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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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出発、ドイツへ

そして静希達が実習という形でドイツに向かうことになる前日、静希は再びパソコンでエドたちと話をしていた


「じゃあそっちにもしっかりと依頼が回ってきたんだな?」


『うん、イギリス政府の勅命扱いでね、まさか最初の依頼人がここまで大きなものだとは思っていなかったけど』


エドたちを公的に呼びよせるうえで、静希はテオドールを中継してイギリス政府に申請を出したのだ


能力的に見れば彼らのそれは一般人のレベルをはるかに超えている、ヨーロッパ諸国の安全を確保しておきたいイギリスとしても、そして今回被害に遭っているドイツとしても依頼を出すことに躊躇いはなかったのだろう


「ちなみに内容は?具体的なことはなんて書いてある?」


『えっと・・・要約すると現地に展開するチームと合同で歪みの発生を阻止すること、市街地や住民に被害を与えたらダメ・・・功績によってプラスで報奨金が出るよ・・・まぁこんな所かな』


「案外まともだな、まぁそれなりか」


イギリスはエドが悪魔の契約者であることを知っていると思っていいだろう、なにせ自国の人間だった上に、自国で起きた事件だったのだから


エドを呼ぶことができるなら、追加のカレン、アイナ、レイシャ、リットなどのおまけは許容してしかるべきだと考えているのだろうが、実際のところはカレンも悪魔の契約者なのだ


公的な依頼で悪魔の契約者が三人一堂に会することができるのは初めてかもしれない


『今まではこそこそ動いていたけど、今回は大手を振って行動できるからね、これはこれでありがたいよ』


「まぁ、今回の場合は本格的に連携しないといけないからな・・・部外者だと一緒に行動しにくいし」


静希が何故今回に限ってエドたちに依頼を出させたのか、それは公的にエド達と連携をとるためである


今までのように片方が隠密で行動していた場合、どうしても積極的な状況参加ができなくなってしまう、今回の場合その状態だと危険と判断したのだ


常に連絡が取ることができ、なおかつ早い連携を可能にするためには互いに公的な立場でそこに立つほかないと考えたのである


実際エドは派遣に近い形での依頼を受けた、これはエドが経営する会社の未来を考えてのことでもあるが、公的に依頼を受け、なおかつ金銭を受け取るという行動は必要なのだ


今までエドたちの自費で活動させていたことに、別の大義名分が立つことになる、生きる上でもそういう事は必要なのである


『それにしてもシズキは凄いね、依頼を持ってこさせるって言って本当に依頼を出させちゃうんだから』


「そうでもないよ、イギリスにはいくつか貸しがあるからな、そう言うのを清算してもらってると思えばこんなんじゃまだまだ足りない」


静希は一度イギリスという国に殺されかけている、未だその首謀者に関しては判明していないが、あの国には大きな貸しを作っているのだ


この前のセラの時もそうだが、基本的にイギリスという国と静希のかかわりは深くなってきている、これからもいい意味で利用し合っていきたいと考えていた


「ひとまず現段階での準備は終了、俺は明日ドイツに行くけど、そっちはどう動くつもりだ?」


『実はもう僕の準備は終わってるんだ、後は移動だけなんだけど・・・女性陣の準備がちょっと長引いててね』


「あー・・・まぁ女の子は準備にいろいろかかるからな」


身の回りに女性のいる静希からするとそう言った準備が必要であることも十分理解している、女性というのは何かと時間がかかるのだ


アイナやレイシャほどの年齢ならば本来はそこまで時間はかからないのだろうが、恐らくカレンの影響を受けているのだろう


正式に依頼を出されたという事で一人前の女性を目指しているのだろうか、そういう事も真似しだす年頃なのだろう


「装備に関してはそっちに任せるけど・・・あの二人はどうなんだ?何か戦い方とかは考えてあるのか?」


『ん・・・正直あの子たちにはたたかわせたくないっていうのが本音なんだけどね・・・まぁ一応無理はしないようにと伝えてある・・・キョーカたちと組ませるんだよね?』


そのつもりだけどと静希が言うと、エドは少し悩んだような声を出す


『まぁキョーカなら問題はないかもしれないね・・・一応無理はさせないようにと伝えておいてくれるかい?』


「そのあたりは自分で伝えたほうがいいと思うぞ?二人の指揮は鏡花にとらせていいのか?」


『うん、近くにいない僕がいちいち口を出すよりは一緒に行動してる人の指示に従っていた方が安全だろうからね、今回僕は彼女たちの行動には一切口出ししないつもりさ』


エドとしても不安はあるだろうが、これも二人が成長するためには必要なことだと割り切っているのだろう、立派な父親になりつつあるのだなと静希は感心していた


「まぁ子供数人抱えれば鏡花もそこまで危険なことはさせないだろ・・・安心していいと思うけどな」


『そのあたりは祈るばかりだね・・・どうか怪我をしませんように』


怪我をしないようにというのはかなりスケールの小さな願いだが、実際のところは生き残れますようにという願いが一番に出てくるだろう、状況が状況だけに失敗が許されないというプレッシャーが自分たちに降りかかるのだ


「ところであの二人には武器は持たせるのか?一応同行させるのはいいんだけど・・・」


『あー・・・そのあたりもちょっと悩んでるんだよ・・・以前ミスジョーシマからいろいろと助言を貰ってね』


城島からの助言という言葉に静希は眉をひそめる、恐らくその助言の内容は留学に関することなのだろう、それが今回のことに関わってくるとは思えないだけに静希は疑問符を飛ばしていた


「助言ってどんな?」


『いやなんでも子供のころから銃とかの強い武器を持たせるのはあまり良くないそうなんだ、能力の技術向上との兼ね合いとかもあるんだけど・・・そう言う意味で今回は持たせない方がいいかなと・・・』


エドの言葉になるほどと静希は納得する


思えば静希は今でこそ普通に銃を使っているが、学校では銃火器の使用は基本的に推奨されていない


自らの力で手に入れる分にはいいが、この日本社会において自ら銃を手に入れる方法などほとんどないに等しい


能力などで必要不可欠になる場合は仕方がないが、それ以外の場合では基本所持することもあまりいい顔はされないのだ


はっきり言って能力と銃でどちらが強いかと言われれば、銃の方が強いと静希は考えている


自分の能力が弱すぎるからというのもあるのだが、銃という道具は基本的に継戦闘能力に秀でているのだ


能力が個人での使用しかできない一点ものであるのに対し、銃というのは訓練すればだれにでも使えるただの道具である


それこそ能力を使いながらでも銃を使えるし、能力を使えないような状況でも銃は使える


無論しっかり整備していないと銃は使えなくなるし弾数制限はあるし、デメリットもしっかりと存在するが、誰でも使える上に高い威力を有しているという意味では単なる能力よりは強いのだ


幼いころからそんな力に触れていれば能力の鍛錬よりも銃などの鍛錬を優先してしまいかねない


幼いころには能力を徹底的に磨き、その能力の全てを完全にコントロールできるようになってから自らの武器についての技術を会得する、それが日本の能力者に対する基本的な教育だ


能力の使用に必要なのは感覚的なものが多い、その感覚を幼いうちから体に刻み込む、それが重要なのだ


「なるほどな・・・まぁ銃火器に関しては一歩間違えれば大怪我にもつながるし・・・間違ってはいないと思うけど・・・」


『うん、だから今回は彼女たちに持たせるのは以前買った投げナイフとかの類にしてあるんだ、それくらいなら許容範囲だろう?』


投げナイフというのは恐らく源蔵のところで買ったものだろう、雪奈に指導を受けていたこともあって最低限投げることに関しては苦労しないだろうが、それが当たるかどうかは微妙である


指導を受けた後も自主練習を欠かしていなければ、止まっている的くらいなら当てられるかもしれないが、動いている的に当てられるか、そこが重要である


「まぁなんだ、そっちの指導は順調にいきそうだしな、俺から言うことは何もないけど・・・お前の武器はどうするんだ?」


静希の言葉にエドは顔を引きつらせて困ったような声を出していた


以前カレンから聞いたが、エドは武器の扱いがあまりうまくないのだという


銃やナイフ、本来使えていた方がいいようなものまでお粗末だという事を聞いていたために静希は若干呆れ交じりにエドに問いを投げかけていた


「今回は危険なんだから、最低限拳銃くらいは持っておいた方がいいぞ、俺やカレンが守っていられるとも限らないんだから」


『いやでもシズキ、僕はもともと研究者だったんだよ?そんな物騒なもの今まで使ったことなかったし・・・それに・・・前カレンに訓練してもらったときも一発も当たらなかったし・・・』


恐らくは射撃場のようなところに連れてこられた経験があるのだろう、自らの雇い主が拳銃一つ使えないのはさすがに問題と彼女も思っていたのだろうが、どうにもその訓練の結果はあまり芳しくなかったようだ


止まっている的に当てられないというのは最初静希にもあったことだ、だが徐々にそれも直り、今は動いている的にもある程度当てられるようになってきている


「ヒットマンじゃあるまいしそこまでの射撃精度は求めてないよ、せいぜい牽制射撃くらいできるようになっておいてくれって話だ、そのくらいならできるだろ?」


『・・・う・・・ま・・・まぁ引き金を引くくらいならできるけどさ・・・僕の能力的には他のサポートの方が向いていると思うんだけど・・・』


エドの能力は見たものを空間に投影する能力だ、その構造や見た目を正確に記憶できれば動かしたりすることも可能になる


そう言う意味ではエドの能力は射撃系の攻撃と相性がいいのだ、例えばナイフを投げるという行動において、ナイフの形と飛んでいるナイフの光景を記憶しておけば、大量のナイフの投擲映像を作り出して敵を攪乱することだってできる


ただ視認できない銃弾のような速過ぎる攻撃はエドの能力ではサポートはできないだろう、なかなか使いどころの難しい能力ではある


メフィやヴァラファールの能力とも相性がいいだろう、両者ともに射撃系の攻撃を得意としている、今回戦闘があれば披露してくれるかもしれないが、エドのサポートがあるかないかでその命中率などは大きく変わってくるはずだ


だからと言ってエドが武器を使えないというのはこのままでいていいはずがない、今度二人が留学する際に軽く教えてやるべきだろうかと静希は心の中で思案していた












翌日早朝、静希達はいつものように学校前に集まっていた


多少イレギュラーな時期の実習であるために他の学生は一人もいない、いるのは静希達とその引率の城島位のものである


「やっぱわかってはいたけど誰もいないな」


「今までもこういうことはあったでしょ、いちいち気にしないの」


静希達は幸か不幸か、どちらかといえば不幸だろうがこういった通常の実習とはかけ離れた内容が多かったためにイレギュラーな事態には強くなっている


スケジュール通りに行かないことや、内容通りに行かない実習も何度もあったのだ、この程度のことはもはや慣れっこである


「最終確認だ、パスポートは全員持ったな?」


城島の言葉に全員がパスポートを提示する、一番心配だった陽太も問題なく持ってきているようで城島は小さくうなずいた


「次に戦闘準備、今回はまず間違いなく戦闘が行われる、特に五十嵐、抜かりはないな?」


「はい、ほとんど戦闘系のものに変えてきました、長期戦にも対応できますよ」


今回に関しては日用品の類はほとんど役に立たないという事で静希はあらかじめトランプの中身を戦闘系のものにほとんど入れ替えて来ていた


静希の左腕で撃つための弾も三種類すべて持ってきている、これだけの重装備は今までなかったのではないかと思えるほどである


「今回は市街地戦がメインになる、お前達にとっては不慣れなフィールドだろうが、上手く対応して見せろ、清水たちは五十嵐のサポートをしてやれ」


「了解です・・・まぁできることがあればですけど」


今回の戦闘の内容が奇形種でも能力者でもなく悪魔の契約者という事もあり、自分たちが役に立てるかどうかは少々疑問だった


だがそれでも、出力で敵わない敵だろうと戦い方によっては静希のサポートは十分にできる、城島はそう思っているようだった


「先生、今回も移動は飛行機ですか?」


「そうだ・・・と言いたいが今回は少々事情が特殊であるため、特殊な機体を用いた移動になる、そのあたり覚悟しておけ」


覚悟しておけという言い回しに静希達は僅かに眉をひそめた


資料には移動は飛行機を使うとしか書いていなかった、一体何を使うのかは静希達も把握していないのだ


よもや戦闘機などを使うわけではないだろうなと心配になってしまう


世界最速の飛行機などの話は耳にしたことがあるが、五人、いや監査の人間を含めれば六人の人間を一度に運ぶことができるような飛行機となると限られる


しかもあまりに速すぎると中にいる人間の負担は半端ではない、訓練も受けずにそんなものに乗れば多少気分を悪くする程度では済まない可能性もある


「一応聞いておきますけど・・・どういう機体なんですか?」


「ヨーロッパで開発中の実験機だ、十数人を一度に運べる小型ジェットだが・・・その速度は軽くマッハを超える・・・確か・・・マッハ七くらいだったか」


マッハ七、時速に直すと八千五百六十八キロだ


基本的な旅客機の速度が時速八百~九百程度だとすると、十倍近い速度を持っていることになる


日本からドイツまでの飛行時間が約十二時間だとして、七十分ほどで現地に到着することになる


確かに驚異的な速さだ、普通の旅客機とは比べ物にならないだろう


「あの・・・それって絶対やばいですよね?有人機ですよね?無人機じゃなくて」


「だから実験機だと言っただろう、基本的に中にいる人間の安全やらを考えていない機体だ、安心しろ、今まで事故は起こっていないらしい」


今まで事故は起こっていない、そんなものははっきり言って何の慰めにもなっていない


むしろ静希達の中では生きて現地に着くことができるかという問題が発生したことになる


「あの・・・それだったら素直に転移能力での移動をした方がいいんじゃ・・・」


「バカを言うな、転移の移動がどれだけ金がかかるかわかっているのか、今回は向こうが厚意で実験機を貸してくれるんだぞ、安いに越したことはない」


実習という形をとっている以上、なるべく安く移動する、そして周りと比べて特別扱いしないようにするという考えは理解できる


空港に行き、飛行機に乗れば問題ないという考えなのだろうか、そんな実験機を回してもらっている時点で特別扱いされている気がしないでもない


「鏡花、エチケット袋持ってる?」


「・・・一応持ってきてるけど・・・全員分はさすがにないわよ・・・途中で買い物して袋調達しようかしら」


陽太と鏡花はすでに諦めがついているのか、もう吐く準備に入っているようだった


なまじ今まで面倒事に巻き込まれているために、もうあがいたところでどうしようもないという気持ちなのだろう


こういう時にマイナス面で鍛えられている人間は恐ろしい


世界最高速の飛行機の速度が確かマッハ九だ、それを考えれば有人機でのマッハ七は別に無理な話ではないのだろう


だがそれはあくまで人体に気を遣った加速をすればの話だ


今回の場合、静希達に気を遣った飛行をしてくれるかどうかは疑問である、とにかく早く到着することを目的としているのだ、少なくとも生きて到着すれば問題ないレベルの


「・・・朝飯抜いてくればよかったな」


「・・・うん・・・しっかり食べてきちゃったね」


これから実習という事でしっかりと朝食を食べてきてしまったことを後悔しながら静希達の校外実習が始まろうとしていた


誤字報告を五件分受けたので1.5回分投稿


今年が始まったので表記は新ルールのみのものとします、いい加減()表示で追加するのが面倒だったので、倍すれば旧ルールの数なので脳内補完してください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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