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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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ただの能力者

「なるほど、部下たちの視線がな・・・」


静希達は朝の準備運動代わりの組手を終わらせ、しっかり動けるだけの調子に戻したところでラルフのもとを訪れていた


幾つか話したいことはあったがその中でも一番の問題が部下たちの視線である


いつまでももの珍しそうに眺めていられるのは正直困るのだ、静希達がいるからその方を向いてしまうでは作戦にも支障が出る


「まぁそのあたりは許してやってくれ、部下にとっても君のような存在は珍しいんだ、まぁ今日紹介するときを境に少しはましになると思うが・・・」


「そうだとありがたいんですけどね・・・さすがにじっと見られてるのは気持ち悪いですよ」


「ふむ・・・一応部下にあまり君たちの方を見ないように伝えておこう、それでここにやってきたのはそれだけが目的かね?」


さすがにそのくらいは把握されてしまうかと、小さくため息をつく、明利に視線を向けると彼女は種がいっぱいに入った箱を手元にとりだした


あの街を索敵下に置くのに必要な種だ、全て明利のマーキングが施してある


「これを街に等間隔で蒔いておいてほしいんだ、うちの索敵手のマーキングが施してある、細かい索敵はあまりできないが大まかな人の位置などは容易に把握できる」


「・・・これだけの量だと・・・街全体に行き渡るが、それでもいいのか?」


「あぁ、うちの索敵手ならあのくらいの規模の街なら全部覆い込める、ただ蒔くなら道路に限定したほうが効率がいい、頼めるだろうか」


静希の言葉にラルフは静希の後ろにいる鏡花、陽太、明利の順に視線を移していく


誰がその索敵手か、先程種を用意した明利だろうとラルフが視線を明利に集中した後、こんな小さな子供がと思ってしまい首を小さく横に振る


能力者にとって体の大小ははっきり言って判断材料にはならない、小さな体でありながらもエース級の働きをする人間を彼は何人も見てきたのだ


そこにいる明利もそれと同じく、索敵という事柄においては優秀なのだろうと理解し種の入った箱を受け取る


「了解した、では昼までにはすべて蒔いておこう、どれほどの間隔で蒔けばいいだろうか」


「あ・・・あの、一メートル間隔くらいで蒔いてくれればかなり精密に索敵できます、ただ種なのでどこかに挟むとかしてくれるとありがたいです」


明利の言葉にラルフは了解したと呟いて部下の一人に種の入った箱を手渡す


「君たちはミスターイガラシのワンマンチームだと思っていたのだが、どうやらそう言うわけではないようだな」


「ハハハ、むしろ俺よりこいつらの方がずっと優秀ですよ、俺にできないことを簡単にやってのける奴らばかりですから」


悪魔の契約者がいるチームという事は知っていたが、その周囲の人間がどのような能力を有しているかまでは調べていないようだった


全員が称号持ちであるとはいえ、悪魔の契約者に比べると見劣りしてしまうという事だろう、だが実際には静希と同じ面倒事に関わってきたチームメイトだ、そのあたりの能力者よりはずっと優秀であると静希は断言できた


「ミスターイガラシ、君が自由行動をとることに関しては私は何の異論もない、悪魔の契約者を指揮できる自信もないからな・・・だが君のチームメイトは私に預けてくれてもいいのではないかな?ただの能力者ならそれなりに扱える自信はあるぞ」


ラルフの言葉に静希は眉を引締める


自分が悪魔の契約者を指揮するに値しない人間であると自負したうえで、静希ではなく鏡花たちを指揮下におこうとしている


確かに彼ならただの能力者である鏡花たちに的確な指示を出すことができるかもしれない、何より静希と行動を共にするというリスクがなくなる


だが静希としてはこの提案は断る以外の選択肢はなかった


「お言葉ですが中佐、俺がボスと認めるような人間が、ただの能力者であると本気で思っているんですか?」


静希の言葉にラルフは一瞬鏡花に視線を向ける


静希がボスと認めているのは鏡花と城島くらいのものだ、それでも実際の命令権は彼女たちにはない


形式的なものであり、静希の信条的なものだろうが鏡花たちにはそれだけの物があるのだ


そしてラルフは鏡花達もまた特別な何かではないかと思案し始める


悪魔程ではないにせよ、何かしらの存在を引き連れていても不思議はないと


「・・・なるほど・・・そういう事であれば私が口を出すことはできんな、君たちのチームは好きにしたまえ」


「えぇ、そうさせてもらいます、少なくともそちらの邪魔にはならないようにしますよ」


静希が何故鏡花たちをラルフの指揮下に置かないようにしたのか、それは鏡花たちの動きを通じて静希の行動をコントロールされることを危惧したからだ


鏡花たちを危険な場所に移動させれば当然静希もそれをカバーするために動かなくてはならない


直接的な指揮権がなくても間接的に操作することができてしまうのだ


先程のラルフからはまだ静希をどうにかしてコントロールできないかという下心のようなものを感じた


そのあたりはさすが年季の入った軍人といったところだろう、はっきり言ってごくわずかしか感じ取れなかったがそれでも静希もそれなりに経験を積んでいる


良いようにつかわれるのはごめんだ


静希達はラルフへの要件を終えると一度城島の待つ建物に戻ることにした









「なるほど・・・五十嵐が機転を利かせたという事か」


城島に先程の会話の内容を報告すると彼女は満足そうに薄く笑みを浮かべていた


静希が城島もボス扱いしているという事が嬉しいのか、それとも単純に静希の行動を称賛しているのか、静希には判断できなかった


「とりあえず今回も自分たちの行動の自由は獲得しました、後はどう動くかですね」


「ふむ・・・そのあたりは後で奴らが来てから決めればいい、今お前がするべきことはした、後は隊員たちに話を聞くなり好きにすると良い」


城島は静希の行動を称賛しているようだったが陽太は今回のことに首をかしげていた


「でも先生、俺らはいつも静希達と一緒にいられるわけじゃないんだし、軍の指揮下に入ってもよかったんじゃないっすか?わざわざ完全別行動をとらなくたって」


陽太の言葉に城島と鏡花はため息をつく、二人して陽太の反応に呆れてしまっているようだった


城島も鏡花も、静希が何故自分たちをわざわざ軍の指揮下から外したのか、その意味を理解しているのだ


「陽太、私達はいわば静希にとって急所になりかねないのよ?そんな存在をわざわざよその人間に預けると思う?」


「急所って言ったって今回は協力してるんだろ?なら別にいいんじゃねえの?」


陽太からすれば一緒に行動する人間それすなわち味方という理論が出来上がっているのだろうが、実際のところはそうではない


静希達はあくまで今回の事件において協力しているだけで、何もこの軍の一員になったというわけではないのだ


「じゃあ陽太、ゲームとかでいくら死なせてもいい、あるいは死なせても問題ないようなキャラが味方にいた場合、あんたはどうする?」


「死なせても問題ないなら無茶させてもいいだろ・・・ってあぁそういう事か」


相変わらず鏡花の説明は陽太用になっているのだなと思いながらも静希はその例えが非常に適切なものであることを理解していた


もし静希が軍の立場だったのなら、陽太達を囮にして軍が優位に立てるようにしたり、陽太達を犠牲に静希を誘導し事を優位に動かそうとするだろう


軍とはそれ一個の組織だ、その長であり指揮官であるラルフがあれだけの人物となるとどんな行動をとっても不思議はない


いかに犠牲を少なく目的を達成できるか、指揮において必要なのは最低限の犠牲が出ることになっても割り切ることができることだ


そして都合よく外から協力員が来ていて、偶然それが犠牲となる形で事を進められるのであれば、静希なら間違いなくそうするだろう


「清水の言う通りだ、我々はあくまで今回の件に協力はしている、だが軍の指揮下にはいる事は出来ん・・・お前達の立場から言って間違いなく使い潰されるだろうよ」


「まぁそうなってもそれなりに働く自信はありますけどね・・・相手が悪魔以外なら」


鏡花はすでに悪魔との接触を何度か行っている、今さら悪魔が出てきたところで怯えることはなくとも戦って生き残ることができるかといわれると微妙なところである


「まぁ鏡花なら相手が悪魔でも逃げおおせるくらいはできるだろ、勝つことは無理だろうけど」


死力を尽くして逃げることに徹して、それでようやく生き残れるか否かというところだろうが、鏡花の能力と性格ならば悪魔が相手でも逃げることは不可能ではない


静希の見立てでは今のところ一番生存率が高いのが鏡花だとにらんでいる、そしてそれは城島も同意見だった


「確かに清水ならそれくらいはできるだろうな・・・あくまで単一戦になった場合だが」


「悪魔相手に単独で挑むほどバカじゃないですよ・・・勝ち目がないなんて最初から分かってるんですから」


その言葉に城島と静希は薄く笑う


勝ち目がない、鏡花は口ではそう言いながら決してそう思っていないような顔をしていた


「お前のそう言うところ怖いよな、口では無理って言っておいて実はしっかり勝つこと考えてる」


「何よそれ・・・言っとくけど悪魔相手にまともな戦い方なんてしないからね」


まともな戦い方なんてしない、つまりはまともではない戦い方はするつもりなのだ


鏡花の怖いところはそう言うところだ、静希が自らの力を自覚してそれを行うように、鏡花も自分の能力を良く自覚して使っている


鏡花の能力はこの班の中で一番の応用性を誇っていると言っていい、そして能力の出力もこの班の中ではトップである


戦い方によってはエルフでさえも彼女の敵にはなりえないだろう、彼女自身そこまで卑怯な戦いが好きではないために結果があまりついてこないが、もし鏡花がなりふり構わず、プライドも何もかも捨てて戦うことができたのなら


そしてもし静希のような卑劣さと冷徹さを持ち合わせることができたなら、恐らくこの中で最も恐るべき能力者は鏡花だ


自分の力を最大限に使う事をあまりしない『天才』


災害級の力を持ち合わせていながらそれを使わない『天災』


「本当ならさ、お前みたいなやつが契約者をやるべきなんだよ、実力もそっちの方があってるしさ」


「生憎だけど、うちにはベルっていうペットがいるの、悪魔を引き連れられるような余裕はうちにはないの」


悪魔よりも飼い犬の方が大事、聞く人が聞いたら卒倒してしまうかもしれないセリフだが鏡花にとってはそれでいいのだ


力なんてものがあったとしても、ありすぎればその分面倒になるのは鏡花自身よく理解しているのである


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