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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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実習の始まり

「ほほう・・・これがミスターイガラシの装甲ですか・・・」


「これは・・・格好いいです・・・!」


その日家に帰って明日の校外実習の最後の準備をしていると、アイナとレイシャが鏡花の作った装甲を見ながら目を輝かせていた


彼女たちはまだ自分の装備というものを持っていない、隣の芝生は青く見えるではないが、どうしてもこういうものにあこがれてしまうのだろう


静希の場合左腕限定の装甲だ、全身に鎧を付けようものなら満足に動けなくなる可能性がある


左腕だからこそ自由に動かせるが、実際の腕でこんなものを付けようものなら動きが遅くなるのは避けられないのだ


「あんまり触るなよ?一部刃になってるからな」


「ミスターイガラシ、これちょっとつけてみてもいいですか?」


「装着してみたいです」


静希の注意を聞いているんだかいないんだか、二人は目を輝かせて静希の方を見ている


さすがに断るのはかわいそうだろうかと静希は小さくため息をつく


「貸してみろ、ちょっと重いぞ?」


静希は二人から装甲を取り上げるとアイナの左腕に装着してやる、それなりに重さがあるからか、若干体が傾いているがアイナはそれでもポーズをとって見せる


「おぉう・・・これはなかなか・・・レイシャ、どうですか?」


「似合っていますよ、次は!次は私が!」


「はいはい、ちょっと待ってろ」


アイナがつけていた装甲を一度はずし今度はレイシャに付けてやる、彼女の方が少しだけ筋力があるからか、アイナよりしっかりとしたポーズをとれていた


それっぽい装備を身につけることができてうれしいのか、二人とも笑顔のまま装備を身に着けていたのが印象的である


「お前らももう少し成長したら、そういう自分の装備を作ってもいいかもな、それこそ一点物の」


「本当ですか?それは嬉しいです!」


「ならば早く成長しなければいけませんね!」


彼女たちの成長したいという気持ちはかなり強い、それは身体的な意味でも、精神的な意味でもそうだ


成長し、それぞれ力をつけていきたい、その過程が今この状況だ


アイナには瞬時に迷彩を発動できるような装備を、レイシャには少しでも身軽に、同時にしっかりと体を守ってくれるような装備を


成長するにあたってその能力や特性に応じて装備は変わる、静希がそうであるように彼女たちもそうなるだろう


今はほぼ素手同然だが、これから成長するにあたってそれぞれ特徴的な装備をするに違いない


「とりあえず俺が実習中は留守を任せる、できるな?」


「はい!お任せください!」


「もちろんです!しっかりお留守番します!」


アイナとレイシャは二人ともピシリと敬礼をして見せる、とりあえずしっかりと戸締りと火の元に気を付けてくれさえすれば静希はそれ以上は望まない


明日の午後からお泊り会をするらしいが、帰ってきてしっかり家がそこにあればそれで十分である


「ひとまず確認しておくぞ、気を付けることは何だ?」


「戸締りと火の元の確認です」


「両方しっかり締めておきます!」


この事だけ確認できていれば、後は雪奈やカレンが何とかするだろう、片方は正直あまり信用ならないが、カレンの方はしっかりアイナたちを注意してくれると思われる


エドから預かっている以上、この二人の生活はしっかりと支えてやらなければならない、実習に行くという事で少々保護下から外れてしまうのが心苦しいが、これも学生の定めというものだろう


「俺が帰ってくるのは日曜日の未明、それまでにやっておくことは?」


「たくさん遊んで楽しむこと!」


「ただしその代りしっかりお片付けすること!」


二人の言葉に静希はそれでよしと頷いて見せる


この二人がせっかくの学生生活を楽しめないのでは何の意味もない、せっかく東雲姉妹という友人ができたのだ、楽しまなければ損というものだ


「それじゃあ明日からは頼むぞ、お前達が一時的にこの家の主だ、しっかりこの家を守るように」


「「了解です!」」


「よし、それじゃ飯にするか、今日は俺が作るからあんまり期待するなよ?」


今日は明利がいないためにそこまで大したものは出せないが、静希だって料理ができないわけではないのだ


せめて栄養だけはしっかり摂らせなければならない、大事なのは何だったかなと思いながらとりあえず静希は肉と野菜をたくさん使った料理を作ることにした


こういう雑な考えをしてしまうあたり、やはり男子なのだなと明利に呆れられそうだが、今はこれでいいだろう


その夜静希が振る舞った料理は、彼女たちにはそこそこ好評だった、これを機に本格的に料理を勉強するのもいいかもしれない、そんなことを思いながら静希は実習前日の一日を過ごしていた











翌日、七月の熱気もさすがに朝までは猛威を振るわないらしい


早朝に静希と明利は校門前にやってきていた、いつも通りの実習の始まる朝である


まだ始業には早いというのに何人もの学生がいる、二年生の約半数が今日実習を行うのだ、当然と言えば当然だろう


「来たか、準備はできているようだな」


「先生・・・おはようございます」


「おはようございます」


静希達がやってくるのを見越していたのか、城島は校門前で待っていた


彼女も荷物を持ち、いつでも実習に挑めるだけの体勢を整えているようだった


と言っても彼女はあくまで引率、静希達を引き連れるだけである


「五十嵐は今回は荷物が多いな、気合が入っているという事か?」


「まぁ、今回は苦手な状況ですから・・・特に水にはあまりいい思い出がありませんし」


静希の言葉に城島はふむと呟いた後で静希が今まで巻き込まれてきた事件を思い出す


確かに静希は水と浅からぬ縁がある、しかも悪い意味で、今回も同じようなことになるのではないかと思っているのだ


「確かにお前達の班は水場、いや水上は苦手としているだろうからな、まぁだからこそ選ばれたわけだが」


「苦手なものをあえてやらせる、まぁ学生らしいと言えばらしいですけど・・・」


社会人になってからできないことがないように、どのような状況においても活躍できるように教育するのがこの学校だ


苦手意識を抱えたまま社会人になって、苦手なものをそのままにしておけば必ず面倒が自分に降りかかる


それをさせないために、あえて苦手なものをぶつけているのだ


班の特性を考慮した内容、そういう事だろう


「ところで五十嵐、あの二人はどうしている」


「今日明日明後日と留守番させるつもりです、一応雪姉やカレンが様子を見に行くらしいですけど」


そうか、それならいいと城島は小さく息をつく、彼女なりにアイナとレイシャのことを心配しているのだろうか


案外子供好きなところがあるのかもしれないと静希は思ったのだが、この顔では好かれないだろうなと若干失礼なことを考えていると遠くから鏡花と陽太が並んで歩いてくるのが見えた


「よーっす」


「おはよう、あ、先生も・・・おはようございます」


互いに挨拶を交わしたところで静希は陽太がもっているそれに気づくことができた


普段なら持っていないであろうかなり大きめの箱だ、一体何が入っているのか、静希はすぐに察することができた


「お、もうできたのか、後は使うだけか?」


「一応ね、ただこんなの作るの初めてだったからかなりつくりは雑よ?一応テストはしたけど・・・」


それなら大丈夫だろと静希は笑っている、鏡花がテストをして十分使えるという事はわかっているのだ、それなら問題はない


「明利、ちゃんと水着は持ってきた?」


「うん、準備できればいつでも水の中に入れるよ」


「そう、後でそれに合わせた装備を作ってあげるから、現場に着いたらすぐに着替えるわよ」


直接湖の中に入る明利が一番危険なのだ、彼女の身の安全を確保するためにもある程度の装備は必要になる


水中に生息する微生物にマーキングして索敵をする、正直彼女としても初めての試みだ


生き物であれば明利はマーキングを施せる、後はそれをどれほど広げることができるかというところにかかっている


「そうだ先生、今回水上バイクを使いたいんですけど、構いませんか?」


「ふむ・・・免許を持っていないのであれば問題だが・・・一応は貸し切り状態だ、目を瞑ってやろう」


一番心配だった城島からの許可も得られた、後は実際に行動するだけである


今回の実習の依頼元は湖の観光などを手掛けている協会からだ、まずはその営業所へ向かい詳しい話を聞くことになる


どこで目撃証言があったのか、どんなものだったのか、そう言うところから話を聞くべきだろう


そして目撃情報があった場所を徹底的に調査する、その時に湖に仕切りのようなものを作って少しずつ探索済みの範囲を広げていくのだ


そしてそれと並行して生態調査を行う船の護衛を行う、生態調査というのがどのレベルで行われるのかは静希達も知らないが、あまり水中の生き物たちを刺激するようなものではないことを祈るばかりだ


「あの先生・・・今回のことが終わったら俺らも遊んでいいっすか?」


「あんたね・・・まだ始まってもいないってのに・・・」


明らかに緊張感のない言葉に鏡花は呆れてしまっているが、城島はふんと鼻を鳴らして口元に手を当てる


「そうだな・・・すべての行程を終了し、それでもなお時間が余ったら、好きにしろ」


「マジっすか!よっしゃ、速攻で終わらせようぜ!」


遊ぶ時間があれば遊んでもよし


言ってみればそういう事だが、実際そこまでうまくいくかどうかはわかったものではない、何より時間が足りないかもしれないのだ、それだけの余裕があるとも思えない



いつものような校長の長い話が終わった後で、静希達は移動を開始していた、今回の目的地はここから三時間ほどかかる、それまでは移動をするだけという事もあって静希達は多少リラックスしていた


なにせ今回の内容は今までのそれに比べれば比較的ましなものだからでもある、樹海のそれに比べれば危険度は格段に低い


もっとも面倒なことに変わりはないが


「そう言えばさ、今回乗る船に一緒に乗る研究者?の人たちってどんな人達なんだ?あんまり気にしてなかったけど」


「なんでも水中生物の専門家らしいわよ?奇形種よりもむしろ魚とかそう言う分野に特化してる人なんだって」


鏡花の言葉に静希は納得すると同時に眉をひそめていた、なにせ奇形種に特化した人間であれば多少なりとも能力に関して前もって知識があるのを期待できるのだが、単なる生物に関する専門家ではそれが期待できない可能性がある


どんな行動が危険かもわからずに勝手に動く可能性もあるのだ、はっきり言って厄介極まりない


適当な場所をちょろちょろと動き回っているだけならまだ拘束してしまえばいい、だが今回船を動かす権利やその指揮権も向こうにあるのだ、静希達はあくまで彼らの護衛役


万が一危険な場所だとわかっていてもそこに向かうほかないのだ、あるとしたら口で説得するくらいのものである


「水の中の生き物は基本的に陸にあげれば安全だから、そう言う道具をたくさん持って行くのが基本だけど・・・そう言うのは生き物にストレスを与えるから・・・」


「道具を乱発して、その場にいるかもしれない奇形種を刺激しないようにしなきゃいけないよな・・・どれだけ奴さんが我慢してくれるか・・・」


静希のいう奴さんというのが研究者を表しているのか、それとも奇形種のことを言っているのかは鏡花たちはわからなかった


いやどちらのことも指しているのだろう、奇形種だけではなく人間も今回の実習の一部なのだ


先に索敵網を敷いてそれから安全な場所に網を投げ調査を行う、それが生態調査というものだ


今回の場合はメインは生態調査、その護衛が静希達である、奇形種がいた場合はその対応を任されているためにチームを二つに分けるのは合理的だ


「鏡花、お前達は船の方に乗って上手くコントロールしてくれよ、じゃないと危ないだろうし」


「わかってるわ、少しでも安全になるように心がける・・・まぁ相手がまともであることを祈るわ」


奇形種と研究者が両方大人しいタイプであればいいのだが、活発に動かれると流石に面倒極まる


今回は湖だ、しかもこの時期は頻繁に漁業やサマースポーツなども行われる地域、さすがにちょっと行動しただけで能力を使うようなタイプではないと思いたい


「ちなみに先生、今回泊まるところはどこっすか?」


「近くにホテルがある、そこに研究者たちも一緒に宿泊することになっている」


観光地であるという事もあってさすがに宿泊施設が最低限は存在するという事だろう、そこまで高価なものではなくあくまで一般的なものだろうが、静希達が泊まる分には十分すぎる


「今回は魚相手だけど・・・あいつは出さない方がいいだろうな」


「そうだな、奴のせいで妙な影響を出すのは得策とは言えん、絶対に出すな」


あいつというのがメフィ達人外の事であるというのは全員が気付いていた


メフィのような強い存在は生き物たちに強い危機感を与えてしまう、貝などはその威圧感に気付かないようだが魚などはその気配を察してしまうのだ


出せる限界は邪薙やオルビア、そしてフィアにウンディーネだ、いやもしかしたら邪薙の気配でも驚いてしまう可能性がある


そう考えるとあまり人外の力は頼れないだろう


「にしてもこういうのって先生の方が向いてるんじゃないっすか?前のプールの時みたいに水を持ち上げてこう・・・うまいこと・・・」


「まぁ確かに私の能力ならそこまで苦労はしないだろうな・・・事実前にあった水上での任務もそこまで苦労はしなかった」


城島の能力は重力の発生と操作だ、その能力を使えば水の上だろうと中だろうと自由に動くことができるだろう


それは重力を操作することで水流を作り、間接的に移動力を高めるというものだ、念動力でも似たようなことができるだろう


だが静希達には水を操る技術などは無い、ならば別の方法で行動するしかないのだ


それは文明の力であり、自らの技術であり、時には偶然にも頼らなくてはならないだろう


「今回はお前達がまた少し成長するための壁だと思え、苦手な状況でどう立ち回るか、どう攻略するか、それでお前達の今後が決まる」


特に響は頭に入れておけと城島が陽太の方を強く睨みながら言うと、当の本人はどうしたものかと悩んでしまっていた


そう、水の上というフィールドを最も苦手としているのはこの中では陽太なのだ


水に落ちてしまえばさしもの陽太でも自らの能力をかき消されてしまう、そんな状態でどうやって行動するのか


今回最も大きな課題を強いられているのは恐らく陽太だ、自らが苦手とするものを克服するためにどう動くか、それが求められているのだから


評価者人数が375人突破したのでお祝いで1.5回投稿


ちょっとしたお知らせを一つ載せておきます、詳しくは活動報告の方をご覧ください、ただし読む場合は注意書きを読んでいただければと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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