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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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それぞれの役割

「どうですカレンさん・・・この召喚陣・・・」


鏡花たちはカレンたちと一緒に召喚陣の下で警戒を続けていた


カレンが召喚陣に触れその状態を確認する間も、周囲からの攻撃を防ぐことができるように常に周りに気を配っている


鏡花たちがいる倉庫の中には木箱がいくつか配置されており、積み上げて壁のようにして隠してあったが、すでに鏡花の能力で木箱は建物の隅へと移動されている


一体何が入っているのか鏡花も中は確認していないが、今はこの倉庫が何に使われていたのかを確認するよりも先に召喚陣の状態を確認する方が先である


「・・・この召喚陣・・・かなり複雑だ・・・恐らくまだ接続はされていないと思うが・・・周囲と接続・・・?いやこれは・・・」


カレンはかなり悩んでいるようで口元に手を当てて召喚陣とにらめっこをしている


物理的な破壊ができるか否か、それを確認するのも困難なようだった、現状でどのような対応ができるかはカレンの知識に頼るほかない


「とりあえず召喚の妨害は行う・・・無理に物理的に破壊はしない方がいいかもしれない」


「それって、もうやばい状態ってことですか?」


「・・・いや、接続自体は行われていない・・・だが妙な形をしている・・・下手に手を出さない方がいい」


妙な形


カレンにしては言葉足らずな表現だが、明らかに何かしらの仕掛けがしてあるのは間違いないようだった


召喚を途中で止めさせないための仕掛けだろうか、こうなってくるとカレンが時間をかけて召喚陣を解除するほかない、専門家を呼ぶこともできるだろうが、危険な場所にわざわざ非戦闘員を連れてくるのは気が引けた


「明利、この建物に近づこうとする人間がいたらすぐに教えて・・・それと召喚陣の近くにいなさい、ここは私達が死守するから」


『了解、今から移動します』


今まで巻き込まれないような位置で待機していた明利は鏡花の指示に従い、召喚陣の下へとやってきた


ここを防衛の拠点とするのは間違っていない、なにせ召喚陣がここにあるのだ、歪みを対処するためにもここを絶対に死守しなければならない


「静希、召喚陣の対処には時間がかかりそうよ、ここに近づこうとするやつは全員排除しなさい」


『アイアイマム・・・やたらと過激なご命令だこと』


無線の向こうで待機している静希も周囲を警戒しながら集中状態を維持している


現在召喚陣の最も近い場所にはカレンと明利、そしてその近くを鏡花や陽太、アイナとレイシャ、リットが固めている


そして建物の入り口やそのすぐ近くには軍の人間が何人も警戒に当たっている


そしてそのさらに外側には静希とエド、そして周囲を警戒中の部隊が多数巡回している


この状況で一番最初に動くのは部隊の人間か、あるいは静希達だろう


自分たちはこの場を死守、そして余裕ができたのなら静希達の援護に回るべきだ


「ミスシミズ、私達は貴女の指示に従うよう言づけられています、どうすればいいでしょうか?」


「私達にできる事であれば何でも言ってください」


アイナとレイシャが鏡花にやる気をみなぎらせてそう言う中、鏡花はカレンの方に視線を向ける


彼女も視線の意味を理解したのか、小さくうなずいてみせた


「わかったわ・・・その前にちょっと失礼」


鏡花は二人の衣服に触れ能力を発動する、本来ならば上下の衣服は完全に切り離せるような形なのだが、鏡花は能力で衣服をすべて完全にくっつけて見せた


更に余った布を利用して二人の衣服にフードと顔に着けられるようなマスクを作り出す


素材が布であるため防御面は期待できないが、アイナの能力の透明化には十分役立つだろう


「これで一回の能力で迷彩化できるわ、アイナ、貴女の力の見せ所よ」


「りょ、了解です!」


期待されているという事を感じ取ったのか、アイナはピシリと敬礼して見せる、それを前にレイシャも自分には何かないのだろうかとそわそわし始める


「レイシャ、貴女の能力は止まった状態じゃないとチャージできないの?」


「え?い、いえ!歩くくらいであれば溜められます!でもその分時間が・・・」


恐らくエドに言われて動いている状態でもチャージできるように訓練はしているのだろう


激しい動きでなければある程度身体能力強化のエネルギーを溜められるようだが、やはりその分時間はかかってしまうようだった


だがそれでもいい、幸いにして今は時間があるのだから


「なら今のうちに限界まで溜めておきなさい、いつでもみんなに強化をかけられるように、貴女の能力があるかないかで行動は大きく変わるわ」


「りょ、了解です!」


必要とされているという事を感じ取ったのか、レイシャはすぐさま集中し、体の中に強化の力を溜め始める


どこまで彼女がその力を溜めることができるかはわからないが、他人に与えることができる身体能力強化というのはかなり強い


この二人の能力は互いが互いを助長しているかのようだ


チーム戦において特にその能力は必要性を増し、効果を発揮するだろう


そして実戦というこの状況でこの二人は非常に落ち着いている、この歳の子供にしてはあり得ないほどに


なるほど、静希が優秀だと評価するのも頷ける


「明利、陽太、あんたたちもこっち来て、一度服を改造するから」


鏡花は二人を呼び寄せ、衣服にアイナとレイシャにしたのと同様の仕掛けをする


仮面をかぶっている状態で衣服と仮面を完全に接続し、半ば無理矢理に一体化させることでアイナの能力で一度に透明化できるようにするのだ


「カレンさんとリットにも同様にやっておきますね、失礼します」


「あぁ、頼む」


この状況では動くことのできないカレンとそれを守っているリットにも同様の改造を施すと、鏡花はアイナの方を向く


「アイナ、レイシャ、今回は私達の連携にかかってるわ、アイナは私の指示に従って能力を使う事、レイシャは常に自分と周りの人間に強化をかけ続けなさい、集中を切らさないこと、いいわね?」


「「了解です」」


そう言って鏡花は今のうちにいくつもの道具を用意していく


あらかじめ作っておいて損はない代物だ、特にアイナとレイシャの連携には絶対に必要になる物である


「なぁ鏡花、俺は?」


「あんたは静希の言ったとおり、私達を守りなさい、悪魔の攻撃だって一発くらいは耐えられるでしょ?」


「ん・・・まぁ・・・たぶん」


かつての陽太ならいざ知らず、今の陽太の防御力はそれなり以上のものに仕上がっている


青い炎を纏えるようになったことによる根本的な強化の力の底上げに加え、その体の一部を硬質化し、盾を作り出すことも可能にしている


手加減した状態のメフィの一撃を受け止めることもできていたのだ、能力の相性によっては悪魔の全力もやり過ごすことができるかもしれない


そして鏡花はリットの方を向く、彼が使い魔という事は聞いている、静希曰く魔素が足りずに本来の動きができていないという事も、体の元になっているカレンの弟はすでに死んでいるという事も


「リット、あんたはカレンさんを守りなさい、何があってもよ」


言ったところで何が変わるというのか、鏡花もそれは理解していた、だがこの場において口に出すことが重要なのだ


リットに意志があるのかも定かではないが、一緒に戦うのであれば一人前の能力者として扱う、それが鏡花の信条であり、今この場においての役割だ


「カレンさんは引き続き召喚陣の対応をお願いします、オロバスは未来予知を続けて、何かあったらすぐに伝える事」


「わかった・・・さすがはシズキの班の長、しっかりとした指示で安心する、うちのボスとは大違いだ」


エドの指示もそれなりにしっかりしていたとは思うが、鏡花に比べると劣るところがあるのだろう


それも仕方ないかもしれない、エドはそもそも静希や鏡花程思考することに慣れていないのだ


元々が研究者であることもあり、じっくりと考えることは得意なのだろうが、状況に合わせて思考を高速化させることは苦手らしい


これで今のところ自分の周りに出せる指示はすべて出した、準備は未だ続いているが少なくとも現状においては今の形がベストであると鏡花は考える


明利の索敵に引っかかるような間抜けは相手はしないだろう、となればオロバスの予知が今回は重要なポイントになるだろう


問題は召喚陣をどれだけ早く無効化できるか、そしてどのような形でこれから動いていくかだ


敵が出てくるのか否か、それによっても変わってくる


だが鏡花の勘が言っている、静希のそれと等しく敵は来ると


騒めく、肌を刺す何か、腹の奥底にずっしりとのしかかるこの威圧感、緊張感


そしてそれは明利も、鈍感な陽太でさえ感じ取っているようだった


何かが来る、それが一体なんであるかは鏡花たちにはわからない


「静希、表の様子はどう?」


『今のところは平和そのものだ・・・住民の避難も今のところ順調、少なくともこの周囲の住民の避難は完了してる・・・ただ・・・』


「いやな感じがする、かしら?」


鏡花の言葉に無線の向こうにいる静希はその通りだよと返して見せる


静希も何かしらの予感があるのだ、今まで面倒事に巻き込まれ続けた察知能力というべきか、独特の勘というべきか


物理的に何かが見えるというわけではない、気配や殺気を感じるわけでもない、だが静希達の何かが『敵が来る』と告げているのだ


「いつ何が来てもおかしくないわ、こっちもフォローできるように準備はしてるから、そっちも警戒してなさい」


『戦闘準備はとっくにできてるよ・・・召喚陣の方はどうだ?』


静希の言葉に鏡花はカレンの方に視線を移す、少なくともかなり難航しているのかその表情はあまり良いものとは言えない


「ちょっと時間がかかるみたい、デッドラインにはまだ時間に余裕はあるし、大丈夫だとは思うけど」


『了解、奴さんが来るほうが早そうだな』


召喚陣の対応が早く済むのであればこちらとしても楽だったが、そうはうまくいかないらしい、静希の近くにいるエドも何かしらの嫌な予感を感じているようだった


いつやってくるのかもわからない状態というのは精神的にも負担を強いる、できるなら早く来てほしいと望むばかりだった
















静希たちが待機してどれくらいの時間が経っただろうか、唐突に無線が開き、向こう側からカレンの声が飛んでくる


『エド、シズキ!近くにある高い建物に注意しろ、攻撃が来る!』


その言葉に静希とエドは瞬時に反応し、近くにある高い建物を探す、それはすぐに見つけることができた


静希とエドが緊張を高めているとカレンの言う通り建物の方からいくつもの液体が静希達めがけて飛んできた


高速で飛んでくる液体を避け、静希達は攻撃が放たれた方を注視する


「エド、当たってないよな?」


「問題ないよ、あれくらいなら避けられる」


あらかじめカレンによって予告されていたからこそ回避することができたが、これでもし完全に不意打ちだったらまず間違いなく攻撃を受けていただろう、本当に予知様様である


「液体のようだったけど・・・水を操る能力かな・・・?」


「・・・いや、そう言うわけでもないみたいだぞ」


静希が視線を向ける先には先程避けた液体が壁に付着していた


粘度が高いのか、壁にへばりつきゆっくりと地面の方へと落ちて行くそれがただの水であるとは考えにくい


その色はあまりに毒々しい色だ、これは人体に害を及ぼしますよと言っているような色をしている、当たったらしみる程度では済まないだろう


「シズキ、どこにいるかわかるかい?」


「いいや・・・視界外からだったな・・・あの建物付近が怪しいけど・・・」


こう建物がいくつもあるような場所だとすぐに物陰に隠れられてしまう、だがやるべきことは決まっている


「鏡花、こっちは攻撃を受けてる、恐らく悪魔かそれに近しい存在だと思う、部隊の人間にも伝えろ、援護の態勢を崩さないように・・・それと明利、近くにいる軍人以外の人間を探してくれ、この近くにいるはずだ」


『了解よ、今伝えてもらうわ』


『了解・・・静希君達の近くだと・・・静希君から見て十一時方向、距離百十二メートル、移動しています』


それを聞くや否や静希とエドは同時に動き出す、明利の言っていた場所にやってくるとその存在をすぐに見つけることができた


建物の中に入ろうとしている、それを許すほど静希は優しくはない


邪薙の障壁を建物の入り口に作り出し逃げ込むことができないようにするとその人間はすぐに静希達の方を見上げて来た


仮面をつけた男だ、だが以前リチャードがつけていたものとはデザインが異なる


恐らく仲間だろうか、それともただ単なるエルフか


「どうする?確認するかい?」


「必要ない、お前ももうわかるだろこの距離なら」


「だよね、明らかに悪魔の気配だ」


静希はメフィをトランプの中から取り出し、戦闘態勢に入る、ヴァラファールも同じように威嚇を放ちながら周囲に呪いの塊を作り出し始めていた


「ま、まって!何なんだよ!何だよお前ら!今俺は避難する途中で・・・」


声からして男性のようだ、体は若干肥満気味、服はラフな格好で私服のようだった


どうやらまだ誤魔化せると思っているようだ、残念ながら静希とエドは止まるつもりはなかった


この距離まで近づいて、静希とエドの察知能力で間違えるはずがない、目の前にいるあの仮面の人物が悪魔の契約者で、先程自分たちを攻撃してきたものであると


「ずいぶん嘘が下手だな、もうちょっと演技の練習をしてきたらどうだ?」


「まったくだね、これならまだうちの子たちの演技の方がましさ」


メフィが光弾を、ヴァラファールが呪いを一斉に仮面の男めがけて放つと、その男の前に異形の存在が立ちはだかる


そして唐突に現れた毒々しい色の粘液が光弾と呪いとぶつかり、それぞれ相殺されていく


頭部は牛、体は本来の動物のそれとは全く違う異形だ、表皮は黒く骨格からして筋肉質であることがわかる、二本足で立っているもののその足は巨体を支えられているとは思えないほどに細い、何かの鳥の足に見えた


腕は人間のものに近いだろうか、丸太のように太い腕に鋭い爪、そして尾からは蛇のような第二の頭が生えている


今まで出会って来た悪魔とはまた違う意味で異形な姿をしていた


「メフィ、今のどれくらい本気で撃った?」


「小手調べだから結構軽いわ、シズキ達に撃ったやつよりちょっと強いかな」


どうやら万が一一般人であったことを考慮して最低限手加減はしたようだったが、どうやらその考えは杞憂に終わったらしい


男の目の前に現れた異形の存在、あれが悪魔でなくて何なのだと言いたくなるほどに悪魔らしい悪魔だ


「メフィストフェレス、あいつに心当たりは?」


「私の知り合いにあんな奴いないわね・・・見た目的に考えてあんたとかオロバスの知り合いじゃないの?」


「いや、生憎知らん顔だ」


どうやらメフィとヴァラファールも目の前にいる悪魔の正体に関しては心当たりがないようだった


一体どんな能力を持っているかも未知数、加減をしていたとはいえ悪魔の攻撃を防いだのだ、少なくとも油断していいような存在ではないのは間違いない


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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