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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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演技と魔素

「でしたらゲゼル中佐、我々の宿泊する場所を彼らに案内してもらっても構いませんか?ついたばかりで右も左も分からない状態なのですよ」


エドの言葉に静希は眉をひそめると同時に内心親指を立ててその発言を称賛していた


親睦を深めることを名目に、案内をさせる、二人に戦闘の意志がないことがわかればそれなりに話すこともできるだろう、特に部屋に到着すれば演技をする必要もなくなる


「なぜ俺たちがそんなことを、中佐の部下にでもやらせればいいでしょう」


「・・・いや、ミスターイガラシ、先程も言ったが両者の協力が不可欠なのだ、少しでも協力できるようにある程度折り合いをつけてくれると助かる・・・別に絶対的に協力しろとは言わん」


静希はあえて反対意見を出したが、ラルフとしては二人に協力してほしいと思っているのだ、この提案を逃す手はないだろう


静希が嫌がっている、いや嫌がっているふりをしているのを確認したのか、鏡花はため息を吐いた後で静希の腋を小突く


「静希、わがままもそこら辺にしておきなさい、案内くらいいいじゃないの、それに相手の話もある程度聞いておきたいでしょう」


「・・・でもよ」


鏡花の方を向くと同時に静希はラルフに見えないように一瞬だけ笑って見せる、相変わらず鏡花はいいフォローをする、そう言う笑みだった


「班長命令よ、パークスさんたちの案内をしなさい」


「・・・アイマム」


静希は鏡花に頭が上がらない、それは別に演技ではなく実際の関係ではあるものの、ここまで悪魔の契約者である静希に言う事を聞かせている鏡花という存在を見て、ラルフは鏡花の認識を改めるだろう


ただの形式上の班長ではない、鏡花は名実ともにこの班の長なのだ


「ではミスターパークス、俺たちが宿泊することになる建物にご案内しましょう・・・中佐、またあとで」


静希が先導し、静希達に宛がわれた建物へと向かうなか、エドは浮かべた笑みを崩すことはなかった


アイナとレイシャは不機嫌そうな顔をし、カレンはそんな三人を不安そうに眺めている


そしてエドたちに宛がわれた部屋に到着すると、静希は大きく息をついて鏡花に視線を送る


軽く中を調べ、盗聴器などの類がないことを確認してもらい、周囲の壁に防音措置を施させると静希は再び大きくため息をつく


「さぁミスターパークス、ここがあなたたちに宛がわれたお部屋ですよ」


「・・・ふふ・・・君にファミリーネームで呼ばれるとなんだかくすぐったいね、妙に新鮮な気分だ」


「お前だってさっき俺のことを苗字で呼んでたろ、お相子だっての」


静希とエドがいつもの調子に戻ったことで先程までの会話がすべて演技であったことがわかったのか、その場にいた全員が安堵の息をついていた


特にアイナとレイシャは二人が本当に口喧嘩をしているのではないかと少し疑っていたところもあったのか、胸をなでおろしているようだった


「あれ全部演技だったのね、エドモンドさんの方はちょっとわからなかったわ」


「ふふふ、これでも一応社会人として頑張ってるからね、それなりに演技くらいはできるさ」


静希の演技が敵意と殺意などを織り交ぜた今までの訓練と実戦に基づくものだとすれば、エドの演技は社会の荒波にもまれることで得た経験によるものなのだろう


まるで普段からそうであるような雰囲気を出している自然な演技だ、静希のように僅かな殺気さえ含まれる演技は見慣れている鏡花たちからすれば演技なのか本音なのかわかりかねるのである


「ミスターイガラシが私たちのことをお子様扱いしたのは何でですか、私達の実力はよくわかっているでしょう」


「子ども扱いはしてほしくないです、何よりミスアイギスのことを何も言及していませんでした」


「わ、悪かったよ、でもあの場でお前達のことを聞かないのは不自然だろ?だって明らかに子供なわけだし」


見た目が子供という意味では明利のことに関してエドが言及しないのも少々不自然な気がするが、静希達はもともと学生という立場でここにやってきている、明利のような高校生がいても不思議はないという事だと思いたい


どちらかといえばエドが明利のことに言及するのはさすがに失礼だと思い、あえて言わなかったのだが、そのあたりは言わぬが花だろう


「とはいえシズキ、まさかずっとこんな関係を続けるつもりか?さすがにこのままでは息がつまる」


「いやいつまでもこれじゃまずいだろ、エド、例のもの用意できてるか?」


「もちろん、今出すよ」


エドはそう言ってカバンの中からいくつかの通信機を取り出した


イヤホンもマイクも小さく、一見すれば通信しているとは気づかれないだろう


「君たちは仮面をつけるからその下にこれを仕込んでくれればいいよ、この無線同士でしか通信できないように周波数を調整してある、これで連絡を取り合えば問題なしさ」


静希達は今回行動するうえで全員仮面を装着する、犯罪者がいるかもしれない現場なのだ、当然と言えるだろう


そして無線でそれぞれ連絡を取ればいくら表向き険悪でも問題なく連携が取れるという事である


事前準備こそ最も大事なことである、作戦において一番大事なものが何なのか静希もエドも十分に理解していた



「そうだカレン、オロバスの予知に変化はあったか?」


「ん・・・今のところ大きな変化はない・・・戦闘があったりなかったり、だが件の本を眺めている未来が増えた、どうやらこちらが当たりだったようだぞ」


こちらにやってきた、あるいはこちらに来ることが決定してから、件の本を読む未来が増えた、それはつまりこの辺りにその本があるという事である


少なくとも静希達がドイツを選んだことに間違いはなかったようだ、事態は少しずつ好転していると思いたい


「戦闘に関して何かわかったことは?能力とか、その状況とか」


「私も全ての未来を確認したわけではないが・・・戦闘が行われる場合かなり派手な動きになる、火の手が上がっていないのが幸いだったが」


カレンの言葉に静希は眉をひそめる


リチャードと遭遇した時に戦闘した悪魔は炎を操った、火の手が上がっていないという事は少なくとも炎を扱うような能力ではなかったという事である


この国にリチャードはいないのか、それとも戦闘をただ眺めているだけのつもりなのか


どちらにせよ静希達がやるべきことは変わらない、多少陽太の扱いが変わる程度である


「半分当たり半分はずれってことか・・・いや本命から外れてるから半分も当たってないかな」


「だが気になっている本に近づいているのは事実だ、もし仮にここに彼奴が現れずとも、何かしらの情報は得られる」


カレンの言う通り、確実に追い詰めてはいるのだ、だが問題はここからである


これからが本番


マッカローネの下に残したリチャードの言葉が静希の中で反芻される、一体何がこれからなのか、何が目的なのか歪みを発生させることが目的なのか、それとも別の何かか


考えたところで答えは出ないが前に進んでいるのは事実だ、どれだけ進めているかは今回のことが終わればわかることである


「カレンはこのまま身分を隠して召喚陣を抑えてくれ、いちいち専門家を連れてくるより早く済む」


「わかった、情報を見る限り通常の召喚陣とはずいぶん違うようだな」


「やっぱり違うのか、どう違う?」


静希の問いにカレンは腕を組んだ後で空気を軽くなでるように手を動かす


「普通の召喚陣では魔素の変動は起こらない、このような魔素の変動が起きてるという事は・・・召喚陣自体が魔素を取り込んでいる可能性もある」


魔素を取り込む


本来召喚陣は大地の力、龍脈の力を使うことで発動する、その力を得るために時間をかけて龍脈と接続する作業が必要になってくる


その作業は生半可なものではなく、エルフの技術を用いても長い時間がかかるのだとか


普通の召喚陣なら、魔素を取り込む必要などは無いのだ、だが現在、大気中に存在する魔素は変動を続けている、召喚陣が存在するであろうこの場所で不可解なほどに


「でも魔素を取り込み続けてるならそれこそ天気が悪くなったりするんじゃないか?前にそういう事あったぞ」


「懐かしいわね、あの無人島の時のことね」


以前静希達が遭難した魔素が極端に低くなっていた無人島、あれはメフィ曰く屍が能力を発動した状態で保存され続け、大量の魔素を消費し続けたからこそあのような状態になっていた


周囲の魔素の供給が追い付かないほどの大量消費、そのせいで大気が不安定になっていた


だが今回の場合、上昇と下降を繰り返すようなパターンになっている


大量に魔素を取り込めばその分他の場所から魔素が流れ込む、無人島の時のような大量消費でないとしても、何度も何度も繰り返されるパターンが形成され、何度も周囲の魔素が流れ込み、それを取り込んでいけば多少なりとも大気が不安定になっても不思議はない


だがこの近辺の天気はあと一週間は晴れが続く、魔素の変動による天気の変化はないに等しい


「・・・確かに、魔素を吸い続けるのであれば、大気が不安定になっても不思議はない・・・ならいったい・・・」


「吸った後に吐き出せばいいんじゃねえの?」


カレンが悩んでいる時、陽太が不意にさも当然のように言ってのけた


吸ったら吐く、まるで呼吸のような動作と言えるだろう、魔素を吸って能力発動のためのエネルギーにするならまだしも、何故吐き出す必要があるのか、召喚陣にそんな動作を加えてどうするのかと静希と鏡花は呆れていたが陽太の発言にカレンは目を見開いていた


「そうか・・・呼吸・・・そうか・・・なるほど、ヨータ、その考えは正しいかもしれない」


「え?マジ?合ってる?」


まさかあってるとは自分自身でも思っていなかったのか、カレンが驚いているのを見て陽太は渾身のドヤ顔をしている


多少イラつくが、その陽太の言葉にカレンが何かしらのことを思いついたのは事実だ、悔しいがその渾身のドヤ顔を止めることはできない


「えっとカレン、どういうことなのかわかりやすく説明してくれるか?召喚陣に魔素の出し入れさせてどうするんだよ」


「あぁそうだな・・・どう説明したらいいだろうか」


どうやらカレンもこのことをどのように説明したらいいのか迷っているようだった


というか一番の問題なのは静希達が召喚のメカニズムを大まかにしか知らないという点だ、そのせいで無駄に説明が面倒くさくなっているのである


「シズキ達は召喚陣をどのようなものだと解釈している?それによって説明の仕方が変わるが・・・」


召喚陣をどのようなものと解釈しているか、あくまで静希の考えでしかないが、ある程度大まかに頭の中には入っている


「まぁ簡単に言えば電化製品みたいなもんだろ?龍脈っていうコンセントめがけてコードを伸ばして、接続した後に動かす、大体こんな感じだろ?」


「ふむ・・・その説明で言うと・・・そうだな・・・コードを伸ばす作業のために魔素を利用していると言ったほうがいいだろうか」


コードを伸ばす作業、つまりは召喚陣から龍脈へ力を接続するための工程で魔素を使っているという事だろう


だがその説明でもあまり納得はいかない


「魔素を使ってるならそれこそ減り続けるんじゃないのか?呼吸ってことは召喚陣から魔素も出て来てるってことだろ?」


「あー・・・いや消費はしていない、魔素の消費自体は行われていないんだ、どういえばいいだろうか・・・水鉄砲のように魔素を溜め、押し出して・・・いや違う・・・あー・・・どう説明すれば・・・」


「あー・・・例えるのが難しいならとりあえずどういう事をしてるのかだけ教えてくれ」


どうやらカレンの中で随分と悩んでいるようだが、とりあえず例えるのをやめてそのまま彼女の知っている知識を教えてもらうことにした


召喚の概要くらいは知っているのだ、そこから想像してわかりやすいように解釈すればいいだけの話である


「さっきシズキが言ったように、召喚にはリュウミャク、つまりは大地の力を使う、その力の源までコードを伸ばすのだが、その作業を半自動的に行えるようにしたのが魔素の利用なのだ」


半自動的に接続を行う


そこで静希達はさらに疑問を覚えた、そんな方法があるのであればエルフ達が使っているのではないかと思うのだ


通常の召喚では面倒な手順を省くことができるのであればそれに越したことはない、それに研究者たちもそれを利用してしかるべきだ


何故他の召喚などでは使われないのか


「半自動的に接続できるならそれに越したことはないじゃんか、なら何で全部の召喚陣でそれを使わない?」


「もちろん半自動というメリットもあるが、その分デメリットもある、この場合は召喚の成功率・・・いや召喚陣完成の確率が極端に低いんだ、一割、いやもしかしたらそれより低いかもしれないな」


召喚の成功率ではなく、召喚陣の完成の確率が低い、つまりは召喚に至るまでもなく、召喚陣そのものが出来上がらないという事でもある


半自動という割に成功しないのでは意味がないのではないかと思えてしまう


「その召喚陣の完成って、具体的にはどういうことだ?」


「・・・簡単に言えばコードが勝手にどこかに行ってしまい、コンセントまでたどり着かないと考えてくれ、それでは電化製品は動かないだろう」


その説明に静希達はあぁなるほどと納得する、つまりデメリットとは正確に龍脈の所までコードを伸ばせないことにあるのだろう


半自動化しておきながらそれでははっきり言って使えるような代物ではない


「その半自動化の工程で、魔素の流れを作り出して、コードをリュウミャクまで導くのだが、召喚陣そのものにその魔素の流れを組み込むために精密な接続ができないんだ」


「あー・・・なんとなくわかってきたぞ・・・つまり召喚陣をスタートにして、龍脈までの仮のルートをあらかじめ召喚陣自体に仕込んでおいて、一定まで溜めた魔素を噴射して流れを作る、んでその流れを作り終えた魔素はまた大気中に戻っていく、そういう事か」


静希の説明にカレンはその通りだと言っていたが、エドや陽太、そして明利、アイナにレイシャは内容が理解できなかったのか疑問符を飛ばしていた

理解できなくても無理はない、はっきり言って回りくどい上にイメージしにくいのだ


「鏡花姐さん、説明よろしく」


「・・・私もそこまで理解してるわけじゃないけど・・・そうねぇ・・・」


数秒考えた後鏡花は足元に幾つかの道具を取り出した、それは桶と水鉄砲のようなものだった


「静希、この中に水を入れてくれる?」


「ん、ちょっとしかないけど」


「問題ないわ」


鏡花の指示通り桶の中に水を入れると、鏡花は他にもいくつかの道具を作り出す、それはキャスターのついた的のようなものと、水を回収するためのわずかな傾斜だった


「この桶に入っているのが大気中の魔素だと思って、そして水鉄砲が召喚陣、それであの的が召喚陣のコード、端っこのあのラインが龍脈ね・・・魔素をまず水鉄砲の中にチャージする」


鏡花が水鉄砲の中に桶の水を入れていくと桶の中の水は徐々に減っていく


「んでもって的めがけて水を噴射、でも水鉄砲の照準はあらかじめ決めたものでしかないから的はどう動くかわからない・・・そして噴射された水は徐々にまた桶の方に戻ってくる・・・大体こんな感じかしら」


一連の動作を見てようやく今の状況がわかったのか、陽太を含めた全員がなるほどと納得しているようだった


もっと精密な理論をあげて行けば詳細は異なるのだろうが、カレンの表情を見る限り大体合っていたのだろう、相変わらず鏡花の説明能力は光り輝いている


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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