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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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小さないたずら

「へー、じゃあ昨日ふーちゃんたちアイナちゃんの家に行ったんだ」


「はい、とても楽しかったですよ」


翌日、再び給食の風景にてアイナと風香は静希の家に行った時の話をしていた


高校生の家に遊びに行くなどという事は他の子供たちにはある種の冒険のように映ったのだろう、話を聞いている何人かは目を輝かせていた


「ね、ね、どうだった?何か変なものとかあった?」


「変なものと言われましても・・・そう言えば何に使うのかよくわからない機械のようなものがありました・・・テレビとかでもパソコンでもないようでしたが・・・」


風香の記憶の中に残っている妙な機械、少なくとも今まで見たことがない類の機械だった


あの時はかなり動揺していたために何の機械なのかを聞く余裕がなかったためにその実態はよく知らないのである


「よくわからない機械か・・・ねぇアイナちゃん、それって何なの?何かの秘密兵器とか?」


「・・・以前聞いたことがありますが・・・確か爆発する物を作るための機械だったと思います、何でもミスターイガラシはそう言った類のものをよく使うのだとか」


アイナの言葉にそれを聞いていた同級生たちがへぇーと感心した声を出す


爆発物、所謂爆弾のように思われがちだが実際には水素や酸素を作っているだけである


爆発することには変わりないのだが、こういうところでも妙に言葉足らずというか、同級生たちの中で静希のことが一気に危険人物として伝わっていそうなものだ


「後はたくさん武器がありました、それら全てを五十嵐さんは使えるようです」


「へぇー・・・武器かぁ・・・どんな武器?」


「ミスターイガラシは主にナイフ、刀剣、あと最近は槍も使い始めているのだとか」


さすがに銃器の類も所有し、なおかつ頻繁に使っているなどという事は教えない方がいいなとアイナは判断し、普段静希が使っているものだけを申告した


これらも嘘ではない、ナイフも使えるし刀剣に関してはオルビアを使っているし槍に関しては手投げ式の槍を扱い始めている


武器の類は正しく扱えて初めてその意味があるのだ、まだ能力すらまともに扱えていない小学生にはただの武器でさえ特殊なもののように思えるのだ


「その五十嵐さん?って人、どんな人?かっこいい?」


「そ、そうですね・・・とても凛々しい方ですよ、優しいし気さくだし・・・かっこいいし・・・」


「ミスターイガラシは聡明な方です、私があった中で恐らく一二を争う頭脳の持ち主でしょう」


二人から絶賛されている静希という人物に同級生たちも興味がわいたのか、見てみたいなという声が上がり始める


とはいえ相手は高校生だ、何かしらの接点がないと会うのは難しいだろう


ただ会ってみたいというだけのために放課後残っていてもらうのも気が引ける


そんなことを考えていると、アイナが手元にあった時間割を見てそう言えばと思い出す


「確かこの時間・・・次の訓練の時間は確かミスターイガラシたちも訓練だったような・・・」


「え?本当!?五十嵐さん見れるの?」


「演習場が違うために間近でとはいかないかもしれませんが、可能性はあります」


小学生は基本的に怪我をしにくい芝生や砂地での訓練を主に行うが、高校生などは危険性すらも訓練の内に入るために基本的にどこでも訓練をする、どの場所なのかはわからないが可能性はゼロではない


「私達は次どこでの訓練でしたっけ?」


「次は砂地での訓練です、主に能力の発動訓練ですね」


風香の言葉にアイナはふむふむと納得しながら薄く笑う、能力発動のための訓練であれば何とかなるかもしれないと思ったのだ


「もしかしたらミスターイガラシに会いに行けるかもしれませんよ」


「本当に?でも勝手に動いたら怒られちゃうよ?」


「それも問題ありません、私に良い考えがあります」


アイナが胸を叩くと風香も一緒に静希に会いに行きたいのかそわそわし始める


今までいろんな静希を見てきたが、授業中の静希というのは見たことがないのだ


一度でいいから見てみたいという気持ちを抑えられないのだろう、アイナの方を期待した瞳で見ていた


「ですが会いに行けると言っても遠目から見るだけになるかもしれません、向こうも訓練をしているわけですし、邪魔をするわけにはいきません」


何よりたぶん危ないですし


この言葉はあえてアイナは言わなかった


静希達の訓練は自分たちが思っているより、いや小学生が思っているよりもずっと激しいものなのだ


夜に雪奈と訓練している静希の姿を見ているからこそアイナはそれを理解できる


訓練というにはあまりにも激しく荒々しい、殺し合いと称したほうがいい程の鬼気迫る勢いで行われるそれに、最初は足が震えたものだ


そして普段静希や雪奈がしないであろう表情を、そう言う時にだけ見ることができる、危険で怖くて、張りつめた表情


その表情を見て風香たちがどのような反応をするのかはわからない


だがこうしたちょっとした大冒険というのが必要であるという事は静希を始め大人たちから聞いていた


時にはいたずらや悪さをするのも子供の特権なのだと


だからこそアイナは、エドと出会ってから初めていたずらをしようと思ったのだ


留学中だからこそできないことを、アイナはするつもりだった、そこでアイナは風香を含めた数人と顔を近づけ今回の作戦を話し始める










「それじゃあそれぞれ能力を使ってみてね、暴発しそうになったら先生を呼ぶこと、いいわね」


先生の言葉に生徒たちは皆一様に返事をする


場所は砂地の演習場、生徒たちがそれぞれバラバラに移動を始め自らの能力を発動していく


当然ながらバラバラになるとはいってもいくつかのグループのようなものが形成されているところもある


例えば発現系統は主に一人で周りに被害が出ないような場所めがけて能力を発動している、強化系統も周囲への影響を考えて能力を使っているのがわかる


逆に同調系統などは集まって互いに能力を掛け合ったりしている、この辺りは能力の特性によって変わるとしか言いようがないだろう


そしてアイナたちは一つのグループを形成していた


「では手筈通りに、私は先生に申告しに行きますので」


「わかりました、頑張ってください」


風香たちが能力の訓練をしているふりをする間、アイナは教師の下へと駆け寄っていく


「先生、一つよろしいでしょうか」


「あら、どうかしたの?」


「今から能力を使うのですが、持続力を伸ばすために一時姿が見えなくなっているかもしれませんがあのあたりにいるので必要なら声をかけてください」


「えっと・・・あなたの能力は・・・あぁ迷彩のようなものだったわね・・・わかったわ、他の生徒の能力に巻き込まれないようにしてね」


了解ですとアイナは敬礼した後風香たちの元へと戻ってくる


これで準備は完了だ、教師はこの数の生徒の相手をしなければならない、万が一にも暴発しないように常に意識を集中しているはず


だがこの場にいるのはアイナと風香という優秀な部類に入る生徒ばかり、暴発の危険が少ないだろうと思っているはずだ


「問題ありません、それでは皆さんでこれを被りましょう」


アイナは懐から巨大なポンチョのようなものを取り出す、以前静希と模擬戦をした時にも用いたものだった


それに能力を発動し、迷彩化する、砂地の演習場からアイナたちの姿が一時的に消え、一見誰もいないように見える


「よし、ではここから移動しましょう、ミスシノノメ、お願いします」


「任せてください・・・では・・・」


風香は自らの能力で圧縮した空気の足場を作り出し全員を乗せて移動を開始する


いくら圧縮しているとはいえ空気の為そこまで強度は無いが、人を乗せて移動する程度であれば問題はない


アイナと風香を含めて四人を乗せた状態で移動をし続け演習場の隅の方までやってくると、近くから何やら轟音のようなものが聞こえてくる


アイナと風香は頷いてその方向へと向かうことにした


そこは岩石地帯の演習場だった


演習場の隅の方にアイナたちは陣取り、様子を観察することにした


そこには岩を砕きながら戦闘を行っている高校生たちの姿があった


殴り、蹴り、避け、跳び、能力を使う、自分達とは別次元の訓練にその場にいた数人は目を奪われていた


限りなく実戦に近い戦い、すでに実戦を経験した高校生だからこそできる訓練だった、まだ実戦を経験していない小学生たちからすれば異次元のものだった


何をしているのかすらわからない戦いに恐怖すら覚えていた


その表情は怒りと殺意と狂気に満ちているようにさえ見えたのだ、見慣れない表情と状況に小学生である彼女たちはその場から動けなくなっていた


次の瞬間、衝撃と共に近くにあった岩に誰かが叩き付けられた


咳をしながら立ち上がるその人物が静希であると気づくのに時間はかからなかった


「っくそがぁ・・・!少しは手加減しろっての!」


「ハハハ、お前相手に手加減すれば負けるという事はすでに分かっているのだ、加減などするはずがないだろう!」


静希の視線の先には石動の姿があった、静希に敗北してからというもの、石動は時折こうして静希に勝負を挑んでいた


無論静希もただでやられるわけにはいかない、毎回一矢報いてはいるのだが、結果はよくて引き分け、悪ければ惨敗もよくあることだった


静希の右手には剣が、そして左手には短めの槍が握られている


対する石動の両手には血の刃が作られている、二人とも近接戦闘の訓練を行っているようなのだが、石動の能力を知っている風香からすれば今すぐにでも二人を止めるべきだと思っていた


なにせ石動の能力は血を操るだけではなく身体能力の強化もかかっているのだ、そんな能力相手に生身で戦おうなど無謀にもほどがある


勝てるはずがない、風香のその考えは正しい、身体能力強化ができるエルフ相手に、ただの能力者が生身の近接戦闘で勝てるはずないのだ、それこそ瞬殺されてもおかしくない


だがその考えは正しくとも、風香の予想は外れることとなる


高速で襲い掛かる石動の攻撃を静希は丁寧に捌き続けていた、正面からだけではなく四方八方から回り込んで襲い掛かる石動の剣撃も全て静希は受け止めていく


石動が用意している血の量は少ない、以前全力で戦ったときのそれとは比べるまでもないほどの量だ


だがそれでも静希は防ぎ続けている、ただの生身でエルフの攻撃を


時に転がり、無様を晒しながら、それでも直撃は避け続けていた、それは一年以上雪奈の訓練を受けたからこそできる芸当と言えるだろう


風香は石動が戦うところは見たことがある、いやその時も訓練だったが、今こうして静希と実際に戦っているところを見るのはいつ以来だろうか


去年の夏休みに一度手合わせをしているのを見て以来か、どちらにしろあれほど鬼気迫る彼女を見たのは初めてだった


少しでも手を抜けば負ける、もう負けたくない、そう言う思いが彼女の中に満ちているように思えた


「すごい・・・あれが高校生なんだ・・・」


「・・・うわぁ・・・」


一緒についてきていた同級生二人はその光景を目に焼き付けようとしていた、自分たちがいつか至る場所、いつかきっと届くかもしれない場所


怒気と殺気を織り交ぜながら繰り返される剣撃、そして打撃、まだ幼い能力者の彼女たちからすれば静希達の戦いは遠すぎて目標にすらならないようなものだった


そして同級生の中では規格外のアイナと風香、この二人もまた静希と石動の戦いを注視していた


アイナは静希の一挙一動を、風香は石動の一挙一動をそれぞれ目に焼き付けていた


自分が目指すべき存在、自分が見本とする存在


そしてそれは唐突に終わりを告げてしまった


石動の攻撃によって追い詰められた静希がアイナたちが隠れている岩の前に陣取った瞬間、静希は一瞬こちらに目を向けたのだ


未だアイナの能力による迷彩の効果は健在、見えているはずがないのに静希はこちらを見た


そしてその隙をついて石動が静希の真正面から攻撃を仕掛けてくる


静希は舌打ちをした後で腰を落としその一撃を全力で受け止めた


だが身体能力のかかったエルフの攻撃を完全に受け止められるはずもなく、静希は岩に叩き付けられ、鍔迫り合いのような形で石動に追い詰められてしまった


「五十嵐、何のつもりだ、なぜいま避けなかった?お前なら避けられただろう」


「俺だって避けたかったよ・・・だけど邪魔が入ってな・・・いやギャラリーがいるっていったほうがいいか?」


静希の言葉に石動は一体何を言っているのかと一瞬首をかしげたがすぐにその意味を理解したのか、大きくため息をついて力を抜く


その視線が自分たちに向けられているとアイナと風香は直感的に理解した


「なるほど、場所を変えたほうがよさそうだな、そしてあとでたっぷり叱ってやらなければいけないだろう」


「こっちも同じだ・・・こんな近くに寄るまで気付かない俺らも間抜けだけどな」


まったくだと石動は薄く笑いながら答えている、そして静希と石動は一瞬アイナたちの方を見た後、その場から離れていった


その瞳にほんのわずかに怒りのようなものが含まれていたの二人は感じ取っていた


「こ・・・怖かったぁ・・・ひょっとしてばれてたの?」


「すごかったね・・・もうここから離れたほうがいいかも・・・どうしたの?ふーちゃん?アイナちゃん?」


同級生の言葉を聞きのがしてしまうほどにアイナと風香は動揺していた

気付いていた、気づかれていた


一体どうやって気づいたのかはわからないが、透明化して声も殺していた自分たちのことを二人は気づいていた


そしてあの僅かに怒りを含んだ瞳が、自分たちに向けられているであろうことも理解していた


風香は何故、どうしてと思考を続けていたがアイナは何故静希があの場で自分たちに気付いたのか予測できていた


恐らくは、東雲風香が放つ人外の気配だろう


彼女は精霊をその身に宿している、その気配は近くによればアイナも感じ取れる程度のものだ、恐らく静希ならばもう少し離れてもその気配を感じ取ることができるだろう


戦闘に集中していることもあり、何より戦っている相手にも人外が宿っていることもあってか気付かなかったようだが、アイナたちが隠れている岩を背にした時、背後から人外の気配を感じ取ったのだろう


だが背後には誰もいない、なのに気配はする


その二つの事とアイナと風香が一緒に行動している可能性にあの一瞬で気づいたのだ


だからこそ静希はあの場で石動の攻撃を受け止めた


石動の攻撃ならば容易に岩を砕くこともできる、もし止めなければ石動の刃は間違いなくアイナたちにも届いただろう


「お・・・怒られる・・・かもしれません・・・」


「・・・間違いなく説教されます・・・どうしましょう・・・」


アイナと風香はそれぞれ静希と石動が怒る様子を想像して身震いしていた


思考が停止しかける中、自分たちの近くに誰かがやってくるのが感じ取れる


一体誰だろうかと岩から身を乗り出して向こう側を見ようとすると、そこには明利の姿があった


何故ここに、何でこんなところに来たのか、その疑問が解消するよりも早く明利は東雲たちが被っている布を掴んだ


「やっぱり・・・アイナちゃんね?ここにいると危ないから、早く戻ったほうがいいよ?」


「み、ミスミキハラ・・・あの・・・これは・・・」


アイナが弁解しようとするが明利はダメですと強く布を挟んだ向こう側にいるアイナを叱る


「それと風香ちゃんも、すぐに自分たちの演習場に戻ること、いい?」


「え!?あ・・・はい・・・」


まさか自分も呼ばれるとは思っていなかったのか、風香は一瞬身を硬直させていた


何故ばれたのか、その疑問を彼女はずっと抱えることになるだろう


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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