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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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エルフの村での朝

静希が目を覚ましたのは早朝の六時頃


四月の早朝という未だ寒気の強い時間帯に起床してしまう


実習任務中であるとはいえ、休日にこんな早朝に起こされるとは、ついていないと静希は瞼をこする


『おはようシズキ、こんな時間にお目ざめなんて珍しいわね』


『あぁ・・・何でこんな寒いんだ・・・?』


自分は確かに布団をかぶっていたはずなのにそれが見当たらない


周囲を見回すと隣で寝ている陽太が自分の分の布団を強奪しのうのうと眠っている


陽太がかぶっている布団はがっちりと固定されてしまっており、離すつもりはなさそうだ


これでは二度寝もできやしない


『ふふふ、これじゃどうしようもないわね』


『ちくしょう、こうなったら仕返しだ』


自分の布団を奪いながらも呑気に眠りこけている陽太の顔にマジックで落書きをした後、静希は洗面所に顔を洗いに行くことにする


朝一で回収すると邪薙に言っている手前、何とかしてやりたいのだがこちらにも都合がある


せめて様子を見に行ってやりたいが、邪薙のいる場所は村長の家の地下


簡単に侵入などできない


ただでさえ神格の登場と暴走に緊張感が増しているであろう状態だ、下手に手は出せない


何か理由をつけない限り門前払いは確実だろう


静希が冷水で顔を洗っていると後ろから足音が聞こえてくる


振り返らずに鏡で姿を確認するとそこには東雲家姉妹がよろよろとやってきていた


風香は緑の、優花はピンクのパジャマを着ていた


どうやらまだ完全に意識が覚醒していないようで、頭を揺らしながら洗面台へと歩いてくる


そういえば自分も小学生のころはかなり早くから起きていたっけと思いだしながらその様子を見ていた


仕草や歩き方までまったく一緒、まさに鏡映し


「二人とも、おはよう」


「「はい・・・おはようございます・・・」」


双子はすごいなと感心しながら挨拶をしたら完璧に同じタイミングで、完全に同じ語句を並べた双子に静希は早朝から小さな驚きを受けていた


だが静希の隣に並ぶとどうやら本格的に目が覚めてきたようで動きがきびきびと、そして静希を見ながら数秒止まると、まったく同時に後ずさった


「い、五十嵐さん!?」


「お、おはようございます!?」


今度は役割分担でもしたかのように言葉を分けるのだが、同時に発音しているせいで何を言っているのかがわかりにくい


「落ち着いて、目が覚めたみたいだな」


「は、はい、まったくもって」


「お見苦しいところをお見せしました」


深呼吸の後恥ずかしそうに互いのパジャマの裾を握ってまたも同時に反応したせいで少し気後れしてしまう


どうにも動揺するとまったく同じ反応をするか、または一つの反応を分担して同時に行うらしい


かみ合っているのかいないのか、微妙な姉妹だ


「二人とも早いんだな、まだ六時だぞ?」


「私達はいつもこの時間です、見たいテレビがあるので」


「五十嵐さんこそ早いですね、まだ六時ですよ?」


言葉を返されたことに静希は苦笑する


「あぁ、布団を陽太に奪われてね、寒くて目が覚めた」


まったくもって忌々しいよと笑いながら持ってきたタオルで顔を拭く


二人もどうやら顔を洗いたいようだが、何やら静希を見てじっとしている


「あ、そっか、俺がいたら顔洗えないな」


彼女たちがエルフだということをすっかり忘れていた


仮面をおいそれと部外者の前で外すわけにはいかない


風香に関しては素顔を見てしまっているが、あれは不可抗力だ


「「はい・・・その、すいません」」


「気にするな、仕方ないことだろ」


それじゃあなと洗面所を後にし、静希は客間に戻る


『あら?いいの?あの子たちのご尊顔を拝見しなくても』


『一人はもう見ちゃってるし今更だろ、それに見せたくないなら無理に見ようとは思わないよ』


『紳士なのね』


『もう興味がないだけだよ』


自分がまったく知らずに、エルフの素顔など一度も見たことがなければあるいは覗こうとも考えたかもしれないが、静希は偶然とはいえ風香の素顔を見てしまっている


歯が鋭く変異しているところ以外、まったく自分たちと変わらない顔だった


仮面の下に隠しているものはその程度のもの


エルフの顔にとんでもない何かが隠されているとか、そういう類のものではないのだ


それはつまり隠す内容に意味があるのではなく、隠すこと自体に意味があるということ


風習や掟とはとどのつまりはそういうものだ


理屈や理論ではない、何か漠然とした自分たちとは違うルールに沿ってできている


それを理解しようとも思わないし、知りたいとも思わない


ただ単に『そういうもの』なのだから


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