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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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その系統の本来の姿

静希達が空港に到着し、出国の手続きを終えてロビーで待っていると、職員用の出入り口から数人の外国人の姿が見える


それも全員が軍服を着ているのだ、まさか日本にまで迎えをよこすとは思っていなかったために静希は少し予想外だった


「喜吉学園の方々でお間違いありませんか?」


「相違ありません、引率の城島と二年A組三班です、今回はよろしくお願いします」


話しかけられた瞬間にオルビアの簡易翻訳をオンにし、全員にその言葉がわかるようにすると城島は目線で静希を称賛した


いちいち会話で躓いているようではこれからが面倒だ、そう言う意味では常に会話できるようにしておいて損はない


「私はみなさんの移動を支援させていただきます、ドイツ空軍のケーニッヒ准尉です、道中よろしくお願いします」


ケーニッヒと名乗った軍人は、恐らく後ろに控えている軍人たちの総括を行っているのだろう、小隊長と言えばいいだろうか、数人からなるチームをまとめ上げる指揮官の役割を担っているようだった


「ではこれより移動を開始します、荷物なども一緒にお持ちください」


ケーニッヒが前に出て案内していく先は職員用の出入口だった、普通の人間が入っていいのか一瞬ためらうが、恐らくすでに手続きが済んでいるのだろう


静希達がやってきたのは空港の滑走路にほど近い格納庫だった、その中にはすでに飛行機がエンジンを温めていつでも飛び立てるように準備されていた


今まで見てきた飛行機とは圧倒的に違う形をした飛行機だ、旅客機のようななめらかな姿ではなく、まるで矢のような鋭い形をしている


「あぁ・・・あれに乗るのか・・・」


「エチケット袋の準備はオッケーだ、いつでも吐けるぜ」


「吐く前提なのが嫌なところだけどね・・・」


軍人のような特殊な訓練を受けたことのない静希達からすればこういった機体に乗るのは生まれて初めてだ、そもそもマッハを超える乗り物に乗ること自体が初めてである


一体どんな効果を人体に及ぼすのか想像もできない


「何やら顔色が悪いようですが、調子が悪いのですか?」


「いえ、こいつらは速すぎる乗り物に乗った経験がないからビビっているんですよ」


城島の言葉にあぁなるほどそういう事でしたかと、ケーニッヒは苦笑しているが、すぐに表情を作り替え全員を安心させるように声を出す


「問題ありません、確かに速い乗り物に乗るというのは未知のことかもしれませんが、その為に我々がいるのです、我々の任務はみなさんを万全の状態で現地にお連れすること、そのような袋に出番はありませんよ」


自信満々にそう言ってのけるケーニッヒと、その周りにいるチームの表情を見て静希達は彼らが輸送に関して特化している人間であるという認識を持った


少なくとも、何度も同じようなことをしているのだろう、これだけ自信をもって言えるという事はそれなり以上の実力と実績を持っていることに他ならない


静希達が学生だからこそ、不安にさせまいとしているのだろう、その笑顔と堂々とした様子に、静希達は顔を見合わせて少しだけ安心していた


「ではあと十分後に出発しますので、荷物を中に入れてしまいましょう、ケビン曹長、皆さんの荷物を頼んだぞ」


「了解です、ではお荷物をお預かりします」


ケビンと呼ばれた軍人は全員の荷物を一カ所に集めていき、空中にゲートのようなものを作り出した


それが収納系統の能力であると気づくのに時間はかからなかった、静希と同じ収納系統の人間だ、それも軍で活動しているという事もあってかなり容量も多いように思える


収納系統の人間の本領は後方支援にて発揮される、静希が本来できないような大質量の収納も楽々こなしてしまうのだ


「あー・・・収納系統って便利ね、こういうこともできるんだ」


「驚くのはまだ早いですよ、では皆さん中へ、我々とは違う別室を用意させていただきました」


別室


その言葉に若干首をかしげるがその言葉の意味を静希達はすぐに理解する

飛行機の中は狭い、はっきり言って十人も座ることができないほどだ、この人数は入りきらないのではないかと思ってしまう


「ローグ伍長、準備を」


「了解です」


ローグと呼ばれた部隊の一人が飛行機の内部にゲートを作る、ケーニッヒと先程荷物を収納したケビンもその中に入っていき、静希達もそれに続くとその中には十畳くらいの広さの部屋があった


高さは三メートル程、人一人が生活するには十分すぎるほどの広さがあるようだった


「うわ・・・これどういう事?」


「これが彼の能力です、質量ではなく一定の体積までを入れることができます・・・生き物物質隔たりなくね・・・もっとも出し入れするのが少々面倒ではありますが」


恐らく静希のように意識すれば自動的に出し入れできるものではなく、自らの手で入れるものを運んだりしなくてはいけないようだった


ただその代わりに生き物だろうと道具だろうとどんなものでも入れられる、この十畳、高さ三メートルの空間内であるならば


「これならばたとえどんな速度で移動していても皆さんに影響はありません、到着するまで一時間弱、ゆっくりとしていてください」


ケーニッヒはケビンを残してゲートから飛行機の方へと戻っていく、恐らくこのゲートを境にして異空間になっているのだろう、ゆっくりとゲートが閉じられると内部は完全に途絶されたようだった


「荷物などはおっしゃっていただければ取り出しますので、好きな時に進言してください、自分はこの場に待機するよう命じられていますから」


「ありがとうございます・・・いやぁ、収納系統って便利ですね・・・」


静希も収納系統なのだが、まさかここまで便利なものだとは思っていなかった


頭では後方支援が主な仕事だという認識はあったのだが、実際にこういう形で能力を示されると感動すら覚える


人一人運んでしまえばこの中にいる存在全てを運ぶことができるのだから、大したものというほかない


「この中だとやっぱり電波とかは通らないんですね」


「えぇ、この空間は伍長の作り出した所謂異空間のようなものです、入り口を作ればもちろん電波も入るでしょうが・・・今はすでに移動中のはず、入り口を開けるのはやめておいた方がいいでしょうね」


今は完全に外界と隔絶しているために物理的な影響は受けないが、これでもし今この瞬間に出入り口を作り出そうものならそれ相応の影響があるだろう


なにせこの空間を作っているローグという能力者は今この瞬間にも高速で移動しているのだ、出入口を作った時にどのような影響があるか、はっきり言って全く予想できない


「いやぁ収納系統っていいわね、うちの班にも一人欲しいくらいだわ」


「まったくだな、こんな能力があったらさぞ楽だろうに」


はっはっはっはと鏡花と静希はから笑いしている、静希の能力では収納系統としては役立たずであるためにこういう能力がうらやましくて仕方がない


さも静希は収納系統ではないようにしているが、実際は完全に収納系統なのだ、はっきり言ってこの部隊の人間より収納系統としてはずっと格下という事になる


利便性に関しては正直意見が分かれそうだが、静希はこの能力はかなり使えると思っていた


「ていうかここで一時間かぁ・・・なんか暇つぶしの道具あったかしら?」


手荷物の中から適当に探すものの、今あるのは携帯ゲーム機くらいである、全員持っているために一応通信も可能だろうが、実習の前にやるような事ではないように思える


実習の資料なども一緒に持ってはいるものの、すでに頭の中に入れてしまっているものばかりなのだ、今さら確認するようなことがあるとも思えない


とはいえ教師を前にしてゲームをやるというのもなかなか恐れ多い、どうしたものかと全員悩んでいた


「なんならトランプでもするか?せっかく手元にあるし」


静希は自分の能力であるトランプを見せつける、その表情は明らかにまじめに言っているようなものではない


「いやよ、あんたが用意したトランプとかいかさまする気満々じゃない、それだったら宿題の一つもやってたほうがましよ」


静希の能力で作り出されたトランプだ、静希の思うように動かせる以上いかさまだって容易に行える


そんなもので遊ぶなんて正気の沙汰ではない、静希自身もそこまで本気ではないようでそりゃ残念と言いながらトランプをしまっていた


「でもさ、一時間は長いぜ・・・一体何してりゃいいんだよ・・・そもそも向こうに到着するのって何時?」


「えっと・・・俺らが日本を出発したのが九時で・・・約一時間かかって・・・時差が八時間だから・・・深夜二時くらいに到着することになるのか」


「・・・二度寝コースってことか?」


陽太の言うように二度寝をするようなことはさすがにないだろうが、仮眠をとることにはなるかもしれない


なにせ深夜二時ともなるとほとんど誰も行動していない可能性があるのだ


現在現地の軍がどのような行動をしているかどうかは静希達も分からないが、少なくとも向こうについていきなり戦闘が行われるという事は無いだろう


「出発が早かったからね・・・ちなみに向こうの部隊は今どういう風に動いてるんです?」


「現在は地域住民の避難を最優先にしています、残った部隊で避難が完了した地域から捜索を始めていますが、今のところ発見や戦闘は行われていません」


軍の人間が総がかりになっても避難というのはそう簡単にはいかない、なにせ数万単位の人間がそこで暮らしているのだ、避難しろと口で言われたところではい分かりましたとはいかないのである


静希達にとっては今のところ召喚陣が見つかっていないことはマイナスだが、戦闘が行われていないという点ではまだプラスだ、静希達が現地に到着するより前に軍の部隊が大打撃を受けるという状況は避けられている事になる


静希やエドたちが現地に着けば数の利を大いに活かせるというものである、それまでは現場の一般人の避難を優先してもらったほうがいいだろう


「今のところ避難はどれくらい進んでるんですか?地域とか割合とか・・・」


「正直なところ、避難はまだ二割も進んでいません、一つの地域はすでに避難が完了したのですが、他の地域はかなりまばらです、こればかりは説明が難しくて」


いくら危険であることを説明しようにも、具体的な内容を告げられない以上説得力に欠けるのは致し方ない


何より自らの生活もかかっている人も中に入るだろう、頑なにその場を離れようとしない人間がいるのもまた事実である


そう言う人間がいると正直こちらとしては非常に邪魔なのだが、こればかりは仕方がないというほかない


人々を守るための軍隊、そしてその軍隊が出てきているのだから大丈夫という考えを持つ人だって中にはいるのだ


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