表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

977/1032

それぞれの装備論

「なぁ鏡花、やっぱこれはいらないんじゃないか?少なくとも今回の実習には・・・」


「あぁまぁそうね、今回の実習には肘から先はいらないわ、取り外しちゃっていいわよ、メインは肘から上にかけての部分だから」


鏡花の言葉に静希はとりあえず肘から先の盾部分を取り外すが、肘から肩にかけての部分が必要という事に疑問を感じていた


装甲そのものではなく、別の部分が必要なのだろうか


「そこの装甲部分、開くようにしておいたのよ、中にいろいろしまえるわ、今はワイヤーをしまってあるけど」


鏡花の言うように、亀甲を模した六角形の装甲部分をいじってみると確かにその部分が開くようになっており、中にはワイヤーロールが収納されていた、しかもかなりたくさんのワイヤーロールが内蔵されているようだった


なるほど、これだけの重さになっているのはそう言うからくりがあったのかと静希は納得する


「ワイヤー自体を付け替えるんじゃなくて、装甲自体にワイヤーを仕込むやり方にするのか」


「そう、その方があんたも楽だろうと思ってね、その装甲部分は刃になってるから必要なくなったらワイヤーを切断できるわ、我ながらいい仕事ね」


鏡花の言う通り、装甲としての強度も持ち合わせていながらしっかりと収納用の機構も備わっている


装甲同士が干渉しないように設計されているし何よりこれだけのものを入れていることを鑑みても軽い、その場で作った完成度とは思えないほどである


「なんていうか・・・お前こういう仕事得意になったよな」


「どっかの誰かさんのおかげでね、しょっちゅう面倒な仕事押し付けられたからこのくらいなら楽なもんよ」


今まで鏡花には毎度面倒な仕事を押し付けて来た、静希や雪奈が特に鏡花に頼むことが多く、その度に鏡花は試行錯誤していろいろなものを作ってきたのだ


そのおかげもあってか、鏡花は物を作る、あるいは模倣するという事がかなり得意になっていた


彼女にとってそれが良いことかどうかはさておき、彼女自身は今の状態を気に入っているようだった


「今回の装備はそれで我慢しなさい、もう少ししたらもうちょっとましなものを作ってあげるから」


「ありがたい限りだよ、源爺じゃこういう細かい仕事はできないからな」


源蔵はあくまで刃物の扱いは得意だが、こういった装甲を作るのは向いていないのだ


左腕に仕込んでいる大砲を作るときもかなり苦戦していたし、何よりここまで細かい仕事は彼にはできないだろう


そのあたりは能力者である鏡花の腕の見せ所というわけだ


「でも鏡花、いいのか?こういうのって作ったらダメなんじゃねえの?」


「あー・・・そうね・・・それもそうだわ・・・じゃあ静希、今度材料買ってきなさい、そしたら源蔵さんのところで作ってもらったってことにすればオッケーよ」


「それでいいのか?まぁお前がいいならそれでいいけどさ」


変換能力者が価値のあるものを作るのは原則禁止だ、それも彼女から言わせればばれなければいいというものだが、一応手順を踏む必要はある


例えば装甲に内蔵されているワイヤーなどは店でも買えるし、装甲に使われている金属なども購入することは可能だ


そう言った材料を適当な土や岩から作り出せる変換能力者としてはしっかりと材料を購入したうえで作るというのが暗黙の了解なのだ


材料費を払う事で免罪符を得るという風に考えればわかりやすいだろうか、特に今回のように人の手で作るより能力で作ったほうがいい場合というのもあるのだ


「とりあえずこれは地面に戻しておくわ、明日までに素材買ってくれば作ってあげるわよ?」


「そうだな・・・これだとどれくらいだ・・・?鉄板にワイヤーに・・・明日までは難しいかな・・・」


「ん・・・じゃあ今回だけはこれを使いなさい、次からはあんた用の装甲を作ってあげるから、臨時ってことで」


さすがに明日までに材料を用意して鏡花に製作を頼むというのは心苦しい、今回は一時的にこの装甲を使わせてもらい、実習が終わったらしっかりと自分の装甲を作ってもらえばいいだけである


「なんか静希の装備ばっかり充実していくな・・・俺にもなんか作ってくれよ」


「あんた作ったって溶かしちゃうでしょ?作るだけ無駄よ、明利はなんか欲しいのある?今回あんたが危なそうだしね」


「え?・・・それじゃあ・・・一応防御力高そうなウェットスーツをお願いしようかな・・・」


防御力の高そうなウェットスーツ


明利が言わんとしていることはわかるのだが、全くイメージがわかないのか鏡花はかなり苦労していた


先程静希が付けていたような装甲では明らかに沈んでしまうし、かといって装甲を付けなければ防御力は期待できない


となると別の素材で固いものを見繕う必要がある


一番簡単なのは皮に似た素材だ、固く軽く、それなりに防御力も期待できる

後は軽石などの比較的軽い鉱石類だ、硬度も多少ありなおかつ重量も少ない、ウェットスーツに仕込むものとして正しいかどうかはさておき、明利を守るためのものとしては必要になるかもしれない



「なぁ明利、今回って水に入って索敵を広げるわけだろ?」


「うん、そのつもりだけど・・・」


「それなら肌面積が広い方がマーキングはしやすいんじゃねえの?ウェットスーツだとほとんど水と触れ合わないだろ」


陽太の指摘に明利はあ・・・と思い出したように口元に手を当てる


まさか陽太に指摘を受けるとは思っていなかったようで、明利はかなり驚いていた


「なんか最近陽太が冴えてるような気がするんだけど、気のせいか?」


「そうかしら・・・そう言えばそうかも、ずっと一緒にいるからあんまり意識してなかったけど・・・」


陽太は以前まで、本当に時々冴えている時があったものだが、最近その頻度が高くなっているような気がするのだ


そしてそれは恐らく気のせいではない


鏡花の一年以上に及ぶ教育がようやく実を結び始めているのか、感慨深そうになりながらも鏡花は今考えていることを思い出した


「ウェットスーツがダメとなると・・・どうする?布面積の少ない水着でも用意する?」


「えっと・・・あんまり肌を晒すのはその・・・」


明利は自分のプロポーションに自信がない、そこまで自分をさらけ出せるほど露出に興じる趣味があるわけでもない


たとえ湖の中に入るとしても別に遊びで行うわけではなく実習で仕方なくやるのだ、もしかしたら他の人も見ているかもしれない、そんな場所で自らの肌をそこまで全面に出そうとは思えなかった


「まぁ普通の水着でいいだろ、後はそうだな・・・追加装甲?でも沈んだらやばいもんな」


「そうなのよ・・・それだったら浮き輪とか・・・浮き袋とか?」


「別になくたって大丈夫だよ、私泳げるもん」


子供が肘や肩に着けるような浮き袋を想像したが、確かに明利がつけているところは様になっているだろう、小学生と同じような身長なのだ、決しておかしいというわけではない


だが彼女だってれっきとした高校生だ、そんなものを付けるのはプライドが許さないだろう


「そう言う鏡花は装備作らなくていいのか?それなりにいろいろできるだろうに」


「私の場合はあんまりいらないかな・・・危なくなったら壁作ったほうが安全だし」


「まぁそれもそうか、お前の場合周りになんかあれば作れるんだもんな」


自分でそう言った類の物を作ることができない静希や明利と違い、鏡花や陽太は自らの力で鎧なども作り出すことができる


鏡花の場合は周りの物質を利用して、陽太の場合は自らの炎を使って


特性や性質、能力などは違えど防御に関しては鏡花と陽太はそれなり以上のものをすでに持っているのだ


「あ、鏡花ちゃん、だったらその、ボウガンみたいなのって作れるかな?」


「ボウガン?そりゃ作れるけど・・・なんか静希に悪影響でも受けたの?」


鏡花が静希の方をじろりと見るが特に何をした覚えもないために静希は何度も首を横に振る


別に明利に武器を持つように言ったこともないしそんなものをまざまざと見せつけたこともない、そもそも静希は明利が武器を持つことは反対なのだ


「そう言うのじゃなくて、私がもう少し何かできないかなって思ったの、索敵とかだけじゃなくて、援護もできたらなって」


毎回後ろの方にいてばっかりだから・・・と明利はうつむいてしまう


確かに明利はその役割から考えて後方に位置することが多い、そのせいもあってか戦いには消極的な印象がある


だからこそ遠距離武器を用いて援護できれば、その考えは理解できる、理解できるからこそ鏡花はためらってしまう、彼女に武器を持たせていいものかと


「ちなみになんでボウガン?静希の話だとあんたは狙撃系の方が得意なんでしょ?ボウガンじゃ狙撃銃のそれと比べると射程も威力も落ちるわよ?」


「うん・・・外れた時のことを考えるとボウガンの方が流れ弾も起きないかなって思って・・・それにカリクを仕込むこともできるでしょ?使わないに越したことはないけど・・・」


明利の言葉に鏡花は唸ってしまう、確かにライフルなどの狙撃銃を使った場合、もし外れれば流れ弾が誰かに当たる可能性もある


それに引き換えボウガンはライフルほど射程がないために仮にはずしてもすぐに落下するか威力が減衰するため大事には至らない


さらに言えば明利の言うように彼女の切り札であるカリクも銃弾のそれに比べ仕込みやすい、確かに明利が装備するのであればこれほど適しているものはないだろう


だがだからこそ躊躇ってしまう、以前の彼女の豹変を見ているからこそ迷うのだ


「明利、ボウガンなら普通に買うこともできるわ、そう言うのは自分で買いなさい、もし買ったらきちんと体に合うように改造してあげるから」


「う・・・うん・・・わかった・・・」


鏡花の力なら能力でボウガンを作るくらいのことは容易にできる、だが明利が実際に買う事をためらってくれれば、彼女が武器を手にするようなことは無くなる


鏡花が視線を向けると静希も小さくうなずいていた、どうやら静希自身明利に武器を持たせるのは反対のようだった


静希が反対する理由は二つ、明利に手を汚してほしくないという事、そしてもう一つは明利が攻撃することによって敵の攻撃の手が明利にも及ぶかもしれないという事


単なる索敵手ならば気づかれない限りは脅威度も低く優先して狙われることはない、だが攻撃を仕掛けてくるとなれば脅威度が上がり優先して攻撃される可能性もある


そうさせないためにも、明利が武器を持つことはなるべく避けたいのだ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ