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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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件の本

時間にしてどれほど経過しただろうか、静希達は全く明りのない平野に降り立っていた


完全に拘束した男を引きずりながら目の前の建物を見せる


近くにあるのは一軒家のような建物、見た目こそ普通の建物だが細部を見ると明らかに妙であることに気付ける


普通の建築方法で建てられたものではない、明らかに何かの能力で作られたものであることがわかる


地図には載っていない、勝手に作られた建物というべきだろうか


「ここで間違いないか?」


静希の言葉に拘束されたままの男は何度も頷く、どうやらここがアジトで間違いないようだった


この確認さえできればこの男は用済みだ


「陽太、ここでこいつを見張ってろ、鏡花、分かるか?」


「ちょっと待って・・・うん・・・間違いなく変換系統の仕事ね、うまく偽装してるけど接合部が明らかに綺麗すぎるわ」


建物に直接触れることでその建物が能力によって作られているという確信を得たのか、鏡花はやや後退しながら地面に手を置く


地下や土台の構造なども理解できるかと頑張っていたようだったが、さすがに距離がありすぎるせいか、そこまでの把握は中に入らないと難しいらしい

その場にいた全員が暗視用の装備を装着し、すでに行動準備はできている


互いに合図をとりながら、建物を囲むように配置しそれぞれゆっくり音をたてないようにいつでも侵入できる準備を整えた


索敵系の能力者が内部を調べても恐らくは誰もいなかったのだろう、建物内へ入る合図が出ると同時に静希達が一気に侵入していく


仮に悪魔と接触した場合対応できるのは静希達以外にいない、何より本を確保するためには真っ先に探すべきところがあるのだ


「カレン、どう?」


「・・・下だ、下にある」


「よし、鏡花」


「はいはい、任せなさい」


オロバスの予知によってどこに本があるのかを確認した鏡花は地下への道を探すべく周囲の物質と同調を開始した


鏡花の同調範囲は狭いためにそこまで遠くまでの把握はできないが、土台の構造からどこに地下への道が繋がっているかを調べる程度はできる


「こっちよ、ここにある」


鏡花が叩いた床は確かに先に空洞があるかのような音を出している、だが取っ手のようなものも、鍵がかけられている形跡もない


物理的に閉じられているのか、だとしたら確実に何かある


「頼めるか?」


「はいはい、今開けるわ・・・警戒して」


鏡花が能力を発動しその床をこじ開けると、その先には階段が存在した、明らかにここから先に何かがある、だが何があっても不思議はない


「おい、ここから先の索敵を頼む」


「了解しました、少々お待ちください」


近くにいた索敵手に頼んでその内部に罠などがないかをチェックしてもらう、数十秒ほどして索敵手は小さく首を振る、どうやら罠の類などはないようだった


静希達は互いに合図をしてゆっくりと階段を下りていく、その中には恐らく明かりをつけていたのだろう、蝋燭のようなものがいくつか壁に設置されていた


何ともレトロな照明だなと半ば呆れながら進むと、その先には大きな丸いテーブルといくつかの椅子、そして壁に寄せられた簡素な机があった


簡素な部屋だ、ほとんど飾り気などなく、本棚の中にはまったく本が入っていない、あの男が処分しろと言われていた本は別の場所にあるのだろうか


椅子の数は四つ、これが何を表すのかを静希達は理解していた


一つはリチャードのもの、そして一つは陽太が今見張っているフンババの契約者、そして残り二つ


この二つはリチャードの仲間と見るべきだろう、後二人は最低でも仲間がいる事になる


現在チェコの東部でも起こっている魔素の動きから察するに、そちらの方にいる人間だろうか、それともそれ以外にもいるのか


どちらにしろこの椅子が示すのはここに来ていた仲間の人数で間違いないだろう


「本を探すぞ、この辺りにあるはずだ」


実際に予知を見たカレンは率先して部屋の中を探し始める


一体どこに本があるのか、これだけ物が少ない部屋だ、見つけるのに苦労はしないだろう


静希達が数分間部屋の中を探していると、鏡花が壁に寄せてあった机からあるものを見つけた


「静希・・・あった」


鏡花が見つけたそれは、分厚い本だった、だが市販のものではないようで妙な荒っぽさが見え隠れしている


個人が書いた本なのか、それとも紙をカバーに付けただけの急造品なのか、どちらにしろまともな内容が書かれているとは思えない


「文字はわかるか?」


「・・・このままじゃ読めないわね・・・静希、ライト出して」


一度暗視装備を外し、静希はトランプの中からライトを取り出し本を照らす


「・・・ビンゴ」


そこには静希が読むことのできない、ドイツ語が書かれていた、静希が探し求めていた本で間違いない、そう確信した静希はカレンを近くに呼んだ


「これが・・・その本か・・・」


「あぁ・・・内容はわかるか?」


「・・・随分と癖のある字だ・・・少しかかる・・・他にはないか?」


もしかしたら他にもあるかもしれないと静希達はとにかくこの部屋を探し始める


その結果、さらに三冊の本を見つけることができた


そのどれも最初に見つけた本と同じく、売っているようなきれいな本ではない、無理矢理に作ったような雑な形をしていた


「どうだカレン、この四冊、何か関係ありか?」


「・・・この四冊は・・・同じ人間が書いたという事はわかる、だが内容が全く異なるな・・・いや続いていないだけか・・・?これは・・・?」


カレンが本を読み進めようとしていると地下にやってきた部隊の人間が小さく静希達に声をかける


「ミスターイガラシ、ミスターパークス、上の調査は終わりました、ここはどうですか?」


「あぁ、こっちもほぼ終わりだ・・・引き上げるのか?」


「はい、我々はここから引き上げます、またすぐに後続の部隊が引き継ぎにやってきますので、移動します」


どうやらゆっくりしているだけの時間は無いようだった、ここに敵がいないとわかった今いつまでものんびりしているだけの時間は無い


他の部隊が待ち伏せをするなりして他の仲間を待つのだろう、静希達ができることはこれで正真正銘終わったことになる


「この本は回収しよう、他にはもうないだろうし・・・」


「・・・わかった、戻ってから確認しよう、いつここに敵が来るとも限らない」


いつまでもここにいたら敵と遭遇する可能性もある、情報となる本は手に入れたのだ、その確認は安全なところでしても問題はないだろう


静希達はすぐに建物から出て再び移動に特化した能力者の手を借りて軍の拠点まで戻ってきた


時間にしてどれ程だっただろうか、まだ日は昇っていない、ようやく空が白んできたくらいだ、随分と早い撤収だったと思いながらも、静希達はカレンの持つ本をのぞき込んでいた


「どうだこの本、なんかの専門書・・・ってわけでもなさそうだな」


「四つも見つかったけど、この四つは続いてるものなのかい?」


静希とエドの言葉にカレンはそれぞれの本を見比べながらその内容を調べ始める、だが読めば読むほどその表情は良いものとは言えないものになっていく


「どうやらこの本一冊だけで成り立つものではないらしい・・・何かの続きであることは間違いないが、完全に本同士で繋がっていない、恐らくまだ他にもあるんだろう」


「でもあそこにあった本はこれだけだし・・・部隊の人間もこれ以外は見つけられなかったって言ってたぞ・・・となると・・・」


「他の拠点、今起きているチェコの方にも同様の拠点があるかもね」


処分するように言ったという事はこの本はすでに必要ないものなのだろう、その内容はまだカレンが読み進めているために不明だが、恐らく何かしらの意味を持っていたものであることは間違いない


その意味が喪失したのか、それともこれを廃棄することに意味があるのか、今のところはカレンが読み進めるのを待つしかない


「・・・これは・・・研究ノートのようなもの・・・なのかもしれない・・・先程から理論やそれに加えられて・・・日付のようなものも記されている・・・だが随分と古いものだな」


カレンが他の本も手に取って見比べる中、、四冊の中の一冊を手に取ってその真ん中あたりを示す


そこに書かれている文章は本の中でもかなり乱雑な文字が目立つ、そしてそこから妙に文章に余白のようなものが空いている、これは意図的に空けたものなのか、それともただ単に章の区切りとして空けたものなのか


「四つの本の中でこの記述・・・この本が一番古いものなのだが・・・約十七年前の記述だ・・・この辺りで妙に時期が空いていたりしている・・・文章にも脈絡がないというか・・・」


十七年前、まだ静希が生まれていない頃、いや丁度生まれた年のことだ

一体その時になにがあったのか静希は知る由もない、そしてこれに書かれている内容も、そしてこれを書いた人物のことも


「カレン、この中で一番新しい記述はどれだ?」


「っと・・・これだ、この本が一番新しい・・・時期は・・・一昨年だな・・・」


一昨年、まだ静希がただの劣等生で、危険人物でも何でもなかったただの学生だった頃の話だ


まだ鏡花とも出会っておらず、中学生だった頃の話である


「何か気になる記述はないか?特定の文章が繋がっているとか・・・」


「・・・特定の・・・そう言えば文章の中で『あの光をもう一度』という言葉をよく使っている・・・あの光というのが一体なんなのかは・・・」


「もう少し読み込まないと難しそうだね・・・」


まだカレンはこの本をある程度しか読んでいない、この本が一体何を表しているものなのかも、そして何を目的として書かれたのかもわかっていないのだ


これは一度城島にも報告し、ラルフの方にも報告しておく必要があるだろう


「シズキ、これは私が預かっておきたい、そう言う風に話の流れを持って行けるか?」


小さくそう言ったカレンの言葉に静希は口元に手を当てて悩み始める


報告をするとなると確実に軍にこの本を預けなければならないだろう


だがもし悪魔の契約者が書いたのであれば同じように悪魔の契約者でなければこの内容は理解できないはず、カレンがもっていた方が内容の理解は早くなると思いたい


「わかった、何とかしてみる、とりあえずラルフの所に行こう、報告を済ませなきゃな」


静希達は一緒に行動していた部隊の人間と共に一度ラルフに報告するべく司令室へと向かい始めた


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