげつない結果が待っているとしたら、そんなものを大地にまき散らすのは考え物である


森林地帯という事もあり周囲には木々も大量にある、木々に呪いが襲い掛かった時にどうなるか、それも全くの不明なのだ


「君たちに奇形種の相手をさせるのはやめておいた方がいいかもしれないな」


「多分な、場合によりけりだけど俺たちは悪魔の対応を主にやらせてもらう、そちらには奇形種の露払いを頼みたいんだよ」


「無論それ以外にも手伝ってもらいたいところだけどね、悪魔は僕たちに任せてくれていい、それにどうやらミスターイガラシには何か考えがあるようだしね」


エドの言葉にラヴロフは静希の方を向くが、自分たちが蚊帳の外扱いされているのに不満を持っているのか、僅かにため息をついている


だがそれを口にするようなことはしなかった、悪魔の能力が圧倒的だというのはすでに周知の事実、その力を使役する二人が悪魔と対峙するのもまた至極当然のことである


自分達は露払い、静希達が進むための道を確保することこそがやるべきことであるとラヴロフも理解できているようだった


「こちらとしても支援は惜しまん、どうにかして相手の悪魔を無力化してくれればあとは我々が何とかしよう」


「了解したよ、あとは優先順位をつけていくべきだろうね、どの悪魔を順に対処するか」


「あぁ、そのあたりはもう大方考えてある、特にこの状況ならある程度は絞れるし、何より悪魔の内の一人は交戦経験あるしな」


静希の言葉にエドとラヴロフは静希の方に目を向けている、何か考えがあるのであれば聞かせてほしいという瞳をしていた
















静希達は話し合いを終えそれぞれあてがわれた場所へと向かっていた


「にしても静希・・・あんな作戦でいいわけ?」


「今のところはな・・・あとは随時状況を見てそれぞれ判断してもらうしかないよ」


大まかにではあるが静希が考えている状況は伝えた、あとは相手のもう一人の悪魔の能力と契約者の能力が重要になってくるだろう


「正気とは思えないわね、あんたらしいと言えばあんたらしいけど」


「だろ?もう俺の手口はわかりきってるんだから、このくらいは余裕だろうさ」


静希の行う行動はかなり突飛なものが多い、自分や味方を危険にさらすこともあるが、その分見返りも大きい


俗にいうところのハイリスクハイリターンというやつだ


だが静希は運に任せた駆け引きはしない、静希がするのは何時だって状況に応じた適切かつ効率的な無茶だ、決して無理などではない


「城島先生にもいろいろやってもらおうと思ってるんで、そのあたりはよろしくお願いします」


「お前に顎で使われるのは正直癪だが・・・まぁいいだろう、今回だけは大目に見てやる」


状況が状況なだけに城島も静希のいうことに従うことに異論はないようだった


生徒に従うというのは彼女からしたらだいぶ複雑な気分かもしれないが、それでも静希の指示は的確だ、目的達成においてこれほどのものはないだろう


何より悪魔の契約者としての経験や今まで乗り越えてきた苦難に対しての失敗などをすべて血肉にしている


現状この場にいる誰よりも作戦を立てることに関しては秀でていると言えるだろう


相手の力を直に感じ、なおかつその対抗策を考えてきた、そして今まで積み上げてきた全てをここで発揮するつもりだった


「えっと・・・俺たちも仕事あるのかな?」


「もちろんありますよ、お二人の場合は鏡花たちについていてもらおうと思ってますけど」


大野と小岩は静希との付き合いが長いとはいえ戦闘能力があるとは言い難い、いや確かにあるのだろうが悪魔の戦闘についていける程の実力は無いのだ


鏡花のように秀でた能力や思考があるわけではない、彼らにあるとしたら悪魔に対して慣れているという経験だろう


だからこそ静希はこの二人を鏡花に付けるのだ


悪魔がいるような状況においてもきちんと活動できるような人間は案外稀だ、そう言う人物を鏡花に付けることは重要である


「どう動くかも細かく決まってないんだしそこまで気にするような事でもないだろ、まだ俺たちは待つ時間だ」


「後俺たちができることと言ったら待つことくらいだもんな、なんとも暇なもんだな」


状況が動き始めているとはいえ準備ができるまで自分たちにできることなどありはしない


できることと言えば体を休めて万全の状態を作ることくらいである


すでに時刻は夕方に近づいている


どれだけ話し合っていたのかというくらいに時間が経過してしまっているのだ、さすがに疲労と空腹が耐えがたくなってくる


「とりあえずもう少ししたら食事にしよう、ロシアの部隊から食料は受け取っているしね」


「適当に何とかしろってことね・・・たまには豪華な食事でもとりたいところだけど」


最近軍と行動することが多く、豪華な待遇というのはない


この状況も豪華と言えば豪華だろう、軍の中に入って自立行動が認められている時点で破格と言える、だがその破格の条件を付けているのは静希という悪魔の契約者がいるからに他ならない


「陽太、あんたは特にしっかり休んでおきなさいよ」


「おうよ、任せておけって、もう今からやる気で満ち溢れてるんだからよ」


今回の戦いにおいて陽太のポジションはかなり重要になる、それこそ勝敗を左右すると言っても過言ではないだろう


本来ならば緊張して全力を出せなくなってもおかしくないような状況で、陽太はむしろやる気をみなぎらせていた


頼りにされている、できることがある


そう思うだけで陽太の体は力がみなぎっていた


だがその様子に鏡花は不安を覚えていた、陽太の様子が何かいつもと違うような気がしたのだ


それは鏡花も何度か見たことのある症状だ


急ぎ過ぎているというか、何かみなぎりすぎている気がする


そう言う日は決まって何かつまらないミスをしたり、出力を上げ過ぎたりするものなのだ


緊迫した状況においてこれがどういう結果を生むのか鏡花にもわからないが、一種の不安要素であるのは間違いない


「とりあえず町崎さんたちがいつごろ到着するかだけ確認しておこうぜ、ミスターパークス、通信室とかはどこに割り当てられてるんだ?」


「案内しようか?ミスターイガラシとその仲間たち・・・もうこの呼び方も何とかできないものかな」


この場に自分達しかいないとはいえいちいちミスターを付けるのは非常に煩わしく思えてしまうのだ


悪魔の契約者同士が結託しているなどと周囲に知られでもしたらそれこそ面倒なことになるのは間違いない


だからこそこうして他人の振りをしているのだが、それもいつまで続くかわかったものではない


以前一緒に行動したというのもあって確実に距離が縮まっているのは確かだ














その後の確認で町崎達の到着も大体主力部隊と同じく夜の到着になりそうだということがわかった


それぞれ確認してみたところどうやら他の場所で後方支援に対する妨害活動は行われていないという事だった。


モスクワからの直通空路だけが妨害されていたのは幸運だったかもしれない、そして最初の被害が静希達だったというのもある意味幸運であり不運だったのだろう


あの場で静希がいなければもっと大きな被害が出ていたかもしれないのだ、そう言う意味ではまだ運の流れはこちらに向いている


静希達は軍が用意してくれた食事をとると同時に体を休めていた


そして建物の屋上ともいうべき場所を鏡花に作ってもらい、装備の点検をしながら静希は人外たちと話をしていた


あのリチャードの起こす事件からずっと関わってきた人外達だ、それなりに今回の事件に対する思い入れもあるのだ


周りには誰もいない、そんな中静希の装備を整備する音だけが聞こえてくる


『お前達と会うことになった原因を倒すまで、あと少しってところかな』


『まだ気は抜けないけどね・・・しっかりしなきゃだめよ?』


『シズキのことだ、油断などしないことはわかっているがな』


最初に出会った悪魔と次に出会った神格


それぞれ手を焼かされたと静希は薄く笑って見せた


手を焼かされた分、二人にはたくさん助けてもらった、それこそ数えきれないほどに


悪魔はその力で静希の敵を薙ぎ払ってきた、静希の敵には容赦しない、静希が望めばその存在すら否定するほどの力を持った悪魔メフィストフェレス


神格はその力で静希を数多の脅威から守ってきた、無論その力が及ばなかったこともある、だがそれでも守り神としての矜持を捨てることのない神格邪薙原山尊


『マスター、どうか無理だけはなさらないように』


『わかってるって、無理はしないよ』


無茶はするけどなと静希が言うと、オルビアは少しだけ不安そうに、それでも仕方がないなというわずかな笑みさえ浮かべてため息をついていた


無人島で出会った霊装


常に静希のそばに居続け、その力となり支え続けてきた静希の剣、いつも世話になりっぱなしだと思いながら静希からの感謝は言葉にできない


なんと言えばいいのか静希自身わからなかったのだ


自分に尽くしてくれるからこそ、静希もそれに応えようとする、これが主従関係というものなのだろうかと静希自身慣れることのできないはずの関係に慣れてしまっていることに戸惑いもしているのだ


自らに尽くす忠臣である霊装オルビア・リーヴァス


『今回はフィアにも頑張ってもらわなきゃな、それなりに忙しくなるだろうし』


静希に呼ばれたと思ったのだろうか、フィアはトランプの中で周囲をしきりに見渡している


ある研究所で見つけた奇形種、静希の血を分けメフィによってその存在を変えられたある意味人外とは異なる人外


静希のために行動し静希と共にあり続ける、使い魔フィア


『ウンディーネも悪いな、こんなところまで連れてきて、早く住処を見つけてのんびりしたいだろうに』


『構いません、これも必要なことなのでしょう、それにあなたの力になると約束したのです、このくらいは些末な問題です』


奇しくも静希と行動を共にすることになった四大精霊の一角である水の大精霊


住処を破壊され、不安定な状況にいるなか静希に救われ、住処を探すために静希と共にいる


まさかこんなことに巻き込まれるとは数か月前は想像もできなかっただろう

だが静希と共に生活し、その実態を彼女は見て来た


ただの高校生、ただの能力者、だがどこか目を離せない危うさにも似た魅力を秘めた少年にこの精霊もまた目を奪われていた


力のほとんどを失い、か弱い存在に成り果ててもなおその存在としての器量と意義を失わない大精霊ウンディーネ


静希と共にある人外たちはすでにある種の覚悟ができていた


静希と共にある以上、無茶を強要されるのだと、面倒を押し付けられるのだと


そして静希もそれを理解している


だからこそ静希はそれぞれの人外に役割を与えていた


それぞれができることを全力で行えるように、それぞれが全力を出せるような状況にするために


『長いようで短かったな・・・ようやくここまで来た』


目標まであと少し、静希の敵まであと少し


どんな結果に終わるのかはまだわからない、どういう風な結末を迎えるのかもわからない


だがそれでも静希は笑みを崩さなかった


緊張などは無い、自分にはこれだけ心強い仲間がいるのだ


人外だけではない、鏡花に陽太、明利に城島といった今までいっしょにいた面々


そしてエドやカレン、アイナにレイシャ、リットもいる、自分たちだけではない多くの人々が力を貸してくれているのだ


静希は弱い


静希の力はすでに円熟期を迎え、これ以上能力が成長することはないだろう

弱いまま、静希はこの場所までやってきた


自分にできることをするために、自分にならできることをするために、自分にしかできないことをするために


人外達へそれぞれ声をかけると、静希は装備の点検を終える、いつものように、何も変わりなく


これから静希の戦いが始まる、静希達の戦いが始まる


それがどんな結末を迎えるのか、誰も知らずにいる


本気投稿中誤字報告十件分受けて3.5回分投稿なのですが章をまたぐのでまずは1.5回分投稿、残りの二回分もちゃんと投稿します


これからもお楽しみいただければ幸いです

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