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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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キーパーソン

「なるほど・・・二日ね・・・それでどうするのよ」


「それをこれから話し合う、ちょっと待ってろ準備してるから」


静希は今回の話に関係のある全員を静希の家に集めていた、と言ってもエドたちをそう簡単に呼べるはずもない、彼らはパソコンでの会話にすることにしたのだ


静希の家にいるのは明利、鏡花、陽太、人外たちに加えなぜか雪奈もいる

雪奈の場合ただ単に静希の家に遊びに来ただけである


回線をつないで向こうと通話できるようにはしてある、後は向こうが通話できる態勢を整えればいいだけだ


そして向こうでも準備が整ったのか、通話開始の申請が来たところで静希達は会話を開始することにした


『あー・・・あー・・・シズキ、聞こえてるかい?』


「あぁ聞こえてるよ、お前の鼻のドアップが見えてるぞ」


『えぇ!?ちょ、ちょっと待ってくれ、カメラは・・・ここか・・・よし、いい感じかい?』


どうやらパソコンについているカメラの位置を把握していなかったのだろう、エドは若干位置を修正してようやく話ができる態勢になった


画面にはエド、そしてカレンにアイナとレイシャ、そして向こうの人外たちの姿も見える


お互いにカメラを使い現状を見えるようにしているのだ、所謂テレビ電話に近いだろう


「よし、それじゃ話を始める・・・と言いたいけど・・・エド、結局どうすることになったんだ?」


どうすることになったのか、静希の言葉の意味をエドは視線から把握していた


つまりはアイナとレイシャのことだ、彼女たちを今回の現場に連れていくかどうかという話である


『うん、みんなで一緒に行くことにしたよ、その方がわだかまりもないからね』


エドの言葉にアイナとレイシャは何度も頷いている、どうやら彼女たちが随分と頼み込んだのだろう、是が非でもついていくという強い意志が感じられた


子供の我儘と言われればそこまでかもしれないが、彼女たちなりに考えがあるのだろう、彼女たちの保護者であるエドたちが決めたことなら静希としてもとやかく言うつもりはなかった


「よし、じゃ本題に入ろう、先日、ドイツ北東部とチェコ東部で魔素の反応があった、以前にあった歪みのパターンと酷似している、今回もオーストリアと同じように歪みが発生するとみて間違いないだろう」


二か所同時、その事実に静希以外の全員が眉をひそめた


特にカレンの表情は険しい、彼女の故郷でもあり、かつて凄惨な事件が起こった場所でもあるのだ、何も思わないはずがない


『二か所・・・か・・・その場合二つのチームに分けるのかい?』


「いや、集中して一カ所だけに対応する、もう片方は捨てることになるな」


静希の言葉にエドたちも、そして鏡花たちも驚愕の表情を作る


てっきりエド達には自分達とは違う方に行ってもらうと思っていただけに、その驚きは大きかった


「ちょっと待ちなさいよ静希、じゃあもう一つの方はどうするのよ」


「言っただろ、捨てるって、もう片方は現地の軍隊に何とかしてもらうさ、俺らが目的としてるのはあくまでリチャードだからな」


静希にとって、いやエドたちにとっての目的はあくまでリチャードの捕縛だ、仮に静希達がいかなかった場所に歪みが起こったとしても知ったことではない


無論余裕があるのであれば救援に向かうつもりではあるが、国を越えての移動はいろいろと面倒が多い、すぐに現場に向かえるかは疑問である


『じゃあどっちに行くんだい?ドイツかチェコか』


「それを決める上で頼みがある、カレン、そしてオロバス、お前らに未来予知をしてほしいんだ」


以前頼んでいたことでもあるが、今度は静希から直接の依頼という事でカレンとオロバスは僅かに目を見開いていた


『それは構わないが・・・具体的にはどの未来を見る?』


「そうだな・・・リチャードに関わりのある方を見つけたい、少なくとも俺たちが行くことで何か手がかりや変化があるような場所がいい」


『随分抽象的ですね』


オロバスは微妙に難色を示している、恐らくは具体性がなさすぎるせいで未来を見ることが困難なのだと思われる


だが静希はこの作業が無理だとは思えなかった


「たぶん現時点で未来は二つに分岐してると思う、ドイツに行く未来とチェコに行く未来、その二つを集中的に確認して、リチャードへの手がかりがあるような光景があるかどうか確認してほしい」


ある程度条件を絞ることによって未来は確定する、今回の場合であれば静希達の行動はすでにドイツに行くかチェコに行くかの二通りに限られつつある


その未来からリチャードと接触、あるいはそれに関わる何かを得ることができる未来を見ることができれば、自然と静希達が行く先も決定する


細かい行動や危険などを見る必要はない、すでに事件として動き出している以上、恐らく歪みが発生する時期はすでに決まっている、ならばその時期を特定し、その前後の未来を見ることができればいいだけだ


「どうだ?頼めるか?」


『・・・オロバス・・・』


カレンが自らの契約する悪魔に目を向けると、オロバスは僅かに笑い、大きくうなずいた


『了解しましたシズキ、その願いを聞き届けましょう、代価に関してはまたいずれ』


「あぁ、俺が用意できるものなんてたかが知れてるけどな、今度なんか奢るよ」


それは楽しみですと言ってオロバスは集中を始める、恐らくすでに未来を見始めているのだろう


どちらの国に行くのか、それによって今後が決まると言ってもいい、オロバスがどのような未来を見るか、そこが重要なポイントと言っていいだろう


「で・・・カレン、お前にはもう一つ聞きたいことがあるんだ」


『私にか?なんだ?』


カレンに聞きたいことはある、だがこれを聞いていいものか、静希は正直迷っていたのだ


だが聞く必要がある、今回の件において解決のカギを握るのは間違いなく彼女なのだ


「お前は召喚陣を扱うことはできるか?作ったり、あるいは壊したり」


その言葉に画面の向こう側にいるエドが若干眉をひそめた、カレンにとって、召喚に関わっていたという事実は一種のタブーに近い、なにせそのことが原因で家族を死なせることになってしまったのだから


だがそれでも確認しなければいけない、オロバスを召喚した召喚陣をカレンが作ったという事は聞いていない、もしかしたら彼女の家族が作ったものかもわからないのだ


『・・・あらかじめその陣の構造などを理解していれば一から作ることも可能だ・・・だが私は父に比べれば未熟だったからな、それほど早くは仕上げられん』


「そうか・・・完成しそうな召喚陣を止める事とかは?」


『それならば問題ない、作るときと同じように時間はかかるが分解することは可能だ』


静希は聞きたいことを聞き終えたのか、そうかと呟いて小さく息をつく


彼女にとってトラウマになっているであろう事柄だっただけに、聞くかどうか迷ったのだが、聞いて正解だった


彼女が召喚についての技能を有しているかどうかでどのように行動するかが変わるのだ


「どこに行くかはオロバスの未来予知の結果次第だけど、少なくとも歪みを発生させないためにカレンには召喚陣の除去を頼みたい、できるな?」


『実物を見ていないから何とも言えないが・・・やってみよう』


歪みが通常の召喚と同じように召喚陣を用いて行われるものであるなら、通常の召喚と同じように召喚陣を消すこともできるはずである


無論まだ机上の空論でしかないが静希達にとってカレンが今回の重要なポジションになることはまず間違いない


「ねぇ静希、私達その歪みがどういうものかも詳しく聞いてないんだけど、一応説明してくれる?」


「あー・・・そうだったな、じゃあ説明しておくか・・・と言っても俺が持ち帰れたデータも少しだけだけどな」


そう言って静希はパソコンにいくつものデータを表示していく


それらは静希達だけではなくエドたちも閲覧できるようになっていた


「まずさっきから俺が言っている歪みってのがこれのことだ、召喚陣を応用して起こされるらしい・・・俺も召喚陣自体を見てないからまだ確定とは言えないけどな」


静希がディスプレイに表示したのは上空からの写真と、間近から撮影した黒い物体である、一見すると黒い壁のように見えるそれは、鏡花たちの想像も及ばないほど巨大なものであることがわかる


歪みなどと一言で言っていたが、これだけのものを発生させるかもしれないとなると正直その規模の大きさのせいで感覚がマヒしてくる


「静希、これってどれくらいの大きさなの?」


「俺も詳しくは知らないけど、小さな町一つ軽く覆うくらいの大きさだ、ちなみにこの歪みがあった場所にあった町の人口は約八千人、全員消失した」


死んだのかどっかに飛ばされたのかはわからないけどなと付け足す中、鏡花は事の大きさに戦慄していた


八千人


言葉にすればこれほど簡単に聞こえるのに、その実際の被害の大きさを鏡花は上手く想像できなかった


クラスの人間が四十人、喜吉学園全体の人間を足したところで八千人には及ばないだろう


実際どれほどの数の人間が犠牲になったのかわからないのだ


そして鏡花はその数を何の抵抗もなく告げた静希にも戦慄していた


「・・・八千人って・・・そんなにたくさん?」


「旅行者もいたらしいから被害者は一万に届くかもって言ってたな・・・実際どれくらいの数があの中にいたのかは俺にもわからん」


実際に現場に行った静希ではあるが、この歪みの中に入ることはできなかった、だからこそ確認をとることも、調査をすることもできなかったのだ


自分が戦慄した数よりもさらに多い人間が犠牲になったという事に鏡花はめまいを起こしていた


もはや自分たちのような学生が関わるような事件ではないように思えたのだ


「これはまだ小さめの町だったからな・・・これが都市部で起こったら被害者の数は一万どころじゃなくなる・・・それは絶対阻止しないとな」


都市部に行けばいくほど人間の数は多くなる、十万、百万、もしかしたらそれ以上の人間が集っている場所もあるのだ


そんな場所でこんなものができたらどうなるか、そんなものは起こる前からわかりきっている


未曽有の大被害、もはや個人で起こすことができる事件のレベルを超えている、テロなどという言葉さえ生ぬるい、虐殺というべき内容だ


「・・・これって・・・他の人間はどれくらい知ってるのよ」


「混乱を防ぐために歪みの情報はできる限り隠してもらってる、万が一にも模倣犯が出ないように・・・あとは市民が騒がないようにな」


静希が徹底させた情報規制、これがあるかないかで二次被害の有無が大きく変わる


事件が報道された後に模倣犯が出ることはよくあることだ、しかも今回のような特殊な内容の場合大げさに報道されることもあるだろう、エルフ達や召喚を行うことができる人間が万が一にもこれを真似しないようにするには、やはり情報をせき止めるほかないのだ



「ていうか、何をどうしたらこういうことになるのよ・・・一体何を召喚しようとしたわけ?」


鏡花の言葉に静希は以前作っておいたプレゼンの資料を表示した、まさかこんなところで使うことになるとは思っていなかったが、作っておいてよかったと重ね重ねあの苦労が報われる思いである


「それを説明するにはメフィ達が住んでる・・・所謂悪魔の世界の説明からだな、コインの表と裏とでもいうべき世界、俺たちの住む表と悪魔の住む裏の世界、悪魔の召喚はコインに穴をあけるだけにとどめられたものだ、そこまで世界に被害はない」


巨大なコインに一瞬小さな穴を開けたところで、外見的には何の影響もない、その穴はすぐに閉じてしまうのだから


だが今回の歪みに関しては違う、これを起こすためには穴をあけるだけでは済まされないだけの方法を行っているのだ


「この歪みは、メフィ曰く向こう側の悪魔の世界そのものを、こっちに持って来ようとしたんじゃないかってことだ、無論推測の域を出ないけど、似たような光景をメフィは見たことがあるらしい」


全員の視線がメフィに集中する中、もっともあの時はもっと小さかったけどねとメフィは肩をすかしている


メフィがすでに経験済みとなると、その信憑性は増す、理屈などは静希もさっぱりなのだが、それを行って歪みができたのは事実なのだ


「なぁ鏡花、俺さっきからさっぱりなんだけど、どういうことだ?」


「・・・瓶に飴玉がたくさんあって、手を突っ込んで取ろうとした、手に取る量が少しなら瓶を壊さずともとれる、けど無理矢理たくさん取ろうとした結果瓶が壊れた、この歪みはその結果なんでしょ」


おぉそういう事かと陽太は納得していた


瞬時に陽太にもわかりやすい例えを出すあたりさすがと言えるが、瓶と飴玉に例えられると悪魔であるメフィ達は少し複雑な心境のようだった


だが理屈は間違っていない、持ってくることができないようなものを無理やりに持って来ようとした結果、世界がその負荷に耐えきれず傷ついた、それが歪みという結果になって残ったのだ


「つまりこの事件を起こしてる奴は瓶からたくさんの飴玉を取り出すのが目的なのか?」


「・・・さぁね、瓶を壊すことが目的かもしれないわよ?少なくとも現段階では判断できないわ」


鏡花の言う通り、今回の歪みの事件が向こう側をこちら側に持って来ようとしているのか、それともそれを利用してこの世界にダメージを与えることが目的なのかはわからないのだ


主犯であると思われるリチャードを取り逃がしてしまったのが本当に痛手である、あそこで捕まえることができていればと静希は歯噛みしていた


『シズキ、一応確認しておくんだけど・・・本当にもう一カ所の方は見捨ててしまうのかい?さすがにこれだけのものを放置しておくのは・・・』


エドとしてはこれだけの被害を出せるものを放置しておくのは危険だと思っているのだろう


自分たちが行動しなければ防げないとは言うつもりはない、現地にも軍が派遣されることを考えれば防ぐことだってできるかもしれないのだ、だが静希は見捨てると言った、そのことがずっと引っかかっていたのである


「現地の人間に頑張ってもらうしかないだろ・・・チームを二つに分けるのは自殺行為だ、特に遠すぎるとサポートも間に合わない・・・俺たちの安全を考えるなら一緒に行動するほかない」


『で・・・でも・・・』


「いつ発動するかもわからない召喚陣に対応するにはオロバスの力は必須だ、近くに悪魔の契約者がいる可能性を考えればメフィやヴァラファールを連れる俺たちも一緒に行動しなきゃいけない・・・何より召喚陣を何とかできるのはこの中ではカレンだけなんだぞ」


自分たちの身の安全を考えた時、一緒に行動するのが最も安全だ、静希は身内には甘いが赤の他人には興味を示さない


何の関係もない人間のために自らが命を張るようなことはほとんどしないのだ、それが静希の特徴でもある


「もちろん向こうの人間にもタイムリミットを教えるくらいはするつもりだ、オロバスにいつ召喚陣が発動するのかを把握してもらう必要があるけど」


『そこは私が説き伏せよう、さすがにこれだけの被害となると捨て置けない』


静希の視線の意図を察したのか、カレンは自分の胸を強く叩く


オロバスの未来予知によって発動の時間さえ分かってしまえばその時間までに民間人を避難させ、対応すればいい


そして対応に失敗した場合も部隊を退避させれば被害は最小限に抑えられるはずだ、最初から失敗することを想定するのもどうかと思う


だが常に最悪の事態を想定するのもまた必要なことである


自分たちにできることはする、そこから先は知ったことではない、目の前のこと以外のことにも手を伸ばせるような力を静希は持ち合わせていないのだ

現場に関わる人間だって予知系統の一人や二人いても不思議はない、何も静希達がすべてを背負い込む必要はないのだ


「カレン、召喚陣が二つ準備してるってことは、それを準備してる人間も二人以上いるってことでいいのか?」


『恐らくはな、召喚自体何人かが協力して行うものだ、現場に複数人間がいても不思議はない』


確かに以前鏡花たちが立ち会った召喚では大勢の人間が集まって召喚を行っていた、一人の力でそれを行うというのは非常に非効率なのかもしれない


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


もうすぐ今年も終了です、今年も長いようで短い一年でした、今年もあと少しではありますが最後までお付き合いいただければと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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