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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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鏡花の鉄拳

「・・・あ、鏡花!戻ったか!無事でよかった」


「よかった、みんな無事みたいだね」


鏡花はアイナとレイシャを連れて召喚陣のある倉庫へと戻ってきていた


その場に待機していた陽太と明利が鏡花やアイナとレイシャの姿を見つけて駆け寄る、倉庫の奥では今もなおカレンが作業を行っているようだった


「状況はどうなってんだ?明利曰く戦闘が終わったみたいなこと言ってたけど」


「間違ってないわ、でもまだ集中していなさい、まだ状況は終わってないんだから」


鏡花は陽太にそう言い聞かせ、明利の頭を撫でる


「静希は無事よ、今はエドモンドさんと一緒にいる、敵の悪魔もちゃんと抑えられたみたい」


「そう・・・よかった・・・」


静希達は今明利の索敵外にいる、なにせあの場所は街の中に見えてはいるが実際は鏡花が作っただけであって街の外側なのだ


明利の索敵は街の中にしか張り巡らされていない、すでに静希達は索敵の外側にいるのだ


静希をずっと索敵で追い続けていた明利としては心配だったのだろう、その言葉に深く安堵しているようだった


明利への報告を終えた鏡花は召喚陣の下で作業しているカレンの下に向かう


「カレンさん、静希達は敵対している悪魔を処理しました、今はその契約者と話をしています」


「そうか・・・無事で何よりだ・・・こっちもなんとかなりそうだ、あと一時間もかからないでこの召喚陣は無力化できる」


一時間、何とかなる部類でも一時間ほどかかってしまうという事だ、カレンはエルフであるにもかかわらずそれだけの時間がかかる、それほど複雑な召喚陣なのだろう


鏡花も可能なら何か手伝いたいところではあるが、生憎召喚陣に関しての知識は全くない、彼女にできることはこの場所を守るくらいのものである


「部隊の人間がしきりに戻るように言っていたが・・・あれは無視してもいいのだろう?」


「えぇ、貴女たちのボスやうちのバカは突っぱねました、まだ敵がいる可能性が十分あるので」


「ふふ、そうだな・・・」


鏡花がバカと言ったことで呼ばれたと勘違いしたのか陽太が振り返るが、どうやら勘違いであると理解したのか頭を掻きながら周囲の警戒に勤しんでいた


「シズキは・・・いったいどうしているだろうな?」


「単なるお話ですよ・・・多少荒っぽいかもしれませんけど・・・聞くことは山ほどあるでしょうし」


そう、今回相手にした人間に対して聞くことはそれこそ山ほどあるのだ


何故この場所を選んだのか、召喚自体は何が目的なのか、悪魔とどのようにして契約したのか、裏で手を引いている人物は誰か、リチャードとのかかわりはあるのか、この召喚陣は一体どのようにして作ったのか


挙げればきりがないほどの数の疑問がある、その中のいくつかはある程度予想ができているとはいえ、その仮説が正しいかどうかの答え合わせは必要だ


情報源を生きた状態で得られたのは幸いだった、なにせ欲しい情報に関して質問することができるのだから


これで相手が下っ端で何も知らされていないのであれば、それこそ八方塞がりになってしまうが、仮にも悪魔を従えていた人間だ、あれで下っ端などという事は無いだろう


「そう言えば予知の方はどうですか?例の本を見る未来は見えます?」


「あぁ、何度か見たが、本を読んでいる未来が増えている、一応いい方向へと進んでいると思いたいものだ」


直接的な手掛かりになるかはおいておいて、今欲しいのは情報だ、どんな些細なものでもいい、その情報を得る事自体が重要なのだ


今回の件が今までの事件と無関係とは思えない、何かしらつながりがあるはずなのだ


そのつながりが一体どのような形で示されるかはわからない、だが鏡花には確信があった


今度もまた繋がっている


そしてその確信は静希も持っているものだった


「ミスシミズ、またお手伝いできることはありますか?」


「また作戦行動をとるならいつでも協力します!」


「そうね、今はカレンさんを守ることに集中しましょ、陽太と一緒に警戒しててくれるかしら」


了解ですと言いながらアイナとレイシャは元気よく走っていく


自分たちが役に立てているという事が嬉しいのだろう、随分とやる気に満ちているようだった


「あの子たちは役に立ったか?」


「えぇ、十分すぎるほどに、今はまだ後方支援だけですけど、今後きっといい能力者になりますよ」


今回鏡花と一緒に行動することで、主に後方支援に当たっていたアイナとレイシャ、時にエドを助けるために飛び出したい気持ちもあっただろうが、それを押し殺して彼女たちは自らの役目をこなし続けた


能力者にとって重要なのは役割分担だ、それを自覚した上でやり抜くことができるかどうか、それが良い能力者の第一条件でもある


彼女たちは今回、自らの役目を理解しそれをやりぬいた、あの歳の子であればとにかく前線に出ようとしてもおかしくはない、だがそれをしなかった


優秀な子たちだ


鏡花はしみじみそう思い二人の背中を眺めていた、きっと自分たちも将来彼女たちに世話になることがあるだろうなと、そんなことを考えながら







「・・・ふぅ・・・これでいい・・・これでこの召喚陣は無効化できた・・・」


五十分ほどしてカレンは大きく息をついた後で地面に寝転ぶ、今まで高い集中を維持し続けたのが堪えたのか、少しその顔には汗が滲んでいた


「お疲れ様です、だいぶ手こずってたみたいですね」


「あぁ・・・こんな面倒な召喚陣は初めてだ・・・だがその構造は理解したぞ・・・」


カレンは体を起こして召喚陣の方を見る


未だ召喚陣は僅かに光を放っている、まだその形が残っているという事は召喚陣自体の能力はまだ残っているようだった


「まだ光ってますけど・・・大丈夫なんですか?」


「問題ない、いくつかの機能を停止させた・・・どれくらいかかるかはわからんがやがて消えていくだろう・・・問題はそっちよりも別にあるがな」


カレンの言葉に鏡花は首を傾げた


召喚陣自体の機能をいくつか停止させたのであればもう問題はないのではないかと思える、一体何が問題なのか


「問題って・・・具体的には?」


「この召喚陣の性質だ・・・通常の悪魔召喚のそれとも異なるうえに、私が前に言った半自動とも若干異なる・・・いや根本は同じなのだがその精度が桁違いだ」


歪みの発生を行おうとした召喚陣の構造を理解したとはいえ、その結果までは予測できないのか、カレンはあれこれと考えているようだが鏡花からすれば何が違うのか全く分からない


目の前で僅かに光を放つ召喚陣もまだ生きているのではないかと思えてしまうのだ


「あの・・・もう少しわかりやすく教えてくれると助かるんですが」


「ん・・・すまん・・・そうだな・・・わかりやすくか・・・何を召喚しようとしているのかは正直これを見ても分からんが、悪魔を召喚するためのものではないのは確かだ、これが歪みの召喚陣なのかは、正直まだわからんとしか言いようがない」


計算式だけを見たところでその計算が一体何を表しているのかわからないのと同じで、召喚陣を見てそれがどんなものを召喚しようとしているのかはわからないようだった


あくまである程度の把握でしかないため正確ではないだろうが、カレン曰くこれは悪魔用の召喚陣ではないらしい


「そして前に言ったように、半自動化すると精度が落ちる、だがこの召喚陣は八割・・・もしかしたらそれ以上の精度で召喚が行えるかもしれない」


「八割!?・・・ってそれ凄いんですか?人がやれば十割なんですよね?」


こういった面倒な事案の場合、成功率が百%でないと正直あまり役に立たないのではないかと思えてしまうのだ


しかも最後には人の手が必要になる、事前準備は楽になるだろうが準備に時間がかかることを考えるとそこまで確かな手ではないように思える


「確かに人の手で行えばほぼ十割成功する・・・だが半自動でこの精度は脅威だ・・・以前まであったそれとは根本的に違うな・・・その分かなり面倒なつくりをしている・・・一体誰がこんなものを考えたのか・・・」


カレンは再び頭の中で思考し始めるが、どうやら以前言っていた半自動化の召喚陣よりも精度を上げた改良版がこの召喚陣であるらしい


通常の悪魔召喚の陣ではない、改良型の半自動召喚陣、この二つが今回のポイントになりそうだった


「ところでエドたちは?まだ戻っていないのか?」


「はい、たぶんまだお話し中じゃないですか?どんな方法で話してるのかは知りませんけど」


あれからすでに一時間近く経過しているのにもかかわらず、一向に連絡をしてこないという事は恐らく今この時も徹底的にあの契約者から情報を搾り取っているのだろう


生きた情報源、静希にとってこれほど重要なものはない、静希としては殺すことはないだろうが逆に死なせてほしいと懇願されている頃かもしれない


「情報が手に入ればいいのだが・・・シズキは甘いところがあるからな・・・」


「・・・ハッハッハ・・・ソーデスネ」


甘いところがある?静希に?冗談でしょうとでも言いたげな表情をしながら鏡花は乾いた笑いを出していた


確かに静希は身内には甘い、これ以上ないほどの境遇と言える程に甘やかす


その長年の結果が雪奈と言ってもいい、年上なのに全く年上っぽくないあの女性こそ静希の特性の結果なのだ


だがその逆、敵に対して静希は容赦がない


以前鏡花はそれを見ている、まるで人を傷つけることを楽しんでいるかのようなあの笑み、そして相手の心を折るのではなく粉々に砕くかのような徹底っぷり


あの惨状を見てまだ静希のことを甘いと言えるだけの寛容さは鏡花にはなかった


「・・・カレンさんはあれですね・・・静希のことをもっとよく観察するべきですよ」


「ん?そ、そうか?だが何を観察しろと・・・」


「・・・主に攻撃してるときとかを」


攻撃している時、時折静希は笑っている


その時の笑みを見ればカレンもきっと考えを改めるだろう


そして気づくはずだ、静希が危険な人間であると、関わってはいけないような人種であると


そのことに気付く前に関わってしまった自分はもはや手遅れだ、だがせめて、カレンやアイナ、レイシャたちは静希と深くかかわる前に距離を置いた方がいいように思うのだ


いや、もしかしたらこの考えももう手遅れなのかもしれない


あの時、静希とカレンが出会ったあの時に気付かせるべきだった、そうすればまだ変わっていたかもしれない


こんなことを言ったところで、もはや手遅れなのは確定的だが


『おーい鏡花、聞こえてるか?』


そんなことを考えていると無線の向こう側から静希の声が聞こえてくる、どうやら尋問という名の拷問はもう終わったようだった


「はいはい聞こえてるわよ、なに?もうお話は終わったの?」


『あー・・・まぁ半分終わった・・・けどちょっとな・・・こっち来てくれると助かる、臭くてかなわん・・・』


一体何があったのか、臭いという言葉に鏡花は眉をひそめた


一体何があったかというよりは、静希が一体何をしたのかという方が正しいだろう、そんな場所に呼び出されるとなると嫌な予感がするのも当然だ


「一応聞くけど・・・あんた何したわけ?」


『いやいや、俺じゃないって・・・衛生兵の人が吐いたんだよ・・・まさかそっちが吐くとは思ってなくてさ・・・エチケット袋も間に合わなかった』


静希の言葉に鏡花は頭を抱えてしまう


衛生兵という事は軍人だ、軍人が吐くようなことをし続けたというのは一体どういうことだ


仮にその衛生兵がそう言うものに耐性がなかったとしてもそこまでやり続けたというのはかなり問題だ、これは思い切り殴らなければいけないだろう


「わかったわ今すぐそっちに行ってあげる・・・ちょっと待ってなさい」


『おう、頼んだ』


鏡花は軽く準備運動をしながらふとレイシャの方を見る


場合によってはありかもな


そんなことを思い、頷いた後でカレンに向けて口を開く


「カレンさん、ちょっとアイナとレイシャをお借りしてもいいですか?」


「構わないが・・・また面倒事か?」


「えぇ、ちょっと殴らないといけない奴がいるんで」


殴らないといけない奴、きっと静希のことであるというのは理解したのだが、なぜそのようなことをしなければいけないのかという点に関してはカレンは理解が追い付いていなかった


「待て、シズキは何かミスをしたのか?なにも殴らなくとも・・・」


「いいえ殴っておくべきです、バカをやらかした奴には鉄拳制裁が基本なんです」


失敗したわけではない、恐らくほぼ成功しているのだろう、だがそれが問題なのだ


あの時もそうだったように今回もそうするだけである、自分がやらかしたことに対することをわかりやすく表すには一番手っ取り早い方法なのだ


「安心してください、あの二人に悪影響が出るようなものは見せませんから」


「いや、そう言う心配ではなくてだな・・・二人を連れていくという事はその・・・」


「安心してください、殺しはしませんから、きちんと『教育』するだけです」


鏡花の言葉にカレンはあの時の静希の言葉を思い出していた


俺のチームメイトがただの学生だと思っているなら


なるほど、確かに静希の言う通り、ただの学生ではない


静希に感化されたのかそれとも元からこういう性格なのか、鏡花もまた普通ではないのだ


「アイナ!レイシャ!ちょっと静希の所に行くわよ、ついてきなさい!」


「「あ、アイマム!」」


怒声にも似た鏡花の言葉にアイナとレイシャは若干驚いているようだった


状況はほぼ終了し、後自分たちにできることはこの召喚陣が完全消滅するまで待つことと、他に召喚陣がないか探すことくらいである


現在の魔素の動きがどうなっているかはわからないが、一つ潰したからと言って安心できる状態ではないのは十分に理解しているつもりだった


だが鏡花のその声から明らかに戦いに行くような気迫を感じたのだ


一体何事だろうか


普段鏡花と一緒にいないアイナとレイシャはその変化に気付けなかったが、いつも鏡花と一緒にいる陽太は鏡花がこれから何をしに行くのかを理解した


「鏡花、あんまり強くやるなよ?」


「それはあいつ次第よ、もしこれでやらかしてるようなら拳だけじゃ足りないわ、鉄拳制裁よ」


鉄拳とはおそらく比喩ではないだろう、鏡花の能力で鉄のグローブでも作り出せば鉄拳(物理)の出来上がりである


普段からして鏡花に指導として殴られることが多い陽太だが、ここまで殴る気満々なのも珍しい


最近は鏡花も手を出さずに指導することを覚えてきているのだ、その鏡花をここまで憤らせるとは並のことではないだろう


「鏡花ちゃん・・・静希君、どうかしたの?」


「大丈夫よ明利、あんたのとこの旦那がちょっと『おいた』をしちゃったみたいだから殴りに行くだけ、何も問題ないわ」


殴りに行くのは問題ではないのだろうかと明利は心配そうな顔をしている、そして鏡花についていこうとしていたアイナとレイシャもまさか静希を殴りに行くとは思っていなかったのか若干戸惑っている


「あ、あのミスシミズ・・・ミスターイガラシを殴りに行くのですか・・・?それは・・・」


「戦いの後ですし、何よりこれから何があるかわかりませんし・・・抑えたほうが・・・」


二人の意見は正論だ、確かにこれから何があるかもわからない状態でそんなことをしている暇はないように思える


だが鏡花は満面の笑みを浮かべてアイナとレイシャの方を見る


「二人とも、私はついてきなさいと言ったわ、二度も言わせないで」


「「・・・あ・・・アイマム!」」


子供相手にそんな威圧感を出さなくてもいいではないかと陽太と明利は若干呆れていたが、これも仕方がないだろう


この班のボスは鏡花なのだ、ボスの命令は絶対なのである















「お、来たな鏡花、待ってたごぶぅ!」


静希の元にたどり着き、静希の姿が見えた瞬間に鏡花はその腹部めがけて拳をめり込ませた


アイナの能力で身体能力を強化した状態で移動してきたため、強化状態での拳はかなり重く静希の腹に的確にめり込んだ


「うぉぉ・・・きょ・・・鏡花・・・一体・・・何を・・・!」


「うっさいわね、どうせ徹底的にえぐい方法で尋問したんでしょ!エドモンドさんの顔色見ればわかるわよ!それにそこの人なんて現在進行形で吐いてるじゃないの!いったい何してんのよ!」


鏡花の指摘通り、エドの顔色はそこまで良いものとは言えず、近くにいる軍人、恐らくは静希が呼び出した衛生兵だろう、哀れな衛生兵は近くの建物に手を当てて思い切り嘔吐していた


こんな状況に呼び出されてはボディブローを叩き込みたくなるのも仕方の無いものだろう


「あのね静希、あんたが情報を得たいって気持ちはわかるわ、でもここまでやる必要があるわけ?もうあの小屋の中見たくないわよ私」


「・・・ぐぅ・・・お前が怒るのも分かるけど・・・ここまでやる必要あるのか・・・?」


鏡花がなぜ怒っているのかは理解しているつもりだが、なにも強化がかかっている状態で殴らずともよいではないかと静希はうずくまりながらも訴えていた


近くでそれを見ていたアイナとレイシャは互いを抱き合って震えている、鏡花が厳しい人間であることは半ば理解していたが、今回のことで鏡花もまた危険な人間の一人であると認識したのか鏡花から若干距離をとっていた


「あんたが無茶をするから私もそれ相応の態度をもって応じてるだけよ・・・で?今度は一体何したわけ?大の大人が吐くとか異常よ?」


未だにうずくまって痙攣している静希を尻目に鏡花は先程まで静希達が入っていたであろう小屋を見る


その中にはたぶんまだあの仮面の男が入っているのだろう、どんな無残な姿になっているかどうかは知らないが少なくとも近くにいる衛生兵がここまでの拒否反応を見せているのだ、それ相応の状態になっていると思っていい


さすがの鏡花も大人が吐くような状態を好んで見ようとは思わなかった


「別に大したことは・・・してないって・・・普通に苦痛を与えていっただけで・・・」


「普通に苦痛を与えるってなんか妙な表現だけど・・・それだけで軍人が吐くと思う?」


個人にもよるが、凄惨な状況を見て吐き気を催す人間は存在する、特に人間や生き物のそれに過剰に反応する人間は多い


だが衛生兵という立場の人間がそこまで強い拒否反応を見せるというのは明らかに異常だ


衛生兵なのだから人が怪我をするような状況は見慣れているはず、少なくともそう言う訓練を受けていて然るべきなのだ


なのにその衛生兵が真っ先に汚物をまき散らしている、この状況で普通に苦痛を与えたなどという言葉を信じられるはずもなかった


「本当にそんな・・・大したことはしてないって・・・殺すわけにもいかないからじわじわ痛みを与えていっただけで・・・別に眼球潰したりとか耳を切り落としたりだとかはしてないんだから」


「そういう発想がポンポン出てくるのが異常だと何故気づかないのかしら・・・あんた道徳の授業受けなおした方がいいんじゃないの?」


今さら静希にそんな命の大切さを説いたところではっきり言って焼け石に水程度の効果しかあらわさないだろう、いやその程度の効果も得られるかどうか怪しいものである


そしてようやくボディブローの痛みが治まってきたのか、静希はよろよろと立ち上がる


体の損傷を治すことができても別に痛みがなくなるわけではない、静希にとって有効な攻撃は打撃だ、それも芯に残るような重たい一撃


身体能力を強化した状態の鏡花の一撃ならば少なくとも静希を悶絶させる程度のことはできるらしい


「で?私をここに呼び出した理由について聞こうかしら?」


「無線でもいったけど・・・あの人が小屋の中で吐いちゃってさ・・・臭いから何とかしてくれ」


「・・・私は掃除屋じゃないんだけどね・・・」


そう言って鏡花は小屋に触れる、少なくとも小屋の中のどこに汚物があるのかだけでも把握しておく必要があるのだ


中を見なくても鏡花の能力ならば近くの状況も把握できる、そうして把握した内部の状況から、鏡花は軽く小屋の中の換気と内部にある汚物の除去をすることにした


だが小屋の中にはまだあの男がいるのだ、もし叫ばれたりしたら面倒である

そこで鏡花は男を完全に密閉し猿轡をかませて外に運び出すことにした


鏡花はその姿を見たくないため、そしてその姿をアイナとレイシャに見せるわけにはいかないためにまるでアイアンメイデンに入っているかのような状態で男は小屋の中から摘出された


「あ、ひょっとしてこの中にあいつ入ってるのか?」


「そうよ、そんなひどい状態なら見たくないしね・・・っていうかちゃんと止血とかしてるんでしょうね?死なせちゃだめよ?」


「わかってるって、死なせるようなことはしないから安心しろ」


死なせるようなことはしない


それは聞きようによっては命だけは奪わないという慈悲のある言葉なのかもしれない、だが聞きようによっては命は奪わないが延々と痛みのみを与えていくと言っているようなものだ


ある意味死刑宣告よりも残酷な状態と言える、この男はもはや静希の求める情報を与える以外に苦痛から逃れる方法はないのだ、もっともそれから逃れたところで悪魔による制裁と軍や国による社会的な制裁が待っているだろうが


誤字報告を五件分、さらに評価者人数が370人になったのでお祝い含めて二回分投稿


なんだか戦闘の場面で加速することが多い気がしますね、タイミングがいいんだか悪いんだか


これからもお楽しみいただければ幸いです

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