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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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受難災難

陽太と城島がこんな会話をしている間、静希と明利はとにかく索敵範囲を広げるべく行動を続けていた


なにせ奇形種を一体討伐したとはいえ他に奇形種がいないとも限らないのだ


今までの経験上これで終わるとも考えられない、少なくとも鏡花が準備しておいた北の区画部分までは索敵を終わらせようと動き続けていた


幸いにして時間が経過すれば経過するほど気温と水温は上がり、索敵を行うには適したコンディションになりつつある


血に染まったパーカーを羽織っているという事もあってあまり平和な光景とは言えないが、多少気が楽になったのは事実である


奇形種が同じような場所で生息しているのは何度か見たことがあるが、少なくともあの大きさの奇形種が住んでいたのだ、同様の大きさの奇形種がいるとも考えにくい


後はさっさと索敵を完了して遊ぶことができればと思うばかりである


そんなことを考えながら索敵を続けていると、南側の区画を撤去し終えた鏡花が静希達の下へとやってくる


「お、鏡花姐さんお疲れさんです」


「お疲れ、そっちはどう?」


「今索敵中、一応他にもいないとは限らないしな」


万が一の索敵と言えば聞こえはいいが、実際は時間つぶしと確認のようなものである


そこにいないという事がわかるというだけでずいぶん変わるものだ、特に敵がいるかいないかという状況では所在確認は必要なことである


「南側はどうだ?もう撤去終わったのか?」


「えぇ、作るよりは戻すほうが楽でいいわ、あとは北側の区画分けを完璧にするだけよ」


「今からどれくらいかかる?」


どれくらいかかるか、作業の途中で目標を発見してしまったためにどのあたりまで作業をしていたのか記憶があいまいなのかどうだったかなと鏡花は額に手を当てて思い出そうとしている


なにせ彼女のこなした仕事はかなり広範囲に及ぶ、どの程度まで完了しているかも覚えていないだろう、現場に行って作業を始めればそのあたりも思い出すかもしれないが


「まぁ日のあるうちには終わらせるわよ、たぶんあんたたちが追い付くことになるでしょうけど」


「そうか、あと今日中に索敵終わらせたら明日は遊んでいいって先生が言ってたぞ」


「へぇ、珍しいこともあるものね・・・それじゃちょっと頑張りますか」


鏡花としても遊びの時間が与えられるというのはありがたいのか、若干テンションをあげながら索敵のための区画分けを始めていた


この場所がもとより観光地という事もあって遊ぶには十分なものがそろっている、それに季節も丁度シーズンであることもあってかそれなりに楽しめるのは間違いないだろう


せっかくこういうところに来ているのだ、少しくらいは遊んでも文句は言われないだろう


アイナとレイシャが留学にやってきてからほんわかした空気が蔓延していたためにこういった張りつめた空気は実に久しぶりだったが、やはり日常とは尊いものである


たまにはこうやって思い切り羽を伸ばすのも必要な事だろう


この状態が一体どれだけ続くのかは判断できないが、少なくとも


「ぷは・・・あれ?今鏡花ちゃん来てた?」


そうこうしているうちに索敵をしていた明利が水中から戻ってくる、静希はとりあえず水上バイクの上に引きあげたうえでタオルでその体を拭いてやることにした


「あぁ、今は北の区画分け作業を始めてるよ、早めに終わらせるってやる気出してるぞ」


「へぇ・・・鏡花ちゃんがやる気出してるって珍しいね」


「・・・それはどうかと・・・まぁそれもそうか・・・」


鏡花は普段かなり文句を言いながら仕事をしている節がある、彼女自身運がないのかそれともただ単に文句を言うのが癖になっているのかは知らないが、あまり喜んで仕事をしているというのは見たことがない


今回のように目の前にご褒美というか報酬があればやる気も出せるのだろうが、普段のように面倒事を片付けるだけではやる気も出ないのだろう


そう言う意味では今回はやる気をあげるだけの材料があるだけましというものだろうか


「この辺りはいろいろ遊べそうだしな、今日明日と天気もよさそうだし」


「うん、私水上スキーやってみたいな」


水上スキー、水上バイクの後ろで板に乗って滑るスポーツだ、明利がそう言う類のものをやりたがるのは珍しい


昨日今日と水上バイクの上に乗っていたのでやりたくなったのだろうか、できるかどうかはさておきチャレンジするのはよいことである


明利の運動神経からして水上スキーというより水上で引きずり回されているような図しか想像できないが、そのあたりはウンディーネに何とかしてもらうしかないだろう


さすがに水上バイクの全速力で引きずられては怪我をしかねない


「後は釣りとかができるらしいな、俺釣りってほとんどやったことないけど」


「虫取りとかはよくやってたけどね・・・あれって本当に釣れるのか不安で」


「今回みたいな索敵をあらかじめやっておけば入れ食いなんじゃないか?」


どこに魚がいるのかわからなければ釣りも退屈なものかもしれないが、明利の索敵があればどの場所に魚がいるのかなどはすぐにわかるだろう


そうなれば魚がいる場所に釣り糸を垂らせばいいだけのことである


こういった場所の魚は釣りに対して慣れている節があるかもしれないが、明利の能力があれば鬼に金棒というものである


実際に釣れるかどうかはやってみないとわからないが
















「ふむふむ、なかなか良い買い物をしたのう」


静希達がひと段落して活動を再開している頃、雪奈たちは浴衣も買い終えて近くの喫茶店で軽くのんびりしているところだった


浴衣をすぐにでも着たいという気持ちはあるようだったが、エドは明日でないと都合がつかないらしい、今日は浴衣を買うにとどめるつもりだった


「ありがとうございますミスミヤマ、ボスにも自慢できます」


「明日が楽しみです、晴れ姿を披露できます」


「ハッハッハ、まぁお礼は静に言ってあげたほうがいいと思うけどね、明日が楽しみだ」


明日はエドと一緒に夏祭りを堪能することにするとして、もし時間があえば静希達とも一緒に回ってみたいところである


もっとも静希達は疲れているだろうからあまり無理に連れまわすのも少々気が引ける


「シズキ達は今どうしているんだ?まだ仕事中か?」


「さっき電話した時ひと段落したって言ってたし、声も優しい感じだったから一応仕事は片付いたんじゃないかな」


先程電話した時の静希の声と言葉を聞いた限り、とりあえず状況はほぼ終了したような感じだった


もっとも雪奈が聞いた限りのあくまで感覚的なものであり実際にどうなっているかは知る由もない


「だが大丈夫だろうか、シズキの向かうところにはいろいろ面倒が付きまとうが」


「大丈夫だよ、静なら味方に向けて援護射撃するような真似はしないから、少なくとも身近にいる協力員から撃たれるようなこともないだろうしね」


味方に対して援護射撃、雪奈なりのジョークなのかそれとも皮肉なのか、カレンは判断しかねていた


援護射撃を味方に対して行うはずがない、要するに意図的に誤射するような真似は静希はしないと言いたいのだろう、むやみやたらと敵は作らない、味方を傷つけるような真似はしない、そういう事だろう


銃を使わない雪奈が射撃の皮肉を言うなんて幼馴染くらいにしか通用しないギャグのつもりだったのだろうが、生憎彼女たちには通じなかったようで雪奈は少しだけしょんぼりしていた


「確か今回は湖に行っているんだったか?そのあたりの相手となるとやりにくいんじゃないだろうか?」


「たぶんね、まぁ水着も持って行ったしアンネもついてるし大丈夫だと思うけど」


以前も紹介したと思うがアンネというのはウンディーネの愛称のことだ、雪奈くらいしか使う人間がいないためつい忘れがちだがしっかりあだ名をつけているのである


メフィはそのまま、邪薙はわんちゃん神様、オルビアはちゃん付け、フィアもそのままでウンディーネはアンネと呼ぶ、それが雪奈の人外に対しての呼称だ


アンネと呼ぶと一体誰のことを言っているのかわからなくなるあたりその呼称が広まっていないのが少し悲しいところである


静希達は水上では満足に活動できないことは雪奈も知っている、というか雪奈自身水上での活動が得意なわけではない


身体能力を極限まで高めれば水上歩行くらいならできるが、それも自由に動けるレベルではない、どちらかというと歩くというよりは水切石のように跳ねると言ったほうが正しいだろう


高速で移動して強引に水の上を移動すると表現したほうが正確だ、自由に動き回れるとはお世辞にも言えないのだ


そのあたりは似なくてもいいところが似てしまったなと雪奈は少しため息をついていた


「ですがミスターイガラシが何やら新装備を持っていたようですが、あれは今回のために作った装備ではないでしょうか?」


「装備?あぁそう言えば装甲を作ったって言ってたなぁ」


「はい、左腕に付ける追加装甲を持っていました、かっこよかったです」


実際にそれを付けたアイナとレイシャはあの装甲を思い出していた


自分達では装備することはできないだろうが静希は軽々と装備していた、元より静希の左腕が少々特殊な事情であることは知っているが、それでも体幹の強さというのは彼女たちにはまだない力の一つだ


なんにせよあのような一点物の装備を持つのは彼女たちにとって夢でもある


「まぁ静が装備を一つ付けたところでたぶん付け焼刃程度だと思うけど・・・ないよりはましかな」


あの装甲を作ったのが鏡花であるならきっと何かしらのギミックが仕込まれていると思っていいだろう、何もないただの装甲よりは確実に役に立つ代物だ


どうせならこれからもっと後付けの装甲や装備を増やしていけばもっと多彩な行動ができるのではないかと思えるが、その分静希の左腕が重くなっていくのだ、あまり推奨はできないかもしれない


「そのうちアイナちゃんやレイシャちゃんにもちゃんとした装備を作ってあげないとね、何がいいかな?」


「私は全身を覆えるスーツなどがいいです!」


「私は蹴りを強くできるシューズがいいです!」


アイナとレイシャはそれぞれ意見を出すが、片方は実現がなかなか難しいものだ


鏡花に頼めばすぐにできるだろうが、レイシャの注文にある威力を高めるシューズなどはなかなか難しい


ただ単に靴底に鉄板を入れた安全靴のようなものであればできるだろうがそう言う意味ではないだろう


某小学生のような探偵が使っているキック力増強シューズがあればそれでいいのだろうが、鏡花が作れるかどうかは正直微妙なところである














場所は再び静希達のいる湖のほとり


数時間かけて北側の索敵も終わらせた静希達はひとまず報告のために城島のもとを訪れていた


現在奇形種らしき影は確認できず、つまりはこの湖にはこれ以上奇形種はいないという事になる


現在時刻は十八時三十分、夏場であってもこの時間であるともうすでに日は落ちかけ、周囲も暗くなり始めている


二日目終了の時点で目標はすべて完了、静希達が行ってきた実習の中でもなかなかの遂行時間だ、これほどの早さは数えるほどしか記憶にない


三日目に至る前にやることがなくなるというのはさすがに静希達の記憶に数えるほどしかない、ただの奇形種相手なら苦戦もしなくなったという事だろうか


「さて・・・ひとまず今回の内容に関して、お前たち自身の意見を聞こうか」


早く終わったとはいえその内容は満点とはとても言えないものである、特に奇形種と接触した後の対応に関しては少々お粗末だったところもあるのだ


もっと言えば接触した後の笠間達への対処法を間違えたというべきだろう


「全体的に行動自体は悪くなかったと思います、途中からは効率よく索敵もできましたし」


「その結果約一名が負傷か、まぁ確かにその負傷者ももう完治している・・・成果としては十分だろうな」


今回の実習で怪我をしたのは静希だけだ、その静希もすでに左腕の効果によって傷は完全に治ってしまっている


こちらの被害はほぼゼロで目標を無力化できたのだ、成果としては確かに十分だろう


だが城島にとっては、いや静希達にとってもこの成果よりも重要なことがあるのだ


「本来ならゼロにできたはずの負傷者ですから、そう言う意味では詰めが甘かったのは否定しきれません・・・少し笠間さんたちに圧力をかけすぎたかもしれません」


「確かに、あの手のやからは抑え込もうとすれば当然反発するからな、そのあたりは対応がずさんだったのも否定しきれん・・・あるいはもっと強く押さえつけるべきだったかもしれんな」


以前話した時に言っていたように部屋に閉じ込めておけば何の被害もなく目標を討伐できたかもしれない


後々文句を言われようと安全に、なおかつ笠間達を守るためにはそれが最善手だったのだ、そう言う意味ではその手段を取らなかった静希達の落ち度もあるかもしれない


もっとも閉じ込めたところで部屋から脱出した可能性がないわけではないが


「まぁ奇形種に対しての戦い方に関してはほぼ満点と言えるだろう、相手の能力の把握、対策、実行、どれも十分すぎる速さだった、そのあたりはさすがというところか」


「ありがとうございます・・・そのあたりはもう慣れてますから・・・」


実際静希達は奇形種の相手はもはや慣れっこだ、相手がどのような能力を有しているか、そしてどのような行動をとるか、おおよそ予測できるのである


相手が能力者であるなら予測も外すことがあるかもしれないが、奇形種はあくまで能力を有した動物の強化版のようなものだ、どんなに能力の適性が上がっても基本的に動物であることに変わりはない


つまりそこにあるのは戦闘か逃走のどちらかに二極するのである


相手がどれくらいいるのか、自分に勝てる相手かどうか、相手がどう動くのか


動物はそんな戦略的なことは考えていない、せいぜい自分と目の前にいる生き物がどのような関係であるか程度しか把握できていないのだ


だからこそ多人数で一気に仕留めに行ったほうが楽に倒せる、無論視界外からの一撃で仕留めるに越したことはない、その方が確実だし何より静希の姉貴分である雪奈が得意としている戦術でもある


だが今回は水中にいる敵が相手というのもあって不意打ちはほぼ不可能に近かった、それに笠間達の邪魔もあって正面切っての戦闘になってしまった

反省するとしたらそのあたりだろうか


それ以外の行動は効率よく進められたと自負している、天候にも恵まれ、比較的作業しやすかったのも要因の一つだろう


「お前達は奇形種相手なら問題はないが、協力者に足手まといがいると多少厄介なことになる部類なようだな、そのあたりは今後の課題か」


「そうですね、もう少しうまく協力者と行動できればいいんですが・・・そのあたりはどうしても・・・」


協力するのが軍人などであるならば最低限チームワークを発揮することもできるのだが、生憎今回の協力者は研究者だった


協力者とは名ばかりで実際は足を引っ張ってばかりだったのは言うまでもないが、それも仕方のないことである


無能力者が能力者の足を引っ張るのはよくあることだ、特にこういった戦闘もあるような現場では


「今回はそんなところか、今までに比べると刺激の少ない実習だっただろうがまぁたまにはこういうのもいいだろう」


「んじゃ先生!明日は俺たち遊んでいいってことっすよね?」


城島の総評を終えると、今まではなすのを我慢していた陽太が挙手しながら満面の笑みを向ける


それが確認したくてしょうがなかったのだろう、遊びたいのはわかるのだが何もそこまで生き生きとしなくてもいいのではないかと思えてならない


「あぁ、明日の十四時までは好きにしろ、十五時には学校の方に戻るからな、それさえ気を付けていれば問題ない」


城島の言葉に陽太はガッツポーズする、今まで面倒な実習ばかりだったが今回ばかりは役得がありそうだと心から歓喜しているようだった


だが陽太の気持ちも分かるだけに静希達も注意することもなく苦笑するしかなかった







城島への報告もそこそこに、静希達は自分たちに宛がわれた部屋へと戻り羽を伸ばしていた


ようやく実習も終わり、明日は初めて自由時間を与えられることになる、こういうことははじめてなだけに少し楽しみだった


今まで基本的に実習中はとにかく気を張っていることが多かったためにこうやってのんびりできる二日目の夜というのは実に久しぶりだった


「いやぁ、明日は何するか」


「って言っても湖を使った物はほとんど休止中だけどね、あとは自分たちでやるくらいしかないんじゃない?」


「別に良くないか?俺水上バイクとか乗ってみたいな、あとは水上スキーとか釣りとか」


「午後までの少しの間だからあんまりはできないでしょうけどね」


十五時にはここを出発することを考えると時間的猶予はあまりないとはいえ、十分活動できるだけの時間はある


さすがに動き続けなければいけないという事はないために精神的にも余裕がある、すぐに家に帰ってもいいし笠間達の生態調査は明日まで続けるためそれに同行してもいい、どうするかは静希達の自由だ


なにせすでに目標は排除した、この湖には今奇形種はいない状態だ、区画分けの網なども撤去し完全な安全状態にある、今さら守る必要などないというのもある


だが一応万が一という事もある、もしいきなり地震などが起きて船が転覆でもしたら一大事だ、そう言う場合は静希達が対応しなければならないだろう

そう考えると笠間達が引き上げるまではしっかりとこの場には残っていなければいけない


「明利は?なんかやりたいことないの?」


「んと・・・水上スキーをやってみたいなって」


「・・・へぇ・・・引きずられなきゃいいけど・・・」


鏡花も静希と同様の心配をしているようだ。水の上でまともに立てずにそのまま水上バイクに引きずられていく姿を想像したのだろう


確かに明利が華麗に水の上を滑走していく姿というのはイメージしにくい、どんくさいとまではいわないが明利は運動が苦手な部類なのだ、この反応も仕方がないというものである


「私はとにかくのんびりしたいわ、釣りとは言わないけど、ただボーっとしてたいかも」


「あー・・・確かに鏡花は今回も忙しかったしな、少しは休んだ方がいいかもな」


鏡花は確かに今回も非常に忙しくあちこちを移動していた、区画分けをするためにとにかく連続で広範囲に能力を使用し続けていたのだ、その負担はかなり大きかっただろう


多少休むのも必要だ


「どっかその辺で浮き輪とか売ってたらぷかぷか浮いてるのもいいかもね・・・そこまで水綺麗じゃないけど」


「それなら陽太と一緒にいろいろまわってたほうがいいんじゃないか?その方が有意義だろ」


「いやそうなんだけどね・・・陽太はなんか遊びまわりたいみたいよ?今回ほとんど動かなかったから多少フラストレーションがたまってるんじゃない?」


鏡花の言う通り陽太はしきりに体を動かしたいような動きをしていた


確かに陽太は今回ほとんど活動していない、最後の最後に戦闘があったくらいでそれ以外はほとんど何もしていないに等しいのだ


こうなってくると前衛としては動き足りないという思いもあるのだろう、どうせならもっと活躍したいと思っていただけに今回は物足りなさを感じているのだろう


分からなくもないが実習の後なのだから少し休めばいいのにと思ってしまうのも事実である


「まぁ無理にそうしろとは言わないけど・・・わかった、明日水上バイクの乗り方とか教えてやるよ」


「おう、任せた、そしたら俺が明利を引きずってやるよ」


「・・・え?引きずる?」


きっと水上スキーのことを言っているのだろうが、引きずるという言葉を使うと途端に物々しくなるのは気のせいだろうか


明利も陽太が運転する水上バイクの後ろで水上スキーを楽しめる自信はなかった、こういうのはプロに任せて少しずつ慣れていくものではないのだろうかと思えてしまうのだ


だが当然のようにこの辺りのそう言う施設などは今休止している、なにせ実習のためにこの三日間はどの施設もほぼ休みの状態だ


食堂など陸地であればそれなりにやっているところもあるが、湖を利用したものはほとんどが店を閉めているのだ、当然のようにプロにそんなことを頼めるはずもない


そうなってくると後は自分たちでやるほかないのだ


「え、えっと・・・それなら私はちょっと遠慮しておこうかな・・・って・・・」


「あ?心配すんなって明利、ちゃんと引きずってやるから、お前は立つことだけ考えてりゃいいよ」


「で・・・でも・・・その・・・」


明利は必死に静希の方に助けを求めているが、静希自身どうしたものかと悩んでしまっていた


明利がせっかくやりたいと言っていた水上スキー、やらせてやりたいのは事実だ


だが陽太に任せるとまず間違いなく明利は文字通り引きずられることになるだろう、腹を打ちながら水面を滑っていく明利が容易に想像できる


さすがに危険だなと思い静希は助け舟を出すことにした


陽太のことだ、全速力を出してそのまま転覆しかねない、そんな危ない運転の後ろに明利を付けるわけにはいかないのだ


例えウンディーネの守りを付けるとはいえ本当に引きずるようなことになってはならないのである










「さぁ諸君!今日は初夏祭りだ!準備はいいかね!?」


「アイアイマム!」


「後は着替えれば準備完了です!」


翌日の朝、朝食を食べ終えた雪奈たちはそれぞれ準備をして静希の家のリビングに集まっていた


アイナとレイシャは敬礼をして昨日買ってもらった浴衣を手にしている、あとは着替えればいいだけというが実際これだけ早く行っても店はほとんどやっていないだろう


出店が本格的に稼働し始めるのは早くても昼過ぎ、遅ければ夕方頃からになる


日曜日の祭りという事もあって昼頃から動き出すだろうが、それにしたって今はまだ九時過ぎだ、動くには早すぎる


だがそれを理解してもなお止められないほどにアイナとレイシャは楽しみにしているのだ、これも仕方がないことだろう


「ちなみにエドモンドさんは何時頃ここに到着するの?」


「昼頃にやってくるらしい、その時にでかければ丁度一緒に行けるだろうな、それまでに着替えを済ませておけばいい」


「というわけだ、まだまだ時間に余裕はある、今のうちになにがやりたいかをリストアップしておくのだ!」


「「アイアイマム!」」


そんなこんなをしていると東雲姉妹が玄関からやってくる、その手に持ってきたのは一枚の浴衣だ


大きさ的には雪奈と同じくらいだろうか、さわやかな青色をしている綺麗な浴衣である


「深山さん、見つけてきました」


「これで大丈夫ですか?」


「おぉいい感じいい感じ、じゃあそれをカレンさんに着せちゃって」


「え?」


唐突な申し出にカレンは完全に不意を打たれたのか、まったく反応できていなかった


東雲姉妹に抱き着かれるように羽交い絞めにされたカレンは衣服をはぎ取られ徐々に浴衣を着せられていく


「んー・・・ちょっと布が余っちゃいますけど・・・」


「足りないよりはいいさ、もし余ったのなら動きやすいように改造しちゃっていいよ」


「わかりました、動かないでくださいね」


「ま、待て、待ってくれ、ミヤマ!これは君の浴衣ではないのか?」


カレンが着せられようとしている浴衣は彼女の言う通り雪奈の浴衣だ、雪奈の部屋の中にある浴衣の中で少しだけ小さいものを見繕ってもらったのである


そしてそれをカレンに着せようと思っていたのだ、雪奈とカレンの身長が近くて良かったと思うばかりである


「でもその浴衣もう小さくて着れないんだよね・・・だからあげるよ、これの記念にさ」


小さくなったというのは身長的な意味もそうだが胸囲的な意味も含まれる、雪奈の胸はかなり大きい、昔の服が着れなくなった理由の六割以上が胸の大きさの変化によるものだ


どこかの小さな幼馴染が聞いたら落涙するだろうなと思いながら雪奈は笑っている


「誰にも着られないよりは誰かに着られた方がいいでしょ、その方が服も喜ぶよ」


「そ・・・そうかもしれないが・・・良いのか?」


「いいのいいの、それに似合ってるし」


軽く着つけられたカレンはその体を自分で見ようとしているのだがやはり鏡がなくてはよくわからないのかばつが悪そうにしながらあちこちおかしいところがないか確認しようとしていた


「おぉ、ミスアイギス、とてもお似合いです」


「綺麗です、鏡どうぞ」


アイナとレイシャがカレンに鏡を見せてやるとカレンはそれを見ながら頬を赤く染め少し恥ずかしそうにしていた


こういう服を着るのは初めてだったのだろう、嬉しくもあり恥ずかしくもあるようだった


「後はそうだね、みんな和風テイストに髪型も変えてみようか、こういう時にはこういう時なりの髪形もあるしね」


幸いにしてここは静希の家、変装のための道具ならいくつかある、しかも髪型を変えるためのものも存在しており以前何度か遊びで使ったこともあるのだ


雪奈は静希の部屋を漁ってヘアセット用の道具を持ってくるとカレンを座らせて髪をいじり始める


「うわぁ、髪柔らかい、いいなぁこういう髪、私のは妙に跳ねるからなぁ・・・」


「ミスミヤマの髪も可愛らしいですよ?とってもお似合いです」


「くせっ毛みたいで可愛いですよ?とってもお似合いです」


外に跳ねているという事もあって髪のセットとしてはやりやすくもありやりにくくもあるのだが、そのあたりは静希に任せているために何とも言えない

もう少し髪に気を遣うべきだろうかと思うのだが、雪奈はそこまで髪に思い入れはないのだ


「ん・・・柔らかい髪だとやっぱ結んだ方がいいのかな?こう・・・?こうかな・・・?」


「あ、あまり変な風にはしないでくれよ?」


どうやらカレン自身もあまり髪には頓着がないのか、髪をいじられるという事が非常に落ち着かない様子だった


こういう状態のカレンを見るのは初めてなのか、アイナとレイシャもああだこうだと横から意見を飛ばしていく


エドが来るまでの間こうして着替えたり髪型を変えたりとしながら女の子たちで騒いでいたのは言うまでもないことである



「おぉぉぉ・・・こいつはまた・・・すごい光景だね」


エドが仕事を片付けて静希の家にやってくると、家の中は和服一色の状態になっていた


全員が浴衣を着てすでにいつでも夏祭りに行けるだけの準備を整えているようだった、髪型もその為に変えているために一瞬彼女たちが誰なのかわからなかったほどである


「こういう時に褒めるのはどういえば正しいのかな・・・馬子にも衣裳だっけ?」


「それだとちょっと皮肉っぽいよ、こういう時は普通に可愛いとかきれいでいいんじゃない?」


雪奈の指摘にそれもそうだねとエドはそれぞれ初めて浴衣に身を包んだ女性陣を見てほめたたえる


「いやぁ、アイナもレイシャも、そしてカレンも似合ってるよ、いやぁ美人さんに囲まれるってのはいいものだねぇ・・・」


「あぁそうだ、風香ちゃんと優花ちゃんは初めましてかな?こちらエドモンド・パークスさん、アイナちゃんとレイシャちゃんの保護者の人だよ、エドモンドさんや、こっちがアイナちゃんとレイシャちゃんの同級生の東雲風香&優花ちゃん」


エドと初めて会った東雲姉妹に説明するべく雪奈が間に入ってそれぞれ挨拶をさせることにした


エドは普通に身長も高く、外国人という事で多少プレッシャーを放ちかねない、日本語が達者になっているとはいえ小学生にとってはかなり特殊な人種であることは間違いないのだ


「は、初めまして、東雲風香です」


「は、初めまして、東雲優花です」


「おぉ初めまして、エドモンド・パークスだよ、いつもアイナとレイシャが世話になっているね、これからも仲良くしてあげてくれるとうれしいよ」


そう言って二人の頭を撫でると、その手の大きさを実感できたのか、東雲姉妹はおぉと小さく感動しているようだった


恐らく今まで出会った人の中で一二を争うほどの大きさだったのだろう、エドはそれなりに背も高いために子供相手に接することができるかと雪奈は少し心配だったのだが、そのあたりはアイナとレイシャで慣れているのだろう、さすがの大人な対応だった


「ミスミヤマもよく似合っているよ、さすがは日本人というべきかな?」


「ふふん、まぁ一番慣れてるしね、ただちょっとまたサイズがきつくなったかな・・・」


鏡花ちゃんに調整してもらわないとなと雪奈がぼやいているとアイナとレイシャが雪奈の胸にある脂肪を注視して自分のそれと比べ始める


自分達もいつかはあんなふうになるのだろうかという淡い期待を込めながら、雪奈のそれを眺めて祈るようにこうべを垂れていた


「それでその祭りっていうのはどこでやるんだい?」


「電車で少し行ったところだよ、何回かいったことあるから案内するね」


さぁ行くぞと移動し始めるのはいいのだが、今彼女たちが履いているのは女性用の下駄だ、普段と違い歩きにくさもあるだろう


優花が適度に直して歩きやすいようにしているが鏡花程繊細な変換はできないのか苦労しているようだった


こういうところで変換能力者がいると便利ではあるのだが、やはりエルフの能力だと大雑把になってしまうのだろうかと少し残念だった


「あの、深山さん・・・エドモンドさんもエルフなんですか?」


「ん?・・・あー・・・いやそう言うわけじゃないんだけどね・・・」


風香の質問に雪奈はどう答えたものかと困ってしまっていた


恐らくエドから放たれる人外の気配を察知したからこそこう聞いてきたのだろう、実際はエドはエルフではなく悪魔の契約者なのだが、それは教えない方がいい


どう誤魔化すべきかと思ったときに下駄を直してもらっているカレンが目に入る


「カレンさんがエルフでしょ?その関係でエドモンドさんも精霊さんを入れてもらってるみたいだよ?詳しくは私も知らないけど」


「へぇ・・・そうなんですか・・・すごいですね・・・」


エルフ以外の人間が人外を引き連れているというのは初めて出会ったと思っているのか、風香は目を輝かせている


実際は彼女たちが尊敬する静希が人外をかなりの数引き連れているのだが、これも教えない方がいいだろう


なにせ静希が連れている人外は良くも悪くも規格外なものが多い、エドもカレンもそうなのだが静希の場合はその数が半端ではないのだ


一家に一人人外なんてレベルではなく、一人で五人の人外を許容しているのである


悪魔、神格、霊装、使い魔、精霊、あげればエルフだったらめまいを起こすのではないかと思えるほど危険な存在も中にはある


この事は伝えない方がいいだろうなという良心が一応雪奈の中にも存在した


「ところでシズキ達はどうしてるんだい?もう実習は終わったのかな?」


「さっき連絡して見たら今はのんびりしてるみたい、二日目の時点で実習は終わって、みんなで遊んだりしてるって言ってたよ、こっちに帰ってくるのは多分十八時くらいになるんじゃないかな」


雪奈の言葉に日本の学生は大変だねぇとエドは他人事のように笑っている


実際雪奈が電話した時には静希達はそれぞれ遊んでいた、近くで笠間達が生態調査を行っていたのでその監視と護衛を含めていろいろやっていたのだ


水上バイクで水面を走ったり釣りをしたりと、いろいろなことをして夏にしか味わえないだろう水との楽しみ方をしていたのである


その途中で静希がいろいろ被害に遭っていたのはまた別の話である












「もう船には絶対乗らねえからな」


「あはは・・・まぁまぁ・・・」


「そんなに気にすることねえじゃんか、なぁ?」


「・・・あれはちょっとかわいそうだと思うけどね」


笠間達が生態調査を終わらせて帰ると同時に、静希達も湖から引き上げることになる


その中で楽しく遊んでいたはずの静希だけが酷い顔をしていた


何があったのかだけを端的に語れば何のことはない、静希が笠間達の乗る船の近くで護衛兼釣りを楽しむためにのんびりと湖の平和な時間を楽しんでいた時、陽太が操作を誤って突っ込んできたのである


何とか笠間達の船には直撃させないようにしたのだが、乗っていた水上ボートは半壊、静希は半壊した水上ボートと共に湖底へ沈んでいったのだ


実習もほぼ終わったと思っていただけに気が抜けていた人外たちも反応が遅れ、静希が助け出されたのは静希の息が切れて意識が喪失するギリギリだった


半壊した船は鏡花が直し、運よく燃料漏れなどもしていなかったのだが、まさか実習が片付いた後でこんなことが待っているとは思っていなかっただけに静希は船に対する不信感を強めていた


「悪かったって、俺もちょっと調子乗ってたんだよ、今度なんか奢るからさ」


「はっ!どうせ次に同じようなことがあったら忘れるんだろうが、もう二度と俺は船には乗らねえ、これは絶対だ、今回の件でよーく分かった、水難の相を持ってるのは間違いなく俺だ」


静希は水と相性が悪い、というより船と相性が悪い気がしてならない


静希が船に乗ると必ず面倒が起きる、これは確実なものとなりそうだった


その現場を見ているだけに明利と鏡花はそれを否定しきれないのだ


ただの偶然にしては出来過ぎているとしか思えないほどの出来事だったのだ


陽太が静希達のいる場所に近づきすぎないようにカーブしようとした瞬間、操作を誤ったのか陽太は水の中へ投げ出され、そのカーブを曲がり切れずに水上ボートは水の上を暴走しながら静希の下へと一直線に吹っ飛んできたのだ


本当に、被害にあったのが静希でなければ完全に死人が出るほどの内容だった、そう言う意味では不幸中の幸いと言えるだろう


「まぁ確かに静希は船には乗らない方がいいわね・・・たぶん前世でなんかやらかしたのよ、船に呪われてるとかそう言う感じじゃない?」


「俺は前世とかそう言うのは信じてないんだけどな・・・まぁそう言うのも今さらか」


悪魔も神様も精霊もいるような世界で今さら前世の有無を語ったところでさしたる意味もないと自覚しているのか、静希は大きくため息をついていた


一度目の船に乗った時は遭難し、二度目に船に乗った時は爆破され、三度目は友人に事故を起こされる


これはもはや何かがあるとかそう言うレベルではない、圧倒的な何かが静希に対して悪意を向けているとしか思えないのである


「先生、そう言う事ってあると思います?特定の事だけ凄い不運な人」


「ん・・・あり得なくはない・・・というか私の身近にもいたな、そいつが乗る飛行機は大概落ちた」


「・・・それって大惨事なんじゃ・・・」


「私や他の能力者がいたからそこまで大事にはならないことが多かったがな・・・少なくともあいつと一緒に乗った飛行機の内、五回中四回墜落、一回は整備不良で空港に戻った」


その言葉に全員が静希の方を見る


少なくとも静希は飛行機に乗っても問題はない、船に乗った時は必ず何かしらの不幸が降りかかるが、害があるものもあればそうではないものもある


「ちなみにその人は今何してるんですか?」


「もう飛行機に乗りたくないと上司に頼み込んでな、同僚や部下からの直訴もあって事務職に移ったよ」


まだ船であれば助かりようがあるかもしれないが、飛行機となると助かる可能性はかなり低くなる


それこそ城島の能力のような重力操作などがない限り高高度からの落下はほぼ間違いなく死が待っているだろう


それに巻き込まれる同僚や上司、そして部下もたまったものではなかっただろう、ただの偶然だと思いたいのだが、その人物だけがそれを引き起こしている原因であるとするなら捨て置けない


ただの偶然で片付けるにはあまりにも重たい五回だ


「それに比べれば静希の船はまだましな方ね、飛行機だったらさすがにシャレにならないもの」


「そうだな、プラス思考でいこうぜ、手漕ぎボートとかで試してみろって」


「きっとそうなったら鳥の糞とかが落ちてくるな、間違いない」


「だ・・・大丈夫だよ・・・たぶん・・・」


静希がだいぶやさぐれた表情をする中で、城島がため息をつきながら静希の方を見て薄く笑う


「だが五十嵐、お前はまだまだ船に関わることになるぞ、お前が望む望まないにかかわらずな」


「・・・ちなみに聞いておきますけど・・・その根拠は?」


「私の勘だ」



そんなもので未来を語られても何の根拠もないだろう


だが城島の勘というと、なんだか当たる気がする、さらに言えば静希の勘もこういっているのだ


まだ自分は船に関わるだろうと


本気投稿プラス誤字報告を十件分受けたので3.5回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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