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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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その場所へ

『魔素の流れがわかるのか?』


『あくまで可能性です、私のような精霊ならあるいはと・・・』


あくまで可能性、確かに精霊はエルフなどと共に魔素と深いかかわりを持っている、魔素の流れなどに敏感になっていても不思議はない


かつてエルフの村の長が魔素を感じ取っていたように、それができても不思議はないのだ


悪魔や神格など、強すぎる魔素を扱うものには無理かもしれないが、今のウンディーネならば可能かもしれない


『わかった、俺の体の中にいても分かるか?』


『やってみましょう・・・お願いします』


『えー・・・ウンディーネシズキの中に入るの・・・?』


ウンディーネが静希の体の中に入るという事にメフィはあまり乗り気ではないのか、若干不満を漏らしていたが、今は彼女の我儘に耳を傾けているような余裕はない


できる限り早く召喚陣を見つけなければいけないのだ


その召喚陣が建物の中にあるかどうかも今のところ分かっていないのだ、せめてどの場所にあるか程度は確認しなければ


静希が自分の体とトランプの距離をゼロにして、トランプの中からウンディーネを取り出すと同時に、彼女は静希の体の中に宿っていく


以前メフィを入れた時のように違和感を覚えるが、メフィの時ほど強い存在は感じない


やはり存在の大きさによって感じる違和感というのは変わるものなのだろうか


『どうだ?何かわかるか?』


『・・・いえ・・・動く魔素が多すぎてどちらに動いているのか・・・ですがある程度の方向はわかります・・・ここからですと・・・南西か、北東のどちらか・・・』


魔素の入る時と出る時、それによって魔素の向きが変わるのを感じ取ったのか、まったくの真逆の方向ではあるがある程度のめどは立った


街の北東、あるいは南西のどちらか


「ラルフ中佐に伝えてください、俺たちのいる場所から北東と南西の地区のどちらかに起点がある可能性が高いです、その両方を徹底的に調べてください」


「了解しました、お伝えします」


近くにいる通信手にラルフへの伝言を伝えると近くにいる鏡花が眉をひそめて静希に小声で話しかけてくる


「場所の特定・・・なんかしたの?」


「あぁ・・・ウンディーネにちょっと手伝ってもらった、今俺の中にいる」


静希が体を指さすと、鏡花にだけ見えるようにウンディーネがほんの一瞬だけ静希の体から顔を出した


何時の間に体の中に入れていたのか、鏡花も全く気付かなかったようだが精霊の力を借りていたとなると納得である


「カレン、ここから北東と南西の場所でどんなことが起こるか、大まかに予知してくれるか?そこに召喚陣がある可能性が高い」


『随分曖昧だな・・・わかった今頼む』


オロバスにさっそく未来予知をしてもらっているのだろう、場所の指定が大まかすぎるがそれでも数をかけて探している最中なのだ、どこかで見つかったという情報が出ても不思議ではない


現在と未来での同時進行での捜索と考えるとその効率は非常に高い、本来見ることのできない情報を見ているのだ、見つかるのは時間の問題だろう


「静希、召喚陣が見つかった場合、私達はどうするの?」


「まずは召喚陣を確認しに行く、カレンをそこまで送り届けたらそこを中心にして護衛だ、召喚陣の破壊が最優先、敵が出てこないのならそのまま状況終了だな」


静希は簡単に言ってのけるが、彼自身そこまでうまくいくとは思っていなかった


召喚陣が作られているのであればそこに注意しているのは当然のことであるからだ


なにせこれだけの軍人が動いているのだ、向こうとしても異常はすでに察知しているだろう


こちらが動いているのを察知すれば、確実に向こうも動き始めていると考えていい


それが逃走なのか、それとも戦闘の準備なのかは正直わからないが、最悪の想定はしておいて損はない


「そうだ鏡花・・・一応お前に渡しておくものがある」


「渡すって・・・もしかして守りの要でもくれるわけ?」


鏡花がそう言って静希に手を差し出すと、静希はそのまま鏡花の手を握る


一瞬何をしているのかわからなかったが、次の瞬間鏡花はそれを理解したのか、握られていた手を見つめた後大きくため息をつく


「あー・・・なるほどね・・・こりゃかなりの戦力だわ」


「あんまり期待するなよ?最低限のカバーはしてくれると思うから」


明利に渡すべきかどうか迷ったんだけどなと静希は苦笑しているが、この状況なら鏡花に渡すのが一番だろう


彼女がどのように動くのか、それによっても変わるだろうが、身に着けておいて損はない


「・・・言っておくけど、私はあんたみたいになるのはごめんよ」


「わかってるって、そんなことは望まないよ、きちんと言い聞かせてあるからちょっとした助っ人変わりだと思っていてくれ」


そう言って静希は苦笑している、鏡花からすれば静希から渡されたものはかなり危険をはらんでいるのだが、恐らく鏡花が思っているようなことは起きないだろう


鏡花がそれを望むのならまだしも、鏡花はそれを望まない


「どうした鏡花?なんかあったか?」


「なんでもないわ、あんたは集中切らさないようにしてなさい」


陽太の言葉を軽く流しながら、鏡花も目を閉じて深く集中を始める、それを見て静希は少しだけ安心していた





『シズキ、カレンが召喚陣を発見したよ・・・すでに部隊の人間に伝えてある』


エドからの無線に静希達は一気に身を強張らせた


「場所は?どこにある?」


『まだ現時点では発見できていないみたいだけど・・・北東部、ここからそう離れていない場所だ、もう部隊が向かってる』


恐らく静希達への報告の前にすでにラルフに連絡したのだろう、部隊の人間を派遣して徹底的に調べさせているようだった


そう離れていないのであれば静希達も移動するべきだろうか、いやその場に敵が待機していることも考えてここは軍の人間に周辺を徹底的に警戒してもらおう


静希達が動くのは安全が確保されてからでも遅くはない


「エド、カレン、軍の人間が召喚陣を見つけて、周辺の安全が確保されたら移動するぞ、俺とエドは屋根伝いに、鏡花たちとカレンたちは道なりに移動する」


『了解したよ、そろそろ本格的にいろいろはじまりそうだね』


エドの言う通り、そろそろいろいろはじまる気配がしている、今まで面倒事に巻き込まれ続けた静希の勘がそう言っているのだ


このまま平穏に終わるはずがない、静希は静かに戦闘態勢に移行し始めていた


「ミスターイガラシ、索敵に当たっていた部隊が召喚陣らしきものを発見したそうです」


エドからの通信があってから数分で部隊の人間が召喚陣を発見したという連絡が通信手の下に入った


やはり人数がいると早いなと思いながら静希は眉をひそめる


「場所は?」


「ここから北東の建物の中です、案内しますか?」


「・・・いや、まずはその周囲の人間を徹底的に避難させてほしい、その周囲に人が入れないように、後明利の持ってる地図にその場所をマークしてもらえますか?」


静希の意見をそのままラルフに伝えるべく通信手は無線の向こう側へ話し始める


静希達が危険な目に遭う必要などない、ただでさえ人が多い場所では隠れることも容易なのに誰がいるかもわからないような場所にわざわざ足を運ぶほど静希はバカではない


仮にその召喚陣を作った人物が市民に紛れていたとしても、最低限捕捉できるだけの状況を作るのが鉄則だ


不意打ちでもし悪魔の一撃を受けようものなら静希の体が消し飛びかねない、そんな間抜けな状況は避けなければ


「静希君、地図にマークしてもらったよ」


「よし、明利はその周囲の人間の動きを集中的に索敵してくれ、もし変な動きをした奴がいれば報告だ」


わかったと明利は力強くうなずいた後目を瞑り集中し始める


索敵の範囲が狭まったことで索敵はしやすくなっただろうが、問題はこれから先だ


この状況になった時点で、静希が犯人側ならすぐに撤退する、これだけの人数差があってはもはや落ち着いて召喚陣の使用など不可能に近い


しかも完成まではまだ時間がかかる、少なくとも予知の能力で定められたデッドラインは二日以上あとなのだ、この召喚陣を見つけられた時点でこの場で行動していた人間はすでに詰んでいる


だがそれは目的によって変わる可能性がある


ただ単に大量に人を殺すことが目的であるならむしろこの状況はおあつらえ向きだ、悪魔の力を使うなり不意を打つなりすれば多くの人間を殺せるだろう


今回この町に何を目的として召喚陣を配置したのか、そこだけが気になるところである


「静希、あんたたちが上で大丈夫なの?陽太も一緒にいたほうが」


「いや、俺とエドだけでいい、お前らは下から移動しろ」


わざわざ静希とエドだけ上から移動させるのは、今回静希とエドだけが悪魔の契約者として動いているからである


所謂囮のようなものだ


悪魔に対して実際に対応することが難しい鏡花たちは目立ちにくい人ごみに紛れてもらう


人ごみと言っても通りには軍人たちが多く存在するだろうが、少しでも隠れ蓑代わりになればいいのだ


もし危険と判断したらすぐに鏡花が能力を使うだろう、その程度の判断能力なら鏡花は当然持ち合わせている


なにせ静希と同じように今まで面倒事に巻き込まれ続けてきたのだ、ある種の危機察知能力はかなり高い


そして鏡花の近くに陽太を配置するのも理由がある


屋根の上のように開けた場所だとどうしても広範囲からの攻撃に警戒しなければいけないが、道路というある程度攻撃の方向が絞られていれば陽太も十分壁役となることができる


鏡花たちを守るために必要な壁役として陽太を配置したのだ、陽太の能力であれば悪魔の攻撃をある程度までは凌げる、そのある程度の時間さえ稼げば鏡花が状況を打開する


「陽太、お前は今回鏡花たちを守れ、それ以外はしなくていい、防御に専念しろ」


「えー・・・防戦一方かよ・・・なんかやる気でねえな」


陽太のやる気を出させるには何か発破をかけたほうがいいだろうかと思ったが、静希が考えたものではかえって逆効果になりかねない


静希は鏡花の方をちらりと見ると、彼女もその視線の意味を理解したのか小さくため息をつく


「陽太、私の防御は任せたわよ・・・それにあんたが悪魔の攻撃を受け止められたら・・・それこそすっごくかっこいいわよ」


「・・・マジでか、なんかご褒美くれるか?」


「・・・そうね・・・私にできる事なら、好きにしなさい」


鏡花が渋々そう言うと陽太はかなりやる気を出したのかよっしゃぁぁぁぁぁ!と掛け声をあげていた


なんと現金なやつだろうかと思う反面、鏡花もずいぶん慣れてきているなと少しだけ感心していた


「よかったのか鏡花姐さん、あんなこと言って、何要求されるかわかったもんじゃないぜ?」


「もう何を言われても驚かないわよ・・・それにあいつの無茶に振り回されるのは慣れたものよ」


一年以上陽太の訓練を行ってきた実績は伊達ではないという事だろうか、関係が変わってもそのあたりは相変わらずというべきか、鏡花は堂々と陽太を引き連れるつもりのようだった


人を従えているところが似合う人間というのも珍しい、だが鏡花は陽太を従えているところが非常に絵になる


堂々と立つ鏡花と、その傍らで跪く陽太、明らかに交際している人間の構図ではないがそれが似合ってしまうのだ


鏡花の持つカリスマというやつだろうか、そのあたりはさすがとしか言いようがない


「鏡花ちゃんもずいぶん素直になったね、いい傾向だよ」


「茶化さないでよ明利・・・これでも結構頑張ってるんだから」


陽太と付き合うようになってからできる限り素直になろうと、自分を陽太に見せて行こうと頑張っているようで、こういう時に鏡花の涙ぐましい努力が見え隠れする


陽太が恋人となっていると下手な駆け引きが通用しないために素直に自分の気持ちを言うしかないのだ


そのせいもあってか、いやおかげでというべきか鏡花は陽太に対してはすんなりと言葉を出すようになってきた気がする


元々オブラートに包まない言葉をぶつけていたが、それとはまた別のベクトルで率直な言葉をぶつけるようになった


「陽太!言っとくけど変な事はなしよ!わかってるでしょうね!」


「アイアイマム!健全な事ならオッケーなんだな!任せとけ!」


任せとけ、陽太が言う任せとけ程不安になる物はない


早まったかもしれないなと鏡花が思っていると、通信手が静希を呼び出す


「ミスターイガラシ、近くの住民を強制的に避難させています、半径五十メートル以内の安全は確保できました」


半径五十メートル、距離的に言えば周囲の建物一つ二つ分だろう、今のところはこれが限界だろうがこれから避難範囲を広げていけばいいだけの話だ

まずはカレンをその場に送り込む必要があるだろう


「了解した、俺は上から周囲の索敵ついでについていく、鏡花たちの案内を頼む」


「了解しました、どうかご武運を」


静希がメフィの能力で屋根の上に運ばれるのと同時にヴァラファールに乗ったエドが屋根の上に現れる、どうやら向こうも動き出すことにしたようだ


目と目で合図しながら鏡花たちとカレンたち、両方を確認できるように高度をとりながら静希達は目的の建物まで移動していく


その場所は倉庫のようだった、確かオーストリアの時は古くなった教会が召喚の起点だったはず、歪みの中心点からの把握であるためにそこまで正確ではないかもしれないが


「カレン、十分気を付けてくれ、何かあったらすぐに連絡を、アイナとレイシャはカレンを何時でもサポートできるようにしてくれ、後予知は常に行うように」


「鏡花、陽太を先頭にカレンたちのサポートを、明利は巻き込まれないような位置で待機だ、陽太、鏡花たちに傷一つ付けるなよ」


それぞれ指示を出しながら静希は鏡花たちが倉庫に入っていくのを確認すると同時に周囲の警戒に移った


軍の人間が建物の中は十分に調査したとはいえ、その周囲からの攻撃がないとは言い切れないのだ、静希とエドは倉庫近くにある建物の屋根の上から周囲を警戒し続けていた


「シズキ、今のうちに臨戦態勢をとっておいた方がいいんじゃないのかい?万が一の時反応が遅れるよ」


「お生憎だな、こっちには守り神様がついてるんだよ、数瞬の遅れであれば十分対応できる」


エドのように人外を一人しか連れていないのであれば常に姿を現していないと反応が遅れるかもしれないが、静希の場合複数の人外を引き連れている


攻撃に特化したメフィと守りに特化した邪薙、この二人がいる事で静希は多少無防備になっても安心していられるのだ


何よりエドにそこまで危険な行動をさせるわけにはいかない、エドの連れる悪魔ヴァラファールは能力の性質上防御が苦手なのだ、静希が無防備になることで攻撃を引きつけることができればその方がいい


なにせ静希は多少の攻撃を受けてもすぐに修復するのだから


『こちらカレン、召喚陣を確認した』


「了解、どうだ?何とかできそうか?」


『・・・正直何とも言えん・・・予想していたよりもずっと複雑だ・・・少なくとも私はこの類の召喚陣は見たことがない』


基本が変わらないとはいえ多少ギミックが加わっている召喚陣になっているのだろうか、それとも根本からまったく違う召喚陣なのか


どちらかはわからないがとにかく今はカレンに任せるほかない


「とにかく召喚を止めることができるかどうかだけ確認してくれ、物理的な破壊ができるかどうかも、もし可能なら鏡花に任せる」


『了解した、少し待ってくれ、いろいろ確認する』


すでに龍脈と接続されてしまっているのであれば物理的な破壊は危険だが、まだ接続されていないのでは鏡花の能力で召喚陣そのものを破壊してしまえば問題ない


問題はそれまで何も起きなければいいのだが、何も起きないはずがない

静希は周囲を注意深く観察しながらいつでも戦闘を行えるように集中を高めていた


評価者人数が365人突破したので1.5回分投稿


もうすぐまたpv数が大台に乗りそうです、その時はまた大目に投稿しようかと思っています


これからもお楽しみいただければ幸いです

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