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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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勘違いの終わり

「で?何であんなところに挟まってたんだ?」


ひとまず静希は学校のカバンなどを置いた後、東雲姉妹を引っ張り出すことにした


引っ張り出された後二人は随分と慌てふためいていたが、しばらくすると自分たちがとった行動がいかにばからしいものだったのかを自覚したのか、恥ずかしそうに顔を伏せていた


自分でも何であんな行動をとったのか理解できないのか、妙な声を上げているのが非常に印象的である


東雲姉妹は優秀だ、能力面でもそうだが頭もよく、この歳にしては落ち着いた性格をしていると静希は認識していた、だからこそあんな行動をとったというのがとても意外だったのだ


「あれは・・・お願いですから忘れてください・・・」


「あれは・・・違うんです・・・何かの間違いです・・・」


一体何が違って何が間違いだったのか静希達にはわからなかったが、自分たちがかなり混乱していたことは理解しているようで必死に弁明しようとしていた


だがその弁明も未だ混乱が続いているのか、それとも処理能力が戻っていないのか要領を得ないものになってしまっている


東雲姉妹が許容量を超えるとこういう風になるんだなと少しだけ新しい一面を見た静希はとりあえずアイナとレイシャに話を聞くことにした


「とりあえず何でこいつらこんなにテンパってるんだ?一体何話してたんだよ」


「何と言われましても・・・話していたのは・・・そうたいしたことではありませんよ」


「先日ミスシノノメたちを招くにあたりミスターイガラシがお部屋を片付けたという事と、あの類のものは私達にはまだ早いという事を」


その言葉に静希は思考する


静希が昨日片付けたものというと部屋に飾ってあったナイフの類だ、確かに小学生には少々早いように思える武器も中にはあった、そうおかしい話ではないがその話でこんなに東雲姉妹が処理能力を落すほどに追い込まれるとは思えない


「本当にそれだけか?それにしてはこいつら随分ヤバそうな感じだけど」


「とは言いましても・・・あぁあとはミスミヤマやミスイスルギにあれらを貸したことがあるという話もしました」


「ですがこの話をする前からだいぶ動揺していたようですし・・・何か別のことがあったのではないかと」


何かあるのだろうがアイナとレイシャの言葉を聞く限りそこまで問題はないように思える


ナイフの貸し借りくらい何の問題もないように思えてしまう、となると一体何が原因だろうか


よもや東雲姉妹がナイフのことをいかがわしい物品と勘違いしているとは夢にも思っていないのだ、なにせ小学生がそんな会話内容を行うはずもないという先入観があるのである


「そのくらいなら別に大した事でもないだろ、鏡花にだって貸したことあるし・・・っていうかあいつだったら自分で作ることもできるしな」


「「え!?作るんですか!?」」


「あ、あぁ、あいつ結構いろいろできるからな」


思いきり反応した東雲姉妹に静希は若干驚きながらそう答えていた


鏡花はナイフや剣くらいならば容易に作ることができる、そう言う意味で言ったつもりだったのだが東雲姉妹の頭の中では別の光景が浮かんでいた


鏡花がいかがわしい本などを自分で描いていたり、そう言った道具を自分で作っていたりと、今までの彼女のイメージをすべて崩壊させかねない光景である


まさかそんな、でも静希が言うのであれば本当なのかもしれない


そんなことを考えながら東雲姉妹は大人という存在がよくわからなくなってきたのか強いめまいを覚えていた


「あ・・・あの・・・五十嵐さん・・・五十嵐さんはその・・・そう言うものをよく使ってるんですか・・・?」


「え?あぁまぁな、最近はちょっと種類が変わったけど、基本的にはよく使うよ」


「そ・・・そうなんですか・・・」


静希の言葉に東雲姉妹は顔を背けて体を震わしている


使うものがナイフから銃や釘などに変わったとはいえ静希はかなり武器を多用する、そう言う意味で言ったつもりなのだが東雲姉妹は全く違う内容で捉えているらしかった


なんだか話がうまく通じていないような気がする、いや自分の認識と東雲姉妹の認識が異なっている気がすると感じた静希はふむと小さく息をついた後で自分の部屋の扉を開く


「そんなに気になるなら見てみるか?」


「「え!?」」


「いや、気になるんだろ、使うのはあれだけど、見るくらいならいいだろ」


静希のまさかの申し出に東雲姉妹の頭の中は再度大パニックを起こしていた


静希のそう言った物品、一体どのようなものがあるのだろうかという好奇心と、そんな汚れた部分など見たくないと思ってしまうその二つの気持ちに二人はかなり揺れていた


「ミスターイガラシ、よろしいのですか?」


「教育上よろしくないのでは?」


「まぁそうかもだけど、見て危ないってことだけわかっておけばいいんじゃないか?」


危ないと思ってしまうような内容なのだろうかと東雲姉妹は震えが止まらなくなってしまっていた


見せられるだけならまだいい、もしかしたらこの場で自分たちの純血が散らされるような展開になってしまうかもしれない


東雲姉妹は震えを抑えられなかった、だが同時にどこか期待もしているのだ


そしてそんな二人の誤解が解けるのは、静希が部屋から武器の入ったケースを持ってきてから数十秒後のことである













「あはっははははははっははははははははははっはははははは!ひーふふふふふふふふははははははは!」


「そ、そんなに笑わないでください!」


「か、勘違いくらい普通にあるじゃないですか!」


二人が勘違いしていることに気付き、慌てふためく二人を見ての静希の反応は腹を抱えての爆笑だった


呼吸困難に陥るのではないかと思えるほどに笑い続ける静希に東雲姉妹は抗議の声を上げているが、その声も静希の笑い声にかき消されてしまっていた


「いや・・・いやごめ・・・ぶっふぉあははははっははははははは!」


「う・・・うぅぅぅぅ!アイナちゃん!何とか言ってください!」


「い・・・いえ・・・その・・・私としてもぷす・・・どういったらいいものかくす・・・」


アイナも必死に笑いを隠そうとしているのだが、言葉の節々から漏れる笑いを隠しきれずにいた


「い・・・いやぁ・・・風香と優花はおませさんなんだな・・・ふはは・・・!ナイフを・・・!そう言うものと勘違いか・・・くはははははは!」


「あぅぅううう!レイシャちゃん!元はと言えば意味深な言い方をしたのが原因です!何か弁明を!」


「いえ・・・その・・・さすがの私も・・・フフ・・・これはちょっと許容範囲外というものでフフフ・・・」


アイナと同じくレイシャも笑いを抑えようとしているのだがまったく抑えられていない、それどころかむしろ笑ってしまっているせいで視線を合わせようとしていなかった


自分たちが一方的に勘違いしていたためとはいえ、ここまで恥ずかしい思いをしたのは何時振りだろうか、しかも憧れの静希の前で


「そうか・・・そりゃ・・・石動達にそんなもんを貸してると思ったらショックも受けるよな・・・!それに鏡花に至っては自作できると・・・!ぶふぅぅぅうあはははは!」


あまりに笑いすぎたせいか、静希は僅かに体を痙攣させ始めている、あまりにも呼吸を激しく行って笑っているために腹まで痛くなってきた始末である


これこそまさに腹筋崩壊と言われる状況なのだろう、静希はそれを身をもって体感した


「う・・・ぅうぅぅ!五十嵐さんは意地悪です!人のちょっとした間違いを!」


「そうです!勘違いくらいは誰にでもあるものです!そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」


「そ・・・そうだな・・・確かに勘違いは誰にでもぶふぉ・・・!」


どうやら東雲姉妹の勘違いが完全につぼに入ったのだろう、普通に会話することも難しい程に静希は笑いを止められなくなってしまっていた


そんな中インターフォンが鳴り響くとこの状況に居た堪れなくなったのかアイナとレイシャが自主的に玄関の方へと向かっていった


「ヤッホー静遊びに来た・・・ってなんでそんなに笑ってんの?」


「し、静希君・・・どうしたのそんなに笑って」


やってきたのは明利と雪奈だった、明利は今日の夕食を作りに、雪奈は普通に遊びに来たのだろう、リビングで笑い続けている静希を見て二人ともきょとんとしていた


「あ、明利、雪姉・・・丁度いい、聞いてくれよ、実は」


「ダメです!話しちゃだめです!」


「内緒にしてください!絶対話しちゃだめです!」


風香と優花に羽交い絞めにされそうになるが、軽く躱しながら静希は笑いを抑えながら明利達の元にたどり着く


「いやでも二人とも、こういう面白いことは笑って忘れるのが一番だって、変に気にさせると長いぞ?」


「それではだめです!絶対ダメです!」


「女の子の会話を話すなんて絶対ダメです!」


彼女たちからすれば絶対に話してほしくない内容なのだろうが、静希がここまで大爆笑しているという内容なのだ、明利と雪奈としては非常に興味がわいてしまっている


一体どんな内容なのだろうか、東雲姉妹が話されるのを嫌がっているという事は彼女たちのことなのだろうが、ここまで嫌がるというのは正直驚いた


恐らくかなりプライベートな内容まで入り込んでいるのではないかと思えてしまう


「あの静希君、ここまで嫌がってると・・・興味はあるけど聞くのは気が引けるというか・・・」


「ん・・・でも気になるな・・・静がこんなに笑うなんて・・・ねぇ、ちょっとだけでいいからお姉さんたちに教えてくれないかい?」


「「ダメです!」」


東雲姉妹の申し出にえー・・・と雪奈は残念そうにした後で静希の方を見る


気になるのだがこのままでは話してくれないだろうことを理解して何とか説得して欲しいようだ


静希としても嫌がっているのなら話すつもりはないが、それなら話してもしょうがないと思わせればいいのである


「なぁ風香、優花、たぶんこのままだと俺はお前らが帰った後に話しちゃうぞ、それこそいろんな人に」


「「そ・・・そんな・・・!」」


「だったら、今話してここだけの話っていう風にすればいいじゃんか、どうせもう知られかけてるんだ、ここだけの話、これ以上は部外秘ってことで、どうだ?」


明利と雪奈がこの場に居合わせてしまったのが運の尽き、ならばここだけでの話題として盛り上げてあとは忘れようと、そう言う話である


東雲姉妹からすればそれも許容しがたかったが、もしこの話が石動の耳に入れば、きっと一生からかわれるだろう、それは避けなければならない


「・・・わ・・・わかりました・・・」


「でも他の人には絶対言わないでくださいね!」


東雲姉妹の許可は取れた、それではと静希は自らの内から湧き上がる笑みを堪えながら明利と雪奈に今回のことの顛末を話し始めた









「あははははっははっはあはははっはあっはははははははふひひひっははははははは!か、かわぃいなぁもう!なるほど!静がそう言うものを持ってるどころか飾ってると思ってドキドキしちゃったんだ!」


「ふふふふふ・・・で、でも結構深刻な・・・内容だよね・・・ふふ・・・」


雪奈は全く躊躇いもせずに笑いながら東雲姉妹を抱きしめ、明利は必死に笑みを堪えようとしているのだが、全く堪えられていない


普段真面目で頭の良い東雲姉妹がそんな勘違いをして混乱しているという状況と鏡花や石動達を巻き込んだ想像をしたのだろう、口元に手を当てて口角の歪みを隠していた


「まぁな、でも確かに自分の知り合いにそう言うもんを貸してると思ったら・・・そりゃショック受けるわな」


「いやぁ私としてはフフフ・・・貸し借りどころか鏡花ちゃんがそう言うのを自作してるってのが・・・くはははツボだなあはははははは!」


鏡花が漫画を描くときのような道具一式を用意してそう言った類の本などを執筆している様子を想像したのか、雪奈は未だに腹を抱えている、どうやら相当笑いのツボに入ったようだった


確かに鏡花がそんなことをしているところを想像すると不思議と笑みが湧き上がってくる、彼女の場合変換能力で作れそうなものだが、実際に描いている場面の方が笑えるのは確かだ


「でもアイナ、レイシャ、お前達も悪いぞ、しっかりと名称を言わないと今回みたいな勘違いを生む、次回からは気を付けような」


「はい、気を付けます」


「ミスシノノメ、申し訳ありませんでした」


アイナとレイシャは東雲姉妹に謝るが、思い切り笑われたことで二人はすっかり拗ねてしまっていた


笑いすぎただろうかと静希は若干申し訳なくなるが、その二人を抱いている雪奈は依然として笑い続けている、あれをどうにかする必要があるかもしれないがそれを見守っている明利も若干笑ってしまっている


これはもう少し時間が経つか、話題を変えなければこの状況は変わらないだろう


「そ、そもそも五十嵐さんは何であんなに武器をたくさん持ってるんですか!あれがなければ勘違いだってしなかったのに」


「そうです!しかも何であんな風に飾ってあるんですか!紛らわしいです!」


どうやら笑われた怒りの矛先を静希に向けるつもりのようで東雲姉妹は憤慨している


確かに静希の部屋は大量の武器が飾ってある、実際は飾ってあるのではなく壁に置いておくことですぐに取り出せるようにしているだけなのだが、確かにあれでは飾ってあるととられても不思議はない


「いやまぁ、俺が普段から武器をたくさん使うってだけで・・・雪姉の部屋にもたくさん飾ってあるぞ」


「しかもうちにはいろんな種類があるよ、ナイフだけじゃなくて刀とか槍とか・・・二人はそう言う風に勘違いしちゃったんだもんねー」


たくさん、いろんな種類のいかがわしいものが飾ってある部屋


想像しただけで眉間にしわが寄ってしまうが、雪奈は二人を抱きしめながら笑い続けている


きっとこのことは一生からかわれるんだろうなと思いながら東雲姉妹はどうにかして話題を逸らすことができないかと頭を回していた


同じ内容の話をしても恐らくからかわれるのは必至である、ならば別の話に持って行くのが一番だ


「そ、それよりも、深山さんたちは五十嵐さんのおうちになにをしに来たんですか?」


「お二人もガールズトークですか?」


上手く話を逸らしたなと思いながらさすがにこれ以上からかい続けるのは不憫だと思ったのか、雪奈もその話に乗ってくれるようだった


「んー・・・私はアイナちゃんとレイシャちゃんに会いに来たっていうのもあるかな、明ちゃんは今日の晩御飯を作りに来たんだよ」


「静希君が作ると栄養バランスが悪くなりそうだからね、一週間は私が作ることにしたの」


二人もようやく笑いが収まったのか、僅かに目からこぼれた涙をぬぐいながらそう答えていた


これ以上笑うと嫌われかねない、別の話題にした方がいいと思ったのだろう


「お二人はアイナちゃんやレイシャちゃんと前々から交流があったんですか?」


「そうだよ、お仕事の関係で時々静の家に泊まりに来てたからね」


「そう言えば二人の保護者の方と交流があったとか・・・どういう方なんですか?」


「えっと・・・なんて言えばいいかな・・・」


エドとの関係をどのように説明すればいいのか、明利は静希に助け舟を求めた


さすがに悪魔の契約者同士という事を言うわけにはいかない、だがそれ以外に静希とエドを結ぶものがあまりないのも確かなのだ


「えっとだな、俺の父親が貿易商で、アイナとレイシャの保護者が輸送業をやってるんだけど、その関係で結構仲良くなってな、何度か日本に来た時に案内したことがあるんだよ」


嘘は言っていない、事実エドは静希の父親と遭遇し仲良くなったという経緯を持っている


そして静希は以前エドが日本に来た時少しだけだが案内をしたことがある、何一つ嘘は言っていないのだ


その回答に東雲姉妹はそうだったんですかと納得しているようだった


本当はその前に幾つか出会いの発端ともいうべき事件などがあったりしたのだが、そのあたりは話さない方がいいだろう


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿


すれ違いネタは難しいですね、書いてみてその難しさがわかりました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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