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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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情報の共有

東雲家で出た食事はかなり豪華で、それなりの準備をしていてくれたことがうかがえた


恐らく風香が前々から両親を説得していたのだろう


どちらにせよ育ち盛りの高校生にはありがたい話だ


陽太と雪奈はすでにテーブルのおかずに次々と手を出して白米を口の中に放り込んでいく


静希は明利と風香に挟まれ、いろいろと話しながらしっかりと食事をしている


鏡花と熊田と優花は静かに黙々と食事を続けている


牧崎村でも思ったが食事は性格が出るものだなとしみじみと再認しながら静希は味噌汁をすする


城島と東雲夫妻はすっかり話に花が咲いているらしく酒瓶を何本も空けて笑い合っている


少なくとも彼女は引率であり勤務中の教員であるのにもかかわらずこの体たらく


監査員の先生が今見ているのであればなにか城島に向けて言うべきではないのだろうかと思ったのだが、何のコンタクトを取る様子も何の変化もなかった


その後、酒を飲み過ぎてダウンしてしまったご主人を寝室まで運び、同じくダウンしかけてしまった城島を客間へと運ぶのだが、かなりの愚痴を吐いたり突然怒り出したり暴れ出したりと相当に深く酔っ払っているようだった


とりあえず縄を用意してもらい布団にがんじがらめにして拘束しておいたが、どうやらそのまま寝たようで客間からは寝息が聞こえていた


主人と城島が寝てしまってはこれ以上うるさくするわけにもいかず、静希達は風呂をいただき、そのまま就寝することにした


静希達は客間に布団を敷き、寝息をついていた


まどろみの中に入ってからどれくらいの時間が経っただろうか、静希の体を誰かがゆすっていた


せっかくの睡眠を妨害され眉間にしわを寄せているとそこには鋭い目つきで自分を睨む城島の姿があった


夢から覚めたら目の前に睨むだけで人を殺せそうな鋭い目があった、それだけで静希の眠気は吹っ飛んだ


下手な幽霊よりずっとホラーだ


「起きたか、静かにしてろよ、家の奴らを起こさないようにしろ」


「・・・なんですか?」


城島の顔は完全に素面になっており、数時間前に酔いつぶれていた人間とは思えなかった


「ていうか先生、酔っぱらってたんじゃ」


「あれしきの酒で酔えるか、ありゃ演技だ」


「何の意味があって・・・?」


少なくともこの家に厄介になっている身でそんなことをする必要があるとは思えない


そもそもあれほどに情緒不安定なのが演技だったとすれば、いったい本当に酔ったらどうなるのだろうか


「気付かなかったか?この家、私たちが来た時から監視されている」


「監視?いつ頃からですか?」


「私が気付いたのは長の家にいってからだ、あの時からずっと視線が続いている」


長の家にいた時には何も気付けなかった


そもそも視線を感じるなんて芸当が普通の高校生である静希にできるはずもない


「でもそんなの誰が?」


「村の連中だろうな、今は雨戸も閉めた、扉もしまっている、周囲に監視の気配もない、今なら情報共有もできる」


「あぁ、そういうことだったんですか」


もしエルフの村にこの一連の事件を起こした犯人がいたとして、それが組織立っていた場合監視がついていることにもうなずける


そして城島の言う監視が犯人達と繋がっているなら、自分たちが事件について探りを入れていることは知られるべきではない


先ほど情報共有しようとした時に睨まれたのは監視者への情報の漏れを防ぐためだったのだと改めて悟る


「で、風香達の両親は?」


「あぁ、何も変わらん普通のご両親だ、事故当時のこともほとんど関与していないそうだ、それにいくつか面白い話も聞けた」


「面白い話?」


あぁすごく面白いと呟いて城島は布団の横に胡坐をかく


「どうやらエルフの中にも派閥があるらしい、人間社会と手を取り合うべきと考える連中と、エルフの威信を振りかざすべきだという連中」


「威信を振りかざすって・・・どうやって?」


最近エルフの権力や影響力が落ちているというのは以前城島が言っていた言葉だ


だがそのエルフの権力や影響力を一朝一夕で何とかできるとは思えない


「エルフの影響力が少なくなってきたのは単純に出生率の低下、そして将来的に見てエルフの個体数が少なくなるとみられているからだ、数の暴力には連中も勝てないということだ」


「じゃあ、その威信を振りかざしたい連中が何やったってすぐには・・・」


そもそも出生率の低下から人口が少なくなってきているからそのような状況になっているわけで、何か作戦を立てて次の日に子沢山になれるはずもない


「人間はエルフに対し数で勝る、お前なら数で勝る相手に対してどうやって策を講じる?」


「そりゃ、個人の能力を高くしたり、不意を突いたり、数じゃない別の技術を得ようとしたり・・・・・・まさか」


「そう、数で劣るなら量より質だ、その質を上げるために連中は今回の事件を起こしたんだろうよ」


「じゃあ、悪魔か神格を使って?」


悪魔に対して人間が行う作戦がどのようなものかは分からないが、その規模は大隊


一人悪魔を使役すればかなりの数の人間を相手にできることに直結する


「もし悪魔や神格をエルフが使役できりゃあ、それはそれは脅威になる、威信を取り戻すのも簡単だろうよ」


「じゃあ、今回のは」


「事故ってのは嘘、誰がやったかは知らないが、まっとうな考えを持った奴ではないだろうな」


悪魔や神格は人の手に負えるものではない、それは天変地異のレベルの存在だ

そんな大きく強い存在を使役するなど一人の人間にできるはずがない、それがたとえエルフでも同様だ

だがもし悪魔などを使役する方法を得れば、それこそ勢力図どころか世界情勢ごとひっくり返しかねない


それほどの事態だ


「それで?そっちはどうだった?」


「とりあえず悪魔、神格を召喚した場所はわかりました、侵入できるかどうかは不明ですが明日石動に案内してもらう予定です」


そうかと呟き城島は腕を組む


「明日、案内の途中で邪薙を回収しろ、後のごたごたは私が何とかする、そのうちにお前たちは内部に侵入して陣を撮影または確認するんだ」


「了解です、でも手掛かりは今のところそれだけで」


現在静希達が得ている情報はあまりに少ない


エルフの村の誰かが召喚を行ったというところまでは推察できたが、それ以上思考が進まない


威信を取り戻したいという一派の仕業である可能性が高いが、その一派がいったい誰なのか


実行犯は?


人数は?


特定方法は?


抱えている問題が多すぎる


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