表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

945/1032

悪魔の契約者

「なんか静希って鏡花の評価はやたら高いよな・・・なんかちょっと悔しいぞ」


「悔しいも何も、お前鏡花に勝ったことないだろ・・・実際鏡花はかなり優秀だぞ、少なくとも俺らよりはずっとな」


静希のいう通り、鏡花は優秀だ


身体能力こそ静希や陽太には劣るところはあるが、その能力、そして判断力、機転、行動力、総合的に見れば明らかに学年でもトップクラス、いや学校内でもトップクラスの実力を持っていると言っても過言ではない


先程静希は冗談交じりに悪魔との契約をほのめかしたが、実際鏡花はそれをできるだけの資格はすでに備えていると言っていい


悪魔の好き嫌いにもよるが、鏡花も運と縁に恵まれれば悪魔の契約者、あるいはそれに類する存在になれる可能性は十分にある


実力もそうだが、彼女の精神力もこの一年でかつての彼女とは比べ物にならないほどに強靭なものになっている


名実ともに天才の名をその身で体現しているようだ


「あんたからそこまで手放しに褒められると裏があるんじゃないかと疑っちゃうわね」


「なんだよ人がせっかく褒めてるのに、実際俺らの中での総合力は鏡花がトップだろ」


この中で総合的に能力が高い人間は誰かと聞かれれば、全員が鏡花だというだろう


前衛として機動力と耐久力、そして戦闘力の高い陽太、高い前衛としての能力を有している反面思考能力や索敵能力は皆無に等しい


後衛としての索敵能力や応急処置、そして専門知識に秀でた明利、後衛としての能力が高い代わりに戦闘能力はほぼないに等しい、ただ遠距離からの狙撃に関していえば静希以上の才能を秘めている、もっとも彼女は狙撃銃などは所有していないが


中衛としての高い援護能力、そして思考能力と訓練によって得た剣術、左腕による機動力と静希は総合力で見ればそれなりにバランスが取れていると言えるかもしれないが、それでも万能と呼べるレベルのものではなく、せいぜい器用貧乏という程度のものだ


近接戦闘では陽太に及ばず、中衛としての援護と言っても鏡花に及ばない、索敵に至っては明利と比べるまでもない、静希は非常に中途半端な位置にいるのだ


三人に比べ、鏡花の能力は非常に高い、近接戦闘に関しては陽太や静希と比べるとかなり劣るところはあるものの、彼女の能力に近距離における制限はないに等しい


遠くに能力を反映させるのにはそれ相応のデメリットがあるものの、近ければ近いほど彼女の能力は高い効果を発揮する


唯一劣っていた機動力も、最近は克服しつつありかなりの速度での移動が可能になっている、索敵能力はほぼないに等しいが思考力と能力のバランスを考えればこの中で一番の実力者は間違いなく鏡花だ


「先生はどう思います?この中で一番の実力者」


「ふむ・・・私も五十嵐と同意見だ、多少甘いところさえ抜ければ清水がこの中で一番なのはまず間違いないだろうな」


甘いところさえ抜ければ


その言葉に静希達は少しだけ思い当るところがある


鏡花は何というか、妙なところで手を抜く癖がある、いや手を抜くというのは正確ではないだろう、彼女としては全力のつもりなのだ


全力を出すことを控えているというべきだろうか、彼女が本気になればそれこそできないことはないと言ってもいいほどだ、だが鏡花はそれをしようとしない


「あー・・・確かに鏡花って基本攻撃とかしたがらないよな、大体補助に回ってるし」


「でもそれだったら私もあんまり攻撃しないよ?」


「明利の場合は能力自体が攻撃向きじゃないからだろ、鏡花の場合攻撃し放題じゃん」


陽太の言うように明利の能力は攻撃に向いていない、唯一彼女の攻撃手段と言えばカリクを使った対生物用の切り札くらいのものである


鏡花の能力はその気になれば多彩な攻撃が可能だ、だが彼女は捕縛や防御などにそれを使うことはあっても攻撃にそれらを使うことはあまりしなかった


「だって私の力強いから、もしそれで殺しちゃったりしたら後味悪いじゃない」


「・・・こういう甘さが抜ければそれこそ不動のエースになれるだけの実力はあるのだが・・・そのあたりが惜しいところだな」


それこそ極端なことを言えば静希が鏡花の能力を有していたら、恐らく最高の能力者と言ってもいいほどの逸材になっただろう


高い能力、それなりの身体能力に機動力、さらに冷徹さや行動に躊躇いを持たない決断力


はっきり言って最悪の組み合わせと言ってもいいほどである


その場合鏡花のような『天災』の称号ではなく、きっと『厄災』の称号を得ていたかもしれない


静希が鏡花の能力を得たらという恐ろしい想像ではあるが、恐らく自然災害級の行動を連発しただろう、鏡花だからこそその危険性を把握しあまり強い能力を使わないで来たのだ、静希のような性格だったらまず間違いなく大惨事を引き起こしていただろう


「だがこの甘さが必要な時もある、今はその甘さを大事にしておけ」


「甘さねぇ・・・私ってそんなに甘い?」


「・・・甘いっていうか・・・甘酸っぱ辛いって感じだな」


陽太の言葉に鏡花は褒められているのかそれとも貶されているのか判断に迷っているのか複雑そうな表情をしていた


甘いのと辛いのはまだわかるのだが酸っぱさはどこからやってきたのか、問いただしたいところだが陽太のいう事だ、どうせろくな理論ではないだろう


「ちなみに静希や明利はどんな味?」


「静希は苦辛い、明利は激甘の中にほんのりピリリと来るものがある」


一体どういう判断でそんな味を付けているのかわからないが、なかなか言い得て妙かもしれない、城島の味も聞いておこうかと思ったのだが教育指導されそうなのでやめておこうと鏡花は口を噤んだ












それぞれ行動の準備をし、エドたちがやってくる昼頃になった時、静希達はラルフに呼び出されていた


理由は言うまでもない、エド達との顔合わせである


悪魔の契約者が二人この場所に存在するという事実に軍の人間は浮足立っている、実際は三人なのだがその事実を知る者は少ない


事前に確認したところ、カレンはあくまでエルフとしての立場を貫き、悪魔の契約者であることは伏せるとのことだった


それならそれでやりやすい、こちらとしてもカレンにそれ相応の行動をさせることができるだろう


静希達がラルフのいる司令室までやってくると、中にはすでにエドたちの姿があった


その瞳は警戒心を高めていることがわかる、静希の一挙一動、頭の上からつま先までを観察するようなその疑心の瞳、打ち合わせ通りとはいえエドがこういう対応をするのは実に久しぶりだなと静希は内心苦笑していた


「来たか・・・ミスターパークス、紹介しよう、彼が日本からの協力員で貴方と同じく悪魔の契約者、シズキ・イガラシだ・・・ミスターイガラシ、彼はイギリスからの依頼で来てくれた」


「エドモンド・パークス、俺と同じ悪魔の契約者・・・お初にお目にかかります、ミスターパークス」


静希は薄く笑みを浮かべながらエドに対して握手を求める


だがエドはその手を取ろうとはしなかった


「君のことは耳にしているよミスターイガラシ、なんでも悪魔のような男だとか」


「いやはや誰がそんなことを言ったのか、俺自身はただの学生ですよ、悪魔だなんて恐れ多い」


一体どの口が言うのだろうかと鏡花たちは内心ため息をついていたが、外見上は二人のやり取りを緊張感を持って眺めていた


何かあった時にすぐに割って入ることができる程度の警戒を常にしている状態と言えばいいだろうか、少なくとも知己の人間に行うそれではない


「君は・・・いや君たちは確か学生だったね、今回は依頼という形で?」


「いいえ、学校の実習という形です、そちらは金銭が発生するかもしれませんが、生憎こちらにはほとんどないようなものです、なのでほどほどに協力させていただきます」


静希達は今回実習という形でこの場にいる、学校の成績に響くという意味ではそれなりに頑張らないといけないのだが、得られるものは経験と成績のみ、そこまで意地になるようなことはないのである


金銭的な何かが発生するならまだしも、命を懸けるつもりはない、そう言うつもりでの発言だった


「こちらは一応仕事で来ているのでね、やる気がないのは結構だが足を引っ張らないようにしてほしいものだ」


「なるほど、気を付けましょう・・・と言いたいですがそちらのお子さん方は一体なんですか?よもやその子たちも今回の作戦に加えるつもりで?」


静希の視線は近くにいたアイナとレイシャの方に注がれる


エドとカレンが近くにいるとはいえ、この二人はまだ子供だ、作戦に参加させられるほどの実力は無い、そしてそれは二人の話を眺めていたラルフも同意見だった


「そうだ、と言ったらどうするのかな?」


「貴方の程度が知れますね、数万の人間の命がかかっているこの状況で保育士の真似事ですか?あなたの仕事にかける情熱が疑われます」


静希の言葉にアイナとレイシャが食って掛かろうとするが、それをカレンとエドが押さえて見せた


今のが演技だったのかどうかは定かではないが、少し険悪なムードを作っておくのは必要なことだ、静希とエドは少なくとも協力し合うような友人関係ではないと印象付けることができればいいのだから


「彼女たちの力を見縊っているのであれば、それこそ君の程度が知れるというものだよ、彼女たちは優秀だ、少なくともただの学生よりはずっとね」


「俺だけではなく、俺のチームメイトがただの学生だと思っているならやはりその程度か、悪魔の契約者と言ってもそこまで大した人物ではないようだ」


売り言葉に買い言葉、まるで喧嘩腰で行われる会話を前にそれを見ていた鏡花たちやカレンたちはこれが本当に演技なのか疑い始めていた


静希の演技はよく見るが、エドの言葉もいつものものと違う、僅かに怒気さえ含まれているような声音だ


本当に喧嘩になりかねないなと思いかけていると、その場にラルフが割って入る


「そこまでにしてもらいたい、今回は協力関係になってもらうとあらかじめ話をしておいたはず、余計ないさかいは生みたくない」


ラルフの言葉に静希とエドは両者同時にため息をつく、ひとまず舌戦はここまでという事だろうか、鏡花やカレンもこの険悪なムードがここで終わりになるのだと理解し肩をなでおろしていた


「君たちには親睦を深めてもらわなければならない、短い間とはいえ君たちの力は強力なのだ、いがみ合っていたら成功するものも成功しない」


悪魔の契約者という強大な力、一人でも手に余るものなのに二人も同時に作戦に加わるのだ、恐らくラルフにかかる精神的負担はかなりのものだろう


静希やエドはそんなもの全く感じていないのだが、少なくとも悪魔の契約者がコントロールできないような存在であることは印象付けることができただろう


後は今後の動き次第、なるべく早めにエド達と話すことができる機会を設けたいところだが、どうしたものか


静希がそう悩んでいると、エドが薄く笑みを浮かべて口を開いた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ