表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

987/1032

夏の思い出

「・・・ワォ・・・」


「すごいですね!これが日本のお祭りですか!」


「ほほう・・・お店がたくさん出ています・・・!」


「これは・・・なかなか・・・」


場所は変わって浴衣姿のエド達は祭りへとやってきていた


神社へ至るための参道には出店が多く立ち並び、日曜日という事もあってかなり繁盛しているようだった


ちょうど祭りも本格的に始まりつつあるのかたくさんの人通りでにぎわっている、その中でもエドたちは少し目立っていた


それもそうだろう、イギリス人ドイツ人、そして出身不明の外国人二名、その中の女性陣は浴衣まで着ているのだ


さらに言えば近くには美人でスタイルの良い雪奈に仮面をつけた東雲姉妹もいる、これで目立たないはずがないのである


「ミスミヤマ・・・一体どんな店があるんですか?」


「ん?そうだねぇ・・・食べ物系は実際に食べたほうがわかりやすいからそれを買いながら解説していこうか」


そう言って雪奈は近くにある綿あめ屋に駆けこんで二つほど綿あめを購入し、アイナとレイシャに手渡した


「さぁ二人とも、これがふわふわで甘い綿あめさ、味わって食べてごらん」


「おおお・・・ふわふわしています・・・」


「これが綿あめ・・・確かにモフモフしています・・・」


アイナとレイシャは手渡された割り箸に巻き付けられた白いモフモフの物体を前に目を輝かせていた


そもそもこれはどういう食べ物なのか、どうやって作っているのか、そしてどうやって食べるのか、周囲の人を見て正しい食べ方を模索するが、どうやらかぶりつくのが正解のようだと判断し、二人同時に綿あめにかぶりつく


何の抵抗もなくかみちぎられたそれを口の中に含むと、その甘味が口の中に広がっていくのか、アイナとレイシャはつい頬を緩めていた


「甘いです・・・ですがなんでしょう・・・この独特の香りは・・・」


「アイスなどとはまた違う・・・不思議な味です・・・」


アイナとレイシャが食べているのを見てエドとカレンも興味がわいたのか、近くにある綿あめ屋で綿あめを購入し口にしていた


こういったものを食べるのは初めてだろう、日本独特の食べ物だが随分と気に入ったようだった


「さてじゃあいろいろ説明していこう、お祭りに出ている出店は大きく分けて二種類、食べ物を売っている店と、何かをして景品をゲットできるお店だ、例えば今食べてる綿あめは前者、そこにある射的とかは後者になるね」


射的とは祭りなどで有名な出し物の一つである、おもちゃの銃で的や景品を撃ち落として手に入れるタイプの出店で子供から大人までそれなりに楽しめる店だ


実際に景品を手に入れられるのはごく一部のみ、高いものなどはいろいろ仕掛けをするようなところもあるため注意と根気が必要である


「ミスミヤマ、あそこになんとかすくいというのがありますが、あれはどちらですか?」


アイナが指差す先には金魚すくいと書かれた看板があった


まだ漢字を全部読むことはできないかと思いながら雪奈はその店に歩を進める


「これは金魚すくいだね、金魚っていう魚を掬って飼うことができるんだよ、私も昔は結構・・・」


そう言って金魚の入っている水槽を見てみると金魚たちがかなりの速度で泳ぎ回っているのがわかる


一体なんでこんな速度で泳ぎ回っているのか、別に水が高速で流れているとかそう言うわけではないのになぜ金魚がここまで掬われまいとしているのか


そんなことを考えている中、雪奈ははっと思いつく


そう言えば若干数名人外を連れている人たちがいるんだったと


しかもそのうちの二名は生き物がかなり警戒して逃げ出すレベルの上級悪魔を連れているのだ、金魚たちがこうして暴れていても無理はない


「よし、金魚すくいはやめて別のお店に行こうか」


「え?何でですか?」


「何でって金魚は食べられないからね、お姉さんが食べられるお魚を買ってあげよう」


雪奈にしては苦しくもそれらしい言い訳を考えすぐにその場から退避していくのだが、金魚たちはエドたちがその祭りに参加している間中ずっと高速で泳ぎ続けていたのは言うまでもない


悪いことをしたなぁと金魚たちに詫びながら雪奈はある店の前に立つ


「はいこれ、これが食べられるお魚だよ」


「・・・これなんですか?熱いし・・・パンみたいです」


「魚の形をしていますけど・・・」


「それはたい焼きというものさ、中にあんこが入ってるんだよ、まぁ食べてごらん」


アイナとレイシャはたい焼きをかじってみると中からあんこが出てくるのを確認してさらに大きくかじりつく


あんこ独特のさわやかな甘みに加え生地自体も少し甘く味付けしてあるのだろう、アイナとレイシャはとても気に入ったようで無心でたい焼きを平らげていた


「おいひいです・・・これはすごくいいです」


「・・・は!アイナ、見てください、あんこ以外にもいろいろあるようですよ」


レイシャの発見に他の味も食べてみたくなったのか、アイナとレイシャは自分の持っているお小遣いからその中のいくつかを買っていた


かなり気に入ったのだろう、それぞれの味を一つずつ購入して満足そうにしていた


「いやぁそれにしても、日本人はどうしてこう面白いものを作るのかな、こんなの思いつきもしないよ」


「・・・そのあたりは発想の違いというべきか・・・やはり日本人は凄いな」


エドはかき氷を、カレンはりんご飴を食べながら日本の食文化に驚きを隠せなかった


海外からすればこんな食べ物は考えられもしなかっただろう、こういった食べ物があるという事に二人は感動しているようだった


静希と知り合ってから日本にそれなりに造詣が深くなった二人ではあるが、まだまだ日本は未知の部分が多い


さすが日本人、やっぱりクレイジーだなと二人は評価を改めていたが、この評価が果たして正しいのかどうかは定かではない


「ん・・・あのひもは何だ?ずいぶんたくさん垂れ下がっているようだが」


「んー?あぁあれはくじみたいなものだよ、あれのうちの一本を引っ張ると景品が繋がってるの、はずれの方が圧倒的に多いけどね」


私達はあれ当たったことがないよと雪奈は笑っているが、カレンはその景品を見て眉をひそめる


一位は大型テレビ、二位がゲーム機、三位が電子辞書などとどんどんグレードが下がっているようだった


そんな中七位に大きなぬいぐるみがあるのを見つける、そしてアイナとレイシャがさりげなくそれを見ているのにも気付けてしまう


どうするべきか


カレンはアイナとレイシャの頭を軽くなでた後、とりあえずその店へと足を運ぶ


「一回分頼む」


「おや?外国のお客さんかい?随分日本語上手だね」


「あぁ、それなりにではあるがな」


カレンはとりあえず料金を払って自分が引くべき紐を選び始める


だがここでカレンはあることをした


それは恐らくカレンにしかできない芸当だろう、要するにオロバスに予知してもらったのである


完全に反則である、だがカレンは一度で目当てのものを引くのではなく、二回三回と外してから五回目でその目当てのものを引き当てて見せた


「お、粘られちゃったな、七位のぬいぐるみだ、どうぞ持ってってよ」


「あぁ、ありがとう」


カレンはぬいぐるみを抱きしめた後でアイナとレイシャの元に戻り二人に渡してやった


「カレン・・・君今・・・」


「何のことだ?それにしっかりと料金に還元してやったんだ、文句はないだろう」


こういうのは確率の問題だ、最初から当てさせる気のない高額商品よりも、少し高いような商品の方が当てやすい


店側もそれを理解しているのだろう、カレンがぬいぐるみを当てていったからと言って特に問題はないようだった


「アイナちゃん!レイシャちゃん!射的で勝負しましょう!」


「射的ですか?やってみます!」


東雲姉妹に誘われたアイナとレイシャはぬいぐるみを抱えたまま二人の方へと駆けていく


微笑ましい光景だなぁと思いながら雪奈は幼女たちを眺めていた


「それにしても、これだけの人が集まるとなるとここの神様は凄い神格なんだろうね」


「あぁ、これほどの人が集まれば信仰もそれなり以上のものがあるだろう・・・一目会ってみたいが・・・」


エドとカレンの言葉に雪奈は気まずそうに頬を掻く


「あーいや、別にこの神社に人が集まるから神様がすごくなるってわけじゃないと思うよ?」


「何故?だってこのお祭りは個々の神様を称えるものなんじゃないのかい?」


「あー・・・まぁそうなんだろうけどさ、来てる人の八割・・・いや九割以上はただ祭りがあるから来てるってだけで、神様がどうとかは信じてないと思うな」


「そうなのか?日本人は無宗教だとは聞いていたが・・・なんというか・・・節操がないというか・・・」


カレンの言う通り日本人は節操がない


日本独特の文化を残しつつもハロウィンもやるしクリスマスもやる、バレンタインだってしっかりやる


その行事の本質は忘れがちなところがあるがとりあえず楽しめればいい、それが日本人の持っている行事への考え方だ


だから近くの祭りがあったところでその神社の神様への感謝だとかそう言うものをささげる人が一体どれくらいいるかは甚だ疑問である


現在日本で強い力を持っている神様と言えばよほど有名な神様くらいのものである


例えば学問の神や縁結びの神、あとは始祖神や太陽神といった誰でも知っていて当たり前の神様くらいのものである


「まぁなんだったら挨拶くらいは行く?奥の方に賽銭箱あるし」


「あー・・・確かお金を中に入れるんだったっけ?なかなか妙なもんだね、僕らみたいなのが神様にお金を供物として捧げるなんて」


「まったくだ、皮肉が利いているな」


悪魔の契約者が神に供物をささげる、確かに皮肉めいている


だがせっかくこうして楽しむことができているのだ、多少感謝の念をささげても罰は当たらないだろう


もしかしたら出入り禁止にされるかもしれないが



「そもそもさ、この神社って神様いるの?私何にも感じないんだけど」


雪奈も人外たちと付き合って長いためにそれなりに人外の気配は察知できるのだが、この神社のあたりからは人外の気配はエド達からしか感じない


人が多すぎて近くの物しか察知できないというのもあるだろうが、神社の奥に神様がいるとは思えなかった


「やっぱり信仰が薄くなってるから力も弱まってるのかもしれないね、精霊並に希薄な気配になってるのかもしれないよ?」


「信仰心の薄い国の神は大変だな・・・そう言う意味では気の毒だ」


「アハハ・・・耳が痛い限りだよ」


基本日本人というのは神様を常に信仰するという事はしない人種だ、時折必要な時だけ祈ったり賽銭を放り投げたりお守りを買ったりする程度で常に神への信仰心を維持しているというわけではない


静希や雪奈の場合身近に神がいるからこそ多少神様に感謝をしたりしているが、それも微々たるものである


「そう言う二人はどうなの?ていうか二人は何を信仰してるわけ?」


「もちろん僕は信仰心の暑い敬虔なキリシタンさ、毎日きちんと祈って」


「いるところは見たことがないがな、少なくとも私はこいつが十字架をもって祈っているところなど見たことがない」


まさかのカレンからのリークにエドは乾いた笑いを浮かべながら目を逸らしている


恐らく日本人だけではなく、外国人にもあまり宗教などに頓着のない人種というのはいるのだろう


思えばエドはもともと研究者だ、科学を信奉する人間にとって神への祈りなどは無意味な時間に他ならないのかもしれない


「そう言うカレンはどうなのさ、君だって祈ってるところを見たことがないよ?」


「当たり前だ、私はエルフだぞ?そもそも神に祈るという考えそのものを持っていない一族だ、神よりも村の掟に従事するのが昔ながらのエルフだ・・・もうその生き方は捨てたがな」


そう言えば仮面をつけていないからすっかり忘れていたが、カレンはもともとエルフだったのだ


それこそ以前行ったことのある村と同じような独特の雰囲気と風習をもって生活しているのが当たり前だった可能性もある


カレンはそう言う感覚はないようだが、雪奈たち普通の人間からすれば特殊であるのは否めない


「まぁ、私達の場合は少々特殊な事情を抱えている、この神社の神に挨拶くらいはしておいた方がいいだろう、少なくとも敵意がないことくらいは表明しておいた方がいい」


いるにしろいないにしろやっておいて損はないからなと付け加える


確かに悪魔が二人、精霊が二人もこの場にはいるのだ、無駄に警戒させている可能性がある以上一度賽銭に行ったほうがいいかもわからない


もちろんこの神社に神がいないことだってあり得るのだ


神格という存在がいるにしろいないにしろ勝手に建てられ、そのまま祀られて今に至るという事も十分にあり得る、神様がいない神社というのもどうかもしれないが、神格がこの場にいなかったとしても不思議はない


人が多いこんな場所で神格としても事を起こそうとはしないだろうから、今のうちにこちらに敵意は無いという事を表明しておいた方がいいだろう


「それじゃあ軽く挨拶に行こうか、えっと箱があるんだっけ?」


「そうそう、賽銭箱っていうお金を入れる専用の箱があるんだよ」


「日本は妙な文化があるな・・・湖や噴水に小銭を投げるのと同じ感覚だろうか」


途中でアイナとレイシャを回収し、東雲姉妹に参拝の仕方を教わりながらそれぞれ小銭を投げ入れ軽く拝む


特にエドとカレンは長く長く自分たちには敵意がないという事と、この場には観光的な意味でやってきていることを強く念じているらしかった


さらに言えば彼らの中にいる悪魔もついでに軽く念を込めていったらしい


悪魔が参拝した神社というのもどうかと思うが、一応敵意がないことは伝わっただろうかとエドたちは足早にその場を離れていた


「どうだった?なんかいる感じした?」


「・・・んー・・・わからなかったよ、さすがにこれだけ人が多いとなぁ・・・」


「それにあの箱からさらに奥も結構距離があるようだったからな、神格がいるとしたらもっと奥の方だろう・・・さすがにこれだけにぎわっていると感知できん」


これが完全なる静寂であったのなら距離があっても感覚で察知できたかもしれないが、これだけにぎわっていて何よりうるさい場所では神格の気配を感じ取ることはできなかったようだ


実際いるのかも定かではないが、少なくとも自分たちに敵意がないことだけは伝えられたと思いたい


「さて次は何しようか、まだまだいろいろ食べるものあるよ、焼き鳥とかあるし焼きトウモロコシもあるし」


「なんだか食べてばっかりだなぁ・・・僕あんまり運動してないから太っちゃいそうだよ」


「ほう、それは大変だ、それなら訓練でもするか?」


「・・・え、遠慮しておきたいなぁ・・・」


エドとしては訓練よりもデスクワークの方が得意なのだろうか、日本に来てから書類仕事が多かったせいか少し肉がついてきている気がする


食事が美味しいからというのもあるのだろう、留学が終わったら本格的にダイエットをさせなければいけないだろうなとカレンは意気込んでいた









「あぁ・・・ようやく帰ってこれた・・・」


船で散々な目に遭った静希は十八時ごろに家に戻ってきていた


荷物もそうだが何でこうも疲れているのか、それは当然のように船で遭わなくてもいいような面倒があったからに他ならないだろう


船に乗っている間は状況が終了していたとしても油断してはならないという教訓を得て、家に戻ってきたのである


もう船には二度とのらないという誓いと共に


「ただいまー・・・」


静希が家に入ると中が何やら騒がしい、どうやら誰かがいるようだ


そう言えば東雲姉妹がお泊り会をしているんだったなと思い返していると、奥から浴衣姿の雪奈が小走りでやってくる


「おぉおかえり静、お疲れ様」


「・・・ぉあ?随分と夏らしいカッコしてるな・・・ってあぁそうか、夏祭りに行ってきたんだっけか?」


そう言えば浴衣を買うとか言う話をしていた気がするなと思い出しながら静希はリビングの方に向かうと、そこには買ってきたものを食べたり遊んだりしているエドたちがいた


エドにカレン、アイナとレイシャ、それに東雲姉妹までいる高密度な状況に静希はついおぉうと声を漏らしてしまっていた


「やぁシズキ、おかえり、お疲れみたいだね」


「「おかえりなさいミスターイガラシ」」


「すまんな、お邪魔している」


「なんだ・・・カレンはともかくエドも来てたのか、夏祭りに行って来たって感じだな」


テーブルの上に置いてあるそれらしい食べ物や物品を見て静希は苦笑してしまう


それぞれ何とも夏祭りらしいものが並んでいるのだ


綿あめに焼き鳥焼きトウモロコシ、りんご飴にチョコバナナ、およそ縁日に売っていそうなものはほとんどテーブルの上に乗っていた


「あ、あの五十嵐さん、お邪魔してます」


「お泊りさせていただいてありがとうございました」


「おぉ、いい子で遊んでたなら何よりだ、もう結構遅い時間だからもう少ししたら送っていくよ、その前にちょっと片付けさせてくれ」


静希が荷物を自室に戻しに行くと、次の瞬間重い金属を降ろしたような音がする


一体なんだと思ってアイナとレイシャが覗き込むとカバンの中に装甲を入れていたのだ、それは疲れるだろうなと思いながら静希が荷物の整理が終わるのを待っていると、いくつかの洗濯物をもって静希がドタドタと洗濯機の方へと駆けこんでいった


まずは洗濯が先なのだろう、もう夜になってしまっていた乾かないだろうが、そんなことは二の次である


「よし・・・んじゃ行くか、もう遅いしな、忘れ物は無いか?」


「はい、アイナちゃん、また明日」


「はい、レイシャちゃん、また明日」


東雲姉妹がそれぞれ挨拶をする中で、それじゃあ僕もお暇するかなとエドが立ち上がる


「お前はもうちょっといてもいいんじゃないのか?」


「そう言うわけにもいかないよ、明日も仕事があるし、それにせっかくの彼女たちの留学だ、邪魔はしたくないからね」


エドはアイナとレイシャの方に振り返って小さく微笑むと、彼女たちもその意味を分かっているのか大きくうなずいてみせた


「さぁ、これ以上遅くなると何があるかわからないからね、早く帰ろうじゃないか」


「あ・・・あぁ・・・留守頼むな!」


そう言って静希達が出ていくと同時に、部屋の中に数枚のトランプが飛んでくる


そしてリビングにトランプが飛んでくると中から人外たちが飛び出してきた


「ふぅ・・・久しぶりの外・・・!」


「メフィストフェレスはずっとトランプの中だったですからね、今回ばかりは仕方ないでしょう」


出てきた人外はメフィとウンディーネ、そしてオルビアだけだった


恐らく邪薙とフィアは静希の下にいるのだろう、万が一の備えというわけである


オルビアは会話する暇も惜しんで部屋の片づけに勤しんでいる、静希が持って帰ってきたものやその汚れなどを細かくチェックしている、静希が帰ってくる時点でいかにきれいな状態にしておくのかが大事なのか、忙しそうにあたりを動き回っていた


そして人外たちが出てきたことでようやく自分たちも外に出ていいと思ったのか、カレンの中からオロバスも姿を現した


今までずっとカレンの中にいたためか若干肩が凝ったようなしぐさをしている


「どうだったかしら?お泊りは楽しかった?」


「はい、そちらはどうでしたか?」


「ミスターイガラシは無事でしたか?」


アイナとレイシャの問いにメフィは少々答えにくそうにしていた


一応無事なのだが、あれを無事と言えるのかは微妙である、静希からすればかなり面倒で厄介な呪いがかかっていることが判明したのだ


当分船に対する嫌悪感は拭えないだろう


「二回負傷したけどそれ以外は万事問題なかったわね、まぁその程度の相手だったってことよ」


「二回も・・・そうですか・・・」


「・・・大変だったのですね」


自分達では傷一つ負わせられない静希が二度も傷ついた、それはそれで結構大変だったのだなと二人は理解しているようだった


二回の内の一回はフレンドリーファイア気味だったのだが、それは言わない方がいいだろう






「それじゃあな二人とも、しっかり休んでおけよ」


「「はい、おやすみなさい」」


東雲姉妹を家まで送り届けた静希はエドと一緒に歩いていた


ようやく実習も終わり、あとは家に帰ってのんびりするだけである


「どうだった?日本の祭りは?」


「いやぁ楽しかったよ、両手に花どころか両手に花束持たされた気分さ、みんな美人さんだからねぇ」


彼女がいるくせにそう言う反応をしていいのかと思うのだが、エドも本気では言っていないだろう、どちらかというと子供に対するそれに近いのだから


「それにしても日本の祭りは奇妙な食べ物がたくさんあったよ、何をどうしたらあんなものを作ろうと思うのか不思議でならなかったね」


「あー・・・そう言われるとそうかもな、綿あめとかその筆頭だろ?」


そう!あの雲みたいな食べ物はびっくりしたよとエドは興奮気味にその奇妙な体験を語っている


実際日本人の静希でさえあの不思議なモフモフの物体がどのような経緯をもって生まれたものなのか知らないのだ


普通ならあんなものは作ろうとすら思わない、というか作ったとしても食べるような気は起きないし、それを量産しようとも思わなかったはずだ


「後はあの雪を食べているような食べ物!あれはなんていったかな・・・?何かのシロップをかけていたようなんだが・・・」


「あぁ、かき氷か、氷を細かく砕いたものに甘いシロップをかける食べ物だよ」


そうだかき氷だとエドは思い出したようで手を叩きながらその時の味を思い出しているようだった


今回の夏祭りのことで日本の食文化というものを大いに満喫できたのか、エドは十分ご機嫌になっているようだった


「ありがとうねシズキ、君のおかげで楽しい思いができているよ、君には借りを作りっぱなしだ」


「気にすんなって、今回のことに関してはあの二人の為でもあるしな、それに今日夏祭りに行くことになったのは雪姉の提案だろ?俺のおかげじゃない」


それでもさ、と言いながらエドは笑っている


アイナとレイシャだけではなく、恐らくカレンも十分に息抜きができただろう


リチャードの件のせいで今まで気が張っていたために、少しでも気が楽になったのであれば何よりだ


カレンは良くも悪くも思いつめる性格だ、少しでも気が楽になるのであればそれが何よりである


「ちなみに今日はリットがいなかったみたいだけど・・・あいつは?」


「・・・彼は何でかホテルから出ようとしなくてね・・・今日連れてこようとも思ったんだけど・・・」


「・・・ふぅん・・・いつも一緒にいるイメージがあったけど・・・」


先程静希が家に戻った時にカレンがいたのは確認したのだがリットがいるのは見えなかった


恐らくエドの滞在しているホテルからでようとしなかったのだろう、何がどうしてそんなことになっているのかはわからないが、恐らく何かあったのだ


使い魔として主の下を離れるというのはあまりいい行為とは言い難い、カレンがそう命じたのならまだしも、その可能性は考えにくい


ただ単に東雲姉妹たちと接触させると面倒だと思ったのならそれでいいのだが、あのリットという使い魔は何か変わっている行動が多いのは確かだ


「ひょっとして、姉が楽しむのを邪魔したくないとか思ったのかね?」


「どうだろうね?彼はあれからも一言もしゃべらないし・・・そう言う気づかいができるレベルになっているのかどうか・・・」


リットはいい意味でも悪い意味でもカレンに影響を与える


いや、弟の死体を使って作り出した使い魔だ、はっきり言ってあまり良い影響はほとんどないと言えるだろう


一緒にいれば常にカレンはその姿を見る、そして怨嗟に憑りつかれる


家族を殺されたリチャードへの怒りと憎しみを燃やすのだ


そして同時に自らを責めている、そんなことを招いてしまった自分自身の愚かさを悔いている、そんなことを延々と続けるわけにはいかないのだ


「あともう少しのはずなんだけどなぁ・・・」


「あぁ・・・追い詰めてるとは思うんだけどな・・・」


二人が言っているのはリチャードのことだ、今自分たちがどのような状況になっているのか、どれほど相手を追い詰めているのかはわからない、正直目に見える成果はあまりないだけに戸惑いは大きいのだ


ふがいないと言えばその通りなのだが、それでも一歩一歩確実に進んではいる、あと少しのはずなのだ


「もうひと踏ん張りだね、特にあの件に関していえば」


「そうだな、まだまだお前の娘たちに関しては先が長そうだけど」


それは言わないでくれよとエドが苦笑する中、静希達は街を歩く


もうひと踏ん張り、まだ先は長い


同じようで違う状況、すでに終わりは近い


特に静希が今まで巻き込まれてきた一連の事件に関しては終わりが近づいているのは確かだ、次に何かが起きる時は、きっと何かがある


漠然としすぎていてそれ以上のことは言えないが、静希の勘が言っていた

何かあると


本気投稿中


誤字が溜まってますが話をまたぐ関係で後回しにします、ご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 綿飴はそもそもアメリカ産のお菓子ですので日本特有でも何でもありませんね。イギリス人に限らず殆どの人が知っているんでは無いでしょうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ