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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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新装備

「静希、例のもの一応作っておいたわよ」


翌日、その日の授業が終わったタイミングで鏡花が静希の机の上に一つのアタッシュケースを持ってきた


昨日の今日でもう作ってきたのかと静希は驚いていたが、その中身を見て納得する


「なるほど、これか」


「さすがにもう一つの方は時間がかかるわ、明日までには仕上げるからそのつもりでいて」


「了解、この後テストするか」


静希はアタッシュケースを机の横に置き、準備を進めていた


今回の実習で使うかもしれないだけに早めにチェックをしておきたいのだ


「あれ、静希君、そのかばん何?」


「あぁ、鏡花に頼んでおいたもののうちの一つだ、出来上がったみたいだからこれからチェックするんだよ」


静希の言葉にへぇと呟いて明利はケースの中を覗き見る、一見すると何が入っているのかわからなかったようだが、静希がやっている準備を見て少しずつその全容を把握することができているようだった


「鏡花、さっさと訓練行こうぜ」


「ちょっと待ってなさい、今日は静希も行くから一緒に行きましょ」


鏡花の言葉に興味がわいたのか、荷物を持っている静希の方を見ると陽太は何かしらやろうとしているのだと気づきにやりと笑う


「へぇ、今度は何するんだ?」


「鏡花が用意してくれた新装備のチェックだよ、今回の実習で必要になるかもしれないからな」


新装備、そう聞くとワクワクするのか陽太は静希の机の横にあるアタッシュケースに目を付ける


これに入っているのだろうと中を確認すると、その中にあるものを見て眉をひそめた


一瞬何をするためのものなのかわからなかったのだ、そもそも何の装備なのかもわからない、どこに付けるものなのか、それを図りかねていた


「よし、んじゃ行くか」


静希の準備が終わり演習場へ向かうや否や、そのアタッシュケースの中身を取り出して装備を始めた


その中に入っていたのは大まかに分けて二つ


一つは輪っかのようなどこかに取り付ける用の道具のようだが、かなり締め付けることができるようにできている、生身でつけようとすれば鬱血するのではないかと思えるほどだ


そしてもう一つは大量にワイヤーが巻き付けてある、ワイヤーの先端部には棒状のものが接続されているのが見えた


静希はその棒状のものを自分が持っていた槍の末端に接続する、そこまでやって陽太はようやくそれが何なのかを理解した


「あー・・・あれだ、ゲームとかでサメとかクジラとか倒すときに使うやつ」


「例えが微妙だけど、まあそうだ、投擲用の槍とこのワイヤーを接続できるようにしてもらったんだよ」


陽太の説明が正しいのか間違っているのかはさておき、静希は自分が持っていた投擲用の槍の末端部分にワイヤーを接続、そしてその接続したワイヤーのロールを先程の輪っかに接続した


「ちなみにこれって回収はどうやるんだ?投げたら投げっぱなしか?」


「んなもん自分で戻しなさいよ、ワイヤーがあればたどれるんだから、さすがにモーターは自作するのは面倒だし何よりあんた動力がないでしょうが」


それもそうだなと思いながら静希はその装備を左腕に装着する


そう、鏡花に作ってもらっていたのは後付けの左腕用の装備だったのだ


源蔵によって左腕の内部にある装備は十分以上に用意してもらった、だがこの状態のままでいるにはあまりに惜しい、そこで鏡花に左腕の外側に装備できる武装を作ってもらっていたのである


「使う前にちゃんと油さしておきなさいよ?じゃないと駆動が悪くなるから」


「了解了解・・・とりあえず投げてみるか」


静希が所有している槍を回収できるように、そして今回のように水中にいる相手に当てた後逃げられないようにするために今回これを作ってもらったのである


先程陽太がサメやクジラを倒すためのそれに似ていると言っていたが、まさにその道具と同じである


実際には大きな銛を投げて弱らせるためのものだが、今回の場合同じようなことをしなくてはならなくなる可能性もある


古典的で原始的な方法だが、こういうやり方もまた必要になるのである


「左腕の外側に装備ができるならさ、もっといろいろ付ければいいんじゃねえの?ミニガンとかサイコガンとか」


「んなもんつけたら重くて動けなくなるっての・・・ていうかサイコガンはどうやって作るんだよ、あったら欲しいわ」


静希の左腕はどのような動きでも可能だ、だがそれを支える静希自身がその重量や衝撃に耐えられない可能性がある


ミニガンを取り付けるなんて簡単に言っているが、要するにガトリングガンを左腕一本で撃てと言っているようなものだ、まず間違いなく静希の体の方が悲鳴を上げるだろう


だが陽太の言うように、これからは義手であるヌァダの片腕の外側の武装を考えるのも必要なことかもしれない


重くしたところで左腕はその機動力を損なわない、静希が振り回されるだけなのであればそれに対応すればいいだけだ


そんなことを考えながら静希は左腕で槍を操り投擲の構えをしていた


「鏡花、的頼む」


「はいはい、どうぞ」


鏡花が地面を足で叩き、静希から二十メートル程離れた場所に的を作り出す


投擲の練習を始め、静希もそれなりに槍を上手く投げられるようにはなっている、少なくとも的に当てる程度はできるほどに


特に左腕の駆動で投げているのだ、実際の人間の投擲とは威力が異なる、以前イーロンの親に向けて投擲した時と同じか、それ以上の威力があると思っていい


静希が全力で槍を投擲すると、腕に取り付けられていたワイヤーが勢いよく槍の軌道そのままに伸びていく


投擲された槍は鏡花が用意した的を容易に貫通し、その向こうの地面に深々と突き刺さる、もう少し分厚い的にすればよかったかなと鏡花が反省する中、静希は左腕でワイヤーを掴んでいた


「んぐ・・・さすがに引っ張って抜くのは難しいか?」


「あんたが強く投げ過ぎたせいでしょ・・・ちょっと待ってて、ハイ抜いたわ」


鏡花が能力を発動して槍が刺さっている部分を少しだけ変換し引き抜くと、静希はワイヤーを手繰り寄せて槍を回収した


その手にはしっかりと槍が握られているが、伸びたままのワイヤーがだらしなくたわんでしまっている


「後はこのワイヤーを上手いことすぐに巻き直せればいいんだけどな・・・」


そんなことを言いながら静希は鏡花の方を見る、どうにかできないだろうかと鏡花を頼っているようなのだが、彼女はため息をつきながら首を横に振る


「ワイヤーが出ていくときに干渉しないように限りなく抵抗を少なくしてるのよ?そこのスイッチで止めることはできるけど、巻き戻すのは無理よ、それこそモーターとかつけない限りは」


鏡花ができるのはあくまでその機構を作るところまで、もちろんモーターなども現物があれば作ることはできるだろうが、問題はそれらを動かすための動力である


自動で巻き直すという事になればそれだけ動力が必要になる、静希の左腕は自由に動くが何もこういったものに動力を供給できるようなものではないのだ


「なんかあれだな、投げる時は格好いいのに巻き直すのは間抜けな感じだな」


「まったくだ・・・なんかこう・・・もっと別のなにかがあればいいんだけどな・・・」


それこそ能力が念動力などであれば自動で巻き直すこともできたのだろうが、生憎静希の能力は収納系統だ、巻き直すなどという事はできない


メフィに頼んで巻き直してもらうのもいいかもしれないが、彼女の能力でこれを回転させるという事ができるのか、そして仮に回転させて巻き直すことができたとしてその回転の速度が速すぎて危険なのではないかと思えてならない


「あぁそうだ静希、一応そのワイヤーロール、いくつか作っておいたから、投げナイフにもつけられるようにしてあるから試してみて」


静希が確認したアタッシュケースの中には確かにワイヤーロールがいくつかあった、これらを付け替えて用途によって使い分けるのだろう


「なぁ鏡花鏡花・・・ちょっと耳貸してくれ」


「ん?なによ」


陽太が何か思いついたのか、鏡花の耳に口を近づけて何やら呟いている


一体どうしたのだろうかと静希と明利は首をかしげているが、そう言えばそうねと彼女は納得し、少し悩んだ後でこれならいけそうねと結論を出す


その結論が一体なんなのか、それを理解するより早く静希の左腕を地面が覆い込んだ


「お、おいおい何する気だ?」


「ちょっと待ってなさい、あんたの左腕の装甲を取り付けてるから」


「装甲?」


静希が疑問を持っていても鏡花はその行動を止めようとはしなかった


そもそもわざわざ付け替えるという考え自体が間違っていたのだ、静希がこれを使うのであればいつでもどこでも使えるようなものを用意すればいいだけのことである


その作業が終わると静希に急に荷重がかかる、だが支えられないほどではない、重さにして五キロほどだろうか、比較的薄い装甲が追加されたようだった


鏡花の能力で変換されていた地面が左腕から離れると、その外観がようやく露わになる


手首から肘にかけての装甲にはまるで盾、いやバックラーのようなものが取り付けられている、肘から肩口にかけては亀甲を模した正六角形の装甲が作られている、関節部の干渉を防ぐために要所要所に少しゆとりが作られているのが印象的だった


「おー、かっこいいじゃん、なんかフルアーマーって感じだな、左腕だけだけど」


「ふんふん、即席にしてはなかなかいい出来ね、もう少しデザインを変えていけばもっといいのができるかも」


陽太と鏡花は何やら満足げだが、いきなりこんなものを付けられた静希としては複雑な心境だった


何よりこんなものを付けることに意味があるとは思えない、なにせもともと静希の左腕は義手なのだ、装甲を作って守る生身の肉体などないのである


「あのな、これに何の意味があるんだよ、ただ重たくなっただけじゃないのか?」


「あら、それだけじゃないわよ、外部装甲にいくつもギミックを入れられるわ、何より調整していけばもっといろいろできるようになるし・・・」


鏡花はそう考えながらいくつも頭の中で設計図を作り上げていく


元々静希や雪奈が面倒な構造のものを頼んでいたのもあってか、こういったことを作ることが楽しくなってきているのだろうか、今即席で作ったにしては妙に完成度が高いように思える


確かに見た目は格好いいように見える、片腕だけに装甲を付けているというアニメや漫画キャラというのも少なくない、だが静希にその必要があるかといわれると疑問である


この装甲にそれこそ陽太が先程言っていたサイコガンでも着けることができるのであれば話は別だが


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