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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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水にまつわる

「「「「いただきまーす」」」」


そのころ一方、静希の家ではアイナたちがカレンの作った夕食を食べていた


静希達が行動しているとはつゆ知らず、楽しくお泊り会をしている真っ最中である


「へぇ、カレンさんはドイツの方なんですか」


「あぁ、今はこの二人の保護者のエドという男の下で働いている、なかなか忙しい身だが、それなりに楽しませてもらっているよ」


「ドイツっていうとバームクーヘンでしょうか?やっぱりおいしいんですか?」


「ん・・・どうだろうか・・・日本人向けの味付けなら日本のものの方が美味しいと思うぞ」


同じエルフという事もあってか、彼女たちはすぐに打ち解けていた


やはり人種が違えどエルフはエルフという事だろう


「そう言えばアイナちゃんとレイシャちゃんはどちらの国出身なんですか?」


「そう言えば聞いたことないです」


東雲姉妹の言葉にアイナとレイシャは顔を見合わせてしまう


どこの国の人間か、そう言われると二人としても言葉に困る


現在国籍はエドと同じイギリスで統一しているが彼女たちの出身は彼女たち自身知らないのだ


正確に言えばどのあたりの国なのかもわかっていない、なにせエドに保護されるまで彼女たちは文字の読み書きもできないような環境にいたのだ


自分達がどの国にいるのかなど知る由もなかった、そしてエド自身彼女たちがどの国出身なのかを教えていなかったのだ


「いろんなところを転々としてきたので、どの国かと言われても・・・」


「一応国籍はイギリスのものですが、出身といわれると」


アイナとレイシャと同じくカレンもこの二人の出身国は知らない、髪や肌の色から察するに中東、あるいはアフリカなどの地域だろうかと予想するのだが細かいところまではわからない


褐色の肌に黒い髪、それしか手がかりがないのではあとはエドに聞くしかないのである


「へぇ、今までどんな国に行ったことがありますか?」


「日本以外の国って想像できないです」


東雲姉妹からすれば海外に住んでいたというだけで興味津々なのか、それぞれに話を振っていた、実際アイナとレイシャ、そしてカレンは今までたくさんの国に行ったことがある


それこそ片手では数えられないほどの国で活動してきた、エドの仕事柄いろんな国に運ぶものがあったため空路陸路海路、どのような手段でも移動してきたのである


「ヨーロッパ圏内は大体足を運んだと思います、スイスにフランス、イタリアドイツチェコポーランド・・・あとは・・・」


「アジア圏もかなり行きました、ヨーロッパに比べると少ないですが・・・」


エドの活動圏は主にヨーロッパ、そしてアジアが少しにアメリカ諸国が時々あるかないか程度である


この歳でそれだけいろんな国の生活や人々を見ているアイナとレイシャ、それこそ勉強だけではわからないような経験をかなり積んでいるのだ


国による先入観を持たない小学生というのはかなり珍しいが、彼女たちならではの特殊性と言えるだろう


「カレンさんもたくさんの国に行ったんですか?」


「私も同じようなものだ、エドの下で働くようになったのはアイナとレイシャよりは遅いがな」


「へぇ、じゃあアイナちゃんとレイシャちゃんはカレンさんの先輩なんですね」


カレンの先輩という言葉にアイナとレイシャは得意げに胸を張る


確かにアイナとレイシャの方がカレンよりもエドと一緒に過ごした時間は長い、子供ながらに優越感のようなものを持っているのだろう、まだまだ幼いなと思いながらカレンは薄く笑っている


「そう言えばそのエドさんにはあったことがありませんが、どんな方なんですか?」


「話は聞いたことがありますけど・・・想像できないです」


アイナやレイシャからある程度の人物像は聞いているのだろうが、実際にどんな人物なのかは知らない二人からすれば全くの謎の人物である


アイナとレイシャからボスと慕われ、カレンというエルフを部下にして世界中飛び回っている、さらに言えば少し私生活がだらしなく、放っておけない人物であるという事を聞いている


彼女たちの中ではサングラスをかけてアロハシャツを着た人物が浮かんでいるが、実際はそんな人間ではない


「エドは輸送業をやっていてな、夢見がちなところはあるが案外堅実な男だ、もともと研究者だったからだろう、頭はいい方だな」


「ほう・・・」


「研究者ですか」


東雲姉妹の中でエドのイメージが先程とは一転、白衣を着たインテリな男性に切り替わっていた


確かにそのイメージが一番正しいかもしれないが、エドはもう少し融通が利くタイプである


「あいつがどのような研究をしていたのかは知らないが、それなりに頑張っていたようだぞ?最も今はやめてしまったようだが」


「へぇ・・・一度会ってみたいです」


「今度会わせてください」


東雲姉妹の申し出にカレンは伝えておくよと好意的な反応を示した


子供としては働く大人には興味があるのだろう、こういうことに興味を持つのはいいことだと思いながらカレンたちは食事を続けていた







「それにしても二人ともすごいですね・・・」


「私達と同い年なのに世界中で活躍しているなんて」


食事を終え東雲姉妹とアイナとレイシャは一緒に風呂に入っていた


東雲姉妹が湯を浴びている間にアイナとレイシャは体を互いに洗っており、風呂場の中を観察しながら東雲姉妹は小さく息をついていた


自分達とは違う意味で特別な二人、本来ならばあり得ない、あり得てはいけないような経験をアイナとレイシャは積んでいる


そのことがうらやましくもあり、同時にそんな思いはしたくないとも感じていた


「私達は運が良かっただけです、ボスが拾ってくれなければこうして話すこともこの場にいる事もなかったでしょうから」


「他にも似た境遇の子供もたくさんいました・・・私たちは偶然今この場にいるのです、私達の力ではありません」


アイナとレイシャは、今自分がこうして平穏の中にいられることの意味を理解している


能力者が迫害される地域で生まれ育った彼女たちは、奴隷同然に扱われていた、それこそその日の食べ物すら困るような場所にいたのだ


そこから救い出してくれたのは他ならぬ彼女たちのボス、エドである


だからこそ彼女たちはエドに対する恩義を忘れないし、同時に力になりたいと思っているのだ、彼が掲げる理想を理解し、その達成を助ける力になれればと思うのだ


自分達が未熟だとわかって、迷惑をかけているという事を理解しているからこそ、今はその環境を受け入れ、その全てを力にしようと思っているのだ


「アイナちゃんとレイシャちゃんは留学が終わったらどうするんですか?」


「またお仕事に戻るんですか?それとも・・・学校に通ったりは・・・」


東雲姉妹の言葉にアイナとレイシャは一瞬遠い目をする、確かにそれも一つの手だ、勉学を学び、子供として必要なことを学ぶのもまた必要な事だろう


その為には学校という場に通うのは有効な手段でもある、だがアイナとレイシャはゆっくりと首を横に振る


「私達の意志でそれをするわけにはいきません」


「ボスの命令であればそうします、ですが私たち自身はボスの力になりたいのです」


彼女たちだって学校で得られるものが何もないというつもりはない、だが学校で得られるものよりも、エドたちについていき、日々経験し学ぶことの方が多く、そして重いのだと感じていた


七月から留学し、まだ少しの間しか学校というものを味わえていない、あと半分近く残っている留学で、エドたちについていく以上の何かを見つけない限り、アイナとレイシャの気持ちは変わらないだろう


学校に通い訓練を重ねるのか、エドたちについていき社会にもまれながら学び訓練するのか


恐らくどちらも間違いではない、間違いではないからこそエドは今回のような機会を作ったのだ


それをアイナとレイシャ自身に選ばせるために


エドが命じれば、きっとアイナとレイシャは学校に通う事もよしとするだろう、だがそれではだめなのだ、これから生きていくうえで誰かの命令だけを聞いて生きていくのではだめなのである


時には自分の意志を強く持ち、自分より上の立場の人間に逆らうことも必要なのだ


それを今回の留学で学んでほしい、エドはそう願っている節がある、それをアイナとレイシャは感じ取っていた


「学校の授業では退屈ですか?」


「・・・いいえ、学校はとても楽しいところです、近い年代の子供がいて、友達もできる、遊んだり楽しいこともたくさんあります」


「・・・それなら・・・このまま」


「・・・ですが、楽しいことを享受できるのは私達だけなのです、私達だけなんです・・・」


あの場ですくわれた自分たちだけ


アイナとレイシャはまだあの場所のことを思い出せる、自分たちがいたあの場所を


あの場から助け出されなかった人間は他にもいる、たくさんいる、その中で自分たちだけが助かった


それは運が良いとしか言いようがない、だがたとえそれが運だとしても、ただの偶然だったとしても、エドが自分たちを選んだのだ


エドの選択を間違いにしたくはない、エドが選んだ自分たちがなんでもないただの子供であるわけにはいかない


普通の道からは外れるだろう、だがそれでいいと思っていた


エドの役に立てるのなら、普通であることなど必要ない、自分たちは特別でいいのだ


「ですがこうして留学することができたのは、とてもうれしかったです」


「今までわからないことがたくさんわかりました、知れなかったこともたくさん知れました」


無駄ではなかった、決してこの留学は無駄ではなかった、とても有意義なことだった


アイナとレイシャは泡のついた顔のまま微笑む


「ミスシノノメ、私達が留学し終わった後でも、友達でいてくれますか?」


「私達がいなくなっても、また遊んでくれますか?」


アイナとレイシャの言葉に東雲姉妹は何度も頷く、自分たちが初めて本気で競い合った好敵手とでもいうべき特別な存在、静希とのつながりのある特別な同級生


仲良くしたいと思うのは自然なことだった


ありがとうございますと微笑み、互いに握手でも交わそうかという時、勢いよく風呂場の扉が開く


「みんなでお風呂なんてずるいよ!私も入る!」


唐突な雪奈の来訪によりこの空気も話も完全にぶち壊しになったのは言うまでもない、だがカレンの話によるとその後風呂場からは笑い声が絶えなかったという











「あー・・・つっかれた・・・」


場所は変わって静希達が宿泊するホテルの一室、湖南部の区画分けを終了し、食事の後入浴を終えた鏡花はベッドの上で寝そべっていた


結局作業を終えたのは二十時四十五分ごろ、ほとんどリミットいっぱいまで活動し続けたのだ


今は部屋で明利からマッサージを受けながらくつろいでいる最中である


「でもこれで明日は北側の区画整理するだけでしょ?南側は私達に任せてよ」


「んー・・・まぁねー・・・でも明日も大変よ?天気はいいみたいだけどさ・・・」


「うん、頑張るよ、早めに発見できればそれに越したことはないもんね」


索敵するには水に入って水中にいる微生物にマーキングしなければいけない、いくらウンディーネの力を借りているとはいえ明利の負担は相変わらず大きい


もう少しうまく能力を使えればいいのだろうが、今のところこれくらいしか思いつかないのが現状である


そんなことを話していると部屋の扉が軽くノックされた後、インターフォンがなる


きっと静希達だなと明利が扉を開けると、予想を裏切ることなくそこには静希達の姿があった


「おーっす、ミーティングしに来たぞ」


「ほい、自販機で飲み物買ってきた」


両手に飲み物を持ってやってきた静希と陽太を迎え入れ、奥に案内しても鏡花はだらけたままだった


かなり疲れたのだろう、しばらくはこの体勢から動くつもりはないようだった


「なんだ?随分とだらけてるな」


「当たり前でしょ、さっきまで働きづめだったんだから・・・ちょっとは休ませなさい」


事実鏡花は活動時間ぎりぎりまで動き続けたのだ、疲れていて当然である


この中で一番疲れていないのは陽太だろう、なにせほとんど何もしていないに等しいのだから


「ほれ陽太、女王様を癒して差し上げろ」


「あいあいさー、お客さん凝ってますねぇ」


「うぐ・・・もうちょっと優しくしなさいよ・・・!」


うつ伏せの状態になっている鏡花の上にまたがり、軽くマッサージを始める陽太、その様子をほほえましく眺めながら静希はミーティングを始めるべくこの周辺の地図を取り出していた


そして今日索敵が終了した区画に色を付け、鏡花が作った南側の区画を線で記していく


「明利、明日は南側から順に索敵をしていくぞ、いないことが確認でき次第次に移動していく」


「うん、目標らしき生物が確認できたら報告と退避だね、そこからは設置型の方に切り替えたほうがいいかな?」


「そうだな、今のところマーキングはどれくらい残ってる?やっぱ水で流れちゃってるか?」


明利が短い集中の後に小さくうなずく、湖が水の終着点でない以上、水は常に流れ続ける


明利は今回種をまくのではなく水に漂う微生物にマーキングをしている、広げるのが早い代わりにその分持続的な索敵ができないのが欠点だ


無論今回の場合はそれでいいのだ、いない場所を確定させていって少しずつ探していけばいいだけの話である


「目標を発見した後は鏡花に何重にも囲ってもらって一気に仕留める、その流れでいいだろうな、鏡花は明日は北側の区画分けだろ?」


「そのつもりよ・・・あの人たちの護衛役も務めなきゃいけないからあんまり効率よくいかないかもしれないけどね」


あぁそう言えばと静希や明利達は少しだけ嫌な顔をした


自分達だけの実習であるならどれだけ楽だっただろう、だが実際は今回他にも参加者がいる


笠間率いる研究者である、実際には一つの研究室が出向いているという方が正しいかもしれないが、はっきり言って現場に無能力者がいるというのは非常に面倒だ


「なぁ静希、あの人たちが面倒な行動をとった場合はどうするんだ?」


「その場合はご退場願う、少なくとも今回の実習では活動させない・・・まぁ怪我をさせないようにっていうのが先につくけどな」


相手が無能力者である以上手荒な真似をするわけにはいかない、だが危険な場所にいつまでもいさせるわけにはいかない


もし仮にあの三人が奇形種に対し何らかのアクションをとった場合、静希達は即刻あの三人を陸まで押し戻すつもりだった


メフィに頼むかウンディーネに頼むかはまだ決めていないが、少なくとも戦闘を行うかもしれないような場所にいつまでもいさせるわけにはいかないのである


「あんた今回妙に慎重になってるわね、やっぱ水辺にはトラウマがあるの?」


「当たり前だ、今までだって水場にいい思い出は無いだろ?」


静希のいう通り水場にはあまりいい思い出は無い、ザリガニ然り船然り、今までの活動内で水の近くにある地域でいい経験をしたことはないのだ


だからこそ今回もある、何か面倒なことがある


静希はそう思ったからこそ明利にウンディーネを宿らせた、可能なら鏡花にも誰かしらつけておきたいくらいだが、メフィは静希のいう事しか聞かないし邪薙は静希の防御の要だ、手放したくはない


「なんならお前にも誰かつけておくか?て言ってもフィアくらいしか貸してやれないけど」


「・・・ん・・・まぁあの子の力が借りたいのは事実ね、明日は頼むわ」


フィアの機動力があればかなり行動が楽になる、水上でもそれができるかは不明だがそこは自分がフォローすればいいと鏡花は思っていた


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿


ちょっと計算してみたんですが・・・もしかしたらまた投稿量増やすかも・・・諸事情がありまして・・・そのあたりちょっとまた活動報告にあげてあります、ご確認ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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