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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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向けられる視線

静希達を乗せた装甲車が街のはずれにある建物に到着すると、近くの小屋にいた人間がゆっくりと近づいてきた


装甲車を運転していた人間と二、三会話をすると、綺麗な敬礼をして見せる


「どうぞ皆さん降りてください、入口までご案内します」


装甲車の後部の入り口が開き、その場所に案内されると、軍が駐留している場所とは思えないほどに小さな小屋だった


掘立小屋と言えばいいだろうか、本当にそのレベルの建物に静希達は若干目を疑った


小屋の奥には平地が広がっている、少なくとも何か建物があるようには見えない、軍の人間がそれだけ駐留しているのであればそれなりの場所が必要なはずだ、こんな小屋の中にその全員が入っているとは思えない


「ここがそうなのか?いやさすがに冗談だろ?」


「もちろん、これはあくまで偽装したものです、本当は、この奥にあります」


扉を開くと、そこは明らかに異様な光景が広がっていた、小屋の中に入っているはずなのに、扉を挟んで向こう側にはまた広大な広場があったのだ


小屋の壁がそもそもなくなっているとかそう言う話ではない、小屋の扉を境に別の空間に飛んでいるのだ


「これは・・・収納・・・いや転移ですか?」


「正解です、場所を気取られないように出入りの際は必ずここから繋げることになっています」


収納の次は転移、恐らく繋ぎっぱなしにしているという事は無いだろう、建物の扉を経由することで発動する転移能力だろうか、どちらにしろかなりの距離を長時間繋いでおくことのできる能力であることには変わりないようだった


「それでは我々はこれで任務を終了します、どうぞお気をつけて」


送ってくれたケーニッヒ達全員が静希達に向けて敬礼をする、ここまで来るのに転移酔いも乗り物酔いも一切ない、まさに万全の輸送という形を見せてくれた


個人の能力ではなく、部隊としての集団の力、さすがというほかないだろう


「ここまでの輸送、感謝します、そちらもお気をつけて」


静希達はそれぞれ握手を交わし、転移の扉を越えて軍の駐留地域へと移動していく


一体ここがどこなのか、そこが気になるところではあるがまずはここの指揮をしている人間に挨拶をするべきだろう


静希達が全員転移の扉を超えると、その向こうには三人の軍人が直立不動の体勢で待っていた


「喜吉学園の方々ですね、お待ちしておりました!」


「おっおぅ・・・また随分と」


今まで国外に呼ばれたことはあったがここまで厳重な体制で待ち受けられているというのは初めてである


今はまだ深夜であるというのにこの状態で待っているというのはかなり迷惑だったのではないかと若干申し訳なくなってしまう


「夜分遅くに申し訳ありません、喜吉学園二年A組三班とその引率の城島です、今回はよろしくお願いいたします」


城島がいち早く反応し軽く全員の紹介を軽くすると、その場に立っていた軍人は静希の方をじっと見ていた


「ではこれより現場の指揮をしている我々の上官の下へお連れいたします、こちらへ」


「ありがとうございます、行くぞお前ら」


城島に引き連れられるような形で移動すると、静希達は周囲からの視線に気づくことができた


この夜遅くだというのに起きてその姿を確認しようとしている人間が何人かいるようだった


「見られてるわね・・・これは注目されてるってことなのかしら?」


「どうだろうな・・・少なくとも敵意は向けられてないみたいだけど」


その視線は静希だけではなく鏡花たちも感じ取っていた、自分たちに向けられる視線はいくつもの種類があるように思える


その中に敵意が含まれているようなものはないが、品定めとでもいえばいいか、こちらを観察しているようなものがほとんどのようだった


今回静希は悪魔の契約者としてここにいる、現場に加わり協力する契約者がどんな人間なのか確かめようとしているようだ


覗き見られているという意味ではあまりこういう視線は向けてほしくないが、こちらのことは正しく認識されているようだった


少なくとも静希のことを特殊な人間であるという認識と、それと一緒にいる鏡花たちもまた少々特殊な人間であるということくらいは把握していると考えていい


「あまり周囲を気にするな、安くみられるぞ」


「・・・でも先生、さすがにこれだけ視線があると・・・」


「それでもだ・・・お前達はこれからこういう目を向けられることが多くなる、今のうちに慣れておけ」


静希は特にこれから奇異と畏怖の目を向けられることが多くなるだろう、これから味方になる人間の視線でさえ気になっているようではこれから先が思いやられるという事だろうか


城島の言いたいことも分かるが、これだけ視線が集中していると体がくすぐったいような感覚に見舞われる


今まで注目されることなど数える程度しかなかったのだ、急に慣れろと言われても無理の一言である


「こちらにいらっしゃいます、中へどうぞ」


静希達が案内されたのは周囲に建てられているテントよりも一回り大きな建物だった


恐らくは変換系統の力を使って作ったのだろう、大雑把ながらもここが今回の事件に関しての本部であることがわかる


この時間にもまだ行動しているのかと静希達は少し驚くが、もしかしたら自分たちのために起きていてくれたのかもしれないと足早にその中に入っていく


建物の奥の部屋、一番広いと思われる場所にやってくるとそこでは机仕事をしている軍人の姿が見える


静希は軍服の構造などはよく知らないが軍服の階級章の数からもそれなりに立場が上の人間であるというのが見て取れた


「喜吉学園の方々をお連れしました」


「了解した、下がれ」


書類とにらめっこしていた軍人は案内してくれた三人をさがらせるとゆっくりと机から腰を上げ、静希達の前に立つ


それと同時に城島が静希達の前に立ち、対応をするべく口を開いた


「喜吉学園二年A組三班とその引率、城島です、今回はよろしくお願いします」


「・・・ご丁寧にどうも、今回の事件解決のために部隊の指揮を行っている、ラルフ・ゲゼル中佐だ、遠方からはるばる来てくれたこと、まずは感謝する」


歳は四十過ぎほどだろうか、白人の年齢というのは相変わらずわかりにくい、だが少なくとも若造などといえるような年齢ではないのは間違いない、その口ぶりやその落ち着きから何度か死線をくぐってきているという事がわかる


城島だけではなく静希達の動き一つ一つに気を配っている、警戒とまではいかないがある程度観察しているといったところか


「これからの行動や活動のほとんどは生徒に一任していますので、これからの話は全て私ではなく生徒たちにお願いします、私はあくまでも引率ですので」


「了解しました、優秀な生徒を持つと苦労されるようですな」


全くその通りですと城島が苦笑しながら静希達の方を一瞥し、静希達より数歩後ろに下がる


これからが実習の始まりだ、すでに城島は傍観の姿勢に入った、自分は口出しをしない、だから自由にやれ、そういう事だ


城島の行動を理解した鏡花が一歩前に出てラルフ中佐の方に目を向ける


今まで見たことがないレベルで経験を積んでいるのだろうが、悪魔に比べれば楽なものだ、臆することもなくその瞳をまっすぐ見つめ口を開く


「三班の班長をしています、清水鏡花です、今回は歪みの阻止を第一目的に行動させていただきます、至らぬところもあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」


「よろしく、君たちには期待しているよ・・・それで・・・件のジョーカーは・・・」


ラルフの視線が鏡花以外の三人、特に静希と陽太の二人に向けられる、この二人のどちらかがジョーカーであるという認識を持っているのだろう


「静希、この後は任せるわよ」


「アイアイマム」


鏡花の言葉と共に静希が前に出てラルフの目をまっすぐに見返す


「初めましてゲゼル中佐・・・『ジョーカー』こと五十嵐静希です、今回はよろしくお願いします」


「・・・君が『ジョーカー』か・・・思っていたより普通だね・・・いや意図的にそうしているのかな?」


静希は極めて普通に挨拶をしたつもりだ、圧力をかけるような気もなく、ただの学生としてあいさつしたつもりだった


だが目の前にいるラルフはその一言だけで静希を警戒に値する人間だと判断したらしい、その表情と声音から僅かに畏怖の念が感じ取れた


見抜かれた、とでもいえばいいだろうか


経験を積んでいる人間というのはこういうところで厄介だ、元より今回は全面的に協力体制をとるつもりの為、そこまで警戒させるつもりはなかった、だからこそ普通を演じたのにそれがかえって逆効果になってしまった


「今回はあなたたちの部隊と・・・もう一つのチームと『協力』して事に当たるつもりです、そんなに警戒されるとこちらとしても困ってしまいますよ」


「・・・いや失礼、君の逸話はそれなりに耳にしていてね・・・ただの子供ではないと聞いていただけに、余計な勘繰りをしてしまった」


警戒の必要はないと言ったつもりだったのだが、未だに静希に対しての警戒の色は強い、さすがは佐官だけはある、静希の危険性をわずかではあるとはいえ理解しているのだ


恐らくは現場で活躍し続けた、所謂叩き上げという人種なのだろう、誰よりも経験豊富で人を見る目がある


ラルフのこの反応に鏡花たちも若干感心していた、今まで静希の本質を一見しただけで見抜いた人間はいない、経験値の塊というべきだろう、見習うべき点がいくつもこの軍人からは見て取れた


「では我々の指揮下に入ってくれるという事かな?そうするとこちらも作戦を立てやすいのだが」


「・・・そこは正直迷っています、完全に指揮権を分けたほうがいいという場合もある・・・特に今回のような場合に限っては」


今回のような場合、その意味を鏡花たちも、そしてラルフも理解しているようだった


警戒するべきは召喚陣だけではない、近くに潜伏していると思われる敵対勢力に対してもそうなのだ


「それについて、確認したいことがあります・・・中佐、貴方は過去悪魔の契約者・・・あるいはそれに近しいものとの戦闘経験があるのではないですか?」


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