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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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釘を刺す意味

『ちょっといいのシズキあんなこと言って』


先ほどの牽制が気になったのかメフィが話しかける


『いいんだよ、何のために今釘を刺したと思ってんだ?』


『そりゃ・・・余計なことしないように?』


『逆だよ、長には余計なことしてもらわなきゃいけないんだ、後で仕上げもやっとかなきゃな』


地下に入ると邪薙は昨日の恰好のまま地下の部屋の中央に拘束されているふりをしていた


静希が近寄ると一瞬獣のような表情を見せたが、すぐに穏やかな目に変わり大きくため息をついた



「遅かったな、こちらとしても我慢の限界になってきたところだ」


「あぁ、それはすまないんだけど、もう少し我慢してもらうことになりそうだ」


「どういうことだ?」


「ちょっと事情が変わってね」


静希は邪薙を一度トランプの中に入れ、再度確かめる


ちゃんとメフィのように遠隔で出し入れできることが確認できる


『うちの先生がお前を召喚した犯人をあぶり出そうとしてるんだ、それに協力してくれれば御の字ってわけ』


監視の目がある可能性があるので、邪薙を中に入れ、頭の中で会話する


『なるほど、連中を陥れることができるのであれば願ってもない、もちろん協力しよう』


快く協力をすることを約束してくれるが、まだ気になることがいくつかある


『ありがと、そこで質問なんだけど、俺らが帰った後長か他のエルフはここに来たか?』


『あぁ長のやつが来た、入口から数歩歩いたところで睨んだらそのまま帰っていったがな』


なるほど、さすがの長といえど神格の存在があっては安心することなどできないというところか


『なるほど、やっぱりこっちの言うことは聞かないか』


先日も極力近づかないようにと言っておいたのに結局接触を図っていたようだ


何か目論見があるのかは分からないが、こちらとしては逆に好都合かもしれない


『それじゃあ邪薙、もう一芝居打ってほしいんだけど』


『なんだ?また襲えばいいのか?』


確かに本来ならばその方が都合がいいのだが、城島が考えている作戦からしてそれでは弱い


なおかつ静希や城島、喜吉学園の人間に火の粉がかからないようにしなくてはならない


『きっと長はもう一度お前のところに来るだろう、その時思い切り弱っているふりをしてくれ、睨むどころか顔も上げられないくらいに』


『ふむ、だがそれではまずいのではないか?私が弱っていては逃げ出したという口実が』


そう、邪薙が逃げ出したというシナリオは邪薙の力が静希の力を越えていたということを前提に設定されている


弱っているのにもかかわらず逃げられたとあっては静希が糾弾されかねない


『そこで長に登場してもらうんだよ、長はお前と接触して何かをしようとしている、だからお前は長が近付いて何か話すか、何かしようとするまで弱っているふりをするんだ』


そう、何かするのは邪薙でもなく静希でもなくこの村の人間だ


静希は万全を尽くしたがむこうが余計なことをして暴走、それが静希の望むシナリオでもある


もし長が最初から神格を従えることを目的としているのであれば何らかの手段を用意している可能性が高い


だが結局邪薙は暴走して手に負えなくなっていることから察するにそれほどたいした手段ではないことがうかがえる


万全に近い状態の邪薙ならば確実にそんな策は打ち砕くことができる


『そんで、もし長が何かお前に話しかけていろんな条件をちらつかせたりしたなら、その言葉を一言一句覚えていてほしい、そして挑発やら暴言を出した瞬間に地下から逃げ出せ』


逆に策も何もなくただ説得や交渉で引きこもうとしているならばさらに話は早い


その言葉が神格に向けられ、そして内容さえ分かれば長が主犯格であることが確定する


『もし長ではなく別の者が現れたら?』


『そしたら同じだ、近付くまでおとなしく、そして話や交渉、行動に出てそれが終わりそうになって侮辱でも何でもされたら暴走して逃亡だ』


長が主犯格でなくとも、この事件の鍵である神格邪薙はこちらの味方、相手を知るのに何ら不都合はない


『逃げ出した後は?』


『何か合図をくれればすぐにトランプの中に入れて回収するよ・・・そうだな、空に何か打ち上げるとかできないか?』


『そんな芸当はできないが、地面を介して轟音を出すことならばできるぞ』


信仰を失くし力が弱まった神でもその程度の芸当はできるらしい


さすが神と言ったところだろうか


『いいじゃん、それじゃ長の目の前で暴走してこの家から逃げ出した後、轟音を起こしてくれ、そしたらトランプに入れる』


『了解した、彼奴の前で平静を保つのが一番の難題だな』


『まぁ、そこは頑張ってくれとしか言いようがないな』


『ふむ、難題だな・・・』


楽しそうに含み笑いをする邪薙に静希は一つ聞きたいことがあった


それは出会ったときに邪薙の言っていた言葉でもある


『なぁ邪薙、お前の守っていた村って、どうして滅んだんだ?』


それは聞けば神の古傷を開くことになりかねない言葉だったが、静希は聞きたかった

こうしてこの場にいること自体静希にはあり得ないことなのだ、まして神格と会話ができる機会などはそうない、少しだけ話したい気分だった


『・・・聞きたいのか?』


『いや、話したくないのならいいよ、変なこときいた』


『・・・私のいた村は、過疎により滅んだ、もう何百年も前の話になる』


『・・・そうか』


守り神は厄災からは村を守ることはできる


雨風、地震や日照り、人災からも村を守ってきた


だが人の心を変えることはできない


人々は村を棄て、他の地に安住を求めたのだ


私はその土地に縛られた神だった、その村に宿った神だった、その村以外では私は存在できなかったのだ


もっとも、信仰がなくなったせいでこうして自由に動けるようになってしまったがな


そう語りながら邪薙はさみしそうに、乾いた笑いを浮かべていた


『以来人々の繁栄を覗いてきた、多くの災害で傷ついた人々を見て、何もできない自分を呪ったよ、守り神など名ばかりだった』


『・・・その村を棄てた人たちってのは、神様を見る目がないな』


『そう思うか?』


『あぁ、俺だったらお前みたいな神様に守っていてもらいたいと思うね』


そうか、そういってくれると救われた気分だと邪薙は穏やかな声で呟いた


それじゃあなと静希は笑いながら邪薙をまた外に出し、その場を後にする


『いいのシズキ?あの長に近づくなって釘さしちゃったじゃない』


メフィの言葉に静希は笑う


『確かに行きに釘は刺した、だけどその釘は自分から抜いてもらわなきゃ困る、だから少し刺さりを甘くしておく必要がある』


静希は階段を上がりながら長の部屋へと向かう


「失礼します、長、神格は問題なく拘束されています」


「そうか・・・様子はどうだった?力は問題なく奪えているか?」


その言葉に静希は確信する、長はまだ邪薙との接触を諦めていない


「はい、あの様子なら昼間までに完全に封印が可能でしょう、そうしたら自分たちが責任もって封印します、かなり衰弱しておりあの拘束を解くのも無理かと思われます」


「そうか、では一安心だな」


その安心がどのような意味なのか、微妙に含みを見せた長に、静希は城島のいっていた狸という言葉の意味がようやくわかったような気がした


「ですが万が一がありますので、引き続き接触は控えていただきます、あれほど衰弱しているとはいえやはり神格です」


完全に安心させないため、そして自分はきちんと長を止めたという免罪符を作るために、わずかにしか刺さらないような釘を長に向ける


「わかった、気をつけよう」


静希はその言葉をしっかり聞いた後、長の家を出ていく


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