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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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年下と年上の反応

「あー・・・怖かったぁ・・・何であの人達私たちのことがわかったんだろ・・・」


「ちゃんと透明になれてたみたいなのに・・・やっぱ経験の違いなのかな・・・」


四人は再び砂地の演習場に戻ってくると、それぞれ能力の発動の練習の振りをしながらおしゃべりを続けていた


透明な状態で自分たちの存在に気付いたのは三人


静希と石動と明利だ、アイナはそのからくりをほぼ理解しているが風香は未だにそれが理解できていないようだった


そして同時に恐ろしくなったのだ、もしや嫌われたのではないかと


「あ・・・あの・・・アイナちゃん・・・」


「なんでしょう?ミスシノノメ」


今にも泣きそうな声で風香はアイナの手を握る、その手は僅かに震えていた

その震えの意味をアイナは僅かながらに理解した、自分が敬愛している姉と、自分があこがれている異性に嫌われたかもしれない、自分があの場にいたから、戦いの邪魔をしたから


「大丈夫です、私もご一緒しますから」


言わずとも察してくれたアイナに、風香はその場に座り込んでしまった、怖かったのもそうなのだが、今もまだ怖い、そして少しだけ安心してしまっている自分がいる


普段は風香には優花が一緒にいる、だが今優花は一緒にいない、だからこそ孤独を覚えていたが、その代り、いや代わりと言っては失礼だろう


今はアイナがいる、一人ではないのだという安心感が、風香の中に沸き立つ不安をなんとか押し留めていた


「ですがどうしましょう・・・あの様子だと間違いなく怒られます・・・第一声から謝罪しなければ・・・」


「・・・だったら・・・今日は待ち伏せをしましょう、幸いにもあの二人のクラスは同じ、教室の前で待っていれば必ず接触できます」


確かに風香の言う通り、静希と石動のクラスは同じだ、教室の前で待ち伏せていれば確実に会うことはできるだろう


だが問題はどうやってそこまでたどり着くかである


何かイベントや理由などがあれば高等部に入ることも可能だろうが、基本的に初等部は初等部の校舎以外に入ることはできないのだ


もし入っているところを見つかればそれこそ面倒なことになるだろう


「でもどうやって高等部まで行きましょう・・・さすがに初等部の人間がいればわかってしまうのでは・・・」


「幹原さんがいるとはいえ・・・この身長の高校生なんてそうそういませんし・・・」


アイナはすでに明利の身長を抜かしているとはいえ風香はあと少しだけ足りないのだ


明利のような身長の高校生などそういないのである、まず間違いなく目立つだろう


「でしたら何か忘れ物を届けに来たとか」


「もうあと二つも授業をやれば放課後になってしまいます・・・いっそまた家で・・・あるいは家の前で待機していた方が・・・」


静希は普段人外たちを家のドアを閉じた瞬間に開放している、もし自分たちが出てくるのが少しでも遅れれば風香に人外たちの存在を露見させかねない、家で待つことはまず考えから除外だ


となればどうするのが一番か


できるなら静希と石動同時に謝りたいところだ、そうなると教室の前で待機するのが一番手っ取り早い、校門前だと時間差でやってくる可能性もある


怒られるのは一回で済ませたいという怒られる側の都合だが、これは仕方のない思考だろう


「となると・・・また私の能力を使うべきでしょうか・・・?」


「・・・いえ、先程それで気づかれています、他の方が気付かないとも限りません」


先程何故静希に気付かれたのか、その理由を理解していない風香は妙に慎重になっている


教室の前で待つという事もあり、長時間待機しなければいけない可能性がある、そうなると自分たちの存在に気付く人間も多々出てくるだろう


物理的に見られたのではないかという風に思っているのだろうが、アイナの能力はそこまで陳腐ではない、実際はただ単に気配を感じ取られただけだ


そう言う意味では気づかれた原因は風香にこそあるのだが、これは口にしない方がいいだろうとアイナはどうしたものかと悩み始めてしまった


少しの間二人で悩んでいると風香が突然何かを思いついたのか手を叩く


「・・・そうだ、私に良い手があります!」


「なんですか?正面突破とかはダメですよ?」


そんなことしませんよと風香は胸を張っている、エルフという種族は基本的に自分の力に絶対の自信を持っている、その力を使って正面突破をしても不思議はなかったのだが、どうやら風香はそれ以外の方法をとるらしい


一体何をするのかアイナは不安でならないが、ひとまず話を聞くだけ聞いておく必要があるだろう


「一応確認しますが、手荒な事はなしですよ?」


「もちろんわかっています、任せてください、東雲風香に奇策有り、です」


一体どんな手なのか、何をするつもりなのか、アイナは非常に不安だったが彼女の考えている内容を聞いてなるほどと感心してしまう


幼くともエルフというべきか、それともかつて少しとはいえ静希に指導されたからか、身を隠す、そして目的地へと移動するという事柄に対してなかなか奇抜な考え方をできるようになったらしい


二人はそれぞれ案を出し合い、放課後に向けて作戦を練り始める、その結果がどうなるのかは二人はまだ知らない









「へぇ、じゃああの場にあの子たちがいたんだ」


場所は変わって高等部の二年A組の教室内、訓練の授業を終えて静希達は次の授業の準備をしていた


「あぁ、さすがに驚いたよ・・・たぶんいたずらのつもりだったんだろうな、高校生の授業を見てみたいとか、そんな感じだったんじゃないか?」


静希の予測は大体正しい、実際には静希を見てみたいというものだったのだが、その目的は訓練の光景を見て吹き飛んでしまっていた


自分たちがあのようになれるのか、あんな風に強くなれるのか


実際に戦っていたのは高校生の中でも少々特殊な二人だったが、小学生たちには少し刺激が強すぎたかもしれない、それほどまでに強烈な戦闘訓練だったのだ


「それにしても危ないわね、あんたと石動さんの戦闘に巻き込まれるなんて、怪我はなかったの?」


「一応な、俺が無理矢理あいつの攻撃受け止めたから・・・痛かったけど・・・その代わりにあいつらを睨んでやったよ、帰ったらお説教だ」


子供のすることだ、ただのいたずらに過ぎないことだ、だがだからこそしっかりと叱ってやらなければならない


下手すれば大怪我をしていたかもしれないのだ、実際にそうなりかけた


もしあの場で静希があそこにいた風香の精霊の気配に気づかなかったら、それこそ石動の攻撃が岩ごと命中していた可能性もあるのだ


間一髪とはまさにこの事である


「まったくだ、こちらも厳しく言い聞かせておく、やってきたのは風香で間違いないのか?」


「あぁ、アイナと一緒にいたなら間違いなく風香だ、そっちもしっかり叱っておいてくれ」


あの場で気配がしたというのに視認できなかったという事は、間違いなく何かの能力を使っていたと考えるのが自然だ


人外が身近にいてなおかつ姿を消せる能力者も近くにいる、そう考えると東雲姉妹が当てはまる、さらに言えば授業中という事を加味すれば静希達と同じ時間帯に訓練の授業の入っているアイナと風香にたどり着く


気配まではわかっても個人の特定までは至らない、だがその状況から犯人を割り出すことはできる


「石動さんもびっくりしたんじゃない?訓練中に小学生が紛れ込むなんて」


「まったくだ、本当に肝が冷えたよ、あの時五十嵐が先に気付いて攻撃を受け止めていなかったらと思うとぞっとする、少し熱くなりすぎていた・・・」


静希に負けてからというもの、石動は静希との訓練において手を抜くという行為はしなくなった、いやそれどころか一切の容赦すらしなくなっている


本気で戦い、本気で立ち向かっているからこそ他のことに目を向けられなくなることも多々ある、今回もその一例と言っていいだろう


「ふぅん・・・あんたたちがそこまで焦るってのはちょっと珍しいかもね、案外あの二人結構な大物になるのかもね」


「冗談じゃねえよ、本当に驚いたんだ、姿を消した状態で近づかれるってマジで怖い、何が起きても不思議じゃないんだぞ」


「まったくだ、焦るというレベルではない・・・私は気づくのが遅れたせいでそう感じたのも後になってからだがな」


数分間変な汗が止まらなかったぞと石動は大きくため息をつきながら項垂れる


彼女からしたら本当に恐ろしかっただろう、自分の妹のように大事にしてた少女を自らの手で傷つけそうになってしまったのだから


静希だって同じようなものだ、信頼されて預けられている少女に怪我を負わせるわけにはいかない、あの場ではとっさに盾になったがもし数瞬気づくのが遅れていたらどうなっていた事か


「はいはい、ようやく涼しくなってきたんだし少しクールダウンしなさいよ、ちょうどいい風も吹いてるし」


「・・・そうだな・・・熱くなってると説教もわけわからなくなりそうだ」


「・・・むぅ・・・確かにその通りだ・・・少し頭を冷やすか・・・」


夏が近づき、気温も上がってくる中で窓を開けるという事は非常に重要なことだ


可能な限り節電を心掛けている学校としてはクーラーなどはない、時折クラスの能力者が空気を冷却したりしているが、そんなことができる人間は限られている、基本涼を得ようと思ったら窓を開けるほかないのだ


幸いにして夕方に近づくことで徐々に気温も下がりつつある、風もカーテンを緩やかに揺らしながら教室内に入ってきている、頭を冷やすにはちょうどいいかもしれない


「にしても、石動さんがあんなにあせってるところを見たのは凄く久しぶりね、初めての実習の時以来じゃない?」


「・・・清水、あまりからかってくれるな・・・こちらとしても少し恥ずかしいんだ」


静希達にとって初めての実習、本来ならあるべきではない出会いと衝撃が一緒になって訪れた事件、それは静希達にとっても、そして石動にとっても印象深いものとなっていた


静希達にとっては初めての悪魔との会合だった、石動からすれば妹同然の存在を失いかけた事件だった


どちらも全力だったために、あの時のことは今でも鮮明に思い出せる


「だが今回の件で五十嵐もかなり気が気でなかったようだからな、そう言う意味ではいいものを見ることができた」


「お前な・・・いやまぁ確かにあせったけども・・・」


石動だけではなく静希もあの状況にかなり驚いていたのだ、あの時はすぐにあの場から離れることを優先したが、その後になってかなりいっぱいいっぱいな状況になってしまっていたのである


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