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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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引き連れる者

『でもシズキ、召喚の原理がわかっているのなら、各国の対策チームもある程度対策をとってるんじゃないかな?少なくとも召喚が行えそうな場所は特に警戒しそうなものだけど』


「そうしてもらわなきゃ困る、何のために魔素のデータを渡したと思ってるんだ、そういう危ない場所に計測器を置いてもらう意味もあるんだ・・・もっともどれくらい進んでるかはわからないけどな」


静希が魔素のデータを配布した近隣諸国の人間、あの場にいたのは外交を行う政府の人間がほとんどだっただろうが、あの場にいた人間だけで物事を判断するはずがない


自分たちの国に戻ってから各研究機関、及び専門家に意見を聞きに行っただろう


召喚をどのように行うか、そして召喚の応用であの事件を引き起こしたのであれば魔素の波形だけではなく龍脈の方にも注意を向けていても不思議はない


後は各国の対応次第、どれだけエルフに協力を打診できるかという問題になってくる、政府自体が龍脈の存在を把握しているのであればありがたいが、それはまず無理だろう


この調査の度合いで各国の歪みに対してどれだけ真剣に対応しているかがわかる、これからどのように動くかにしろ協力的な国にはそれなりにしっかりとした対応をするべきだろう


『ところでシズキ、もし次にこういうことがあった場合、僕らも一緒に行動するのはいいんだけど、メーリたちはどうするんだい?前回と前々回は協力してもらったけど』


前回というのはジャン・マッカローネを捕まえる時のこと、前々回とはカレンの時のことだろう、確かにあの時は両方とも実習という形で参加したために明利達も一緒に行動していた


恐らくエドも歪みの一件に関しては高い危険性を感じているのだろう、一見すれば弱弱しい明利がいるとなると気にするのも仕方がないかもしれない


「一応悩んだんだけどな・・・あいつらついていく気満々だし、連れていくことにした・・・リチャードが連れてる悪魔に対して有効そうなやつもいるしな」


悪魔に対して有効になる人間、エドの中には静希が共に行動をする三人の姿が浮かんだが、その中でそれらしい力を持っているとしたら陽太か鏡花だろうと予想していた


少なくとも索敵に特化した明利ではないだろうという考えだが、その考えは正しい


『そうなると、君としてはありがたいんじゃないかい?取れる選択肢が増える』


「わかるか?一人での行動だとどうしても面倒だからな・・・そういう意味では助かるよ」


単純な戦いにおいても、最も重要視されるのは武器の性能でも個々の実力でもなく、数の違いだ


無論武器や実力だって勝敗に関わってくる重要なポイントでもあるが、ほとんどの状況において優位なのは数の多い方だ


数が多いだけでとることができる選択肢が増え、できることも、その規模も大きくなる


『まぁ君が決めたことなら僕としても反対する理由はないね、後はうまく三人を安全なところに配置するだけってところかな』


「そのあたりは俺らが上手く立ち回るしかないだろうな・・・そっちはアイナとレイシャはどうするんだ?連れてくるつもりか?」


静希の言葉にエドはそれなんだよとかなり重苦しくため息を吐いた


どうやら静希が鏡花たちのことについて悩んでいたように、エドもアイナとレイシャのことについて悩んでいるようだった


『彼女たちの意思を尊重するなら・・・まぁ早い話連れて行けと言われるだろうね・・・でも悪魔がいるような場所に連れて行くのもどうかと思うし・・・』


以前カレンとの戦闘では彼女たちは近くで待機していた、それこそ実際に戦うところすら見ていないだろう


彼女たちは今はまだ未熟だ、エドの指導のおかげで大人顔負けの技術を持っているかもしれないが、能力面、特に戦闘面においてはまだまだ荒削りなところが目立つ


そんな状態の幼い能力者二人を悪魔のいるような現場に出すわけにはいかない


「今まで通り後方支援とかでいいんじゃないか?戦闘には加えられないだろうし」


『そうなんだけどね・・・シズキの話を聞く限り少なくとも市街地戦が想定されるわけだろう?市街地に安全地帯がないことになる・・・そうなると・・・』


静希が歪みの一件でリチャードと遭遇したのは町の近くの森だった、そして歪みの発生地点は町の中、次も同じようなことが起こるとしたらまず間違いなく市街地の中が戦場になる


そうなると今までエドがそうしていたようにホテルなどで待機していても安全ではない可能性があるのだ


「なるほどな・・・確かに悪魔の戦闘だと町一つ壊れかねないしな・・・」


悪魔の戦闘能力はそれこそ町一つ潰せるレベルのものになる、その町の規模が大きければ大きい程被害も大きくなるだろう


特に以前の戦闘でも健闘したが、局地戦を行うようなことになれば建物を破壊するようなこともあるかもしれない、そうなった時安全な建物などない可能性があるのだ


『いっそのことヴァルを二人のどちらかにつけることを検討してるんだけどね・・・でもそうすると僕が圧倒的な足手まといになるし・・・』


「・・・まぁ最悪うちの鏡花たちと一緒にいてくれれば邪薙を付けるけど・・・それでも建物ごと破壊されたら守りきれないかもしれないしな・・・あの二人を連れていくかどうかはそっちで決めてくれ」


『・・・はぁ・・・これを話さなきゃいけないと思うと気が重いよ、あの子たちは絶対ついていくっていうだろうからね』


エドの言葉に静希は苦笑してしまう、それだけエドが慕われているという事でもあるのだろう、子供を守りたいという気持ちもあり、一緒に行動して経験を積ませたいという気持ちもある、何とも複雑なものだ


安全を考えるならどこかに預けたほうがいい、だが彼女たちの能力が必要になることがないとも言い切れない、そのあたりはエドの判断に任せるしかないだろう






エドとの会話を終え、静希はそのまま床に就くことになる


そしてそれから数日、静希の下にある情報が入ってきた


例の魔素の波形が二カ所で検出されたのである


各国からの報告は委員会を経由して城島へと伝えられ静希の耳へと入ることになった


「動きがみられたのはドイツ北東部、そしてチェコ東部だ両国からお前宛に依頼が来ている、至急対処してほしいとな」


「両方同時にこなせるはずないじゃないですか・・・ていうかまさか二か所同時とは・・・」


静希は頭を抱えてしまっていた、選択肢が一つならば迷わず行動できたが、まさか二か所同時に反応が出てくるとは思っていなかったのである


反応があった場所は直線距離に直しても五百キロ近く離れている、すぐにその場に行くには転移系統の能力者への協力を要請しなければいけないだろう


「委員会としてはどちらに行くようにとか指示はありましたか?」


「いや、委員会、そして依頼を出した両国はお前の意思を尊重するらしい、どちらに行くかはお前の自由だ」


「また随分と無茶苦茶な・・・普通自分の国に来てくれるように頼むもんじゃないんですか?」


静希のいうように、自分の国に危険が迫っていて、その危険を排除してもらいたいのであればどのような手段を講じても助っ人となるような人間を呼ぶのが自然ではないかと思える


今回のような二か所同時というのは正直予想できなかったために二国のこの反応は少し異常に思えた


「大方、お前に貸しを作りたくないという気持ちもあるんだろう、後はヨーロッパ諸国で協定でも結ばれたかだな・・・お前は一人しかいないんだ、もし同時に事が起こった時にどう反応するか、あらかじめ決めてあったのかもしれんぞ」


静希はあの対策会議の本当に一部しか参加していなかった、事情を説明したら後は用済みという事で早々に会議場を立ち去ったのだ、その為あの場で決まったことは会議に参加していたアランから大まかに聞いただけである


もしその場で細かい協定などが結ばれていたのなら、この反応もおかしいものではないように思える


「その二か所の場所ってのは、両方町の中にあるんですか?」


「ドイツは少し大きめの市街地の一角だ、チェコ東部は国境にほど近い小さな町がある・・・被害を抑えたいのであればドイツに行くべきだろうな」


被害の大きさで言うのなら恐らくドイツの方を対処するべきなのだろう、だがチェコの場所は国境に近い、規模にもよるだろうが甚大な被害を受けることに変わりはないだろう


「・・・先生としてはどちらをとるべきだと思いますか?」


「私はそこまでの考えはない、だが先日も言ったようにドイツの方は少々気になる、何かしら因縁があるように思えてな」


リチャードの出身国であるドイツ、その場所で事件が起ころうとしているというのだ


そしてカレンの召喚の一件があったのもドイツだ、二度目ともなると何かあるのではないかと思えてならない


ドイツ、リチャードやカレンの故郷、確かに城島が気にかけるのも無理もないかもしれない


「今回は実習という形で行く、スケジュールが多少狂うが、そのあたりはすでに委員会と学校側で合意済みだ、清水達にもあらかじめ通達しておけ」


「了解です、あと、今回ちょっと一緒に行動したい奴がいるんですけど」


一緒に行動したい奴、その言葉に城島はすぐに事情を察した様で目を細める

元々細く鋭い目がさらに鋭くなることで、まるで睨んでいるのではないかと思えるほどだ


「・・・あの連中か・・・まぁ相手が相手だから一緒に行動すれば心強いだろうな・・・だがどういう形で呼び込む?少なくとも実習という形をとっているんだ、偶然合流というのは難しいぞ」


「そのあたりは考えてあります・・・まぁ俺から・・・っていうかどこかの誰かから個人的に依頼をするって形になりますけど」


個人的な依頼、それはエドたちの経営する、というか今はまだ形だけではあるが、能力者を派遣する企業アイガースへ正式な契約を結んで現地に向かってもらうという事だ


実際に行動を起こす人間が直接依頼をするわけにはいかないから多少間接的にエド達へ依頼を出し、向こうは向こうで勝手に動き、こっちはこっちで勝手に動くという形をとるのだ


無論あくまで形式上、書類上での話ではある


「なるほどな、あくまで偶然その場に居合わせて行動を共にするという形にするのか」


「えぇ、可能ならそのどこかの誰かをしっかりした形にしてやりたいとは考えています・・・まぁそのあたりもちょっと考えがあるので、問題はないかと」


エドたちの会社に次の仕事を入れるためにも多少のコネを作っておいた方がいい、そのコネがどのような形にするかも重要なことだ


そういう意味ではテオドールはアウトだ、なにせ裏社会に通じているような人間なのだから、未来ある会社に最初からそんなコネを作らせるわけにはいかない


「どちらの国に行くか、時間はないが決めておけ、二日程度なら待つと先方も言ってきている」


「二日・・・了解です、ちょっと話し合っておきます」


城島から魔素の反応についての資料を受け取り、静希はそれに目をおとして考え始める


二か所で同時に起ころうとしている異変、恐らくはまた歪みに関係することだろう


ドイツかチェコ、どちらに行くことになるかは静希の決定次第と言える


だがまずはエドとカレンにも報告しなければならない、もしかしたら新たな情報が入っているかもしれないのだ


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