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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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彼らの仕事

「となると、静希はどうするわけ?私達は今回あんたのサポートが目的なんだけど」


「ん・・・なんだかなぁ・・・今の状況で俺ができそうなことと言えば召喚陣の捜索くらいだし・・・魔素の動きからある程度その位置がわかればいいんだけど・・・」


あらかじめ魔素に変動が起き、その中心に召喚陣があるとしてもその捜索には時間がかかるだろう


だからこそ人海戦術を使って文字通り虱潰しに探し回る予定だったのだが、住民の避難が思うより上手く進んでいないという事もあって多少後手に回る可能性も出て来た


「俺らが到着した後の動きとかどういう風になるかはわかってますか?」


「協力員が全員到着次第、住民避難優先から召喚陣の捜索を優先して行うようにします、最悪戦闘も視野に入れているのでそれまでに避難を完了したいところなのですが」


「思ったより避難が進んでいない・・・と」


恐らく軍のスケジュールとしては静希達が到着するよりも前に完全に住民たちの避難を終わらせるつもりだったのだろう、そして静希達の到着と同時に捜索を本格化させ、召喚陣を確保、最悪戦闘になっても問題ないようにする予定だったと思われる


だが当然というか、現実は思うようにはいかないものである、住民の危機意識の低さが招いた結果ともいえるだろうが、避難が進んでいない状況を考えると周囲の住民への被害を抑える行動も必要になるだろう


面倒だが仕方がない、総じてこういう時には何かしらのイレギュラーが発生する物なのだ、そして静希達はそう言うイレギュラーに慣れている、この程度ならまだ許容範囲だ


「なら仕方ないな、鏡花たちはもし戦闘になった時犠牲者が出ないように注意して動いてくれ、俺は派手にかき回すとするよ、変なネズミがいないとも限らないしな」


「・・・そのネズミに噛みつかれなきゃいいけどね・・・まぁ了解よ」


ネズミというのが敵対勢力であることは鏡花も半ば理解していた、そしてその敵がネズミなどという可愛らしくも矮小な存在ではないことも


恐らくは悪魔の契約者、またはそれに類するものだろうことが予想できる、そうなってくると鏡花たちの手には負えない、それこそ静希やエドたちの分野だ、自分たちの役目はその援護、それは到着する前から変わらないことである


「ていうかなんで危ないってわかってんのに逃げないんだ?無能力者って変なところでバカだよな」


「バカっていうか・・・自分たちがそう言う危ない目に遭うって想像できないんじゃないかな・・・普通の生活してる人なら仕方ないと思うよ?」


明利の言うように、普通の生活をしている人間が命の危機を感じることなどまずないのだ、唐突に逃げろと言われても体が動かないように、認識や想像が追い付かないのである


そして今回の事態が市民に説明しにくいという事もその理由の一端になっているだろう


なにせ説明しようにも機密事項、たとえ説明したとしても疑問符を飛ばされるのは目に見えている


いくら危険だと口で説明したところで理解できないことが多すぎるのだ


「でも軍が出張ってる状態でもその場に残ってるってなんかおかしくね?普通なんかあったんだなくらいは思うだろうよ」


「なんかあったんだなくらいは思ったとしても、自分たちがそれに巻き込まれるっていう考えができないのよ、よく言えば治安がいい、悪く言えば平和ボケしてるってことね」


映画などで町が崩壊するシーンなどはよくある、そしてそのシーンを見たことがある人間は数多くいるだろう


殺人事件が起こった時、それらはテレビや新聞を媒介にして人々の目に入っていくだろう


だがそれらを自らの身の回りのそれと結び付けられる人間はかなり少ない


殺人事件が起こった、そこで『身の回りに気を付けよう』という考えに至る人間もいれば『何でこんなことするんだか』や『怖いねぇ、まぁ遠いから平気か』などという自らの危険と結び付けられないタイプの人間もいる


今回の場合、実際に現地で人が死んでいるわけでもなく、目に見える脅威があるわけでもないために人々の危機認識を低下させているのだ


そのせいで実際に避難する人間が少なく、面倒な状況になっていると言えるだろう


「静希、もし戦闘になったとしてどれくらい周りを巻き込まないように戦える?」


「・・・正直相手によるな、前の相手だと難しい、攻撃を防ぎきれないしな・・・もし別の奴だった場合、俺らで一気に押さえこめば何とかなるかもしれないけど・・・」


俺らという中には静希の他にエド達契約者が入っている


三人の契約者が合同で一気に勝負を付けようとすれば、被害を最小限に抑えられる可能性はある


だがそれも相性によるのだ、アモンのような大量の炎を顕現できる相手となると例え悪魔の数が勝っていても周囲の被害はどうしても出てしまう


鏡花がいくら変換の能力で壁を作ろうとも熱まで完全に遮断できるわけではない


静希達が到着するより前に避難が完了しているなら周囲の被害を気にすることなく戦えたのだが、なかなかそう上手くはいかないものである


以前カレンと戦ったときは事前に地域住民に通達が行き渡っていたからこそスムーズな避難が完了した


だが今回のこれはあくまで突発的なものだ、例え軍が出張って避難を呼びかけたとしてもそれに従わない人間は必ず出てくる


今回の場合はその数がかなり多いのがネックになっているのだ


「残ってるのが八割・・・ってことは大体・・・三万三千くらいがまだ残ってるのか・・・」


「最悪その人たち全員が死ぬことになるってことね・・・学生にやらせるにはかなりつらい内容だわ」


そこまでプレッシャーは感じていないものの、規模としては間違いなく学生の請け負うようなレベルではないのは確かだ


三万三千、被害者の数をどれだけ減らせるか、それが今回の実習のもっとも重要な点になるだろう










静希達がそうして話し合ってどれくらいが経っただろうか、唐突に部屋の一部に切れ目ができ、ゆっくりと扉のようなものができていく


「到着しました、どうぞ」


いつの間にか一時間以上も話し合っていたのかと静希達は手元の時計を確認する


事前に渡された資料の情報が少なかったせいもあって、現在の状況をかなり聞き込んでしまった、得られたものも大きかっただけに無駄とは言えないだろう


「ケビン曹長、お話ありがとうございます、おかげで状況は大まかに理解できました」


「いえ、これも仕事ですから、どうぞお気をつけて」


全員で話をしてくれたケビンに礼を言った後、静希達は作られたゲートをくぐり空間の外へと出ていく


先程までの部屋は光源もなかったのにもかかわらず明るかったが、ゲートをくぐると周囲の光景は一変、ほぼ完全な暗闇に近かった


「うわ・・・暗!・・・ってそうか、こっちはまだ夜なのか」


出発時間と飛行時間そのものがそれほどかかっていないという事もあり、ドイツの時間は未だ深夜、今自分たちがいるのは空港の滑走路の一角だろうか、近くに格納庫の光があるのが見える


「お疲れ様です、調子などは崩していませんか?」


「えぇ、ありがとうございます・・・ここは・・・ベルリンの空港ですか?」


周囲が暗すぎることもあり、状況確認が難しいがどうやらここはドイツの首都ベルリンにほど近い空港のようだった


ここからならすぐに現地に向かうことができるだろうという計らいだろう、こちらとしても移動時間が短くなるのであればありがたい限りだった


「ここからは車での移動になります、そこまで距離もないですが・・・まぁ一時間もあれば到着しますので・・・」


ケーニッヒが近くに車を呼ぶ中、静希と明利はある方向をじっと見ていた、そしてその二人の様子に徐々に周りの人間が気付き始める


「静希?明利も・・・どうかしたの?」


「・・・ん・・・いや・・・話には聞いてたけど・・・こういう事かって思って」


「うん・・・なんかざわざわするね・・・」


静希と明利が感じることができているその変調、それは魔素の動きだった


以前石動の家に行ったときにこの二人が魔素の変化に気付けたように、今回もまた魔素の変調に気付いているのだ


その方角は、ちょうど魔素の変動のある中心地、静希と明利が見ている方角がその問題の場所なのだと知っているドイツ軍人たちは口笛を吹いて二人に感心していた


「さすがとしか言いようがありませんね、この距離でも気づきますか」


「褒め言葉として受け取っておきますよ・・・たださすがに気持ち悪いな・・・」


魔素の変動、あくまでデータでしか見ていなかったがここまで感覚に影響を及ぼすものとは思っていなかった


能力を使わない無能力者や膨大な量の魔素を使う強い能力者などは感じることができないだろう魔素の機微とでもいうべき変化


常に一定のパターンで変化し続ける魔素の変化に静希は眉をひそめていた


「その感覚って・・・詳しく場所はわかるの?」


「いいや、あくまで魔素の変動がある場所だからな・・・そこまで厳密にわかるわけじゃない、それにその中に入ったらもうどこがその発生源かもわからなくなるだろうさ」


静希と明利が感じ取っているのはあくまでも魔素の変動だ、その原因となっている部分を感じ取っているわけではない


これだけの距離でも感じ取れるだけの魔素の変動が起きているというのだから恐ろしい、一体これが歪みになったらどれだけの被害が起きるのか


「とにかく移動します、皆さん乗ってください」


静希達が立っている場所にやってきたのはかなり大きい装甲車だった、少なくとも通常の道路を移動するためのものではない、こんなものを用意するのはさすがに無駄ではないだろうかと思えてならなかった


「装甲車とは・・・おおげさじゃないですか?」


「いいえ、これでも万が一を考えれば不十分です、可能なら輸送ヘリや転移能力などで移動したかったのですが・・・その類はすでに出払っていまして」


どうやら現地での作戦行動はかなり大規模に行われているようだった、静希達が配備するだけの余地があるかも疑わしい程である


空と陸、両方から攻略するうえでヘリなどは必要なのだろう


静希は悪魔の契約者だ、それを運ぶとなればVIP待遇になるのも当然と思われたが、それにしたって装甲車とはやりすぎな気がする


「ちなみに現地のどこまで行くんですか?」


「街の中、そして外に軍の駐留施設を用意してあります、無論外部からはわからないようにすでに偽装済みです、とりあえず町の外の施設まで皆さんを送るのが我々の任務です」


街の中に今回の犯人がいるかもしれないのだ、攻略しようとしている軍の施設をわかりやすく作ることはしないようだった


そして万が一片方が襲撃されても対応できるように拠点を二か所においているあたり、軍としてもかなり本気で攻略しようとしているのが見て取れる


特に人外の相手に対して攻略を急がないあたり、何か手慣れているような気がした


タイムリミットがある中で悠長に構えていられるだけの余裕があるとも思えない、危険性を理解したうえでそうせざるを得ないことを理解している


恐らくいい指揮官がいるか、あるいはすでに『経験済み』か、どちらにせよ心強いことに変わりはない


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