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J/53  作者: 池金啓太
三十二話「世界の変転 前編」

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装備と電話

翌日、エドたちは一度学校の方に挨拶に行った後で自分たちの住んでいるホテルに戻っていった


この後日本から海外へ拠点を戻すための処理があるらしく、慌ただしそうにしていたのを覚えている


アイナとレイシャは鏡花から受け取った装備を持って嬉しそうにしていたのが印象的だった、自分だけの装備というのはやはりうれしいものなのだろう


そして鏡花は以前用意した静希の装備を本格的にし始めていた


左腕に付ける外装部分をより最適化しようとしていたのである


無駄な部分を削ぎ落し、とにかく効率化を図るための新設計とでもいえばいいだろうか


どんどん自分の左腕の装備が効率よくなっていくのはいいのだが、なんというか素直に喜べない複雑な気持ちである


鏡花の装備製作に熱が入っているような気がしてならないのだ、変換系統の力をいかんなく発揮しているという意味ではよいことなのかもしれないが、いつかばれそうで戦々恐々としている


「静希、左腕動かしてみて」


「はいよ」


「・・・んー・・・この辺りが干渉するか・・・オッケー、微調整完了、もう一回動かして」


さっきから陽太が訓練している隣で延々とこの作業の繰り返しである、静希の左腕の装備を充実させるのはいいのだが、このままいくとそのうち腕にロケットランチャーでも装着しそうだから怖い


なにせ最近軍の使っている兵器の接続部分の規格を調べていたりしたのだ


もしかしたら装着させるつもりなのだろうかと不安でならないのである


本当にそのうちミニガンなどの大型兵器を持たされるような気がしてならない


「よし、これでいいわ、いろいろ試してみて、特に内蔵武器と干渉しないかどうかの動作チェックをして頂戴」


「あいよ・・・って言っても手首のナイフと内蔵砲くらいだけどな・・・」


静希の左腕に仕込んである武器は二種類、手首の部分から出てくる刃と肘から先を取り外して射出する大砲


ある程度の装甲を付けるのであれば、現状において最も問題なのは手首から出てくる刃だろう


だがそれも鏡花が問題ないように調整してくれている、どちらも不具合なく使うことができそうだった


「でもさ鏡花、ただの装甲だけにこんな拘らなくていいんじゃないのか?」


「何言ってるのよ、ただの装甲なわけないでしょ、ちゃんといろいろ仕込んであるんだから」


そう言って鏡花が静希の左腕を少しいじると、肘から先の装甲部分に小さな穴が開く


一体なんだろうかとその穴をのぞき込むとカギ爪のようなものが突出してくる


少し広くなっている部分の装甲に隠してあったのだろう、拳が外れた時などにそのまま進行すれば体のどこかを傷つけることができるような位置に刃が作られている


地味にえげつない武器である


「装甲部の横からでも攻撃ができるように、この仕込みナイフの機構をちょっと真似させてもらったわ、手の甲の部分からも刃を出そうと思ったんだけど、それは自粛して小型のボウガンにでもしようと思ってるわ、機構は今勉強中だからちょっと待ってね」


「それは自粛っていうんですかね?」


左腕の武装が強力になっていくのはありがたいのだが、使い方が少々難しくなるかもしれない


鏡花が作ろうとしている手の甲から射出されるボウガンにこの横側から突出する刃、さらに肘から上の部分にはいくつかの武装も入っているように思える


まだ確認していないが以前よりはスマートな見た目になっていることから多少はましになったのだろうか


「ちなみに鏡花、この肩の盾みたいな装甲は何が入ってるんだ?前はワイヤーロールが入ってたけど」


「一つは相変わらずワイヤーよ、だけどあと二つは別のものを入れてあるわ、今ちょっと使ってみましょうか」


鏡花が何やらついていた紐のようなものを引き抜くと、装甲から煙が出始め徐々に温度が高くなっているように思える


一体何がどうなっているのかと不思議がっていると鏡花がにやにやしているのがわかる


「万が一装甲を凍らされたとき用にそれを解かすための機構を取り付けたのよ、ほらお弁当とかをあっためるあれ、あるじゃない?あれの機構を取り付けたの、熱することができるレベルはあげてあるけどね」


「マジでか・・・でもなんかめっちゃ熱いんだけど」


そりゃそうでしょうよと鏡花は笑っている、これは恐らく冗談で取り付けたのだろうが、もう一つの方は割と真面目な作りのようで壁のようなものを作っていた


「真ん中の奴はこうやって構えた時に正面を向くようにしなさい、そうしてから装甲の外側についてるピンを抜くの」


「・・・こうか?」


まるでショルダータックルをする時のような体勢をとってから、鏡花の指示通りピンを抜くと炸裂音と共に大量の小さな粒のようなものが装甲部分から発射された


一体なんだと耳鳴りがする中的を見てみると、ビービー弾ほどの大きさの鉄の弾が大量にめり込んでいるのがわかる


さすがに散弾とまではいわないまでも、クレイモアの劣化版ほどの威力は有しているようだった


「おい・・・これ・・・」


「お察しの通り、クレイモア型のショルダーボムよ、作るの面倒だからあんまり使わないでね」


鏡花は簡単に言っているが、つまりこの装甲には火薬が込められているということになる


静希はクレイモアの構造はよく知らないが、大量の弾を一気にはじき出すだけの威力を持っていることになる


よく耳が無事だったなと思いながら鏡花が再び弾を装填していく


「換装するときは私に言って、その部分だけ取り換えるから、一発千五百円よ」


「・・・案外高いな・・・いや安いのか?」


鏡花のことだから材料などをしっかり購入したうえで作成しているのだろう、そのあたりはちゃんとしているというほかない


六角形の装甲部分の内側が取り外せるようになっているのだろう、変なところで凝っているなと思いながら静希はとりあえず補充することにした


「とりあえず三発分用意しておいたけど、いる?」


「・・・いる・・・三発だから・・・四千五百円か・・・」


静希は財布から五千円を取り出して鏡花に渡すと鏡花は五百円の釣りを返してくれる


三発でこれだけ金がかかるというのも考え物だが今のところ武装を強化しておくのに越したことはない


「そうそう、明利にも一応装備作っておいたわよ、まぁ必要になるかはわからないけど」


「え?私のも?」


一応ねと鏡花は持ってきていたアタッシュケースを開けて明利に渡す


そこに入っていたのは巨大なボウガンだった


折り畳み及び組み立て式で携帯を容易にしているのだろうが、明らかに大きい、この大きさで明利が使えるのか疑問視してしまう


「えっと・・・これって・・・」


「こっちのは遠距離支援用の奴で、本命はこっちよ、携帯性に優れてる小型ボウガン」


あまりに巨大なボウガンが印象的過ぎて見えなかったが、鏡花がもっている小さなボウガンを見て明利と静希は安心する


さすがにこれだけの大きさのボウガンを明利が使えるとは思えなかったのだ、大きいという事はそれだけ弦を引くのにも力が必要になる、明利がそれだけの力があるとは思えなかったのである


「大きい方は有効射程は百メートル超えるけど、あんまり期待しない方がいいわね、小さい方は射程は二十メートルくらいだと思ってちょうだい、矢はそれぞれ二種類よ」


「あ・・・ありがとう・・・でもこれ結構高いんじゃ」


「ちょっと早いけど誕生日プレゼントってことにしておいて、こんな無粋なのがプレゼントで申し訳ないけど・・・ちゃんとしたのを持っておいた方がいいと思って」


今まであまり意識してこなかったが、明利は装備というものを基本持っていない


彼女の性格的にそもそも攻撃するというのが嫌だというのはわかるのだが、それでもこのままそれを続けられるとは思えないのだ


明利も自衛のために武器くらいは持っておくべきである、鏡花はそう感じたのである


「・・・でもさ鏡花、このでかい方かなり重いぞ?これ明利じゃあ使えないだろ?」


「何のためにいろいろついてると思ってんのよ、それは固定砲台代わりに使うのよ、そこにある支えを起こせば狙撃銃みたいに使えるはずよ、そっちの方がなれてるでしょ?」


原理は弓なのに砲台とはこれいかに


そんなことを考えたが確かに明利は拳銃タイプよりも狙撃銃タイプの方が上手く扱える


元より筋力が少ないためにどこかに固定して撃つという方法の方が楽だったというのもあるが、彼女としても落ち着いて狙えるという環境の方が適しているのだ


静希が大きめのボウガンを組み立てて明利に渡すと、明利は抱えた状態で少しふらふらしてしまう


持つことは問題ないようだが、さすがに構えた状態で狙いを定めるのは難しそうである


鏡花の言う通り支えとなる部分を立てて狙撃銃のような形で構えるとなかなか様になっている


やはり明利はそっちの方が性に合っているのだろう


「ちなみに鏡花ちゃん、矢が二種類あるって言ってたけど、どんなのなの?」


「単純よ、貫通力が高いタイプと被害重視の銛みたいな奴、種を仕込むなら後者の方がいいでしょうね」


鏡花が取り出した矢は一つは見ての通り先端に鋭い刃のついている貫通力重視のものだ


有効射程内から放てば確実に人間の体であれば貫通するだろう


そしてもう一つの方は明らかに先端についている刃がとげとげしいものだった、返しのようなものがいくつもついており、棘だけではなくのこぎりのような形状の部分もある


貫通力は落ちているだろうが明らかにあれで射抜かれれば重傷は免れないだろう


「うわぁ・・・地味にえげつないな、さすが鏡花姐さん」


「どのあたりがさすがなのかよくわからないけど、それは褒めてるのかしら?」


「褒めてるよ、さすがえげつなさに定評のある鏡花姐さん、まじぱねえっす」


絶対これ褒めてないなと思った鏡花は静希の脇腹に軽くパンチをめり込ませると数十メートル先に人型の的を作り出す


「とりあえず試射して見なさいよ、それであんた専用にカスタマイズしてあげるから」


「あ・・・ありがとう・・・じゃあちょっと試してみるね」


自分の装備ができたというのは素直に嬉しいのだが、ここまで露骨に攻撃的だとどのタイミングで使用したものか迷ってしまう


とにかく練習しておいて損はないだろう、銃のそれと違ってボウガンの軌道はやや山なりになって進む、慣れるまで少し時間がかかるかもしれない


「ところで鏡花、陽太の新技ってどんなのなんだ?」


「何よ唐突に、そんな大したものじゃないわよ?少なくとも槍みたいなインパクトはないわ」


近くで訓練している陽太を尻目に静希はふと気になって聞いてみたのだが、鏡花自身陽太の新技にそこまで強力な威力があるとは思っていなかった


槍のような強力な威力を有するものではない、これは陽太の戦い方に幅を利かせるためのものなのだ


「ちなみにどんなのなんだ?威力がないってことは小技か?」


「んー・・・そうね・・・ぶっちゃけるとこれをマスターすれば陽太はかなり強くなるわ、一撃とかそう言うのじゃなくて総合的に、たぶん全力の石動さんにも勝てるようになるかも」


鏡花の言葉に静希は驚いてしまっていた


石動の力はかなり強い、事前に血液さえ用意しておけば攻撃も防御もほとんど完璧に近い状態で前線に出ることができるのだ


その石動にも勝てるようになるかもという事は陽太の能力ももう完成に近づいているという事だろうか


「ちなみに陽太の能力が完成するまでどれくらいかかる?」


「最低でも二年ね、まだ全力を出すのはまごついてるし、鎧も不完全だし・・・改善点はたくさんあるわ・・・まぁ成人する頃にはもっとまともになってるでしょうけど」


二年


能力を鍛えはじめたのが去年の六月ごろだ、今から二年かかるとなると三年近くかけて陽太を鍛え上げるということになる


「ちなみに最終形態とか考えてるのか?どんな形で戦うかとか」


「一応私の頭の中にはあるけど・・・正直陽太がその通りに戦うとは思えないわね・・・まぁ戦い方の基礎は教えるつもりだけど、私は前衛じゃないからそのあたりは石動さんとの訓練で学ばせるわ」


前衛の戦い方というのは前衛にしかわからない


接近しての戦いにおいて気を付けることというのは前に出ないと学べないのだ、そう言う意味では鏡花は陽太に前衛としての戦い方は教えられないのである


だからこそ石動との訓練でそれを学ばせるのだ、幸か不幸か石動も陽太との訓練を楽しみにしているようで、それなりに積極的に訓練してくれている、この調子なら今年中には前衛としての陽太の戦い方は大きく変わるだろうとにらんでいた


「鏡花はどうなんだ?戦い方を変えるとかするのか?」


「私は何時だって能力頼りの戦い方よ・・・まぁ銃の扱いくらいは学んでもいいかもしれないけどね・・・あとは・・・戦車とか動かしてみたいかも」


相変わらず鏡花は桁が違う事を考えているなと思いながら静希はため息をつく


戦車を動かすには当然ながら資格が必要になる、鏡花の能力なら確かに戦車くらいは作れるかもしれないが、それだっていつでもどこでも作れるわけではない


現代の戦車などは電子制御されている部分もあるためそう言った細かい部分を変換で複製するためには実際に解析しながらの作成になるだろう


要するに鏡花の場合は本物の戦車に触れた状態でもう一つ同じものを複製するのが条件になる


戦車がいるような場所に送り出されるのがもはや当然という考えになっているあたり、さすが静希達の班の長を一年以上続けていただけはある


マイナス方面に鍛えられるとこういう思考回路をするのだなと静希は申し訳なくなりながら内心鏡花に詫びていた


「そう言うあんたはどうなのよ?能力は変わらず、装備ばっかり強くしてる印象があるけど?」


「いやまぁそうなんだけどさ・・・実際それ以外にできることないし・・・最近はずっと太陽光と加速弾の作製ばっかやってるよ、普通の銃弾にも使えるから結構楽なんだよ」


「ふぅん・・・まぁあんたがそれでいいっていうならいいけどさ」


銃弾などは質量を変えられない以上速度を上げるしか威力の向上を図ることはできない


大抵銃などは弾の大きさを変える口径と、速度を変える炸薬量の多さで威力を調整している


マグナムなどは弾丸の大きさは同じで速度が違うというものだ、その分多くの炸薬が必要になるが静希の場合はそれが必要ない


普通に撃った弾丸をメフィの能力で加速させるのだ


単純な威力だけならもはやマグナムよりも強くなっている、問題は物理攻撃系のものが増えているという点である


太陽光や水素版水圧カッターなども用意しているが、明らかに現象系の攻撃が少ないのだ


元より静希の能力が収納系なだけあってそもそも攻撃をするようなポジションではないのだが、これも仕方のないものだろう


「鏡花ちゃん、もうちょっと調整してもらっていいかな?」


「はいはい、ちょっと待ってなさい・・・これくらい?」


「・・・うん・・・丁度いい」


明利は着々と射撃の技術をあげている、元より狙撃銃でこの類の武器の扱いは慣れていたのか、簡単に的に当てていた


唯一の懸念だった弓を弾くのもどうやら鏡花がちゃんとそのあたり考えて設計していたようだ、そのあたりはさすがとしか言いようがない


「なぁ鏡花、静希や明利ばっかじゃなくて俺の装備も作ってくれよ・・・鉄グローブだけじゃ心もとないって」


「あんた作ってもすぐ溶かしちゃうでしょうが」


鏡花の鋭い切り返しにそれもそうかと陽太は反論することもなく訓練に戻っていく


これはもはや調教のレベルなのではないかと思える二人の会話に、静希と明利は陽太の将来が少し心配になってしまっていた














その日の夕方、静希達が訓練を終わらせようとしている頃に静希の携帯に電話が入る


一体誰だろうかと携帯の画面を見てみるとそこにはテオドールの名前が浮き出ていた


どうせろくなことではないなとため息をついてとりあえずは通話することにする


「もしもしテオドールか?何か用か?」


『用がなければお前になどかけるものか・・・それより時間が惜しい、用件だけ話すぞ』


電話の向こう側は嫌に騒がしい、テオドールがそこまで焦っていないという事もありそこまで緊急性が高いとは言えないかもしれないのだが、少々口調が早いように思える


以前のセラ家出事件に比べれば何倍もましな状況という事である、そう言う意味では少しは気が楽だ


『結論から言えばまた魔素の反応が見つかった、今度はロシアだ』


「ロシアか・・・前のドイツとかからは随分と離れたな・・・どのあたりだ?」


以前電話があったのがポーランド、そして事件が起きたのがドイツとチェコだ


そのあたりから考えると近隣国ではあるものの少し遠いイメージがある、なにせロシアというと日本の近くまで伸びている大国なのだ


『ロシアの西部だが・・・今回は少々厄介かもしれんぞ、もうすでにお前達の所に依頼を持っていく態勢は整えてある、お前さえよければすぐにでも資料を確認してロシアに飛んでもらいたい』


「あー・・・ちょっと待て、細かいことをまだ何も聞いてないぞ・・・まぁ俺は日程的には問題ないから好きにしろ、けど他の連中がどうかは知らん、確認してみないと」


『先に厄介といったとおりだ、今回の規模を専門家が計算してみたんだが・・・かなり広範囲に被害が及ぶことが予想されている・・・一応資料をもう日本政府を介して送ってある、確認しておけ』


恐らくテオドールはそう言った書類上の仕事をしながら静希に連絡をかけているのだろう、いやなやつだが仕事はできる、そう言うところが厄介なのだが


とはいえこの場に班の全員がいるというのは幸いだった、今職員室に城島がいるかどうかはわからないが話をするだけしておく必要があるだろう


静希が何か話しているという事もあって鏡花たちもこちらに注目している、話をするだけの状態は整っていると思っていい


「ちなみに聞いとくけど、どれくらいの範囲が危険区域だ?」


『ちょっと待て・・・あー・・・ヨーロッパ圏は半分以上が範囲内だな・・・』


その言葉に静希はついはぁ?と間抜けな声をあげてしまう


静希は世界地理にはそこまで精通していないのだが、ヨーロッパ圏が半分以上被害範囲になるという事はかなりの広さだ


今までの事件とはそれこそ規模が違う


なるほどテオドールが厄介かもといったのはこの事かと静希は舌打ちする


「魔素の動きが起きたのは何時だ?」


『約五時間前だ、すでに周期が安定して発動準備に入っていると思っていい』


五時間前、という事は本当にそれを測定してからすぐに各国へ連絡が入ったのだろう


他の国にもそのような事件が起きるとわかった以上かなり綿密な連携行動が必要であると諸外国も理解したようだ


こういう時にしっかりと連絡を取り合ってくれるとありがたい、すぐに行動しやすくなるのだから


「どうしてそれだけの範囲が犠牲になると?」


『今まで起きた魔素の動きとその被害規模を照らし合わせたあくまで予想のものだ・・・だが信憑性は高い』


今まで起きた魔素変動の起きた事件は三つ、そのうちの一つは静希達が未然に防いだが二つは防ぐことができなかった


恐らくその二つの事件の規模から今回の規模を推定しているのだろうが、かなり厄介なのは言うまでもない


恐らくは魔素の変動値からその規模を予測したのだろうが、当てになるかどうかは微妙なところである


だがもしこの予想が当たっていた場合、ヨーロッパの半分が消滅、あるいは歪みの中に消えることになる


その場合、ヨーロッパだけではなく他の国にも影響があるだろう、というかそれだけの質量が一度に消えた場合この星そのものが人の住めなくなる環境になるかもしれない


それはまずい


「場所の特定はできてるのか?」


『範囲が広すぎてな、まだ特定には至っていないが、おおよそはつかめている、お前にはとにかくすぐに現地に飛んでもらいたい、必要なら足は用意する』


すぐにでも静希に現地に飛んでもらいたいのだろう、先の二つの事件から現地に悪魔の契約者がいる事は確定的だ


だからこそ悪魔の契約者である静希を現地に派遣して何とかして事を収めたいのだろう


だがこちらとしてもいろいろと準備が必要なのだ、そう簡単に海外になど行けるはずもない


少なくとも城島に話を通すのとエドたちに連絡を入れておかなければいけない


時間が限られているのはわかるがしっかりと準備しなくてはいけないのも確かである


幸い相手が足を準備してくれるということになっているのだ、それならそれで問題はない


「わかった、ひとまず足だけは確保しておいてくれ、俺もいろいろ連絡やら確認やらするから二時間くらい待ってろ」


『急げよ、こっちだって暇じゃないんだ』


分かってるよと言いながら静希は携帯を切ってため息をつく、そしてその溜息の意味を鏡花たちは理解していた


「で?今度はどこ?」


テオドールからの電話だというのは予想できていたようだがその細かい内容までは聞いていなかったようで鏡花は腕を組んだ状態で静希に聞いてくる


もう自分たちが行くことは確定しているという覚悟が決まっているようだった


「ロシア西部らしい、資料をもう送ってあるらしいから早ければ今日中に届くだろ・・・今先生って職員室にいるか?」


「午前中はいたけど・・・今いるかはわからないわよ?電話してみる?」


「頼む、こっちはエドたちに連絡してみる」


今は夏休みだ、以前から城島は休みの日にも仕事をしている節があったが今もそうしているかはわからない


確認の意味でも電話を入れておいた方がいいだろう


そしてエドたちもこの間日本を離れたばかりだが、こんなにすぐに連絡を入れることになるとは思わなかった


夏あたりにに動きがあるとは睨んでいたがまさかこんなに早く来るとは、こちらの都合など全く考えていない事件スケジュールである


『やぁシズキ、昨日の今日でどうしたんだい?ひょっとして家に何か忘れ物でもしたかな?』


静希が電話を掛けるとエドが気軽な声を出してくる、このタイミングで電話をしたことでアイナとレイシャが忘れ物でもしたのだろうかと思われたのだろう、確かにその可能性もあったのだが今は違う


もっと重要な話だ


「いや忘れ物はなかったよ、今回かけたのはそっちじゃなくてだな・・・また動きがあった、今度はロシアだ」


静希の声が真面目になるのと同時に本題を切り出されたことで、エドも状況を理解したのかそうだったのかいと真面目な声を出す


そして電話の向こうにいるカレンかアイナとレイシャあたりに話を伝えているのだろう、向こう側が妙に慌ただしくなっていく


「それで今回も共同戦線を張りたくてな、またお前の所に依頼を持っていこうと思うけど、大丈夫か?」


『あぁ問題ないよ・・・にしてもロシアか・・・詳しい資料なんかは後で貰うとして・・・ちょっと面倒そうだね、探すにしても広すぎる』


エドの言う通りロシアはこの世界の中でもかなりの国土を持つ国の一つだ、その国土の広さは世界中でもトップクラスと言えるだろう


その中のどこにあるのかもわからないとなると探すのは苦労しそうである


「ちなみに、失敗すると世界が亡びかねないレベルの規模らしいぞ、今までで最大だそうだ、ヨーロッパの半分は消えてなくなるかもって言ってた」


『おいおいそりゃ大変じゃないか・・・!のんきに仕事をしている場合じゃないね・・・可能な限り早くロシアに行くようにするよ、早めに依頼を持ってきてくれるかい?』


「了解した、そっちとの連絡はメールでするから後で見ておいてくれ、こっちはこっちで準備する」


最低限の連絡事項を終えて静希はすぐに鏡花の方を向く、彼女は城島と話をしているようで、静希の方を見ると職員室の方を指さして小さくうなずく


どうやら職員室にいるようだ


夏休みに何で職員室にいて一体何の仕事をしているのかは謎だが、今この場ではいてくれてよかったと思うばかりである


「話は伝えたか?」


「大まかに伝えたわ、まだ資料は届いてないみたいだけど」


「よし、一度話をしに行くわ、一度訓練は終わりにした方がよさそうだな」


準備とかしなきゃいけないしねと静希たちは一斉に装備やら道具やらを片付けていく


なにせこれから話が来たらすぐにロシアに飛ばなくてはいけなくなるのだ、もたもたしている時間は無いのである


「あれ?訓練終わりか?」


「そうよ、また例のバカが動き出したから海外に出張、今度はロシアよ」


「ロシアか・・・っていっても何があるんだよロシア」


陽太は最初から土産の心配しかしていないようだが、今はそれでもかまわない、問題はこれからなのだ


とりあえず静希は職員室に向かう間にテオドールにイギリスを経由してエドたちに依頼を持ってこさせるように指示を出していた


自分達の方は問題ない、あとはエド達にも動いてもらえるようにするだけだ

ロシア


今までヨーロッパ圏中心部が舞台だったのに対し一気に北へ移動している

この時期であればそこまで辛くはないだろうが恐らく寒いだろう、北海道よりも北に位置している可能性があるのだ


行動しやすいかと言われればそうかもしれないが、慣れない気候には手間取るかもしれない


「で、静希・・・さっきちらっと聞こえたけど・・・今回やばいの?」


「やばい、最悪世界が終わるっていうか地球が亡びるかもしれないレベルだ、防がないとまずい」


地球の百分の一程度が消滅した場合どうなるのか、今回危険区域範囲に入っているのが地球の総質量の何分の一かはわからないが少なくとも消していいはずがない


範囲内には幾つもの国が存在しているのだ、そんな国々が一度に消えてしまったらそれこそ大パニックになるだろう


「失礼します!先生、今よろしいですか?」


「話は聞いている、とりあえずこっちにこい」


どうやら城島は鏡花からある程度の報告を受けて状況を察していたようだった、ため息をついて静希達を別室へと誘導していく


「今回はロシアだそうだな・・・学生のうちにヨーロッパ全土を踏破しかねない勢いだ」


「全くです、こっちとしてはそんなのはごめんなんですけどね」


城島の言うようにこのままのペースでいけば学生の間にヨーロッパ全域、さらに言えばアジア圏内までも巻き込んでいろいろと面倒を起こせそうである

無論静希としてもこのままのうのうと事件を起こさせるつもりはないが


「今回の概要は聞いたが・・・どの程度の被害になるかは聞いているか?」


「・・・テオドールの話ではヨーロッパの半分が消えかねない大きさだという事です」


静希の言葉に城島は明らかに眉をひそめた


そして薄く口を開けたかと思うと、一度口をつぐみ、そして大きくため息をつく


「随分と規模が大きいな・・・つまり失敗イコール死・・・という事か」


「ただ死ぬだけならましですけど・・・範囲的に世界的な危機だと思います」


「確かにな・・・最悪地球が人の住めない星になりかねない・・・文字通り世界の危機というわけだ、これは笑うところか?」


城島も話が大きくなりすぎてさすがに許容量を超え始めているのか、その声には呆れを含んでいるように聞こえた


無理もない、最初はただの動物が起こした事件かと思っていたあの村の事件から、いつの間にかこんなに大ごとになっているのだから


「関係各所はどうしているかわかるか?」


「今のところは不明です、資料はもうすぐ届くかと・・・ただかなりせわしなくしていたようです、少なくともかなり大がかりなものになるかと」


「当然だな・・・他国の事だからと高をくくっていられるような状況ではなくなっている・・・まったく何をどうしてそんな大がかりなことを・・・」


城島としてもこの状況をかなり厄介に思っているのだろう、額に手を当てた状態でため息をついてしまっていた


無理もない、大掛かりな作戦になればなるほど静希達が自由に動ける可能性は低くなる


さらに言えば相手もこれだけのことを起こそうとしているのだ、かなり本気でこの事態に取り組んでいると思っていいだろう


悪魔の契約者が複数その場にいても不思議はない、そうなってくると静希達もただでは済まないかもしれないのだ


教師としては止めるべきであることはわかっている、だがそんなことを言っていられるような状況ではないのも確かだ


「単純に、巨大な穴を作ればそれだけつながる可能性が高いとか・・・そう言う事を考えてるんですかね?」


「お前の書いた報告書は確かに見たが・・・要するに『ありもしない場所』を見ようとしている、あるいは行こうとしているんだろう?そんなことが本当にできるのかは疑問だぞ」


「ですが実際に町一つ消えています・・・先生も見たでしょう?」


チェコ東部、国境沿いの小さな町は歪みが一瞬できた後消えてしまった


歪みごと何もなかったように、まるでクレーターのように、いやその空間ごとえぐり取られたように


歪みを残さずにあのような結果が残ったというのは、あの空間がどこか別の場所にとばされたか、あの空間丸ごと消滅させられたかの二択だ


だがメフィに確認したところあれだけの範囲を一度に消滅させるのは彼女でも難しいらしい


少なくともメフィの消滅の能力の元になったものでも不可能だという


あれだけの範囲が一度に消滅する、恐らくあの場所は『どこか』と繋がったのだ、そしてその場所へと転移、いやそのどこかに向けて『召喚』された


メフィ達がこちら側へ召喚されたように、空間そのものを召喚させられたのだ


世界が負荷に耐えられず歪みを残すはずが、歪みを残さずに正しく召喚を成功させた、そう見るしかないだろう


そう言う意味では静希はあの状況ではチェコを止めるべきだったのかもしれない、これまでの事件がすべて実験だとしたら、あのチェコの一件はリチャードの思惑通り、あるいは目的をさらに先に進めさせてしまうようなものだったと思うほかない


「仮に今回も同じように消滅したのだとしたら・・・確かに未曾有の被害になるだろうな・・・被害は数百万・・・いや数千万から数億といったところか」


「被害の数を出されるとイメージ湧きませんけど・・・とりあえず世界の危機であると言えばまだ想像しやすいですね」


「世界の危機か・・・ならお前は世界でも救うつもりか?」


「ハハ・・・勇者でも何でもないですけど、その響きは悪くないですね」


世界を救う


そんなことを言われたってまったく実感がわかない


静希の頭の中にあるのはリチャードを倒したい、ただそれだけだ


世界の危機と言われても実際はどうなるのかなんて全く分からないしイメージできない、何億という人間と世界を秤にかけられたところで静希の中にある秤は全く動かないのだ


どっちも正直静希にとっては大差ないものなのである


ただその場にリチャードがいる、自分を今まで面倒に巻き込んだ張本人、自分の敵、倒すべき敵、排除しなければいけない人間


世界云々を語られるよりも、その方がよっぽどわかりやすかった、なにせ目的は至極単純でわかりやすいものになるからだ


「それで勇者様、お前は今回のことに関してどうするつもりだ?夏休みの課題扱いで実習に行くことも可能だが」


今は幸か不幸か夏休みだ、去年のように宿題というか夏休みの課題という事で一回は実習に行かなくてはいけない


それを利用すれば実習という形で現地に行くことはできるだろう、だが正直実習という形で行くのは気が進まなかった


「俺としては今回は実習抜きで行きたいんですけどね、前みたいに移動費をけちられるのもいやですし、せっかくこいつらもつれてくなら依頼料取りたいし」


前というのはドイツでの一件の事である


あの時はドイツが気を回して実験機と能力者の輸送部隊を一つ貸してくれたからよかったものの、今回も同じようなことが行われるとは限らない


確実に速く移動するためには実習ではなく依頼という形で現場に向かいたいところである


さらに言えばこれだけのことをさせているのに鏡花たちにほとんど報酬がないのが心苦しく感じたのだ、どうせならしっかりと報酬を受け取りたいところなのである


そしてそのことを城島も理解しているのか、そうかと呟いてため息をつく


「となると私は同行しないということになるな・・・実習ではないのならこちらからも応援の部隊をいくつか差し向けられる、文字通り総力戦というわけか」


これだけの事件を起こしているのであれば日本からも協力員が必要になる、表向きは静希の護衛という形にすれば問題なく行動もできるだろう


だが一つだけ静希からも頼みたいことがあった


「あの、どうせなら先生も一緒に来てほしいんですけど・・・ダメですか?」


「なに?なぜ私が?実習ならついていくのが道理だがそうでないのなら私がついていく理由はないぞ?」


「いやその・・・先生の能力があると非常に助かると言いますか・・・保護者兼監督役という事でついてくることはできませんかね・・・?」


城島の能力や実力はかなりのものだ、それこそ静希達が束になってもかなわないのではないかと思えるほどに


一応静希達は学生、未成年なのだ、監督役として教師が一緒についていくというのは別段おかしな話ではない


だが城島は気が進まないようだった


「要するに私にも依頼を持ってきて、プライベートでお前達の世話をしろとそう言う事か?」


「そう言うことになります・・・どうでしょうか・・・?」


静希がテオドールに依頼を持ってこさせるときに少し待てと言ったのはこれが一番の理由だった


今までのような引率ではなく、できるなら城島も『戦力』として付いてきてほしいのである


静希の予想が最悪の形で的中した場合城島の戦力は重要だ、彼女の能力があれば状況はかなり楽になる、静希はそう確信していた


「私は今教師だぞ?軍人としてすでに退役している身だ、役に立てるとは思えんがな」


「そうでもないですよ、先生がついてきてくれれば心強いです」


静希の城島に対する評価はかなり高い、教師としても能力者としても一人の人としても、かなり高い評価を下しているのだ


少なくとも今まであってきた人間の中で総合的に見れば上位に入る部類の人間である、それほどまでに城島を高く評価していた


「随分と私を買っているようだが・・・そうまでして連れていく理由があるのか?」


「まぁ安心できるっていうのもありますけど、一度先生が本気で戦ってるところを見たいっていうのもあります」


本気で戦うところ


静希達は城島が本気で戦っているところを見たことがない、話に聞いたことくらいはあるが実際に見たことはないのだ


今まで城島と訓練で拳を交えたことは何度もある、だが彼女の本気を引き出すことはできていないのだ


見てみたいというのもあるし、それを役立ててほしいというのもある


今回のような大事件に発展しているのならなおさら、その力が必要だ


「・・・まったく・・・私をその気にさせたいのならもう少しうまく説得しろ、そのままでは社会に出て苦労するぞ」


「ハハハ、まぁ心得ておきます・・・で、一緒に来てくれますか?」


静希が笑いながらそう言うと、城島は大きくため息をつく


本当ならば断わりたいところである、大勢の軍人が参加する中で教師である自分が参加したところで一体どれほどの意味があるだろうか


そもそもせっかくの夏休みに何故自分がそんな面倒そうなことをしなければいけないのか、危険なことに巻き込まれるのはごめんだというのに


何より自分は退役した身だ、あとは面倒で生意気な子供の相手をしていればいいと思っていただけにこの提案は正直気が進まなかった


だが、安心すると言われたのは悪い気はしない、頼りにされているというのは悪い気はしない


これでも一年以上静希達を見てきたのだ、多少情も湧いている


全く教師はままならないものだなと思いながら城島は再度大きくため息をつく


「まったく・・・わかった、ついて行ってやる、あまり多大な期待はするんじゃないぞ?私はただの教師なんだからな」


ただの教師だなんて全く御冗談をと静希達は苦笑しているが、それでも城島が戦力として付いてきてくれるのはありがたかった、それだけ静希達の負担が少なくなるという事でもあるのだから














「あぁ・・・そう言う事でさっき言った人たちを依頼って形で連れていきたい・・・そうだ、あとはこっちの部隊をそっちに派遣できるようにしてくれれば文句はない、出発は可能な限り早くだな・・・明日?あー・・・まぁ仕方ないな、分かったそれじゃあな」


テオドールに話を伝えるべく電話した後静希は大きくため息をつく


結果から言えば依頼を持ってくることは可能、出発は明日の昼ということになった


現地時間的に言えばロシアの西部は日本と六時間の時差がある


となると今現地は昼、そして昼から出発という事は転移系統の能力を使って移動した場合は早朝に到着するということになる


まだ十分活動できるなと思いながら静希は眉をひそめる


予兆である魔素の変動が起きたのが現地時間で今日の早朝、という事はちょうど一日しか経過していないことになる


召喚陣の猶予的に考えれば一週間がリミットだ、それまでに何とかして止めておきたいところである


「で?結局どうなったわけ?」


「出発は明日の昼、期間は不明でこっちからいろいろと人員を引っ張ってこれるように計らうってさ・・・資料は明日の朝までには届くようにしてくれるそうだ」


「ギリギリだな・・・資料は移動しながら見ることになりそうだ・・・まったくこちらの予定が無茶苦茶だな」


城島がため息交じりにそう言う中静希は謝罪するほかなかった


城島の力を借りたい以上彼女の予定を完全に崩してしまったのは申し訳なく思ってしまう


とはいえこれだけの規模の話だ、こちらもそれなりの戦力で立ち向かわなければいけないだろう


エド達にも話はすでにしてある、現地である程度作戦会議などもしておいた方がいいだろう


時間に余裕がないというのもある、なにせ場所はロシアだ、広すぎて探すのに時間がかかるかもしれないのである


「ちなみにさ静希、場所は大まかにわかってるんだろ?」


「本当に大まからしいけどな、魔素の変動の範囲が大きすぎるからロシア西部ってことしかわからないらしい」


資料が静希達の下に届いていないためにまだ詳しいことはわからないが少なくともロシア西部で魔素の変動があったのは事実のようだ


後は細かい場所の確定とそこに攻撃を仕掛けるだけなのだが、そこまでが一番の問題でもあるのだ


「だったらその場所がわかったら一気に爆破でもしてもらえばいいんじゃねえの?ほら空爆とかそう言うの」


陽太の意見は相変わらず極端だが、実際にそう言う手が取れるのかどうかは微妙なところである


大人の意見はどうだろうかと全員が城島に目を向けると、彼女もその可能性について考えているのか腕を組んだ状態で悩んでしまっていた


「不可能ではないだろうが、ロシア側が渋りそうだな・・・自国を空爆するような指示を出せるとも思えん・・・それに向こうに契約者がいるとなると、それも無駄に終わりかねん」


城島の言う通り、自分の国を空爆するような真似ができるとも思えない、それが仮に世界の危機だとしてもだ


最後の手段という形でそれなりのものは用意しているかもしれないが、それだって相手に悪魔の契約者がいては防がれるかもしれないのだ


偵察機くらいは出すかもしれないが、その結果によっては現場への移動全てが陸からのものになるかもしれないのだ


所謂攻略戦、陣地制圧戦を行うのだ


相手が有している兵力は最低でも悪魔一人と能力者一人


さらに言えばもっと戦力が増えるかもしれないのだ、余計な真似をして被害が拡大するのはロシア側としても控えたいだろう


確証のない攻撃をして被害を増やすなんて真似をするにはまだ早すぎる

相手が悪魔という切り札を有しているように、こちらも同じ切り札を有しているのだ


後は総力戦、どれだけ相手と同じ土壌で戦うことができるかという事である


「空爆は結構いいアイディアだと思ったんだけどな・・・やっぱ無理か・・・」


「それならこっちの遠距離攻撃は無理かしら?能力者によっては距離があっても攻撃できるし・・・転移狙撃とか」


鏡花の言う転移狙撃というのは文字通り狙撃した銃弾を転移させることで射程距離を強引に伸ばす方法である


井谷のような転移のゲートを作り出せる能力者に目標までの中継ゲートを作らせそこから狙撃するというものである


現代の兵器と能力の応用技で、明利も訓練の時に一度見せてもらったことがあるが彼女は首をかしげていた


「難しいんじゃないかな・・・?ゲート系の転移能力って行った場所とかある程度近づかないとできないだろうし・・・まずは近くまで行かないと狙撃もできないよ?それまで相手に気付かれないかどうか・・・」


相手が召喚陣を守ろうとしているのだから当然のように索敵網を敷いていると考えていいだろう、たとえゲートを作ったとしても悠長に狙撃ができるようなポイントまで進めるかは微妙なところである


逆に狙撃ではなく空爆と転移の合わせ技も同じようなものだ、まずそこまでたどり着くことができるかどうかという話になってくる


飛行機ごと転移させられる能力者がそういるとも思えない、収納系統との併用でもかなり苦労するのは言うまでもないだろう


本気投稿に加え誤字報告を十五件分受けたので四回分投稿


この投稿ペースに慣れてきてしまったのはちょっと想定外


これからもお楽しみいただければ幸いです

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