表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

943/1032

目覚め

「・・・あんたらもう動いてたの?」


声がする方に目を向けるとそこには今起きたのか、目をこすりながら欠伸をかみしめている鏡花がやってきていた


恐らく睡眠薬の効果が切れたのだろう、本眠になることなく起きることができたという事は全く眠気はなかったという事である


「おはよう、調子はどうだ?」


「ん・・・なんか体が重いわね・・・あんたの言う通り無理に寝るんじゃなかったわ・・・ちょっと軽く動かないと元に戻らないかも・・・」


眠くもない時に寝るというのはそれなりに疲れる行為なのだ、眠ることにだって体力を使う、それも薬で強制的に引き起こす眠りであればなおさらである


体調を崩すというレベルまではいっていないようだが、多少調子を崩しているようで体の調子を確認しながら眉間にしわを寄せている


「んー・・・なんか変ね・・・明利、ちょっと診てくれない?」


「うんいいよ、じゃあ手出してね」


明利が鏡花の手を握り同調を開始する、普段の状態と比較して今の鏡花の体がどのように変わっているのを調べるのだろう、場合によってはドクターストップもあり得るかもしれない


「ん・・・無理に眠ったせいで頭と体の感覚がずれてるんだと思うよ?頭は起きてるけど体は起きてないか、またはその逆か・・・」


「なるほどね・・・両方起きるまでは時間がかかるか・・・」


静希なども朝起きた時にたまに明利に指摘を受けることがある、頭が起きているのに体が起きていない、またはその逆の現象


体が起きているというのもまた妙な表現かもしれないが、脳が覚醒しているのに体がそれに追いつけていないと言えばいいだろうか


普通に寝ぼけている状態と違って体だけがだるく、自分の思う通りに体が動かないような状況がこれに当たる


鏡花の場合睡眠薬を使って強制的に体を眠らせたはいいものの脳の方は覚醒状態を保っていたのだろう、二時間程度では脳は休眠せず、覚醒状態を維持したが体は眠ってしまい今のような状態になっているのだ


そう言う場合は軽く運動をするか、あるいは時間経過でゆっくりと体を起こすしかない、昼までには問題なくなるだろうが鏡花がこのように調子を崩している場面というのは案外珍しい光景だった


「それにしてもまた随分みられてるわね・・・まぁ当然と言えば当然か」


「やっぱわかるか、これだけ目立つのも珍しいけどな」


静希の場合目立たないようにすることが前提で行動することもあるためにこの状況は正直あまりいいものとは言えない


悪魔の契約者がこの場に一人しかいないという事もあって静希に意識が集中してしまうのは仕方のないことではあるが、もう少し何とか静希以外の方にも目を向けてほしいものである


「そう言えば陽太は?」


「あいつはまだ寝てるわ、むしろ何で普通に寝られるのか不思議なくらいよ」


静希達からすれば現在時刻は大体日本時間で十四時ほどだ、ちょうど昼を過ぎたあたりなのだがこの時間なら本来は普通に活動できるだけの時間のはずである


昼寝の習慣でもない限り普通は眠ることはできないはずなのだが、とりあえず横になれば寝られるのだろうか、陽太は普通に眠っているようだった


「あぁいう図太さというか、マイペースなところは見習いたいと思うわ、ちょっと行き過ぎてるような気もするけど」


「まぁあいつらしいというかなんというか・・・行動するなら起こしてきた方がいいんじゃないか?たぶんこのまま放置しておくといつまでも寝てるぞあいつ」


「あー・・・そうかも・・・一応起こしてくるか」


鏡花はのろのろと建物の中に戻っていく、どのような起こされ方をするかはわからないがもはや陽太は完全に鏡花の尻に敷かれてしまっている


将来の構図が見えるようだと半ば呆れていると鏡花と入れ替わりになる形で城島が建物から出て来た


「おはようございます、先生も様子見ですか?」


「似たようなものだ・・・まぁなんというか、やはり視線が絡みつくな」


城島もこちらに、というか静希に向けられているであろう視線に気づいたのか小さくため息をついていた


学生如きになにをそこまでと思っているのかもしれないが、学生とはいえ静希は悪魔の契約者だ、注目されるのも一種の仕事のようなものと言えるかもしれない


「昼以降・・・エドモンド・パークスがやってきてからが本格的な行動の開始だが、何か考えはあるのか?」


「今のところは部隊の人間に明利の種を街に蒔いてもらおうかと、召喚陣の場所はわからなくても索敵下において損はないですし」


静希の言葉に城島はふんと鼻を鳴らす、文句はないのだろうが決定打に欠けるとでも思っているのだろう


実際静希もそれに関しては同意だ、今のところできることが少なすぎるというのもある


元より悪魔の契約者と言われてもその本領は戦闘で発揮されると言っていい、それ以外のことでは普通の能力者に過ぎないのだ


いや、静希の能力を考えれば普通の能力者以下だ、そんな状態で急に注目されたところで困るというのが正直なところである


「ほら、しゃんとしなさいよ」


「あー・・・わーってるわーってる・・・」


鏡花に引き連れられ欠伸交じりに返事をしている陽太がやってくると城島はため息をついて陽太の頭を軽く叩く


「とりあえず全員軽く運動でもしたらどうだ?組手程度であれば相手になるぞ」


「いや・・・先生相手だと組手どころじゃ済まなそうなんで・・・」


城島相手だと流石に組手から本格的な訓練に移行しかねない、正直それはそれで有難いのだが今この状態でそれをやるのは少々リスキーだ


軽く体を動かす程度でいいのだ、そこまで強烈な運動はかえって逆効果である


だが組手というのはいい案かもしれない


準備運動になるかどうかはさておき、頭と体の連動をしっかりさせるというのは寝起きの状態では有効だろう


「ほら陽太、軽く運動するわよ?さっさと起きなさい」


「あー・・・うん・・・わぁってるわぁってる」


完全にわかってないなと鏡花が呆れている中、静希が横から一瞬だけ全力の殺気をだし思い切り殴りかかる


静希の殺気に反応したのか、それとも静希の攻撃に条件反射的に反応したのか、陽太は静希の拳を避けるのと同時に後方へと跳躍する


「うん、こういう起こし方もあるんだな、勉強になった」


「べ、勉強になったじゃねえよ!いま避けなかったら絶対危なかったぞ!」


「よくわかったな、急所めがけて殴りかかったつもりだ」


やはりというかさすがというか、陽太は緊急回避における反応がいい、完全に不意打ちの一撃だったのだがその殺気と静希の行動をあの一瞬で判断してほぼ最適と思われる回避をして見せた


やはり前衛の人間というのは恐ろしい、あの距離でも避けて見せるのだから


「ふぅん、あぁいう起こし方もあるんだ、今度やってみようかしら」


「やめてくれ、朝から殺伐とした空気になりたくねえよ・・・せめてもう少し優しく起こしてくれ」


陽太にとってはもう少し程度のやさしさでいいのだろうか、普段鏡花にどんな形で起こされているのかは知らないがある程度耐性がついているのかもしれない


それにしても不意打ちでも陽太に一撃を入れることができなかったというのは静希にとって少々ショックだ、当てるつもりで殴ったために避けられるとは思っていなかったのだ


やはり静希のような中衛の人間が前衛に一撃を与えるためにはそれなりに準備が必要という事だろう、能力を使っていない状態でさえ避けられてしまうのだ


「ほら、ちょっとは目が覚めたでしょ、本格的に目を覚ますわよ、ほら準備運動から」


「はいはい・・・んぁー・・・!」


陽太は鏡花の指示に従って準備運動を始めていく、静希達もしっかりと動けるようにするために軽く準備運動を始めていた


そしてある程度体の準備ができたと感じた後は軽く運動として組み手をすることになった


静希と陽太、鏡花と明利に分かれて普段授業でやっているような対人用の組手だ


打撃、投げ、組み技、能力以外何でもありの総合的な近接戦闘だ、と言っても早朝にやるという事もあって本気ではやらないが


鏡花と明利は互いに組み技をやろうとしているのか、相手に組み付こうとしているが互いにそれを許さずに持久戦になりつつある


静希と陽太は基本的に打撃、隙あらば投げ、体勢を崩したら組み技とすべてを駆使して組み手を行っていた


と言っても体を起こすための運動という事もあって両者ともに本気では攻撃していない、普段やらない攻撃や技を出してちょっとしたお遊び気分での組手だった


無論怪我をしないように防御や受け身は本気で行っている、そのあたりは長年訓練をし続けた成果の結晶のようなものだ


「つかさ静希、さっきからやったら見られてるんだけど、あれ何とかならねえ?」


「みられるもんは仕方ないだろ・・・まぁ物珍しがってるギャラリーだと思ってろ」


「ギャラリーねぇ・・・あんなのいたら集中できないっての」


普段視線に慣れていない陽太からすれば周囲にいる軍人から注がれる視線は煩わしいもの以外の何物でもないのだろう、この程度で陽太がパフォーマンスを落すとは思えないがさすがにこれだけ見られていると集中を乱されるというのもよくわかる


ギャラリーなどと静希はいったが、実際はそんなものではない


ただ物珍しくて見ているだけなら陽太だって気にするようなことはなかっただろう、彼らはただ見ているのではない、静希達の一挙一動を観察しているのだ


まるで一つの動きからこちらの手の内を探り出すようなねばりつくような視線、はっきり言って静希だって不快に思っている


だが『見るな』といったところで聞くような人間ではないだろう、ここにいる人間はすべてドイツの軍人、そんな連中が上官以外の命令を聞くはずもない


さらに言えば見るなというのがそもそも無理な話なのだ、それぞれ軍人だって静希のような悪魔の契約者は珍しいのだ、見てみたいと思う欲求を抑えられるはずもない


「一応中佐に俺たちの方を意識しないように伝えてはおくけど・・・あんまり期待はしない方がいいぞ、珍しいものは見てみたくなるのが当然なんだから」


「まぁわからないでもないけどさ・・・なんかこう・・・落ち着かない感じがするぞ」


陽太も静希が言っていることが正しいことくらいは認識しているようなのだが、それでもやはり見られているという風に意識してしまうとそわそわするのは否めない


エドが来るまでこの状態が続くとなると少々厄介だが、幸いにもエドが到着するまで本格的な行動は無いのだ、今は慣れるほかないだろう


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ