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J/53  作者: 池金啓太
三十一話「その場所に立つために」

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東雲姉妹静希の家へ

「なるほど・・・それでとことん目立ってしまったわけですね・・・」


「はい・・・失敗でした・・・」


給食が終わった後の昼休み、アイナはレイシャに報告するべく廊下で話し合っていた


互いに授業中にあったことを報告し、情報を共有するためでもある


風香に勝負を挑まれたせいもあって、あの後の訓練は徹底的に彼女と組手をし続けた


普段風香とまともに組み合える人間などいなかったのだろう、最後の方にはギャラリーのように同級生たちが眺めている始末だった


目立たないようにと思っていたのだが、これでは完全に逆効果である


「ミスターイガラシの話ではミスシノノメはそこまで好戦的な性格ではないと伺っていましたが・・・どうやら存外荒事が好きなのかもわかりませんね」


「どうでしょう・・・同学年で同じだけの実力を持っているものに出会えてうれしいのではないでしょうか?あれは戦いたいだけとは少し違う気がします」


東雲風香は石動に指導を受けているとはいえその性格までも引き継いでいるわけではない


もっとも石動自体もそこまで好戦的というわけではないが、自分の力を全力で使える相手がいなかったことでフラストレーションがたまっていても不思議はない


エルフというのは精霊を宿す関係で幼いころから高いレベルの指導を受けることが多い、すでにエルフだけの指導というのはこの近辺では失われてしまっているが、石動による直接の指導という形で他の子供たちとは違う指導体系をとっているのだ、レベルが異なって当然と言えるだろう


アイナとレイシャも、エルフとは違うがまた少々特殊な指導体系をとっている


朝は静希や明利と一緒にランニング、昼には学校で授業、夜は静希や雪奈と訓練


はっきり言ってかなりのハードスケジュールだ、加減してくれているとはいえ小学生にやらせるようなものではない


年上からの個別指導というのはそれだけ重要なのだ、特にアイナは静希から、レイシャは雪奈からそれぞれ技術指導を受けている


アイナには静希の隠密行動や相手の意識を逸らせる術を、レイシャは雪奈の剣術や武器などの技術を


能力を加味しそれぞれの特性を考えたうえで指導を始めている、豪華な指導状況と言っていいだろう


「ともかく、あまり目立ってしまうと今後に響きます、少し自粛してください」


「えぇ、分かっています、そちらも気を付けてください、たぶんですがすでにフーカからユーカへ話が通じている可能性があります」


自分たちがそうしているのと同じく、双子である風香と優花も情報を共有しているとみて間違いないだろう


自分たちに良くしてくれている二人のことだ、自分たちの情報を教えていても不思議はない


「確かレイシャの方は次の時間に訓練でしたね」


「はい・・・私はぼろを出さないように努めるつもりです・・・時にアイナ、フーカの実力はいかほどのものでしたか?」


レイシャの言葉にアイナは口元に手を当てて悩みだす


あの時本気で組み合っても勝負はつかなかった、確かに風香は同級生の中で頭一つ、いや二つほど飛び出ている実力の持ち主だ


だが今まで自分たちが戦ったことのある中では最も弱い部類に入るだろう


「・・・レイシャなら、恐らくは組み伏せるのも可能だと思います」


「・・・なるほど、おおよそ把握しました」


アイナはレイシャと違い中衛から後衛に部類する人間だ、逆にレイシャは前衛型の能力と実力を有している


アイナが苦戦できる相手ならば、十分に戦える、仮に勝負を挑まれても問題なく対処ができるだろうと考えていた


組み伏せることができるのであれば、逆に手加減をする程度の余裕もできる、もちろんそれを気づかせないようにするのは難しいだろうが、自分からピンチを演出すればいいだけのことである


「レイシャ、分かっているとは思いますが、あの二人には恩があります、下手なことはしてはいけませんよ」


「無論です、今日の放課後にはミスターイガラシの家にお連れしなければいけないのですから、そのあたりはうまいことやりますよ」


幸いにしてアイナとレイシャの能力はそれぞれ全く周囲に知られていない、その特性なども理解されていないのだ、アイナが風香と互角という事がわかったとしても、レイシャがどれほどの実力を有しているかは未知数なのだ


「それにしても、さすがはエルフというべきでしょうか、能力だけではなくその体も鍛え上げられているとは・・・」


「確かミスターイガラシの同級生の方に鍛えられているのだとか・・・ミスアイギスもそうですが、やはりエルフの方々は規格外ですね」


いくら特殊な指導を受けているとはいえアイナとレイシャはただの能力者だ、能力も使った総合的な戦いでは東雲姉妹には勝てないであろうことを理解していた


万が一に勝つ可能性があるとしたら不意打ちくらいのものだろう、後はそれがどのくらいうまくいくかにかかっている


そんな考えを浮かべた瞬間、二人は首を振ってその考えを否定する


何も彼女たちが敵に回る可能性などないのだ、そんな危険な考えをする必要はないのである


今は目立たずにどれだけやり過ごすことができるか、それが重要なことでもあるのだ、それ以外は無視しても問題はない






放課後、アイナとレイシャは東雲姉妹を連れて静希の家へと向かおうとしていた


午後の訓練の授業では優花が辛勝、レイシャが手加減をしたことも気づかれず、そこまで目立つこともなくその日の授業を終えることができた


そう、そこまではいいのだ、よかったのだ


「あの・・・そろそろ行きませんか?」


「早くしないとミスターイガラシたちが帰ってきてしまいます」


「ま、待ってください!もう少し待ってください!心の準備が」


「もう少しだけなので、あとちょっとだけ待ってください」


場所はマンションの前、早く行こうと言っているのに東雲姉妹はあたふたしながらお互いの心を落ち着かせようとしていた


そう、この期に及んで緊張しているのか、先程からマンションの前から動こうとしないのである


憧れの異性の家に行くという事で緊張するのは十分に理解できるのだが、アイナとレイシャは少しだけ呆れてしまっていた


何故授業や訓練の時はあんなに凛々しいというのに、静希のこととなるとここまでダメダメになるのか不思議でしょうがない


「レイシャ、このままではプランが崩されかねません・・・何とかしなければ」


「確かに、ここは強行するしかないでしょうか、二人ともあと一歩が出ないという感じですし」


アイナとレイシャは互いに頷くと東雲姉妹の手を掴む


何が起こっているのかもわかっていない二人をよそに、アイナとレイシャは半ば引きずるような形でマンションの中に入っていくことにした


「え!?ちょっ!?待ってください!」


「心の準備が!まだできてないです!」


「そんなものを待っていたら日が暮れてしまいます」


「早くしなければ悠長にお話をすることもできませんよ」


二人を引きずりながら何とか静希の住む部屋の前に到着すると、アイナは合鍵を使って中に入っていく


「「ただいま戻りました!」」


「「お・・・おじゃま・・・します・・・」」


誰かがいるかはさておき、ただいまとお邪魔しますは必ず言わなければいけないものだという認識を持っているのだろう、部屋の中にそれぞれの声が響く中、アイナとレイシャに連れられて東雲姉妹は静希の家の中へと入っていく


「う・・・うわぁ・・・なんかすごいですね・・・」


「これが・・・五十嵐さんの・・・」


東雲姉妹はしきりに周囲を見渡しながらそわそわし続けている、あこがれの人の家に来たから興奮するというのは理解できるが、少々落ち着きがなさすぎるような気もする


「とりあえずそのテーブル近くにいてください、今お菓子などを用意しますので」


「そのあたりの機械には触ってはいけませんよ、ミスターイガラシの私物なので」


アイナとレイシャが動いている中、風香と優花はしきりに周囲を観察していた


男性の一人暮らしの家というのはもっと汚れているという印象があったために、この部屋の清潔っぷりを見て少し感動すら覚えていたのである


目の届くところだけではなく細かいところまで埃ひとつない、日常的に掃除をしていることがうかがえる部屋に東雲姉妹はさすがだと感心してしまっていた


もっともこの家の掃除をしているのは主にオルビアなのだが、そのことを知らない彼女たちからしたら静希が凄いのだと思うほかないのである


「な、なんだか・・・すごいですね・・・」


「えぇ・・・これが男の人の匂いなのでしょうか・・・」


普段人の家に行くと言えば石動の家か、同級生の女の子の家にしか行ったことがない東雲姉妹からすれば、この家に漂う匂いこそ男性のものなのだと感じてしまっていた


実際には明利や雪奈といった女性陣の匂いも強く残っているだろうが、そんなことは知らない彼女たちからしたら他人の家の匂いにドキドキしてしまうのも仕方のないことだろう


「お菓子とお茶の準備ができましたよ・・・ってお二人とも何してるんです?」


「え!?あ、いえなんでもないです!」


「気にしないでください!」


しきりに部屋を観察するその様子ははっきり言って不審者以外の何物でもなかったが、アイナとレイシャはとりあえず二人の反応をスルーしてテーブルの上にお茶とお菓子を並べていく


「そ、それにしても、本当に一緒に住んでいるのですね・・・」


「は、恥ずかしかったりはしないんですか?」


手慣れた様子でお茶とお菓子を用意したアイナとレイシャに、東雲姉妹は少しだけ動揺している様子だった、少なくとも一日二日ではない、もっと長くこの家に来たことがあるのだと、そう感じていたのだ


実際アイナとレイシャはこの家に何度も来たことがある、どう答えたべきだろうかと顔を見合わせながら口元に手を当てて悩み始める


「恥ずかしいというのはあまりありませんね、あの方は私達をそもそも女性としてみていませんから」


「どちらかというと子供の様に接してくださいます、なので恥ずかしいというよりありがたいや嬉しいという感情の方が大きいです」


実際に留学の提案をしたのも、その為に必要なセッティングをしてくれたのも、そしてその住まいを提供してくれたのも静希なのだ、エドの奮闘だけではない、静希にもまた大きく世話になっているのだ


それを感謝することはあれど恥ずかしいという感情はアイナもレイシャも欠片も感じてはいなかった



「そ、そうなんですか・・・でも一緒に暮らしているんですから、その・・・プライベートな空間というのもありますよね?」


「もちろんです、あちらが私たちが使わせていただいている部屋、そしてあちらがミスターイガラシの部屋です」


「ちゃんとそう言うのはわかれているのですよ」


アイナとレイシャがそれぞれ部屋を指さすと、東雲姉妹の視線は静希の部屋に釘づけになってしまっていた


静希の寝室、一体どんな部屋だろうかと気になって仕方がない様子だった


今は扉が閉まっているためその中を見ることはできない、どうにかしてみることはできないだろうかと頭を全力で働かせている最中だった


「あの・・・五十嵐さんのお部屋ってお二人は見たことありますか?」


「ミスターイガラシの部屋ですか?ありますけど・・・」


「それがどうかしたんですか?」


「い、いえ、どんなお部屋なのか気になっただけです」


本当なら実際に足を運んでみたいところなのだが、さすがに家主の断りもなく勝手に入るのは失礼だろう、どんな部屋かだけでも知ることができればと思ったのだが、さすがに話題が不自然過ぎただろうか


焦りすぎたかと東雲姉妹が悔しそうにしていると、アイナが思い出したように手を叩く


「でも昨日ミスシノノメが来ることを知った後、何やら部屋を片付けていたようですよ、もしかしたら前見た時より片付いているかもしれませんね」


「片付いている・・・?一体何を片付けたのです?」


「私達もそこまで会話を聞いていなかったのですが・・・確か教育上よろしくないもの・・・とか言っていたような気がします」


「教育上・・・よろしくない・・・」


アイナとレイシャは東雲姉妹のことをどうするかでいっぱいいっぱいだったために静希達の会話はほとんど聞き流していたのだ


部屋に大量にあるナイフを片付ける時の部分的な会話しか覚えていなかったのである


だがその部分的な会話が東雲姉妹に強い衝撃を与えた


「・・・優花、教育上よろしくないもの・・・たしか男性は必ずそう言うものを持っていると・・・聞いたことがありますが・・・」


「いえまさかそんな・・・五十嵐さんがそのようなものを持っているだなんて・・・でも五十嵐さんも男性ですし・・・」


男子が必ず持っているもの、そして教育上よろしくないもの


そう表現するともはやいかがわしい本などしか思いつかない東雲姉妹は仮面の奥の顔を紅潮させていた


静希もそう言う本を持っているのか、そしてそれを隠しているのかと思うとどんな内容のものなのかと想像を膨らませていた


何やらとてつもない勘違いが生まれているようだったが、そこでアイナとレイシャがもう一つ思い出したのか小さくつぶやいた


「確かベッドの下に隠すのがどうとかも言っていた気がします、男の子の大事なものは・・・とかも言っていた気が」


「あぁ、確かに言っていましたね・・・ベッドの下に今あるのではないでしょうか」


「ベッドの下・・・」


「男の子の大事なもの・・・これはもう確定なのでしょうか・・・」


以前聞いたことがある、男子はそう言った類のものをベッドの下に隠すのだと


まだ状況証拠だけとはいえこれはもはや言い逃れができないのではないかと思えるレベルまで達している


静希に対して憧れのようなものを抱いていた二人だが、その憧れがこんなところで揺らぐことになるとは思ってもみなかった


本人の知らないところで勝手な想像をされているとは静希も予想できなかっただろう、こんなことが予想できるはずがないのである


「なんでしたら部屋を見てみますか?覗くくらいならミスターも怒らないと思いますが」


「え!?そ、それはその・・・ちょっと敷居が高いと言いますか・・・」


「心の準備の方がその・・・まだできていないと言いますか・・・」


「その心の準備とやらが一体いつになったらできるのか・・・」


アイナとレイシャが呆れる中、それでも東雲姉妹の視線は静希の部屋の方へと注がれている


興味はあるのだ、憧れの異性の部屋、気にならないはずがない


だが勇気が出ない、なにせ先ほどの会話で何やらいかがわしいものがあるのではという先入観がこの二人に植え付けられているのだ


実際はただ単にナイフを片付けただけなのだが、そんなことは彼女たちは理解できないだろう


実際にそれを見せない限り恐らくこの誤解は解けない、それほどまでに東雲姉妹は勘違いを深めてしまっているのだ


「あ、あの・・・お二人はその、五十嵐さんの・・・それを見たことがあるのですか?」


「お部屋にあったという事は・・・見る機会もあったのでは・・・」


東雲姉妹の言葉にアイナとレイシャは悩み始める


静希が片づけてなおかつ自分達、というより東雲姉妹に対して教育上よろしくなさそうなものとなると、あの部屋で言えば武器の類だったように思うのだ


確かに子供に武器などを見せるのはあまり良いとは言えない、アイナとレイシャは武器などは見慣れているからこそ気にしないが、東雲姉妹は日本暮らしだ、静希達が教育上よくないと言ったのも頷ける話である


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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