今後の動きと現状確認
出国の準備が整うと同時に静希達は転移能力による移動を開始し始めた
静希達三班と大人たちという分け方で移動を開始し、約一時間ほどかけてロシアの首都モスクワに到着する
ここから目的地であるキーロフへは約六百キロほど離れていることになる、まだまだ遠いなと思いながら全員がいる事を確認して空港のロビーで受付をしていると、こちらの存在を確認したからか数人の軍人が近づいてくるのが見えた
どうやら静希達がこの時刻に到着するというのはあらかじめ知らされていたのだろう、出迎えとは準備の良いことである
「失礼、ミスターイガラシと日本からの協力員でお間違いありませんかな?」
「相違ありません、俺が五十嵐静希です」
今回は静希がメインとなる実習だ、静希が前に出て対応するほかない
一歩前に出てそう言う静希を見て軍人たちは少しだけ眉をひそめた、話に聞いていた悪魔の契約者がこんな子供とは思っていなかったのである
実際に話を何度か聞いたことがある程度でそこまで想像しろという方が無理な話だ、実際静希はただの子供の能力者であることに間違いはないのだから
「随分と顔を見ていますが、何か気になることでも?」
「いや失礼しました、これから現地へ向かうために移動しようと思いますが、何かしておくことなどはありますか?」
移動するとなるとまた時間がかかるだろう、なにせここから現場であるキーロフまでは六百キロ近くあるのだ
車で移動するにしても転移で移動するにしてもこの人数ではかなり時間がかかるだろう
「町崎さんはどうしますか?部隊の人達を待ってたほうが」
「そうだな・・・現場で落ち合おう、大野、小岩、お前達は一緒に行け、俺はあいつらが到着するのを待つ」
「「了解しました」」
大野と小岩は静希達と共に、町崎は部隊の本隊が到着するのを待って行動を開始することになるだろう
とはいっても移動にもかなり時間がかかることが予想される
キーロフへの行き方はある程度調べてきたが、飛行機などを使えば一時間と五十分ほどで到着する、再び転移能力で移動してもいいのだろうが、この辺りからの乗り合わせは少し時間がかかりそうだった
何よりそれらしい便が見当たらないのだ、電光掲示板を見てもそれらしい文字を見つけられない
「こちらはすぐに移動して構いません、一緒に行くのは全部で七人です」
静希、明利、鏡花、陽太、城島、大野、小岩、この七人がまずは先に現地に向かうことになる
どのような手段を講じるのかはさておきすでに移動できるだけの準備は整えてある
移動するべき人員を確認すると軍人たちは何やら確認をした後で何度か頷く
「そちらの男性は日本の部隊の隊長という事でよろしいか?後ほど移動用の輸送機の離着陸をするならいくつか書類にサインをしていただかなくてはならないのだが」
「わかった・・・それじゃあ俺はこれで、先に行って待っていてくれ」
町崎が軍人と共に手続きに向かう間にこちらは話を進めておいた方がいいだろう
早く現地に向かって状況を確認したいところである
「それで、移動はどのようにするんですか?えっと・・・」
「失礼、自己紹介がまだでした、フランツ・ガリツィン少尉だ、今回の協力員の統括とサポートを命じられています」
状況が状況なだけに集められた協力員もかなりの数に上るだろう、協力員のサポートと統括だけのために尉官を配置するあたりロシアの本気度が見え隠れしている
それだけ面倒な人物を相手にしなくてはいけないというのは理解しているのだろう、特に静希やエドのような悪魔の契約者はあまり相手にしたくない人種だ、可能な限り穏便に事を済ませたいという気持ちがひしひしと伝わってくる
「それでガリツィン少尉、これからどのように移動を?飛行機ですか?」
「その予定ですが、生憎通常の航空機は動いていないため軍用機で向かいます、ルートの天候も安定していますし比較的速い機体ですから一時間もすれば到着するかと」
「・・・待ってください、航空機が動いてないって、どういうことですか?」
先程からキーロフ行きの飛行機の表示が見当たらないのと関係があるのだろうか、確かに空港はあるはずなのに動いていないというのは不自然だ
だがそれを踏まえたうえでフランツは沈黙を貫いた後でついてきてくださいと静希達を案内しようとする
恐らくこういう場所では話せない事柄なのだろう、静希達は全員顔を見合わせた後それぞれ頷く
フランツの後についていくと静希達は空港の離着陸を行う滑走路の近くにある格納庫へと連れてこられた
ここに軍用の輸送機を格納してあるのだという
どうやら静希達を運ぶためだけに用意されたものであるらしくそれほど大きくはない、大型の輸送機より速度を重視したものだろう
乗り心地は悪いかもしれないが、今そんなことを言ってもしょうがないのである
「で?どうして航空機が動いてないなんて状況になってるのか教えてくれませんか?さすがに異常な状態ですよ」
「えぇ、異常事態です、ですがそれをさせるわけにはいかないんですよ、あの街はすでに危険地帯になってしまっている、一般人を向かわせるわけにはいかない」
フランツの言葉に全員が眉をひそめた、現地の状況を把握していないためにその言葉にどんな意味が含まれているのか図りかねていたのだ
「危険地帯って・・・ひょっとしてもう戦闘が行われてるんですか?」
「今のところ大きな戦闘は行われていません・・・ですが何度か小競り合いは起きています、恐らくは敵対勢力であると思われます・・・その為にいろいろ理由を付けて各地からのキーロフへ向かう交通機関を一時ストップさせています」
静希達が向かおうとしているキーロフへの移動手段は大まかに分けて二つ、空路か陸路である
陸路の場合は列車か車という二択になるがそのどちらも交通できないようにしているのだとか
理由は陥没や停電、事故などさまざまである、どうやら国を挙げて被害を下げようと軍の大部隊が工作活動を行っているのだろう
余計な被害者を出すわけにはいかないと国としても躍起になっているのだ、問題はこの作戦が失敗したらロシアはほぼおしまいと同義であることくらいだろう
戦闘中に一般人を乗せた航空機などが近づいてくればそれだけで邪魔になる、そう言う意味ではこの対応は非常に正しい、それだけ現場だけの環境を整えているという事なのだから
それにしても発覚したのが昨日だというのに随分と早い対応だ、これだけの早さで行動できるというのは称賛に値する
少なくとも今まで関わってきたどの国よりも展開が早い、あらかじめどのように対応するのか考えてあったのかもしれない
「ちなみに小競り合いというのは?どのレベルの戦闘ですか?」
「銃火器での射撃戦が行われたくらいです、しかも突発的なものばかりで到底戦闘ともいえないようなものばかり・・・犯人は未だ逃走中、恐らくこちらの攪乱が目的でしょう」
軍が展開していながらもそのような行動を繰り返すという事は、少しでもこちらの動きを遅らせたいという思惑があっての事だろう
後方支援などへの工作活動や実際に行動する人間への妨害をすることで全体の行動を遅らせるのが目的か、あるいは別の何かへ目を向けさせないようにしているのか
もしかしたらリチャードとは別の契約者がいて、すでに行動を開始しているのかもしれない
そうなると厄介だ、悪魔の契約者に対してこちらがとれる手段はほぼ決まっている
同じ悪魔の契約者をぶつける以外に手段がないのだ
能力者やエルフだけでは明らかに相手の攻撃から身を守ることができない、そうなると必ず後手に回らざるを得なくなる
だからこそ相手の攻撃に対処できる存在を加えておくべきなのだ
拮抗した実力を有している存在がいてこそ戦いと呼べる、そうでなければただの蹂躙と化すのだ、戦闘をするためには必ず悪魔の契約者が必要になる
問題は相手が何人いるかという事である
まず間違いなくリチャードはその場にいる、これだけの規模の被害を出すような状況を作り出しておいてこれも実験などということはあり得ない
となれば確定している敵対勢力の中にアモンという名の炎を操る悪魔がいると考えていいだろう
他の契約者の存在に関しては正直微妙なところだ
あの場所、かつて静希達が研究ノートを手にしたあの場所にあった椅子の数
チェコで起きた事件にドイツで起きた事件、その二つの事件にそれぞれ契約者がいたとしてもまだ他にも誰かいたことになる
確実なのは確固撃破だ、静希とエド、それにカレンの三人で一人の契約者を囲んで一気に叩くのが理想である
だが相手だってバカではない、そんなことをさせないように対策くらいは用意してあるだろう
そうなるとどうするべきか、悪魔の契約者以外を戦わせるというのも気が引ける
だがそうしないといけない状況になった場合どうするべきか
「とにかく詳しいことは移動しながらお話しします、荷物を運び込んでください、準備ができ次第すぐに飛びます」
向こうが戦闘状態になっている以上もはや街の中も安全とは言えないかもしれない
どの程度の危険状態になっているのかは知らないが、静希はトランプの中の人外たちに注意喚起をしていた
いつ襲われても対応できるようにと
静希達が輸送機の中に荷物を積み込むとその中にはすでにいくつかの装備などが山積みになっていた
静希達を運ぶついでに他の物資も搬送してしまおうという事なのだろう、後方支援の仕事としては間違っていない、とはいえ荷物と同列の扱いというのは少々複雑な気持ちだった
「静希、ピリピリしすぎよ、もう少しリラックスしたら?」
「到着する前に墜落ってこともあり得るんだ、多少ピリピリもするっての・・・」
現地がすでに軽度とはいえ戦闘状態に入っているのだ、工作活動の一環でこの輸送機が落されることだって十分にあり得る
この中で最高の戦力となっている静希を輸送することもあってロシア側の人間もかなり緊張感を漂わせている、こんな状態でのんびりしろという方が無理な話である
「もしそうなったら私たちが対応してあげるから、あんたはどんと構えてなさい、あんたの出番はもっと後でしょうが」
自分の役目をしっかり考えなさいと言われ静希は頭を掻きながら大きく息をつく
まさか鏡花に考えろと言われるようになってしまうとは、自分も少しだけ緊張して頭が回らなくなっていたのだろうかと情けなくなってしまう
輸送機に関してはもう考えるのはやめたほうがよさそうだ、鏡花が対応すると言ってのけたのだ、静希としてもそれを邪魔するつもりはない
今は別のことに頭を使ったほうがよさそうだった
「ではガリツィン少尉、大まかにで良いので状況を教えていただけますか?今の状況とこれからの対応について」
静希達を乗せた輸送機が出発し機体が安定するのと同時に静希は近くに座っているフランツに話を切り出していた
今静希が知りたいのは軍の動きと現状に関してだ、どれほどの協力員が到着しているのか、そして指揮系統はどうなっているか、さらに言えば目標である召喚陣は発見できているのか
今のところの全ての状況を頭に入れておきたかった
「こちらもあまり多くは把握していませんが、今のところ部隊は索敵を広げながら少しずつ魔素の変動範囲内を捜索している状態です・・・だが先ほども言ったように小競り合いが絶えません、小規模ではあるが戦闘も確認されています」
「相手もそれだけ真面目に対応しているという事ですか・・・相手の攻撃は銃だけですか?」
「はい、今のところは銃撃だけです、能力による攻撃は確認されていません」
能力を使ってきていない、これがどういうことなのか静希は判断しかねていた
戦いにおいて自分の手の内を隠すというのは重要なことだ、相手に攻略されないようにするためにも道具を使っての攻撃というのは理に適っている
だが逆に言えば、相手は自分を攻略させないようにしているのだ、つまり攻略されやすい能力なのか、あるいは攻略されることで突破されるのを防いでいる
長期戦の構えをとっていると言い換えてもいい、時間を稼ぐためにゲリラ戦法に切り替えているという事だろう
悪魔の力の有無にかかわらず、そう言う小出しの嫌がらせというのは地味に効いてくるものだ
「それで・・・これはあまり良くない情報なのですが、偵察機が何機か落されています・・・恐らくは敵の能力による迎撃だと思われますが」
「偵察機って・・・戦闘機みたいなものですか?」
「索敵用に作られた無人機のようなものだと思ってください、一定範囲内に入ると唐突に撃墜されてしまうのです・・・」
つまり空からの攻略はほぼ無理ってことですかと静希が結ぶとフランツは首を縦に振る
どのような攻撃をしてきているのかはわからないが、ある一定範囲内に近づくと撃墜されるという事は徹底的に籠城の構えをとっているとしか思えない
だが逆に言えば守っている場所がわかりやすくなるのも事実だ、その一定範囲を明確にすればどこに相手がいるのかというのは丸裸にできる
無人機というのがどれくらい金がかかるものかは知らないが、あらゆる方向から飛翔させて場所を特定したいところである
「現在協力員自体はどれくらい集まってきていますか?ロシアの軍に俺たち、あと日本の部隊が後からやってくると思いますけど」
「現在協力が確認できているのはイギリス、ドイツ、フランスなどの国です、すでに後方支援という形ではありますが他の国からも協力をしてもらっています、それと数時間前にミスターパークスが現場に到着しています」
パークス
その名前が出た瞬間静希は少しだけ安心する、あの場にエド達がいるのであればそれほど問題はないだろう、なにせエドの近くにはカレンもいるのだ、あの場に二人の悪魔の契約者がいる事になる
しかもカレンの連れる悪魔オロバスの能力は予知だ、仮に危険な状態にあったとしても十分対応できる
無論あの二人だけではない、アイナとレイシャ、それにカレンの弟であり使い魔であるリットもいるのだ、少なくとも無事に乗り越えることくらいはできるだろう
「ミスターパークスがいるなら安心できますね・・・ところでロシア軍の武装としてはどのようなものを用意しているんですか?」
「現在は空からの攻略を一旦停止し、陸上攻略作戦を決行しようとしています、主力戦車を含めた戦車隊を複数、そして能力者部隊にも武装をそろえさせてあります」
予想通り戦車が出てくることになったかと静希達は小さく息をつく
静希達は戦車のことは詳しく知らないが、ロシアは大陸間においての戦いで戦車を多用していたイメージがある、特に旧ソ連の頃の戦車は一発の威力に秀でていた印象を持っている、現在の主力戦車とやらがどれほどの火力を有しているのかは不明だがある程度は期待していいのではないかと思える
「その部隊はすでに現場に集結しているんですか?」
「未だ不十分です、能力者部隊はすでに現場に到着し作戦行動を開始していますが、戦車隊の運搬に手間取っています。輸送用のチームをフル稼働で動かしていますが、あと半日はかかるだろうとの見通しです」
当然ながら戦車というのは重い、質量だけで言えば数十トンはくだらない、それだけの質量を運ぶにはそれなりに時間がかかるのだ
収納系統の能力者の力を借りたところで限度がある、転移系統ならなおさらだ、なにせロシアという国は広い、戦車を運ぶのも一苦労なのである
まだ魔素の反応が見られてから一日しか経っていないのだ、むしろこれだけ俊敏に動けているだけましな方である
一日程度で能力者が既に展開し、戦車隊ももうすぐ展開しつつある、これだけの速度で展開するのが現代の戦闘だ
兵は神速を貴ぶというが、能力者をフル活用した展開速度というのは目を見張るものがある
それを可能にしているのは収納系統や転移系統などといった後方支援を得意とする能力者の力だ、これがあるかないかで戦いの状況は大きく変わると言っていいだろう
現状の兵力については理解できた、だがこれからどう動くのかそれが気になるところである
能力者に戦車部隊、さらに悪魔の契約者まで導入しているのだ、航空支援が受けられないのが残念なところではあるが、今後の展開によってはそれも可能になるかもしれない
「能力者と戦車部隊のそれぞれの今後の行動としてはどうなっているかわかりますか?今の状況だけでも構いません」
兵力は現状で三つ、静希達悪魔の契約者とその仲間たち、ロシアの能力者部隊、そして戦車部隊である
「能力者部隊の一部は現在魔素の変動地域内の索敵を開始しています、所謂斥候の役目を担っており、少しずつではありますがその範囲を広げています、同時に敵対勢力からの攻撃を受けているのも能力者部隊です、未だ我々の本陣に被害はありません」
戦車部隊の展開が遅れているのを見越して、その時間差を利用しすでに能力者部隊が先行しているという事だろう
あくまで攻略ではなく斥候の役目を務めている、無駄のない時間運びをするために必要なことであるのは理解できる
「本陣というのは今どこに?」
「現在はキーロフの南東に位置する場所に設置してあります、そこから北へ少し行くともうすでに魔素の変動範囲内、相手の陣地のようなものです」
魔素の変動範囲内に敵がいるというのはわかりきっていることではあるが、未だその数がわかっていないというのが非常に不安だ
その範囲が広すぎるのも分かるが、その近くにある町がキーロフしかないというのもある種攻略しにくい理由にもなっている
なにせ補給をするためにもそこに向かうためにもキーロフに立ち寄るしかないのだ
既に攻略の経路が相手にばれていると思っていいだろう、だからこそ相手も小火器での小競り合いを行っているのだ
こちらの動きが読まれているというのは正直気に入らない展開ではあるが、相手もそれなりに本気というのがわかる状況ではある
今までの事件では悪魔の契約者が一人くらいいるのが普通の状態だったし、しびれを切らして襲ってくるような敵がいた程度の話だ
なのに今回はしっかりと考えて行動しているものがいる、これは大きな違いだ
「戦車部隊は今後どのような動きを?」
「戦車部隊は現場指揮官の命令で後方支援を担当します、専用の能力者支援部隊と共に攻略し終えたところから支援砲撃を行い、徐々に前進していく予定です」
この辺りはある程度城島が予想していた通りだ、能力者の前衛部隊を前にだし、陣形を作ってから後方からの砲撃支援、どうやらロシアも数で押しつぶせばいいという状況ではないのは理解しているらしい
戦車を前に出さないあたり、相手の攻撃の威力もある程度察しているのだろう、もしかしたら経験者か、あるいはすでに被害を受けたことがあるのかもしれない
「今後の俺たちの行動はどうなりますか?」
「それは・・・こちらも聞かされていません、あなた方の行動に関しては支援は命じられていますが指揮権などは有していないためにどのように動くのかまでは・・・」
どうやら静希達悪魔の契約者がどのように動くのかは自分たち次第という事だろう、実際に現場を指揮している人間に対して交渉するほかないようだ
最初から動きを制御しようとせずに自由にやらせる、ただの軍人にしては肝が据わっている
普通危険な力を懐に入れたのであればその力をコントロールしようとするものだ、それをしないというあたりまともな指揮官とは思えない
いやもしかしたらまともではない分優秀な指揮官なのかもしれない、今まであったことのないタイプであることは明白だ
今までいっしょに行動してきた部隊は静希を何とかコントロールしようとしてきた、だがそれをさせてこなかった、だからこそ自由に動くことができたのだ
だが今回は自由に動くことができる状態を相手がすでに用意してくれている
これはどういう考えなのだろうかと若干眉をひそめていた
「まぁそのあたりは現場に着いてから指揮官と話し合いましょう・・・今ミスターパークスなどはどうしているかわかりますか?」
「数時間前に到着し、現在は作戦行動開始まで準備を行っているとしか聞いていません・・・なんでしたら今向こうに確認をとりますか?」
「・・・いえ、その必要はありません、先走っていないのであればそれで問題ありませんから」
エドだけならまだしもあの場にはカレンもいる
現場にリチャードがいるかもしれないという状況であの二人が正常な思考を保てているかは疑問ではあるが、現状あの二人に先行されるのは非常にまずい
だが準備を行っているというのであれば、恐らく静希達を待ってくれているのだと思う
下手に行動して全てを台無しにするくらいならもう少し辛抱していた方がいいと考えているのだろう
後は静希が現場に到着して行動を開始するだけだ
と言っても戦車隊が到着するまで少し待たなくてはいけないだろうが
それまでにどうにかして魔素変動範囲内をどのように索敵するかを考えておいた方がいいかもしれない
なにせ範囲が範囲だ、もしかしたら明利の索敵でも覆いきれないかもしれない、それほどの範囲が魔素の変動範囲内になってしまっているのだ
効率よく協力して索敵を行っていかなければならないだろう
「少尉、現場の地図はありますか?できる限りみやすいのがいいのですが」
「えぇあります、少し待ってください」
フランツは自分の荷物の中から一枚の地図を取り出す、そこにはいくつか印がつけられていた
ある特定範囲内が点線でいびつに囲われており、その点線の外層部分に幾つかバツのマークが付けられている
「この点線部分が魔素変動範囲を示しています、地形によって変動範囲が異なっているのがわかると思います」
「このバツ印は?何かあったところですか?」
「これが先に話した無人機が撃墜されたと思われる地点です、最後に信号が確認された場所というだけですので正確ではないかもしれませんが」
静希達はフランツが用意した地図を見て眉をひそめる、これから向かうキーロフにかかるようにして魔素の変動範囲が始まっている、そしてその範囲はいびつに歪んでいる
少なくとも正円などではない、範囲内に魔素過密地帯があるというのも原因の一つだろうがこれでは中心部を割り出すというのは難しそうだ
「無人機をあと何機か出して撃墜される範囲を割り出すことはできないんですか?それがわかれば相手の位置も大まかに判断できると思いますが」
「一部の人間からはその意見も出ています、ですが正確に場所を特定するにはあらゆる場所から飛ばさなければなりません、その為時間がかかります、あとは何機も一気にとばしてその中心部を攻撃することも視野に入れているようですが、どれも却下されています」
無人機を何機も出してその範囲を割り出すというのはそれだけ多方向から無人機を飛ばす必要がある、つまりそれだけ複数の場所から無人機を飛ばす必要があるという事である
無論無人機を一カ所から飛ばし、迂回させてその範囲を割り出すというのもあり得たのだろう、この国がロシアでなければ
この国は良くも悪くも広すぎる、そして魔素の変動範囲も広すぎるのだ
相手がどれだけの射程距離を持っているかは不明だがかなりの広さであるのは容易に想像できる、恐らくは悪魔の能力だろう
射撃精度にその射程距離、どれも人間のそれではありえない
だからこそその射程距離を正しく測定しておきたいのだが、こればかりは仕方がないというのもある
無人機だってただではないし何より時間がかかりすぎる
そして編隊を組んで一気に突破しようという考えも悪くはない、だがそれはかえってこちらがやりにくくなる可能性もある
相手の射撃の連射性能を調べるために一度くらいはやっても損はないかもしれないが、それでも爆薬の込められたミサイルなどを積むのは避けたいところである
爆破しようとしているという事はそれだけミサイルなどの武装も積んでいることになる、もし射出前に落とされればそれだけ被害を周囲にまき散らす、大規模な火事になれば作戦行動をやりにくくする可能性だってあるのだ
下手に手を出してこちらが不利になるような状況を作り出すのはさすがにいただけない
それに何よりロシアとしても自国を爆破するというのは気が引けるだろう
「無人機を一機囮にして相手の攻撃を誘発させてどのようなものかを観測することはできませんか?少しでも情報を得ておくのは悪くはないと思いますが」
「・・・理論上は可能でしょうが・・・実際できるかどうかは・・・一応進言しておきます」
相手がどのような能力を使っているのかある程度判別するためには映像が必要になる
カメラが一つだけでは確認できないだろうが二つをセットで近くに配置しておけばある程度確認することができるかもしれない
相手の射程距離とこちらのカメラの精度にもよるだろうが、これで射撃系の攻撃ならどのようなものなのかはわかる可能性がある
魔素の範囲内の状況を知る一番の方法は上空からの映像確認だ、飛行機でダメとなると他の手段を使うほかない
「なら衛星写真は?キーロフの上空を飛ぶ衛星は無いんですか?」
「一応ありますが・・・そこまで細かい写真が撮れるというわけでもありません、何より木々が鬱蒼としているためにどこに何があるかなどを判別するのは・・・」
地球のはるか上空にはたくさんの衛星が飛んでいる、その中には写真などをとれるものもあるだろうが、問題の地域は起伏は激しくないものの木々が大量に生えている
写真を写したところで木が見えるだけでそこになにがあるのか、何がいるのかまでは確認できないだろう
これで無人機のアプローチが無駄に終わった場合、それこそ上空からの攻略はまず間違いなく無理だと思っていいだろう
仮に高高度からの落下を企てても範囲内に入ると攻撃されるのであればまず間違いなく狙い撃ちされる
やはり陸路で攻略するしかないのではないかと思えてしまう
相手の攻撃がどの程度の威力を持っているかによっては、静希が協力して輸送機をそこまでエスコートしてもいいのだろうが、もし相手の攻撃の威力が上級悪魔のそれに匹敵する場合、静希が有する最高防御である邪薙の障壁でも防ぎきれない
さすがにそんなことのために輸送機と他の人員を危険にさらすわけにはいかないのだ
自動操縦状態にして囮くらいにはしてもいいかもしれないが、それでもやはりあたりにかなりの被害が予想される、それはさすがに了承できない
どれ程の射程でどれほどの威力を有しているか、それさえ分かればもう少しやりようもあるのだが今のところ情報が少なすぎる
もう少し情報を得たいところだが、時間も限られているのだ、探り探りやっていくほかないだろう
本気投稿中2.5回分投稿
もうすぐ千話到達ですよ・・・早いものです、本当に
これからもお楽しみいただければ幸いです




