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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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今回の行き先は

『ちなみに、キョーカたちはなんて言ってるんだい?どっちの国に行くべきなのか』


「・・・鏡花はドイツに行ったほうがいいって言ってるよ、魔素の反応があったのはドイツ北東部、首都が近い上に人も多い、被害を抑えるためにそっちに行ったほうがいいってな」


鏡花のいう事が正しいことはエドも判断できたのだろう、腕を組んだ状態で唸りながらも結論を急がずに思考していた


自分たちの行動によっては何百万人も犠牲になる可能性があることを考えると、簡単に答えを出してはいけないように思うのだ


とはいえ時間もない、予知を待っていられるだけの余裕も他の人に判断を仰ぐだけの猶予もない


『他に誰かの意見とかがあるとありがたいんだけどね・・・何かないかな?』


「これは先生からの意見だけど・・・リチャードの出身国はドイツだ、カレンもそうだけど何かしら関係があるんじゃないかって言ってる・・・それが何なのかはわからないし保証もないらしいけどな」


城島の意見という事でエドは口元に手を当てて悩み始める


確かに城島の言うようにリチャードの出身国がドイツであることはすでに判明している、そして奇しくもカレンの出身国もドイツだ


そしてドイツ語で記されたと思われる書物を眺めている光景、これは果たしてただの偶然だろうか


『・・・シズキ、僕も今回はドイツに行くべきだと思う・・・安直かもしれないけど、ドイツ語で書かれた本ならドイツにあると考えるのが自然だ・・・確証はないけどね』


「・・・ん・・・そう思うか・・・」


エドの言葉に静希は腕を組んで悩み始める


エドの意見に左右されるわけではないが、今回予想される被害の大きさ、そして予知の情報からもドイツに行く方に傾きつつある


何より自分の周りの人間すべてがドイツに行くことを進言している、ここでチェコに行くという選択肢を選んだ場合、士気の低下は免れないだろう


ドイツに何かがあるという確証はない、だがいくつかの要素がドイツに浅からぬ因縁のようなものを結び付けているのは確かだ


「・・・わかった、今回の行き先はドイツにする、お前らの方にもそう言う形で依頼をもっていかせる、ある程度準備はしておいてくれ」


『了解したよ・・・でもカレンとしては複雑かもしれないね・・・故郷に戻ってこういうことをするというのは』


エドの言うように、ドイツはカレンの故郷だ、無論故郷と言っても住んでいた場所に行くわけではないためにそこまで感慨深くはならないかもしれないが、それでも生まれ育った国というのは特別な何かがあるはずだ


しかも彼女は自責の念を抱えている、それがマイナスの形で働かなければいいがと、静希は少し心配していた


「カレンに伝えておいてくれるか?ドイツ北東部の龍脈・・・そっちで言うところの大地の力か・・・それが強いところ、あるいは集合しているところを調べてほしいって・・・わからなければそれでもかまわないけど」


『了解したよ、彼女も一応はエルフだ、その程度の知識はあるかもね・・・それがあればかなり楽に召喚陣自体は見つけられそうだ』


魔素の動きによる大まかな範囲、そして龍脈の配置による更なる限定、これができるようになればかなり楽に召喚陣を探すことができるようになるだろう


実際にそれを行うのは静希達や現地の軍人たちだ、数の利がこちらにあるとはいえ、それでも少しでも優位に立つには事前準備が必要である


『というか、僕らに依頼を持って行くのはいいんだけど・・・僕やカレンはさておきアイナやレイシャそれにリットは役に立てるかな?』


「あぁ、あいつらは鏡花たちと組ませるつもりだ、アイナやレイシャの能力は連携で真価を発揮すると思う、それなりに良い指導をしてくれるだろうさ」


鏡花ならばおそらくあの二人の能力の良い使い方を指導することができるだろう


陽太のような尖った能力ではなく、あの二人のそれは一見しただけで利用価値が高いことに気付けるだけの良い能力だ


まだまだ未熟であるために鍛錬は必要不可欠ではあるものの、それをこなしてしまえば優秀な能力者になれる気質があの二人には備わっている


そしてリットはもともとエルフだ、今は使い魔という形であまり活発に行動できていないようだが、それを踏まえたうえでもエルフの能力というのは非常に強力だ


彼の中に精霊がいるのかどうかはさておいて、エルフが身近にいるというのは非常に心強い


『そう言えばキョーカはヨータの指導役だったね・・・うちの子たちも是非指導してほしいよ』


「頼めばやってくれると思うぞ?まぁあの二人は優秀だからすぐに教えることがなくなると思うけどな」


陽太がバカだからこそほぼつきっきりで指導しているが、アイナとレイシャはいい意味で優秀だ、鏡花の指導を受ければ恐らくすぐに教えたことを身に着けることができるだろう


教えることが上手いというのは一種の才能だ、教え子の本質を見抜き、その才能を理解し、それを伸ばすことができる、恐らくは鏡花にはそう言う才能があるのだろう


相手のことを見抜いたうえではっきりと口にするところは、少々子供には攻撃的過ぎるかもしれないがそれもまた彼女の味の一つだ


一緒に行動することになった時どのように動くのかは、それこそ鏡花の指導次第という事になりそうだった











「・・・なるほど、ではドイツに行くと」


「今のところそう言う話になっています、あいつらにもそう言う形で依頼をもっていかせる予定です、もう先方には話を通してありますので」


学校に着いた後、静希は城島に事のあらましを伝えていた


ドイツ語で書かれたと思わしき書物を読んでいる事、そして自分たちが向かった先は歪みが発生しないという事


後者のことだけで城島はかなり安堵しているようだった、とはいえ危険がないわけでもないのだ、なにせ悪魔の契約者との戦闘が避けられるというわけではない、ただ歪みの発生を阻止できるというだけなのだから


そしてテオドールを介してすでにエドたちに依頼を持ってこさせるように話を通してある、テオドールに直接依頼をさせるのではなく、イギリス政府からの依頼という形での依頼だ


今後エドたちが活動するうえでこれが少しでも助けになればいいのだが、こればかりは彼らの実力に期待するほかない


「それにしても・・・書物か・・・それもお前達が目を見張るほどの」


「はい・・・一体なんなのかまではわかってないんですけど、それを見つけるのも一つの目的になると思います」


今回の静希達の目的は大まかに分けて三つ、一つ目は歪みの発生の防止、二つ目はそれに関わる悪魔の契約者の捕縛、あるいは打倒、三つ目は件の書物の発見である


何かしらこれまでの件とこれからの行動にかかわりのあるものであることはまず間違いない、それを発見できるかで今後の活動が大きく変わる可能性もあるのだ


「わかった、先方にはお前達の行き先についてはドイツということで伝えておこう、向こうの手続きが終わり次第お前達には飛んでもらうことになる・・・まぁ私も一緒に行くことになるが・・・」


今回は学校のスケジュールを少し変更して実習という形で静希達はドイツへ行くことになる、無論城島も一緒に行くことになるのだが、恐らく彼女は戦力としてカウントしない方がいいだろう


実動部隊としては静希、エド、カレン、そしてそのサポートとして鏡花たちやアイナたちが控えることになる、さらに言えば現地の軍とも連携をとるのだ、人員としては過去最多と言えるかもしれない


「仮に予知で歪みの発生が無くなったとしても、それはあくまで予知だ、お前達の行動にすべてがかかってると考え、気を引き締めろ」


「わかってます、万が一にもあんなものをまた作らせるわけにはいきませんからね」


あの歪み、あれだけの規模のものをまた作られたらどうなるかわかったものではない


街のど真ん中にあんなものができたらドイツの機能がかなり麻痺するのは間違いないだろう、そんなことになったら人類史上最悪の事件になりかねない、さすがのヨーロッパ諸国も情報規制が難しくなることは間違いない


「とはいえ・・・もう片方の方に関してはどうするか・・・お前達としてはどうするつもりだ?いや、お前はどうするつもりだ?」


お前達ではなく、お前と聞いたところに、静希は小さく苦笑してしまう


静希達の班の実際の行動選択権が班長の鏡花ではなく静希にあるという事を理解しているからこその発言だ、さすがは担任というべきだろうか


「さすがに数百キロの距離をあの人数で移動するのは難しいし、何より同時展開じゃないと成功率も低いと思うので、チェコの方には関わらないようにします・・・最低限助言は送っておきますけど・・・」


静希だって鬼ではない、可能な限り手助けはしてやりたいという気持ちくらいはあるのだ


もっとも自らの安全を冒してまで手助けをしようとは思わないが、最低限の助言くらいはするつもりだった


少なくともオロバスによって割り出された歪みの発生時間と、悪魔の契約者に対する対応の仕方くらいは教えるつもりである


歪みによる魔素の揺れが二か所同時に現れたという事から、まず間違いなく両方に何かしらの戦力を有した人物がいると考えるのが自然だ、それがただの能力者なのか、それとも契約者なのかは静希達も把握はできない


だが万が一を考えて情報は流しておいてもいいだろう、それだけの準備をしておかなければまた歪みが発生するかもしれないのだ


「ほぼ放置か・・・まぁ学生にできる限界はそんなところだろうな・・・それに現地の人間もバカではないだろう、最低限の仕事はするはずだ」


最低限の仕事、今回の場合は一般市民の避難だ


土地的な被害を食い止めるだけではなく、人的な被害も完全になくさなければいけない


万が一を考えた場合、歪みの発生予測地点から数キロにわたって一般市民を退避させなくてはいけないだろう


現地の人間がどのような言い訳を使って避難を促すかはわからないが、一時的に都市機能をよその場所に移してでも市民は守るべきだ


「そう言う仕事は向こうの人間に任せて、こっちは目的を達成するつもりです、それなりに戦力はそろっているので」


それなりなどと静希は言ったが、実際の所軍と戦争ができるレベルでの戦力がそろっているのだ


悪魔の契約者が三人、これだけでかなりの戦力だ、もはやそれなりというレベルをはるかに超えている


だが相手も悪魔を連れている可能性を考えれば、これでも足りないかもしれないのだ、そう言う意味では静希の言うように、あくまでそれなりでしかないのかもしれない


「油断はするなよ、慢心もするな、お前はできることをすればいい」


「わかっています、二度も同じ轍は踏みませんよ」


以前の失敗を繰り返すような真似はしない、静希は肝に命じながら視線を鋭くしていた










「・・・よかった、じゃあドイツに行くことになるのね?」


城島への報告を終えた静希はこのことを鏡花たちにも伝えるべく、教室でそれとなく話していた


周りはクラスメートの雑談のおかげか静希達の会話に耳を傾けるものはいなかった


「手がかりは少ないんだけどな、一応みんな意見がドイツよりになってるし、異論はないだろ?」


「えぇ、こっちとしては大満足よ・・・いやまぁ規模的には大変になるのかもしれないけど・・・」


鏡花は予想される被害者の観点からドイツに行くことを進言した、エドは予知の中で読んでいた書物が気になったためにドイツに行くべきだと意見した


内容的にはどちらも正しい上に、何より首都に近いという事でそれはそれで面倒になることは間違いない


「まぁあれだろ?俺らは静希達のサポートしてりゃいいんだろ?そう思えば楽なもんだって」


「サポートって言ってたね・・・そもそもこいつらが戦う相手がもし面倒なやつだったらその負担が私達にも降りかかるのよ?どこが楽なのよ」


静希達が戦う相手がもし悪魔の契約者だった場合、当然だが鏡花たちにはそのサポートを頼むことになる


彼女たちに強いる負担は正直かなり大きい、なにせ悪魔の放つ攻撃から逃げ続け、なおかつ契約者を狙い撃ちさせようとしているのだから


可能なら、悪魔の契約者たちからは見えない位置から隠密行動をしながら一撃入れてからの離脱をしてほしいところである


「まぁ平気じゃね?最悪俺が表に出ることになるんだろ?」


「あぁ、目標がお前の得意とするタイプだったらな」


あらかじめ決めてあることだが、もしその悪魔がアモンだった場合は陽太をメインに引き入れて契約者であるリチャードを徹底的に集中砲火するつもりである


炎を出す悪魔に対しての切り札ともいうべき存在、それが陽太だ、この戦力があるか否かでこれからの戦いが随分と楽になるのは言うまでもない


「大丈夫だって、今までやばそうなやつ相手に真正面から啖呵を切ることだってできた鏡花姐さんだぜ?虎の威を借りるなんとやらなんて楽勝楽勝」


そこまで言ったのであれば最後まで口に出せばいいのにと静希は思ったが、陽太にしては諺まで使おうとするあたり妙に自信があるようだった


言葉の意味も正しい上に、悪魔の契約者を虎の威を借りる狐呼ばわりというのもなかなか言い得て妙だ


「その理屈だと俺も狐扱いになるわけだけどな・・・」


「別に間違ってないだろ?静希って正々堂々卑怯だし」


「正々堂々なのに卑怯なの?それってどっちよ」


静希が狐のように狡猾なイメージを持っているというのは否定しないが、陽太の言う正々堂々卑怯というのは正直文章的に間違っている気がしてならない


正々堂々なのか卑怯なのか


陽太が言いたいことはなんとなくだが理解はできる、静希は普段からして卑怯な手を使う、それこそ堂々と卑怯な手を使う、そう言う意味で陽太は言ったのだろう


それにしたって正々堂々卑怯というのは明らかに異様な言葉だ


「だって静希ってデフォルトで卑怯な手を使うだろ?基本的に真正面から戦う事とかしないじゃんか」


「いやまぁ・・・言いたいことはわかるけど・・・なんかいろいろとおかしい気がするわ」


陽太の言葉を理解しつつも訂正するべきか肯定するべきか鏡花は迷っていた

本来ならば卑怯という言葉が入っている時点で貶し言葉に値するかもしれないが、静希の場合はそうではないのである


陽太の言うように基本的な行動が卑怯であるというのもそうだが、本人もそうあろうとしている節があるのだ、静希にとっては卑怯というのは一種の褒め言葉に近い


「・・・」


「・・・?どうしたの明利、そんなに静希の方を見て」


口元に手を当てて静希の方を見ていた明利を見て鏡花は不思議に思ったのか首をかしげる


すると明利も静希の方を眺めていたことに気付いたのか、慌てて目を逸らしていた


「えと・・・その・・・静希君が狐っぽいかなと思ってその・・・ちょっといろいろ想像を・・・」


狐っぽい、言葉にするとそれほど不思議ではないが明利の頭の中では頭部から狐の耳を、尻から狐の尾を生やした静希の姿を想像していたのだ


案外似合うかもしれないと思っていた瞬間に鏡花に話しかけられたことで明利はかなり焦っていた


「明利、いい子だからそう言う妄想はおうちに帰ってからしましょうね、必要なら今度そう言うの作ってあげるから」


「本当に?!ありがとう!」


子ども扱いされるよりも静希用のコスプレグッズを作ってくれることに喜んでいる明利に、この子は本当に大丈夫なのだろうかと心配になってしまう


静希と出会うことがなければもっと普通の女の子になっていただろうにとすでにあり得ない仮定を前に鏡花は小さくため息をつく


「とりあえず、ボーっとするのはやめなさい、結構だらしない顔してたわよ?」


「え!?ホントに!?」


明利は自分の顔を抑えているが今さら遅い、明利が放心することはそれほど珍しいことではないがあのような表情をしているのは結構レアだ


写真にでも撮っておけばよかったかなと思いながら鏡花は再度ため息をつく


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


今年最後の投稿になります、今年一年いろいろありましたがご愛読いただきありがとうございました。


まだまだ未熟で稚拙な内容や文章も目立ち、誤字も多くありますが、これからも皆様にご愛読いただけるよう努力いたします、これからも自分の書く物語を楽しんでいただければこれに勝るものはございません


今年はありがとうございました、来年もまたよろしくお願いいたします

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