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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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面倒な会話

「まぁそういう事だ、魔素の力で半自動化しても成功する可能性が低いからこそ主流にはならなかった、正確にリュウミャク・・・大地の力に接続するためにはやはり人の手が必要なのだ」


カレンの言葉に全員がようやく納得するが、それでも疑問点は残る


魔素の変動が単なる自動化なら、魔素の変動の大きさによって被害を予測することはできないのだろうか、また半自動化から完全な自動化にすることはできないのだろうか


「カレン、魔素の変動からその召喚陣の・・・威力というか被害を予測することってできるか?」


「不可能ではない、大きなものを動かそうと思えばその分大きな力が必要になるのと同じで召喚陣にも大小がある、ものによっては大きなパイプをつないだり複数の大地の力に接続するようなものもある、その場合は半自動化に使われる魔素も多くなるだろうな」


カレンの説明に静希はなるほどと納得する、半自動化の魔素の役割が召喚陣との接続用パイプの道づくりだとすれば、大きなパイプを作るにはその分大きな道を作るほかない、その場合大量の魔素を必要とするという事だろう


巨大な機械を動かすにはただのコンセントではなく送電線が必要になるのと同じようなものだろうか


「なぁカレン、召喚陣自体の発動は人の手が必要なのか?」


「ん・・・トリガーを引くのは人間だな、この中で召喚の現場を見た者もいるだろうが、実際に人間が操作しなければ召喚陣は動かない、電化製品のスイッチのようなものだ」


高い成功率を望むのであれば、コードを自分の手でつなぎ、自分の手でスイッチを押すのが一番だなとカレンは言っているが、そんな成功率の低いものを見にわざわざリチャードが足を運ぶだろうか


いやそれ以前に、わざわざそんな成功率が低い方法をとることの方が不自然だ、今までこれほどまでに面倒な事を起こしているような人間がそんな成功率の低い手段をとるとは思えない


「なぁカレン、魔素を使うことによるメリットって半自動化以外にはないのか?」


「なんだ突然・・・私もこの手法は実際に試したことがないから何とも言えんぞ・・・そもそもこの手法はもうかなり昔に使われなくなったものなんだ、私も書物でしか見たことがない」


何かほかに、半自動化以外にこの魔素を使う手法に何かしらの意味があるのではと思ったのだが、さすがにカレンもそこまで深くは知らないだろう


この手法は言ってしまえば廃れた技術だ、召喚専門の人間だからこそこれほどまでの情報を得ることができたが、恐らくこれ以上のことを調べるにはエルフの書物でも見ない限りはわからないだろう


「だけど有難いじゃないか、その妙な手法をとっているおかげでこちらもその前兆を察知することができるんだから、むしろ感謝するべきだ」


「ん・・・まぁそうなんだけどな・・・」


確かにエドの言うように、この手法をわざわざ使ってくれたおかげで魔素の動きからそれを感知することができているのだ


そう言う意味ではありがたくもあるが、何か引っかかる


以前メフィがそれに遭遇した時も、同じような魔素の変動を感じたそうだが、この二つが全くの無関係とは思えない


何かあるのだ、だが今はわからない


「とりあえず話はここまでにしておこう、今のところ話ができるのはここまでみたいだしね」


「・・・そうだな・・・ひとまずは目の前のことに集中するか」


静希は思考を一旦止め、目の前のことに、今起ころうとしている歪みのことに集中することにした


成功率が低いと言われたところで歪みが発生しないわけではないのだ、召喚陣そのものを止めない限り絶対安全とは言えない


「ひとまずそろそろ移動しない?たぶん部隊の人間を移動させてる頃よ」


「そうだな・・・またあの険悪なムードになるかと思うと気が滅入るが・・・」


鏡花とカレンは先程の静希とエドの険悪な演技をまた味わうことになると思うと少々げんなりしていた


なにせこの二人の演技は見ていて疲れるのだ、時折本気で怒っているんじゃないかと思うほどに強い殺気を出す静希に、普段あまり怒ることをしないエドが怒気を孕んだ声を出すのだ


はっきり言って一緒にいたくない、可能なら遠くから今回の一件を眺めていたいところである


だがそれはできない、鏡花もカレンも静希やエドのサポートとしてこの場にいるのだ、その二人から離れるようなことはできない


「静希、もうちょっと穏便な演技でお願いするわ、あのままだとちょっと怖いもの」


「ん・・・でもあそこまで険悪ムード作っておいて急に仲良くなるってのもおかしいじゃんか・・・」


「それはそうだけど・・・あれはちょっとやりすぎよ」


例えエドが赤の他人の悪魔の契約者だという設定であるとはいえ、明らかに警戒以上に敵意を向けすぎている


あれでは協力するという感じではなくなってしまうのだ


「キョーカの言う通りだ、あれではこれから行動しにくいぞ、少し協調するような意識を持たせてくれるとこちらとしても助かる」


「アハハ・・・さすがに僕の演技も熱に入りすぎていたかな?ちょっと自粛したほうがいいかな・・・?」


エドが自慢げに、そして少し申し訳なさそうに笑っている中、静希は口元に手を当てて悩み始める


手がないわけではない、だがそれが起きた場合、まず間違いなく軍と亀裂を生むことになるだろう


となればどうするのが最適であり最善だろうか


「エド、今回ちょっと面倒なことになるかもしれないから、そのあたり留意しておいてくれ」


「面倒な事って・・・具体的には?」


「それはこれから話す、鏡花とカレンも聞いておいてくれ」


静希はため息を吐いた後その可能性について話し始める


自分たちがこの場にいる以上、避けられないかもしれない事柄、これがあるかないかで今後が大きく変わると言っていいだろう







大勢の軍の人間が並ぶ中、静希達はその前に呼び出されていた


前にラルフが言っていた、部隊と静希達の正式な顔合わせである


全体を見渡すことができないほどの大勢の軍人に静希達は一瞬顔をしかめていた


一体何人いるのやら、もはや自分たちはいらないのではないかと思えるほどである


「これだけの人数をよくもまぁ統制できるものね」


「軍隊っていう一つの会社みたいなもんだからな、上からの命令は絶対、俺らみたいな学生同士の集まりとは圧倒的に違うよ」


静希達はあくまで学生同士が集まり、それをまとめようとしているからこそ班長にのしかかる負担が大きい、だが基本軍などは縦社会だ、上の命令は絶対、その絶対的な認識があるからこそ大勢の人間を統制し行動することができる


いっそのこと班長の命令は絶対とかにすればもう少しうまく動かせるのかなと鏡花は一瞬考えたが、その場合でも静希は勝手に行動するだろう、結果的に自分の方にいろいろな面倒が押し寄せるのは目に見えている


それなら最初から好き勝手にやらせておいた方がましというものである


ラルフが軍人たち相手に何やら訓示のようなものを述べていると、急に振り返り静希達の方に大きく手を振る


「そして、今回は日本とイギリスより協力員として悪魔の契約者が二名作戦に参加してくれることになっている、彼らの足手まといにならないよう、全力で作戦行動に当たること!」


ラルフの言葉を終えると同時に全員が返事として敬礼を行った、ドイツ独特の敬礼に静希達は若干違和感を覚えていたが今はそんなことを気にしている余裕はない


「ミスターイガラシ、ミスターパークス、お二人にお願いがあるのだが」


来た


静希達は同時にそう思いながらラルフの方に視線を向ける


「お願いとは?」


「お二人の悪魔をここで見せていただきたいのです、これから作戦行動をとるうえでお二人の悪魔を誤射するなどということがないように」


言葉だけを聞けばなんともっともらしいセリフだろうか、仲間であることを全員に認識させるために悪魔を見せろ、確かにこれから大勢で行動するのであれば必要な処置であるのは納得できる


だが静希とエドは同時にため息をついていた


「断る、俺の悪魔をそんなくだらない理由で外に出したくはない、それに悪魔には人間の攻撃程度が当たっても何の支障もない」


「こちらも同じだね、どうしても誤射したくないのであればこちらの近くに部隊を近づけなければいい」


静希とエドの意見が同調したことで二人は一瞬視線を合わせて再び目を逸らす


静希が懸念していたのはこの事だ、ラルフという人間が悪魔に対しての接触経験があるのであればこの可能性も十分予測できた


悪魔の姿はそれこそ千差万別、どの悪魔が味方なのか判別するには実際に見たほうが早い


そして何より、静希とエドが本当に悪魔の契約者なのかを確認するには、やはり悪魔を見せてもらうのが一番手っ取り早いのだ


「そうもいかない、我々の中にも悪魔に対して有効的な行動をとることができる人間がいるのだよ、もしその人間が悪魔に対して攻撃をしてしまったら・・・こちらとしても居た堪れない」


嘘だ


静希とエドは直感的にそれを理解した


人間の能力で悪魔に対して有効的な手段があるとは思えない、何よりそれをどのように証明したのか


悪魔との戦闘経験があるのは恐らくラルフだけだろう、他にいたとしても、有効な手段を持っているのであればそれこそ静希達は必要なくなってくる


彼が言っているのはあくまでその場しのぎ程度の対抗策だ、致命傷や有効打などをとれる手段などは有していない


「だとしても、うちの悪魔の尊顔をそう易々と見せるわけにはいかないな・・・あれは俺のものだ」


「それに見せたところでどうなるわけでもないだろう、君たちは悪魔に対してほぼ無力なのだから」


二人の言葉にラルフは一瞬眉をひそめる


自らが有効手段を有しているという事を話しても、はっきり言って全く信用されていないのだ


ラルフたちは静希達の悪魔を確認するためにわざわざこんな回りくどい言い方をしている


悪魔を静希達が連れているのか、そしてその悪魔はコントロールできているのか、さらに言えば今回味方になってくれるのか


そして大本を言えば軍という組織そのものが悪魔の存在を認識することでこれから対策を練るつもりなのだろう


言い換えれば静希達が敵になった時の予防線を張るつもりなのだ


そんなもののためにメフィ達を出すつもりはない、そう、最初はそう思っていた


だがこの状況を打開するためには少しの妥協が必要であることは理解している


だからこそ、静希は鏡花とカレンに話をしたのだ


「静希、そこまでにしておきなさい」


「ボス、わがままもそのくらいに」


鏡花とカレンが同時にそう言ったことで静希とエドは同時に振り返った


二人の好きなタイミングで静希達を窘めろとあらかじめ告げてあったのだが、まさか同時に発言するとは思っていなかった


この二人案外息が合うのかもしれない


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