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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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少女はその日

「うぅ・・・なんだか体が痛い気がします・・・」


翌日、静希にやられた訓練の筋肉痛なのかアイナは体の節々に痛みを感じていた


そして同じように体中に痛みを訴えているものが一人、アイナと一緒に演習場の覗きを決行した風香である


かなり石動に指導されたのだろう、時折体が痙攣してしまっている


「ミスシノノメ、随分とつらそうですが大丈夫ですか?」


「何とか・・・アイナちゃんもこってり怒られたみたいですね・・・」


怒られたというか指導されたというか、普段のそれとは全く違う訓練の内容だったために面喰ったというのもあるが、非常に疲れる訓練だった


肉体的にもそうだが精神的にも非常に消耗する内容だっただけにアイナは未だに疲れが抜けきっていなかった


「ちなみにその・・・五十嵐さんとはどんな訓練を?まさか実戦形式とか・・・?」


「そこまで苛烈なものではありません、先日行ったのは危険かどうかを察知できるようにするための訓練です・・・常に緊張状態を強いられたので非常に疲れました・・・」


いつも行っているナイフの訓練に加え、静希が行った訓練は徹底的にアイナの精神を追い込むような内容だった


一瞬でも思考を途切れさせればそこで攻撃が飛んでくるような状況だったためにアイナは徹底的に消耗させられていたのである


「ちなみにミスシノノメは一体どのような訓練を?」


「私は・・・とにかく藍姉さんを止める訓練でした、どのような方法でもいいから攻撃を防いで見せろと・・・無論できるはずもありませんでしたが・・・」


風香の能力は強力だ、圧縮した空気を弾のように打ち出すことも、また斬撃を作ることも、圧縮状態を解除して爆弾のように衝撃を作り出すこともできる


攻撃の前に圧縮した空気を作り出せば防壁にもなる、もっとも彼女の能力では大した防壁にはならない、恐らく石動程の実力者なら一撃で破壊することができてしまうだろう


一人前のエルフの攻撃を未熟なエルフが止めろなどと無理な話だ、それでも風香は全力で石動を止めようとした、もちろん結果止められなかったわけだが


「それは大変でしたね・・・それに比べれば私はまだましな方でしょうか・・・」


「・・・いいえ、五十嵐さんの指導はかなり難易度が高いです・・・体を動かすよりも頭を動かさないとどうにもならないものですから・・・恐らくそちらの方が疲労度は大きいかと・・・」


静希からの指導を受けたことがある風香からすれば体だけを動かしていればいい石動との訓練に比べると、静希のそれは圧倒的に疲労度が違う


とにかく一つの目的を達成すればいい石動と違い、静希の場合は次々に状況を変えていくのだ、訓練の内容としては考える力を育成するためのものと言えるだろう


本来エルフがやらないような訓練内容であるために、風香にとっては非常に印象深かった、あのようにして静希が強くなったのだという事も理解しているだけにその苦労も少しだけ理解できる


「私の相方・・・レイシャからも奇妙な目で見られてしまいました・・・やはりいたずらなどするものではありませんね・・・」


「全くです・・・優花にバカにされてしまいました、ですが自慢してやりました、授業中の五十嵐さんを見ることができたと、とても悔しそうにしていましたよ」


「なるほど、私も自慢するべきだったかもしれません、今日やってみましょう」


アイナと風香は実は結構共通点が多いのだ、静希の知り合いという事もあるのだが互いに相方ともいえる存在が身近にいる事、そして二人とも中距離での行動を得意とすること、その種類こそ違うとはいえ静希のことを慕っている事、そして自分が未熟であることを自覚している事、そしてともに優秀であること


話が合うと言えばいいだろうか、タイプが似通っているために二人は随分と打ち解けているようだった


もちろんそれはレイシャと優花も同じである、静希をきっかけとしてそれぞれ徐々に仲が良くなっているのだ


クラスにも打ち解け始め、話をしているのをよく見かけるようになっている、無論まだ日本の子供の話についていけていない節はあるがそのあたりは先駆者がいるので問題ないのだ、特に無駄な方面での知識は豊富になってしまっている


そう、アイナとレイシャは日本の文化、というか流行についてメフィから直接指導を受けているのである


日々堕落した生活をしているメフィは当然のように最近の流行ものというのをチェックしているのだ


人気のゲーム、スポット、服装、番組、時間なんていくらでもある彼女からすればチェックなんてし放題なのである


最近邪薙やオルビア、ウンディーネもそれに感化されつつあるようだが、少なくともアイナやレイシャの役には立っているために静希も止めようとはしなかった


男子の話にも女子の話にもついていけるように幅広い知識を必要とするが、そのあたりはメフィのことだ、しっかりと把握しているらしい


最近の彼女はファッション系にも手を出しているのだとか


以前は服を着るのは嫌だと言っておきながら、時折雪奈から服を借りているのを見かける


身長が若干違うが、スタイルとしては雪奈が一番近いために助かっているのだとか


さすがに静希としても女ものの服を買うわけにはいかないのだ


「おーいアイナ!これってどれに努力値振ればいいんだ?」


「え?・・・あぁその子は・・・あれ?この子特殊型ですね、性格を変えたほうがいいと思いますよ、そうじゃないと攻撃値が伸びません」


「そうなのか、サンキュー」


同級生にそんなことを教えることもよく見かける光景になっていた、下手に優秀なのもあってかどんどん知識を吸収しているのである


「そう言えばアイナちゃんは五十嵐さんたちが校外実習に行っている間はどうするんですか?お留守番?」


「ん・・・それもいいのですが・・・どうやらミスターイガラシには何か考えがあるようでして・・・もしかしたらどこか別の所に泊まることになるかもしれません」


静希としてはアイナとレイシャであれば家で留守番をしていても問題はないと思うのだが、食生活的な意味と防犯的な意味で小学生二人だけで週末を過ごさせるというのは少し危ないような気がしたのだ


エドが居を構えているホテルに行くか、あるいはカレンを呼んで留守番をしていてもらうか


今回の実習は雪奈たちとはスケジュールが異なるために雪奈に構ってもらえるという意味では不安はないが、彼女は料理の腕はあくまでそこそこ、しかもストッパーがいないと何をしでかすかわかったものではない


今の静希の考えとしてはカレンを家に召集することを視野に入れているらしく、連絡を入れて調整をしているのを何度か見ている


「ミスミヤマが近くに住んでいるので留守番でも大丈夫だとは思いますが、ミスターイガラシはどうも心配なようで」


「なるほど・・・小学生だけだと不安という事ですね・・・」


実際に小学生だけで数日過ごすというのはなかなかにハードルが高い、アイナとレイシャはそこまで料理はうまくないし近くにいる雪奈も同じくなのだ

そうなってくるとエドの寝泊まりしているホテルに向かったほうがいいような気もしてくる


そんなことを考えているとふとアイナがあることを思いつく


「でしたらミスシノノメ、ミスターイガラシがいない間お泊りに来ませんか?」


「・・・え!?」


「ミスターイガラシも私達だけなら心配かも知れませんがミスシノノメたちがいれば安心できると思うのです」


アイナの提案に風香はどうしようという言葉が頭の中でぐるぐるとまわっていた


もちろんその申し出はとてもうれしい、誰かの家に泊まるというのは石動の家くらいしか経験がない、同級生の家にお泊りというのもそうだが、その家が静希の家というのがまた問題なのだ


もちろん問題と言っても悪い意味ではない、良い意味で問題なのだ


この前静希の家に行った時でさえあそこまで緊張したというのに泊まりに行くという事になれば一体どんなことになってしまうか


「そ、それは私としても嬉しいですが・・・その・・・五十嵐さんに迷惑ではないでしょうか・・・?」


「ん・・・そのあたりは相談してみないとわかりませんが・・・きっと大丈夫です、きちんと後片付けと掃除をすれば問題ないでしょう」


むやみやたらに汚したりしなければ静希もそこまで頑なに誰かが来るのを拒むつもりはない、いくら自分がいない間とはいえ小学生だけで集まるくらいならそこまで問題があるとも思えないのだ


後は雪奈とカレンを保護者役として召喚すればいいだけである


そんなアイナの考えをよそに風香は混乱していた


泊まりに行くという事は勿論風呂に入ったり布団で寝たりするわけである、普段静希が使っている風呂に入り、布団で寝ることになる、そんなことをしたらどうなってしまうか


無論嬉しい、思わぬところで静希の家に泊まることができるのだ


本人がいないとはいえこの状況はありがたいの一言に尽きる


「と、とりあえずそこまで性急になることはありません、まずは五十嵐さんに相談してからでも遅くないのではないですか?校外実習まではまだありますし・・・」


「ん・・・それもそうですね・・・確か再来週・・・?くらいだったでしょうか」


今回の実習は七月の半ばに行われるらしい、時間がそれほどあるというわけではないが話し合うだけの余裕は十分以上にあるだろう


それまでにどうにかして心を落ち着かせなければいけない、何より今回は家に遊びに行くという簡単なものではないのだ


着替えまで持って行って過ごすことになる、これはレベルが高い


小学生にとっては一大イベントとなりそうなお泊りという行動に風香は脳の処理能力を全開にしていた


どんな服を着ていこうかどんな寝巻にしようかどこで寝ようか等々、静希がいないという事を鑑みても少し気合を入れ過ぎているのではないかと思えるほどである


「そうとなれば今日帰ったらミスターイガラシに聞いてみようと思います、許可がもらえたらまた報告しますので」


「は、はい、よろしくお願いします」


アイナがノリノリなのを見て風香は少しだけ意外そうにしていた、最初の印象としては物静かでおとなしいタイプの子だと思っていたのだが、案外活発で子供らしい一面も持っているのだと


今まで大人に囲まれていたアイナが、自分たちと同じような子供たちに囲まれることで少しずつ普通の子供に戻っている


その変化は恐らく今までアイナを見てきたエド達でなければわからないだろう


本来ならばこうなるはずだった、こうならなければならなかった子供としてあるべき姿、そしてエドが何よりも望んだ姿だ


まだまだ本来のそれとは比べるべくもないが、少しずつ、本当に少しずつアイナとレイシャは変わってきている


留学という方法をとったのは決して間違いではなかったのだと、後にエドは確信する


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