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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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小さな少女の大きな勘違い

「私達は何度か見たことがありますよ、部屋に飾ってありましたから」


「飾ってあったんですか!?」


「はい、それはもうたくさん」


「たくさん!?そんなにあったんですか!?」


ここに完全なる勘違いとすれ違いが発生する


アイナとレイシャは静希が片づけたものが武具の類であると認識し、東雲姉妹は静希が片づけたものがいかがわしいものであるという認識を持っている


この場に他の誰かがいたら確実にこの会話そのものを止めたのだろうが、残念ながら今この家にいるのはアイナたちだけなのである


「え、えっとその・・・その飾ってあったものは・・・詳しく見たこととかは・・・」


「はい、ミスターイガラシに何度か見せてもらいました、飾っているものの中には頻繁に使うものもあるようで」


「頻繁に!?使う!?」


「えぇ、頻繁に使うものは取りやすい位置においているのだとか、そのあたりはさすがですね」


アイナとレイシャの発言に東雲姉妹は今にも顔から火が噴き出そうな状態だった


自分の憧れの人の赤裸々な事情など知りたくはない、知りたくないはずなのに耳を傾けてしまう


しかも自分が考えていたよりもずっと生々しい、というかアイナとレイシャの露骨な表現にめまいさえ起こしていた


実際は実習などでよく使うナイフを取りやすい位置に飾ってあるだけなのだが


「あぁそう言えば、ミスミヤマもよく借りに来ると言っていました」


「借りに来るんですか?深山さんが!?」


「はい、ミスターイガラシはそろそろ自分で用意しろと悪態をついていたようですが」


「それでも貸してしまうんですか!?す・・・すごい関係ですね・・・」


実際嘘は言っていない、雪奈はよく静希にナイフを借りに来る、その度に静希にそろそろ自分で用意するように小言を言われている


だがこれを東雲姉妹視点で考えてみると、かなりいろいろおかしいことになりかねない


なにせ男性がもっているようないかがわしい何かを借りに来ているのだから、明らかに痴女の行動のように思えてしまう


静希の姉貴分という事もあり、何度か一緒に遊んでもらったり訓練してもらったりしたものだが、まさか雪奈がそんな人だったとは思わなかっただけに東雲姉妹は衝撃を隠せなかった


「そう言えばミスミヤマの家にもたくさん飾ってありましたね、しかもかなりたくさん」


「え!?深山さんの家にもですか!?」


「はい、しかもミスターイガラシがもっているそれよりもかなり種類が豊富でした」


「種類が豊富なんですか!?・・・あ・・・あの人が・・・そんな・・・」


自分たちに良くしてくれていただけに、静希と雪奈の隠れた一面を知ってしまい東雲姉妹は愕然としていた


静希のそれと違い雪奈のそれは種類も豊富


二人の頭の中では部屋中にいかがわしい本や道具などを飾ってある静希と雪奈の部屋がイメージされつつあった


それも歳のせいか、あまり鮮明なものではないとはいえ二人にとってかなり深刻なダメージとなってしまっていた


「・・・あ、あの、そう言う類のものは・・・五十嵐さんや深山さんだけがその・・・使っているんですか?」


「ほ、他の人に・・・貸したりとかは・・・」


東雲姉妹の言葉にアイナとレイシャは今まで静希に聞いた言葉を思い出していた


他愛ない話もする中で何度か聞いたことがある、ナイフの類は陽太や鏡花、そして石動にも貸したことがあると


「結構いろんな方に貸していたそうですよ、ミスターヒビキ、ミスシミズ・・・そして・・・えっと・・・」


「そう、確かミスイスルギという方も使ったことがあるとか言っていた気がします」


「え!?石動・・・!?石動!?」


「そんな・・・まさかそんな・・・!藍姉さんが・・・!?」


石動という苗字など他にいくらほどいるだろうか、しかも静希の知り合いで石動と言えばただ一人に限られる


それはだいぶ前の話だ、石動がナイフの訓練を雪奈から受ける時にナイフを貸したことがある


あの時雪奈が石動と鏡花に渡したナイフはもともと静希の持ち物だったのだ、そう言う意味では確かに使ったことになるだろう


ナイフを使ったと言えばそこまで気にするような内容ではない、だが東雲姉妹の考えているようないかがわしい内容のものを石動も使っているという事実に二人は大きく動揺していた


それこそ一種のめまい、貧血にも似た症状が出るほどに


「そんな・・・そんな・・・!」


「あぁ・・・なんてことですか・・・!」


今まで尊敬していた姉貴分である石動が静希からいかがわしいものを借り、しかも使っていたという事実に二人は打ちひしがれているようだった


勘違いだという事は明白だ、だがこの場にいる誰もがそのことに気付いていない


言葉が足りていないというのもあるのだが、それよりも互いの認識が違いすぎるのだ、そこがこの勘違いの始まりと言えるだろう


そんな様子を見てアイナとレイシャは首を傾げた後で顔を近づけて内緒話を始める


「なぜミスシノノメはここまでショックを受けているのでしょうか、そんなに気に障るようなことを言ったでしょうか?」


「わかりません・・・もしかしたら日本のエルフの掟とやらがあるのかもしれません、実はその禁を破ってしまったのでは・・・?」


アイナとレイシャの知り合いにはカレンというエルフがいるが、日本のエルフの事情に関してはほぼ何も知らないに等しい


日本のエルフは仮面を常時付けているくらいしか知らないのだ、実際には身内の前では仮面を外しているらしいのだが、そのあたりはアイナとレイシャが知る由もない


「どうしましょう・・・そうなると私たちは話してはいけないことを話したのでは?エルフの掟は厳しいものと聞きます・・・」


「・・・こうなったらできるだけのフォローをしましょう、少なくともこんな状態で居させるわけにはいきません」


アイナとレイシャは同時に頷いて打ちひしがれている東雲姉妹を励ますべく努めて明るい声を出そうとした


「そこまで気に病むことはありません、少し変かも知れませんが、一般的に見ればそのくらいは普通のことです」


「・・・普通・・・なんですか?」


「えぇそうです、それが変とかおかしいとかそういう事は無いんです!」


「そう・・・でしょうか・・・」


アイナとレイシャは人が武器を持つことに関して、そしてエルフの掟というものに関してのことを言っているのだが、東雲姉妹はいかがわしいものを持ち、さらにそれを使うという行為に関してのことを言っている


武器を持つこと自体が一般的ではないかもしれないが、能力者の世界では何も不思議ではない


むしろ武器を持たない能力者は子供くらいのものだ、ほとんどの大人の能力者は武器を持つことが当たり前のようになっているのだから


「ですがその・・・そういう事をするのが普通というわけではありませんよね?私の村・・・実家ではそう言うのはあまりないように思えたのですが・・・」


「詳しく探したというわけではないので・・・もしかしたらあるのかもわかりませんけれど・・・」


東雲姉妹の言葉になるほどとアイナとレイシャは頷く


エルフの家であれば別段武器の類がないとしても不思議はない、エルフは能力こそ一番だと思っている節がある


最近ではそれも変わってきている、特に今の子供の世代からは徐々に武器に慣れ親しむものも出てくるだろう


もっとも、東雲姉妹は全く別の話をしているわけだが


「子供の見えるところにそう言う類のものを置くわけにはいきませんよ、もしあるとしたらどこかに隠してあるんでしょう」


「普通とは言いましたが、やはり隠しておくに越したことはありません、大仰に見せびらかすものでもありませんから」


ミスターイガラシのように一人暮らしなら部屋に飾っておいても問題はありませんがと付け足すとアイナとレイシャは複雑そうな声を絞り出していた


「子供の私たちはあまりそう言うものを見る機会も使う機会もないかもしれませんが、大人になれば自然とそれが普通になっていくのです」


「大人になっていくにつれて・・・?」


日本では特別な理由がない限り子供に強すぎる武器を持たせるのは危険と判断し、自らの力で入手できるもの以外は禁止となっている


だからこそ静希は銃を手に入れるのに苦労していたのだ


東雲姉妹は武器ではなくいかがわしい何かのことを想像しているために赤面してしまっているが


「そうです、今は禁止されているかもしれませんがミスターイガラシの予想によると、世代の移り変わりとともにそう言ったこともあまり気にしないようになるのではないかと」


「・・・え?移り変わり?え?」


「ミスターイガラシの話では恐らくミスシノノメたちが大人になるころにはそう言った掟は無くなるのではないかと言っていました」


「え?無くなる・・・?え?」


自分たちの村の掟で、そのようないかがわしいことがさも当然のように許容されるようなことになるのだろうかと考えると、東雲姉妹はぞっとした


しかも静希がそんな予想を立てているあたり何かしらを企んでいるのではないかとさえ思えてくる


アイナとレイシャが言っているのはエルフの村の掟のことに関してだ、昔の風習が残っているとはいえそう言った堅苦しい掟は世代の移り変わりと同時に廃れていくものだと静希は考えていた


だがこの場面でその話をすると非常にややこしいことになるのは言うまでもない


「それにそのような類のものを持っていたからと言って、仮に使ったからと言ってその人の価値が下がるなどという事は無いでしょう?」


「むしろそう言ったものを使うことで自らを高めることもできるはずです、技術も高められますから」


正論の後に妙な言葉を混ぜられたことで東雲姉妹は言葉を返すことができなくなっていた


自らを高めるという意味深な言葉にもともと赤かった顔をさらに赤くしている、仮面をつけていても分かるほどに耳まで真っ赤になってしまっているのだ


確かに普通なことなのかもしれない、特に思春期の男女ならその程度のものを持っていても不思議はないのではないかと思えてならない


自分達だってそう言う類のことに興味くらいはあるのだ、だからこそ頭から否定するのは間違っている、自分たちがそれをするかどうかはさておき、受け入れるくらいの度量は必要なのではないかと思い始めていた


そんな話をしていると、家の鍵が開く音がする、どうやら静希達が帰って来たようだった


「あ、ミスターイガラシがお帰りのようですね」


「いつの間にかこんなに時間が経っていたんですね・・・」


アイナとレイシャが静希を迎えに玄関に向かっている間、東雲姉妹の頭の中は数年に一度と言っていいほどの大パニックを催していた


先程までの会話を聞いたうえでいったいどんな顔をして静希と会えばいいのか、仮面をかぶっているのだから顔などわかるはずもないという事を理解できるだけの余裕も二人にはなかった


静希がそう言う類のものを所持し、何よりよく使い、誰かに貸し与えもするという事実


そしてその中の一人が自分たちの姉のような存在だったという事実に動揺を隠すことができない


今あったらどんな反応をしてしまうのか、少なくとも穏やかに世間話などできるような気は全くしなかった


互いに視線を合わせるような余裕もなく、風香と優花はパニック状態の頭で必死に考えようとしていた


第一声は何というべきだろうか、部屋のことについて聞くべきだろうか、いやそれよりも前に石動のことについて聞くべきではないだろうか、そもそもそんなにたくさん持っているのか


そんな疑問と行動の選択肢を次々と頭の中で巡らせる中、ただいまーという静希の間延びした声が聞こえてくる


時間にして数秒もまだ経過していない、まだ考えることはできる


だが時間は無い、玄関から今自分たちがいるリビングまで歩いて数秒程度しかない


そんなことを考えていると玄関の方からこんな会話が聞こえてくる


「ミスシノノメがいらっしゃっているのでリビングをお借りしています」


「あぁ、風香と優花来てるのか、やっぱり部屋片付けてよかったな」


「そうですね、そうかもしれません」


部屋を片付けた、そのワードが聞こえてきた瞬間に東雲姉妹は同時に立ち上がる


このままいたらまずい、明らかに挙動不審なさまを静希に見せてしまう


というか今静希の顔をまともに見られる気がしなかった、こんな挙動不審な状態を指摘されたら一体何を聞かれるかわかったものではない


どこかに隠れなければ


ここで帰るという選択肢が思い浮かばないあたり、この二人がかなり混乱しているという事がわかる、ここで帰れば何とかやり過ごせるかもしれないのに、隠れるという選択肢を選んでしまった時点で静希をやり過ごすことはまずできなくなってしまった


そして隠れるという選択肢を選んだはいいものの、東雲姉妹の頭は稀に見るほどの大パニック状態、隠れるにしろまともな隠れ場所を見つけられるはずもなかった


「ただいまっと・・・ってあれ?風香と優花は・・・?」


リビングにやってきた静希は周囲を見渡すが、一瞬二人の姿を見つけることができなかった


だがそれも一瞬だけだ、静希が所有している機械の隙間に丸まっている何かと、パソコンとソファの間に挟まっている何かの姿を見つけることができる

どちらも頭は隠れているが下半身が全く隠れていない


まさに頭隠して尻隠さず状態である


隠れているつもりのこの二つの何かが東雲姉妹であると気づくのに時間は必要なかったのだが、何故二人がこのような行動をとっているのかというのは全く理解できなかった


ひょっとしてかくれんぼをしている途中に自分が帰ってきてしまったのではないかと思ったのだが、あんな見つかりやすい場所を隠れ場所に選ぶとも思えない


それにリビングのテーブルにはお菓子や飲みかけの飲み物なども置いてある、確実にかくれんぼをしていたという事は無いだろう


どう反応するべきか


ひょっとして何か悪戯だろうか、隠れた後で驚かそうとしているのだろうか

そんなことを考えていると後ろからついてきたアイナとレイシャもこの状況を目にする


そして静希と全く同じような反応をしていた


先程までいっしょに話していたというのに何故二人はあんな場所で挟まっているのだろうかと


もはや隠れているではなく、挟まっていると考えるあたり、どれだけ二人の隠れ方がお粗末であるかがわかる瞬間である


「・・・一応聞いておくけどさ・・・かくれんぼとかそういう事じゃないよな?」


「はい・・・先程まで普通におしゃべりしていました」


「何故あんな場所に挟まっているのでしょう・・・私達にも何が何だか・・・」


自分たちは先程まで普通にしゃべっていたはずだった、なのに数十秒間目を離したら話していた二人が家具などの間に挟まっていた


一体何を言っているのかわからなくなりそうだが、彼女たちも意味が分からなかった


この行動にいったい何の意味があるのか、そして隠れているつもりの彼女たちは一体何がしたいのか


こんな変な行動をするような子じゃなかったはずなんだがなと、静希は隠れているつもりの二人に目を向けて首をかしげる


どう反応すればいいのか、どう声をかければいいのか


何を意図しているのかもわからず、何がしたいのかもわからない


静希もアイナもレイシャもこの状況にどのような行動をとればいいのかわからず、数分間その場で立ち尽くしてしまっていた


ブックマーク登録件数が3500突破したのでお祝いで1.5回投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです



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