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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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子供の行く末

「五十嵐さんは料理が得意ではないのですか?」


「一人暮らしをしているのでお上手なのかと思っていました」


「いやまぁ作れることは作れるけど、明利みたいにちゃんとは作れないな、俺が作るのはいつも適当なものだし・・・」


静希は一人暮らし同然であるために料理をしてきた経験もかなりある、だが一人で住んでいるとどうしても料理も適当になってしまうのだ


なにせ誰に出すわけではもなく、自分しか食べないのだから、どうしても雑な料理になるのは否めない


時折雪奈が食事をたかりに来るが、その時もそこまで凝った料理などは作らないのだ


「特に栄養素とかを考えて作るのは面倒でな・・・そのあたりは明利に頼んでるんだよ、なにせ育ちざかりがいるからな」


育ちざかりと言いながら目を向けられたことでアイナとレイシャは胸を張る、今このとき現在進行形で育ちざかりなアイナとレイシャ、しっかりとした食事をとらなければ成長も止まってしまいかねない


もっとも、しっかりとした栄養と体調管理をしたうえで成長が止まってしまった人物が約一名目の前にいるわけだが、そのあたりは流しておいた方がいいだろう


「ふむ・・・料理ですか・・・私達も手伝います!」


「私達もそれなりに料理はできます!」


東雲姉妹が立候補する様子を見て静希は明利の方に視線を向ける


手伝いくらいならばいいだろうかと思う反面、問題が一つあるのだ


「それはいいけど・・・どうしようか・・・」


そう、問題とは三人では身長が足りないのだ


普段明利は足りない身長を補うために台を使っているのだが、そんなものはこの家に一つしか、明利用の物しかないのだ


東雲姉妹の身長は明利よりほんの少し下、きっと今年中には確実に抜かされるであろうこと請け合いだが、とりあえず現段階で身長が足りないのだ、そんな状態で料理ができるとは思えない


「俺の部屋の適当な箱を足場代わりにすれば・・・でも体重支えられるのなんていくつあるか・・・雪姉の家にそれらしい台とかある?あればもってきてほしいけど」


「ん、了解、一つ二つあればいいよね?ちょっと探してくるよ」


静希の家だけではそう言う類のものはあるかわからないが、雪奈の家と合わせれば台の代わりになりそうなものはいくつかありそうである


静希も自室に戻りいくつか台になりそうなものを探すが、体重を支えられるだけの頑丈さを兼ね備えているものでなければいけない


未だ三人の体重は軽いとはいえ、怪我をさせるわけにもいかないのだ


風香の能力で足場を作るのも一瞬考えたのだが、万が一暴発したら静希の家のキッチンが跡形もなく吹っ飛ぶ可能性がある、それはさすがに許容できない


静希が部屋を探していると銃の弾などが仕舞ってある小型の金庫を見つけることができる


そこまで大した大きさではなく、それほど重くない、もうこれでいいかと静希はその金庫を台所まで持っていくことにした


静希が金庫を持ってくると雪奈も家の方から足場のようなものを見繕っていた


小型の脚立のようなもので二つしか足の踏み場がないタイプのものだ、料理の足場としては十分だろう


「んじゃ今日は明ちゃんと風香ちゃんに優花ちゃんの合同料理だね、晩御飯が楽しみだ」


そんなことを言いながらソファでくつろいでいる雪奈を見て、東雲姉妹は首をかしげる


「・・・深山さんは手伝わないんですか?」


「・・・お姉さんなのに料理しないんですか?」


「え?そりゃそうだよ、私は切るあるいは食べる専門の人だもん」


全く料理ができないというわけではないのだが、雪奈は基本料理が苦手だ


それこそ静希が作るそれとあまり変わりはない、包丁さえあれば切ることはプロ並みなのだが、味付けや盛り付けのセンスがあまりないのである


明利が台所に立ってくれる日は基本的に静希や雪奈は料理の手伝いなどはしない、もちろん頼まれればやるし、後片付けは担当するが、手伝いが必要なことの方が少ないのである


明利の料理の腕はそれなり以上だ、手伝おうとするとかえって邪魔になってしまう事もあるほどである


それほどの腕に東雲姉妹がどれだけついていけるか、少しだけ心配でもあった


「ところで今日は何にするんだ?和食?洋食?」


「そうだね・・・せっかくたくさんいるし中華にでもしようか、風香ちゃんや優花ちゃんも食べていく?」


「いいんですか?」


「是非!」


どうやら今日は賑やかな食卓になりそうだと静希は苦笑する


静希、明利、雪奈、アイナ、レイシャ、風香、優花、合計七人の夕食となりそうだ


それなり以上の量になるだろうが、それほどの量をあの三人が作るのかと考えると一瞬本気で大丈夫だろうかと心配になってしまう


そして何よりトランプの中に未だ居続けている人外たちがそわそわし始めている


恐らくそろそろ外に出たいのだろう、普段は家に帰ると同時にトランプの外に出るような生活をしているのだ、それを止められているというのは多少むず痒さを感じているのだろう


今日の夕食が終わるまでの辛抱とはいえ、なかなかに時間がかかるだろう


せめてもの暇つぶしにとりあえず各トランプの中に携帯ゲーム機を入れてやり、お茶を濁すことにした


夕食が終わるまでこの妙な状態は続き、静希は非常に落ち着かない時間を過ごしていた










「それではお邪魔しました・・・夕食までごちそうになり・・・」


「今日はありがとうございました、おやすみなさい」


「あぁ、美味かったよ、本当に送っていかなくて平気か?」


静希の申し出に大丈夫ですと東雲姉妹は元気よく返事をした後にそのまま家へと帰って行った


また遊びにおいでねという雪奈の声を背に受けながら走り去る二人を眺めながら静希は大きく、そしてゆっくりと息をつく


扉を閉め、鍵をかけると同時にトランプの中から人外たちが我先にと飛び出してきた


「あの子たちもずいぶんと面白い話をしてたものね、つい笑っちゃったわ」


「メフィストフェレス、人の間違いを笑うのはどうかと思うぞ、人は必ず間違いを犯す生き物だ」


「ですが、確かにあの間違いは微笑ましくもあります、やはり背伸びしていてもまだ子供なのですね」


「あの子たちもエルフなのですね・・・なんというか、奇妙な縁を感じます・・・」


それぞれの人外たちの反応に苦笑しながらも、静希はリビングに戻り自室のナイフを元の位置に戻しておくことにした


また妙な勘違いをされても困る、もうナイフなどを見ても問題がないだろう、もしこれで静希がそう言う類のものを部屋に飾り付けているなどという噂が立ったらそれこそ目も当てられない


教育上よろしくないのは間違ってはいないのだが、その意味合いが大きく変わってくるだけに避けたいのだ、最悪変態扱いされてもおかしくない


「ミスターイガラシ、本日はすいませんでした」


「ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」


「いや、気にするな・・・今回のあれは運が悪かっただけだ、これからも前もって言ってくれれば誰かを呼んでいいぞ、今回の留学はお前達の為でもあるんだからな」


二人の頭を撫でながら静希は苦笑する、本来子供というのは自然体であるべきなのだ、大人に気を遣うような子供にしてはいけない


アイナとレイシャは良くも悪くも普通の子供としての生活ができなかった、だからこそエドは少しでも普通の生活ができるように、そして普通というものを教えるために留学という手段をとった


学校という『普通』であれば多くの人間が通うであろうそれを教えるために、そして可能ならば通いたいと二人が思ってくれるように今回の機会を用意したのだ


静希もその意味とその大切さを理解できる、だからこそ今回全面的に協力しているのだ


この子たちが将来どのように成長するかはさておき、その手助けくらいはできればと、そう思うのだ


良くも悪くも『普通』という枠組みから外れた子供、エドはそれをまたもとの枠組みの中に戻そうとしている


彼の本来の目的から考えれば、むしろそれをしない方が良いのだろうが、それができないのは彼の優しさゆえだろう


孤児たちを引き取り、知恵を授け、自らの会社の社員にする


そのサイクルを繰り返すことができるようになることこそエドの最終目的だ、一つのシステムを作り出すと言えばまだわかりやすいだろうか


孤児を保護し、教育を施し、社会人となったら会社に雇いそこから得られた金のいくらかをまた教育などに必要な人件費に充てる


言葉にしてしまえば簡単なものだ、だがそれをするのは容易ではない


それこそ洗脳に近い徹底した教育がなければ成り立つ前に瓦解するのではないかと静希は考えていた


だがエドはそれをしない、そんなことはしたくないと心の底から思っているのだ


はっきり言って、エドは甘いのだ、情が深すぎると言ってもいい


もし彼が静希のように目的のために手段を選ばないような性格であったのなら、もっと別の方法をとっただろう、必要な情報しか与えず、考える力を特定の事にのみ絞る、まるで生きた人形のように育て上げるはずだ


その方が効率がいい、反逆させることもなく、離反させることもなく、ただの手足として、ただの駒として生かすならばそれ以外の生き方を教えなければいい


ボスの言う事に従う、それ以外の生き方を教えず飼い殺しにするような教育をすればいい


そうすればエドの目的とする会社、そしてシステムは比較的スムーズに出来上がるだろう


理想だけで出来上がるほど世の中は甘くない、特に子供を相手にしなければいけないだけにその難易度は高いのだ、それならば相手を子供と思わず、あくまで商品としてみたほうがいくらかは楽になる


だがエドが目指しているのはそんなものではないのだ、そんなことをして得られるようなものではないのだ


静希がとるような手段で、静希が選ぶような方法で得られるものは、エドは絶対に望まないだろう


だからこそエドは苦労している、遠回り過ぎる道程を歩き続けている


今ここにいる二人が、エドの目指すシステムの種というべき二人がいつまでエドの下にいるかも定かではない


だがそれでも、それを理解したうえで、むしろそうあってほしいと願うかのようにエドはアイナとレイシャに、何もかもを教えようとしている


自分の手の内で育つ未来も、自分から巣立つ未来も、全て見据え教えたうえで選択させようとしているのだ


エドは甘い、だがだからこそ放っておけないのだろう、ヴァラファールが今もエドと共にいるのは、その甘さゆえなのかもしれない


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