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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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彼らの選択

城島の言葉に静希は考えてしまう、城島を巻き込むのも正直に言えば静希は乗り気ではないのだ、なにせ城島はただ偶然静希の担当教員になっただけなのだから


普段こそこうして嫌味も言うし、厳しいことも言うが本質は優しい人間であるのは静希も十分に知っている、だからこそイーロンがなついているのかもしれない


「それに、巻き込むにしろ当人たちの意見を聞くことも大事だ、もし奴らが嫌だというならその時はお前が単独で動くのもいいだろう、お前の班のことだ、班員としっかり話し合え」


いかにも教師らしい言葉に静希は返す言葉も無くなってしまう


確かに鏡花たちに話を通しておくのも必要なことだ、巻き込むにしろ一人で行くにしろ、相談は必要である


もっとも明利などに相談した場合有無を言わさずについていくと言いそうなものではあるが


「ちなみに先生個人としては今回の件どう思いますか?どこの国が怪しいとか」


「現時点では何とも言えん・・・だが一つ気になることがあってな」


気になること、その言葉に静希は耳を傾ける、城島が何か情報を掴んでいるかもしれない、あるいは静希が気づけず、城島が気付けることがあったかもしれない


少しでも手がかりになれば今後が動きやすくなる、そう考え静希は頭を回転させ始めていた


「お前も知っていると思うがリチャード・ロゥ・・・いや本名はチャーリーだったか・・・まぁどっちでもいい・・・そいつの出身がドイツだ・・・通話があったポーランドの隣国だなと・・・」


そう言えば以前リチャードの個人情報を教えられたときにドイツ出身の人間であると言っていた、静希もそれは覚えている


テオドールなどの非公式な組織だけではなく、公的な司法機関に関わる人間がリチャード、本名チャーリー・クロムウェルの関わった部署などは徹底的に調べ上げたのだという


未だ調査中の部分もあるが、彼の生家や住まいなどは特に念入りに調べたのだという


結局特に収穫はなかったらしいが


「ドイツで事を起こす可能性が高い・・・と?」


「そうまではいわん、ただ奴がヨーロッパ圏で事件を頻繁に起こしているのにも何か理由があるのかもしれんと思ったまでだ・・・」


リチャードが事件を起こした国はそれこそ数多い、その中のほとんどがヨーロッパ圏内、唯一アジアで発生した事件は日本だけだ


今までリチャードは何かしらの研究機関、あるいはエルフなどの存在を利用して行動していたために、アジア圏では日本が最も仕事が楽だったというだけかもしれないが


「未だに魔素のデータは挙がっていないんだろう?まだお前が動くような段階ではない、ポーランドの方はテオドールにでも任せてお前は班員と話し合っておけ」


確かにまだ静希が動くような段階ではない、ポーランドからの通話が確認されたというだけでまだ事件が起こるとも確定したわけではないのだ


テオドールや各国の警察や軍が躍起になってリチャードを捜索しているという事もあり、未だ静希の出番はない


静希が動くとしたら事件が起こる予兆である魔素の変動などが起こった時だけだ


今はこうして頭をひねることくらいしかできそうにない、なにせ今動いたところでやることがないのだ


目撃情報があったわけでもなく、すでに情報を得てからずいぶん時間が経過している、今現在もリチャードがポーランドにいるかも怪しいのだから


「ところでお前の連れは何と言っている?相手にも厄介なのがいる事に変わりはないわけだが」


連れ、それが人外たちのことを示しているのに気付くのに時間はかからなかった、なにせ静希の連れと言ったら陽太達かメフィ達のどちらかなのだから


「一応・・・エドやカレンの連れと合同でかかればなんとかなると・・・ただ相手も戦力があれだけとは思えないんです」


現在確認できている悪魔がアモンというだけであって、他に戦力を有していないというわけではないのだ


今まで何度も召喚事件を起こしてきた人間であるだけに、もっとほかの人外たちを引き連れていても不思議はない


それこそ静希と同等か、それ以上に人外と共にいてもおかしくないのだ


静希も大概人外を抱えているが、何も自分の力で召喚したりしてきたわけではない、むしろ静希はいろんなことに巻き込まれる形で人外を仲間にしてきたのだ


だがリチャードは自分の意志で人外を召喚できる、彼自身が召喚を行えるかどうかはさておいて、自由に手札を増やせる可能性があるのは事実だ


「相手の戦力は最低でも厄介なのが一人というわけか・・・それならなおさら少しでも戦力が欲しいところだな」


「それはまぁ・・・そうなんですが・・・」


相手のことを考えれば再び鏡花たちを連れていくかどうかという話に戻ってくる、鏡花たちは良くも悪くも悪魔という存在に慣れている


全く関わってこなかった軍人よりは役に立つ存在だ、能力的にも実力的にも彼女たちの存在は必須と言える


そんなことを話していると学校のチャイムが鳴り、昼休みの終わりを告げる


「もう時間だ、相談はここまでにしろ・・・あとはお前達の間で話し合っておけ、また別の機会に話くらいは聞いてやる」


「はい・・・ありがとうございます」


昼食の時間を邪魔しても話を聞いてくれるだけ城島はいい教師だ、後は自分がいろいろと話をしなくてはいけない存在が残っている


どう切り出したものかと静希は頭を掻いていた








「で、私達の所に相談しに来たわけね」


放課後、鏡花たちが訓練をするのを見越して静希は先程の相談を鏡花に話していた


近くでは陽太が訓練しており、静希の近くには明利もいる、この場にいる三班の中で話を聞いて考える担当はそろっているのだ


「あぁ・・・今回の件にお前たちを巻き込んでいいものかと」


「その考えはもっと前に抱いてほしかったけど・・・まぁいいわ」


今まで数々の面倒事に巻き込まれてきた鏡花からすれば本当に今さらな話なのだが、それでも静希の気遣い自体は嬉しいのか、呆れながらもほんのわずかに笑っている


「実際のところどうなのよ、私達はその現場に行って役に立てるわけ?足手まといになるくらいなら行くのはいやよ?」


「その点は問題ない、お前らがいてくれると俺としては凄く助かる、だから悩んでるんだよ」


有能だからこそいてほしいのだが、個人的に連れて行くのは憚られる、静希の言いたいことも理解できるだけに鏡花はどうしたものかと悩んでしまう


「明利はどう?静希についていく気あるの?」


「うん、私は一緒に行くよ、静希君の助けになれるならなおさらだよ」


この前は静希にだけ来た依頼だったためについていくことはできなかったが、実習という形でついていくことができるなら明利がついていかない理由はない


静希が危険なことをしないように、自分が足枷となるとしても一緒に行動して見張っていないといけないのだ


「・・・まぁ私としても頼りにされるのは悪い気はしないけどさ・・・んんん・・・」


鏡花としては静希に頼りにされているというのは嬉しいのだろうが、それが理由で面倒に巻き込まれるというのも考え物である


これで鏡花たちがただの足手まといだったら静希はまず間違いなく一人で行くことを選択しただろう、だが幸か不幸か鏡花たちは非常に優秀なのだ


それぞれ分野こそ異なるとはいえ、能力者として三人は優秀な部類に入る、だからこそ静希は迷っているのだ


「聞いておきたいんだけど、まず間違いなく敵は・・・その・・・あんたの同居人みたいなやつなのよね?」


「まず間違いなくな・・・特にリチャードが連れてるのは炎を使う、この前もそれで取り逃がしたんだ」


へぇ炎をねと鏡花は一瞬訓練を続けている陽太の方を見る


陽太の能力は炎と同化する、あいてが炎を出すだけの能力なら陽太に万が一にも負けは無い


ただそれは相手がただの能力者であるならの話だ、相手は悪魔、高い膂力を有しているのであれば陽太にも敗北の可能性は十分にある


そのあたりを理解しているうえで静希は悩んでいるのだ、三人を連れていくかどうかを


「・・・一応陽太の意見も聞いておきましょうか・・・陽太!ちょっと来て!」


「ん?なんだ?話終わったのか?」


最初から話など聞く気がなかった陽太は鏡花の一声で訓練を一度やめ、こちらへ走ってくる


まるで犬だなと陽太の訓練っぷり、いや調教っぷりに静希は呆れながらも陽太の方に視線を向ける


「静希がどうしようか悩んでるのよ、今度起こりそうな事件に私たちを連れていくかどうか?」


「ん?なんで?俺ら邪魔なのか?」


陽太の言葉に鏡花はむしろ逆よと返す、有能だからこそ連れて行きたいのだが、悪魔がいるという事がわかっており、先日の悪魔がいるのであれば危険も多い、そんな相手のいるかもしれない現場に三人を連れていくかどうか


「役に立つならついてってもいいんじゃねえの?静希が行くなら俺も行くぞ、前に出るのが俺の役目だしな」


役に立つならついていく、随分とシンプルな答えだ、静希の悩みなど知ったことではないというかのような直線的な回答、相変わらず陽太はわかりやすい


「・・・はぁ・・・まぁあんたに聞いたらこうなるってわかってたけどさ・・・もういいわよ、訓練戻ってて」


一体何で呼び出されたのかわかっていないのか、陽太は疑問符を浮かべながら再び訓練に戻っていった


頭が残念なことを除けば陽太は前衛として優秀だ、悪魔の攻撃も一撃くらいなら耐えることができるかもしれない


特にリチャードの連れる悪魔に対しては陽太は切り札的な存在になる、リチャードと接触する可能性がある以上、連れて行きたい存在だ


「・・・で、どうすればいいと思う?」


「・・・いつも勝手に話を進めるあんたにしては随分慎重ね・・・まぁこっちとしてはありがたいけど・・・」


鏡花はため息を吐いた後で静希、明利、陽太の順に視線を向けていく、そして三人それぞれを観察した後、再度大きくため息をつく


「班員三人が行くって言ってるんだし、班長の私が行かないとどうしようもないでしょ・・・いいわ、もう腹くくった、私たち全員連れてきなさい、ここまで来たら最後まで付き合ってやるわよ」


鏡花の若干投げやりな決定に、明利は喜んでいた、一緒に行動できるという事を鏡花がしっかりと言葉にしたのだ、明利からしたら心強いだろう


静希としては複雑な気持ちだが、鏡花たちがやる気を出している以上、それを無碍にするのも憚られる


次に何かアクションがある場合、鏡花たちも一緒に行動することになりそうだと静希は一種の覚悟を決めた










そしてその日の夜、静希はエドと話をしていた


アイナとレイシャの留学の話が進み、学校側と委員会とで審議をしている間、エドたちは一度日本を離れたのだ


滞在していられる期間にも限りがあるというのもあるが、何よりエドにもしっかりとした仕事がある、いつまでも日本にいるわけにもいかないのだ


今後日本を拠点にすることを視野に入れているために、徐々にその仕事の内容を変化させているらしいが、そう言ったことにも時間と手間がかかるらしい、なかなか忙しそうにしている中今回情報が入ったことでエドは忙しい時期ってのは重なるもんだねとぼやいていた


「今のところの情報はこんなもんだ・・・そっちでも掴んでたか?」


『ポーランドっていうのはわからなかったけど、マッカローネ氏の所に連絡が入っていたのは掴んでいたよ・・・とはいえこれから忙しくなるかもね・・・以前の魔素のパターンに関してはまだかい?』


「あぁ、そっちも情報が入り次第そっちに伝えるよ・・・あと一つやっておいてほしいことがあるんだけど」


静希がエドたちに何か頼みごとをするというのは案外珍しい、何か商品を手に入れたいという事であるならむしろ良くエドに頼んではいるが、やっておいてほしいという、何か行動をさせようとするのは珍しかった


そしてエドもそれをわかっているらしく、少しだけ嬉しそうにしていた


『へぇ、君が頼みとは珍しい、何をすればいいのかな?』


「あー・・・いやなんて言うかどちらかというとエドに頼むことでもないと思うんだけど、オロバスに予知をやっておいてほしいんだ、今後どう動くかにもよるけど、たぶんいくつかの未来に分岐すると思う、それを見てどういう未来があるのかを調べてほしい」


カレンの契約する悪魔であるオロバスの能力は未来予知だ、確定した未来だけを告げるのではなく、現在から繋がる未来を見ることができる


数秒時間が経過するだけでその未来は変化することが多いため時間的に遠い未来であればあるほど見える未来は多岐にわたる


だがどの時期に静希達が行動を起こすか、そしてどの時期にどのような未来が見えているか、それさえつかめればある程度準備はできる


未来予知の利点はそこにある、不確定であるとはいえどの時期に事件が起こるか、あるいは特定の誰かが行動を起こすのかが分かるようになるのだから


無論特に何の予定もない状態では不確定すぎて特定の時期を把握することはできないだろう


だが少なくともこの一ヶ月以内にことが起こるのであれば、どの時期に、そしてどこに行くのかは割り出せるはずだ、無論時間はかかるだろうが


『なるほど・・・確かに不確定とはいえ未来をいくつも見ればそれなりに予測ができるようになる・・・か・・・』


「あぁ・・・まぁオロバスはカレンと契約してる悪魔だから俺が頼むのもどうかと思うけど・・・今度なんか奢るとだけ言っておいてくれるか?」


『ハハハ、了解したよ、僕からカレンに伝えておこう、他にできることはあるかい?』


未来の情報を見極めた後、静希がするべきことはいくつかある、そのいくつかの中にはもちろんリチャードに対することもあるのだが、それ以外にもいくつかやっておきたいことがある


特に情報面では必要なことだ、今回起こるかもしれない何かを防ぐためには特に必要だ


「エド、お前は召喚がどうやって行われるか知ってるか?」


『ん・・・僕は専門じゃないから詳しくは知らないけれど・・・確か大地の力を利用して・・・とかそんな感じだったかな』


その内容が亡くなったエドの友人から聞いたのか、それともカレンから聞いたのかはわからないが、大まかに言えばその通りだ


龍脈と呼ばれる力の流れを利用して召喚を行っている、少なくとも人間一人が行えるレベルの力ではないのは確かだ


人間は魔素を体内に入れて燃料のように消費することで能力を発動する


一回一回魔素をチャージして使っているというのは所謂電池を毎回入れ替えているようなものだ


だが召喚は龍脈という力を使うためにまず準備が必要になる、その代り膨大な力を使えるのだ、それこそ次元を繋げる程の


「エルフから聞いたことの受け売りだけど、龍脈っていう大地にある力の流れを使って召喚は行われる・・・たぶん前回起こった歪みも、今回起こるそれも同じだ」


『・・・あぁなるほど、じゃあそのリュウミャクとやらの流れる場所がわかれば、ある程度場所は絞れるわけだね』


さすがにエドは頭の回転が速いだけあって理解も早い、静希が伝えたい内容を先回りして把握してくれるから話していて楽で助かる


「これはたぶんなんだけど、カレンも一応エルフだろ?そのあたりの情報を知ってると思うんだ・・・無論全世界の龍脈を知ってるとは思わないけど」


『すべては把握していなくても、ポーランドの隣国にあるものを把握すれば、初動は早くなりそうだね』


本当にエドは理解が早い、とんとん拍子に話が進むとこちらでもありがたい限りだ


龍脈の確認、恐らくそれをするにはエルフの協力が不可欠だ、問題は各国のエルフが協力的になるかどうかである


国によってエルフの性格なども変わるだろうが、現地のエルフがどの程度政府機関、あるいは軍機関と協力体制をとっているかにもよる、こればかりは静希ではどうしようもない問題だ


評価者人数が360人突破したのでお祝いで1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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