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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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危険度と被害予想

「てかさ静希、もしその炎を出す以外の悪魔が出た場合はどうするんだ?それも俺が対応すんのか?」


陽太の言葉に静希は首を横に振る、陽太が対応できるのはあくまでアモンのみ、それ以外の悪魔に対して対応させるつもりはなかった


「他の悪魔に関しては俺とエドが対応する、お前達にやってほしいのは契約者への攻撃だ」


悪魔の契約者にとって最も警戒するべきは自らへの攻撃だ、いくら悪魔が強力な能力を有しているからと言って契約している自身はただの人間、攻撃されれば、不意打ちを喰らえば弾丸一発で死んでしまう事だってあり得る


「それってすごく難しいんじゃないの?悪魔だって契約者を守るくらいするでしょうに・・・」


鏡花の言うように、弱点だからこそ契約者も悪魔もそれを警戒している、当たり前ではあるが悪魔が本気になれば例え能力者が数十人がかりになっても勝つことはできない


だからこそ契約者を狙う、かつてエドたちに対して能力者の一斉攻撃があった時、ヴァラファールはその身を盾にしてエドを守った、弱い人間を守るためには悪魔がその身を挺してかばわなければならないのである


「確かに、俺やエド、カレンみたいな契約者だったら、悪魔たちはしっかり守ってくれるだろうな、そうだろメフィ」


「えぇもちろん、まぁシズキの場合邪薙っていう守り神がいるけどね」


話を振られた邪薙は当然だと言わんばかりに鼻を鳴らす


だがその言葉を聞いてなお、いや聞いたからこそ鏡花は理解できない

何故自分たちに契約者を攻撃させようとするのか


「互いに信頼関係を結んだ悪魔なら、契約者を守ろうとする、だけどただの契約関係じゃないとしたら?」


「それってどういう・・・?」


鏡花は悪魔との契約のことに関しては詳しくない、静希はメフィの方に視線を向け話してもいいかと確認をとる


メフィも鏡花ならば話してもいいと思っているのだろう、微笑んだ後に頷いていた


「悪魔っていうのは心臓を持ってるらしい、本人たちに言わせると存在の核みたいなものらしいけど、それに細工をされると、所謂脅されてる状態に近くなるらしい、俺たちで言うところの拳銃突き付けられてる状態に等しいかな」


その説明だけ聞いて鏡花は察する、いうなれば静希達のような契約者の普通の契約ではなく、無理矢理に言う事を聞かせている強引な契約


悪魔たちの意にそぐわぬ形で作られているその契約ならば、悪魔は身を挺してまで契約者を守ろうとしない


可能なら解放されたいとまで思っているかもしれないその契約、悪魔が複数いる状況でそっちに手が回っているのであれば、守り切れなくてもいいわけが立つ


「なるほどね・・・わざと契約者を守らないこともあり得ると」


「そういう事だ、まぁ相手の悪魔が全員そう言う風にされてるとまでは断言できないけど・・・少なくとも何人かはその状態にあるはずだ」


今までの召喚事件の傾向から、ある特定の悪魔の召喚に成功するだけの精度をリチャードはすでに得ているとみて間違いない


ともなれば特定の悪魔がもつ特定のトラウマを刺激し、それによってできた隙に乗じて悪魔の心臓に細工をしていても何ら不思議はないのだ


無論、悪魔がリチャードの考えに同調して協力している可能性もある、その場合は正面切っての戦闘になるだろう


どちらにせよ鏡花や陽太には悪魔との直接戦闘はさせない、やらせるのはあくまでも契約者への攻撃とフォロー、遠くから、あるいは物陰に隠れた状態からの不意打ち


幸いにしてそれに適している能力者がそろっている


静希は契約者である関係上、矢面に立たなくてはならないだろうが、今回は鏡花たちに加えエドたちも一緒なのだ


特に彼らの連れるアイナの能力は不意打ちに適している、見えない状態からの攻撃というのはどうあがいても反応が遅れる、悪魔がそれに気づいていたとしても、状況によっては気づかないふりをしてくれる可能性も高い


なにも真正面から悪魔を倒す必要なんてない、あくまで静希が倒すべきは契約者、その後ゆっくり悪魔と対話すればいいだけである


「なんていうか、あんたたちみたいな契約者ばっかりだと思ってたからちょっと意外ね、悪魔も脅されたりするんだ」


「あら失礼ね、むしろ悪魔は人間の思うようにつかわれてしまう哀れな存在よ?私だっていつもシズキの身勝手に振り回されて・・・」


メフィがわざとらしく泣きまねをするが、普段のメフィの様子を知っている人間からすれば失笑レベルの演技である


静希は鼻で笑い、鏡花に至っては興味なさそうにふぅんという反応を残すのみとなっている、メフィの言葉に信用がないわけではないが、静希が身勝手をメフィに押し付けるというのはイメージできないのだ


どちらかというとメフィの身勝手に静希が振り回されているイメージがある、以前の一般公開の時などまさにそうだった


「まぁ冗談はさておいて、その無理矢理いう事聞かせる状態ってのは解除できるの?」


「一応俺の能力で解除できるらしいぞ、今まで実践したことはないけど」


幸か不幸か今まで静希が収納した悪魔たちは心臓になんの細工もされていなかった、その為まだ実際に心臓の細工を解除することができるという確証はない


静希としてはメフィの言葉を信じているため、疑ってはいないようだったが、鏡花としては実績のない内容は信用ならないのか、疑いの目を向けていた



「まぁ結果的に私たちが安全な方に行くのはわかったけど・・・よくもまぁ毎度毎度面倒を持ってこれるものね」


「別に俺が面倒を起こしてるわけじゃないんだけどな・・・それにこれだけの規模だと捨て置けないだろ?」


もう片方は捨てるとか言ってた奴がよく言うわよと鏡花はため息をつく


だが確かに静希のいうことも間違いではないのだ、これだけの規模の事件となると流石に無視はできない、それも悪魔の契約者が関わっているという事であるなら静希が出張るのはむしろ当然と言えるだろう


そして静希が自分たちのことを考えるが故にもう片方の国を見捨てると言っているのも分かっているつもりだった


召喚陣への対応、潜伏している可能性のある契約者への戦力、自分たちの行動のしやすさ、考えられる危険、それら全てを秤にかけたうえで静希は今回の決断をしたのだ


小さな町で八千人、もしかしたらそれ以上の被害を出した歪み、またそれと同じことが起ころうとしているのだ


それを踏まえたうえで、静希はそれだけの数の人間の安全よりも、自分たちの安全をとった


身勝手で保守的と言えばそこまでだろう、だがそれは静希なりの気づかいだ


身内の人間には安全を、それ以外の人間がどうなろうと知ったことではない


独善的というべきだろうか、静希は基本自分の身の回りの人間さえ無事であればそれでいいという考え方をする


攻撃的、いや極端すぎる気づかいだ、鏡花たちはそれを理解しているが故に静希の身内でよかったと常々思う


「あんたは今回どう動くわけ?悪魔の契約者が出たらそれこそかなり被害が出るでしょ」


「現地のチームと連携とってとりあえず召喚陣の発見を急ぐ、その間に契約者と遭遇したらすぐに戦闘開始・・・なんだけど、捜索の段階で近くにいる住民とかはさすがに避難させたいな、邪魔だし」


住民の身の安全を確保するためとかではなく、戦う上で邪魔になるという考えが何とも静希らしい


と言ってもその言葉も半分くらいは本気だろう、悪魔の戦闘において一般人など邪魔でしかない、いや能力者でさえ足手まといになる可能性があるのだ、静希にとって、契約者にとって事を上手く運ぶためにはある程度の根回しが必要なのである


「避難って言ってもどうやって?騒ぎにならないようにしなきゃいけないでしょ?」


「んんん・・・不発弾があるとかそう言う話にできないかな?活動中に市民に説明とかめんどくさいだろ?」


静希のいうように動いている最中に現地の市民に邪魔されると確かに面倒くさい、そう言う意味では現地住民の避難は最優先される事項である


魔素の反応からある程度の範囲は絞り込める、その範囲の住民を避難させればいい


と、簡単に言ってはいるがその範囲はかなり広い、そこに住んでいる住民全てを退去させるとなるとかなり時間がかかるだろう


すでに向こうの政府や軍も動いているだろうが、静希達が向こうに行く頃までにどれだけ避難が終わっているか、正直完全に未知数である


「あんまり騒ぎが起こるとパニックになるし・・・そのあたりも面倒よね」


「そうだな、できる限り静かに穏便に済ましたいところだよ、可能なら相手に気付かれる前に避難させたいけど・・・」


国境にほど近いチェコの方は人口はそれほど多くないが、ドイツの方にはかなり人が多く住んでいる


これだけの人間を逃がすのにはそれ相応の時間がかかるだろう、そしてそれだけ時間がかかり、規模も大きくなると必ずイレギュラーというものが出てくる


「でも絶対そう言う場所で活動する人間っているわよね・・・マスコミとか特に」


「いるだろうな、範囲が広すぎるから完全に人の出入りを止めるってこともできないだろうし・・・そのあたりはもう諦めるしかない」


大がかりな作戦になればなるほど、当然だがマスコミなどが食いつく餌になりかねない


以前はそれを利用してカレンに侵入されたのだ、今回の場合は全く関係ない市民であるためにむやみやたらに攻撃することもできないだろう


「鏡花の能力ででかい壁とか作れないか?それこそベルリンの壁じゃないけどさ」


「あんた何キロにわたって壁作らせる気よ・・・一体どれだけかかるやら・・・」


前回の歪みのデータを見ている鏡花だが、少なくともあの歪みと同等、あるいはそれ以上の広さを壁で囲わなくてはいけないことになる


そうなるといくら鏡花でも時間がかかりすぎる、現地の変換能力者たちと協力すれば比較的早く済むかもしれないが、地形を勝手に変えるというのもいろいろと文句を言われるのである


特にチェコの方に関しては国境にほど近い、そんな場所に壁を作ったら確実に文句を言われるだろう


こんな時に国境がどうこうと言っている場合ではないと思うのだが、それが国際社会というものだ、たとえ事情を知っていたとしても国と国との境を厳密に決めている以上仕方の無いものであることは鏡花たちも理解していた


「今のところあんたはどっちに行こうと思ってるわけ?ドイツとチェコ」


「・・・俺の意見としてはドイツだな、チェコは国境に近いこともあって隣国とも連携取れるだろうし放っておいても平気じゃないかと思ってる・・・あとはまぁ城島先生からの助言もあってな」


ドイツ、カレンやリチャードの出身国でもあり、気がかりな点も多い、無視できるような偶然ではないのは確かだ


無論決定するにはオロバスの予知を待たなければならない、まだ時間は少しだがあるのだ


「にしてもまた海外かぁ・・・ドイツかチェコねぇ・・・」


これから行くことになるかもしれない国に鏡花は眉をひそめている


今まで鏡花はいくつかの国に行ったことがあるが、ドイツとチェコには行ったことがない


ヨーロッパ圏内にあるというのは知っているのだが、どちらもあまり詳しくはない、せいぜいドイツはソーセージとビールが有名であるということくらいである


「どっちに行きたいとか言う希望があるなら聞くぞ?反映するかどうかはわからないけど」


「まぁそうでしょうね・・・ドイツかチェコ・・・んん」


鏡花としてもその両国を想像したときに上手くイメージできないのだろう、腕を組んだ状態で首をかしげていた


そもそも有名な国でさえイメージできるのはほんのわずかなものだ、何が有名か、どんな建物があるか、その程度の認識しかない


「ドイツとかだとさっきもあんたが言ってたベルリンの壁くらいしか私知らないわ、そもそもドイツとチェコって何があるのよ」


鏡花の言葉に静希はとりあえずドイツとチェコのことについて調べ始める


「えっと・・・ドイツは酒やら陶器・・・あと刃物にその他いろいろ有名みたいだ、チェコは・・・ガラス製品にはちみつ・・・蝋燭、酒・・・ワイン等々・・・両方酒が有名みたいだな」


「お酒って言ったって私たち飲めないじゃない、他になんかないの?」


「・・・あ、バームクーヘンってドイツの食べ物だったみたいだぞ」


バームクーヘンという言葉に陽太と人外たちが食いつく、洋菓子の中でもバームクーヘンはそれなりに有名な食べ物だ、多少喉が渇くことを除けば適度な甘さが特徴的なパンケーキに近い菓子である


土産にするものが前提の話であるためにあまり大きなものは買えないことを考えると食料品、あるいは物品などがありがたい


とはいえ静希達が土産を買っていられるだけの時間的余裕があるかどうかは疑問である


「他には?建物とかそう言うのは?見どころ含め」


「えっとちょい待て・・・ドイツは・・・なんか城があるみたいだぞ?ノン・・・ノイシュヴァン・・・シュタイン城、後は大聖堂とかもあるみたいだ」


「ふーん・・・でチェコは?」


「チェコは・・・なんか城とかもあるみたいだけど・・・歴史地区?とか言う区切りになってるのかな、街並みそのものが世界遺産的なものになってる?らしい」


静希もそこまで詳しく調べていないために大まかな情報しか出てこないが、ドイツは荘厳な建物が、チェコはその町並みや景観が有名であるらしかった

どちらも行く機会があるとは思えない、特にチェコの方は東端部に行くことになるのだ、少なくともそう言った美しい景観を見ていられるだけの余裕はないだろう


ドイツの方も同じようなものだ、たとえ大きく立派な建物があったとしてもそこに行くことはできないだろう、恐らくは空港に着いたらすぐに転移能力者の移動で現地に移動することになる


そもそも観光目的ではないのだから当然だが、学生の実習である以上ある程度の気遣いがあってもいいように思えてしまう


「そう言えばさ、ドイツってたしかベルリンの大聖堂とかなかったっけ?」


「あぁ、確かにあるな、ベルリン大聖堂、ベルリンってそもそもどのあたりだ?」


「ベルリンはドイツの北東部にあるわね・・・もしかしたら行けるかもしれないわよ?」


今回のドイツの現場は北東部だ、確かに場所としては行くことは不可能ではないだろう


「いや待てよ・・・ってことはだ、万が一この大聖堂が消えてなくなることもあり得るってことじゃ・・・」


「・・・まぁそう言うことになるわね」


その事実に気付いてしまった静希達は一気に緊張度が増すことになる


さすがにベルリンのど真ん中でこれを行っているとは思えないが、少なくともベルリンの近くで事を起こす可能性がないわけではないのだ


失敗しようものなら何万、何十万と犠牲になるだろう


「ちなみに一応聞いておくけど、ベルリンってたしかドイツの首都よね?人口どれくらい?」


「・・・市域は約三百万、都市圏では六百万ほど・・・」


自分たちが考えていた以上にやばいことになっているという事に気付いた静希達は冷や汗が止まらなくなる


さすがにこの都市全てを覆うほどの歪みが形成されるかどうかはわからないが、数万人数十万人どころか、百万人単位での被害が想定される状況になってしまった


「い、いや、北東部ってのがわかってるってだけで、まだベルリンと決まったわけじゃない、もしかしたら首都郊外かもしれないしな」


「それでもかなり人はいるわよね?日本で言えば東京の端っことか、埼玉、あるいは千葉で事を起こそうとしてるようなもんでしょ?」


日本とドイツの国の広さを議論するよりも、具体的なイメージができてしまうその発言に静希は顔をひきつらせてしまった


ドイツのこれは止めないと本当にまずいことになるのではないか、否、確実に国が崩壊しかねないほどの事態になっているだろう


「なぁ静希・・・これさ、さすがにドイツに行ったほうがいいと思うのは俺だけか?」


「・・・いいえ陽太、その考えは正しいわ、私もドイツに行ったほうがいいと思う、まだ都市部であれが起こると決まったわけじゃないけど、確実に止めるならこっちを優先するべきよ」


「さすがに首都に近すぎる気がするし・・・これはちょっと・・・」


実際に活動する班員の意見としてはドイツに行ったほうがいいという判断になりつつある、確かに数百万+首都としての機能を考えるとドイツを優先して守るべきだ、無論ドイツの人間もそれをわかっているだろうから本気で対策を組んでくるだろう


問題はその本気が空回りしないかどうかである


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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