朝食と教師の違い
東雲家に戻ると香ばしいパンの匂いとコーヒーの匂いが漂ってくる
どうやら東雲家は朝はパン派のようだ
「あ、五十嵐さんおかえりなさい」
風香が通りがかったところにちょうど出くわし、静希はただいまと返して廊下を進む
すでに風香はパジャマから私服に着替えており休日の朝という感じをより一層強めている
もっとも静希達は休日出勤なわけだが
食事において各自のマナーというのは大きく差が出る
それは世間一般的なものから気品を感じるものまでさまざまである
静希達の中で最もこのマナーを持っているのは鏡花、そしてその対極に位置しているのが陽太である
こんなところまで正反対である必要はないにもかかわらずこの二人はものの見事に非対称、鏡映しのように逆の行動をする
かたやコーヒーのカップを傾けながら優雅に香りと風味を楽しむのに対して、パンをむさぼりながら水か何かのようにコーヒーを飲み干している
どちらがどちらであるかはご想像にお任せするとしよう、すでに予想と回答はイコールで結ばれていそうだ
だがその対極はどうやら二年生にも適用できたようだ
雪奈は陽太ほどではないにせよパンを口に運びコーヒーにたっぷりとミルクと砂糖を加え軽々と飲み干している
熊田はブラックのコーヒーを鏡花同様に楽しみながら飲んでいる
同じ高校生なのにこの違いときたらどうだろう、気品を漂わせる二名に対し気品などは犬にでも食わせろと言わんばかりの前衛コンビ
こうはなるまいと言い聞かせながら東雲夫妻に挨拶して明利の隣に座る
明利もどうやらブラックはダメなようでミルクと砂糖で飲んでいるようだ
食卓の隅にはドーナッツもある、どうやら東雲姉妹の好物のようだ
好意的な眼差しを受けながらドーナッツを受け取ると一つ気になることが浮かび上がる
「そういえば先生は?姿が見えないけど」
あたりを見回してもどこにも先生の姿はいない
今朝から姿を見かけていないのだが一体何をしているのやら
動きだしているならそれはそれで構わないのだがせめて連絡くらいはしてほしいものだ
「朝から見てないわね、あの人は何してるんだか」
「先生は何考えてるか分かんないからな、思いっきり表情に出したかと思えばぼーっとしてることもあるし」
「何か考えがあるんじゃないかな?何かは分かんないけど」
陽太も明利も城島が何かを考えているところまでは分かっているようだ
その確信までは静希にもわからないが何か行動を起こそうとしている
「連絡しようにも携帯の番号とかも知らないし、連絡のしようがないもんね」
「そうだよなぁ、せっかく美味い飯があるっていうのに」
呑気にサラダを頬張る陽太をさておいて静希は思考する
どこかで誰かが城島に連絡をとっていたような気がする
誰だったかそう考える中で思い出す
携帯の電波を確認する
山の中だというのにアンテナが三本以上立っている
基地局とかの関係はどうなっているんだと思いながらも静希はほくそ笑む
「あー・・・誰かが城島先生にメールでも送ってくれればなぁ」
「あぁ?先生のメアドなんて誰も知らないって」
「ま、そうなんだけどな、報告とかもしたいから連絡したいんだけど・・・」
この中で、いや恐らくこの家の中にいる人物の中で城島のメールアドレスを知っている人物が確実にいる
てっきり食事くらいには顔を出すだろうと思っていたがそれがかなわないなら、呼ぶしかない
それができる人物は静希達の前には姿を現さないが、確実に静希達を見ている
監査員の教員
先の静希のわざとらしい発言を正しく理解してくれさえすれば連絡はできる
もっとも城島は今回の件にやたらと協力的ではあるが監査員の教師はその限りではない
監査員としての本分を全うし自分達の行動を事細かに注視しているだけかもしれない
そこが判断に困るところだ
「というかあの人何で今回はやる気なんだ?前回あれだけグータラしてたってのに」
「たしかにね、引率としての立場使う時だけシャンとしてるけどそれ以外だらけてるイメージしかないわ」
「え、そ、そうでもないと・・・おもうけど」
「明利、下手にフォローはしない方がいいぞ?」
今までと言っても城島が実習の引率として静希達を担当したのが今回で二回目
だが一度目の態度が酷過ぎたためにその印象が強く残ってしまっているのだ
中でも強い想いが誰だこの人に教員免許与えたのはというものである
「雪姉達の時は引率の先生はどんな感じだったんだ?みんな城島先生みたいなのか?」
さすがに朝食も終えたのか、ゆったりとコーヒーを飲む雪奈はあごに手を当てて考え始める
「どうだったかなぁ、そんなに印象ないんだよなぁ」
この人の記憶力はきっと鶏並みなのだと再確認
なぜ一年も実習をしておいて引率の先生の印象がかけらもないのだと突っ込みたくなる
「雪姉が役に立たないので熊田先輩は?」
「静!なんか今ひどいこと言われたような気がするぞ!」
「気のせいだよ」
「そうか、気のせいか」
陽太並みにちょろいなと内心舌を出しながら熊田に話を振る
「俺達の先生は何と言うか、事細かに行動内容を記録はするがそれ以上の干渉はしてこない人だったな、生徒主動で動くのを望んでいたらしい、素人は下手に口を出すと妙な方向に行くことがあるから口出しもできなかったと言っていたな」
なるほどと静希はうなずく
やはりしっかりと生徒の動きを把握している先生もいるのだ
それに比べて城島はどうだろうか、自分勝手に好き勝手にやっているようにしか見えない
せめて生徒にはどこにいるかくらいは知らせておいてほしい、そして生徒の行動も把握しておいてほしい




