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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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成長と吉報

「ミスターイガラシ、ナイフのお手本を見せてください!」


「ミスターイガラシ、ミスミヤマに挑戦してください!」


二人のナイフを渡され、静希は頭を下げられる、先程までの見本は剣でのものだったために参考にはならないという事だろうか


雪奈の方を見るとニヤニヤと笑みを浮かべナイフを手で遊んでいる


「・・・お前らの参考にはならないかもしれないけど・・・」


「「構いません」」


どうやら二人の頼みを断るのは難しそうだと静希はナイフを一本だけ借りて雪奈の前に対峙する


「なんか前にも同じことなかったか?」


「あぁそうだね・・・前は鏡花ちゃんに教えてる時だったか」


去年雪奈が鏡花と石動に似たような指導を行ったときも静希がナイフでの戦いの見本を見せたものだ


当時よりは上達していると思いたいが、剣とナイフでは体の使い方が全く異なる、自分がどこまで反応できるようになっているかを確かめるいい機会かもしれないが、それでも気を引き締めなくてはならないだろう


まず気を付けるのは間合いだ、剣と違って拳や蹴りも容易に届く距離、注意を向けるべきはナイフもそうだが体術も含まれる


静希は徒手空拳がお世辞にも得意とは言えない、授業で最低限の手ほどきを受けた程度の実力しかないために、殴る蹴るの応対は不得手だ


だがナイフの攻防であれば剣で培った経験値がある、多少は対応できるのである


静希はナイフを構えてゆっくりと息を整え集中していく


何時雪奈のナイフが襲い掛かってきても不思議はない、静希は全神経を研ぎ澄まして雪奈の全身の動きを見極めていた


次の瞬間、雪奈のナイフが静希の顔めがけて突き出される、明らかに寸止めなどするつもりがない全力の突きを、静希は顔をほんの少し横に傾けて回避する


髪の毛が数本切れてゆっくり落下していくがそこで雪奈の攻撃は終わらない、突き出されたナイフをそのまま横薙に振るい攻撃する、だが静希は腰を落とし頭を低くすることでその攻撃も回避して見せた


今度はこちらの番だというかのように、静希はナイフを下から切り上げるように雪奈めがけて振るう


胴体めがけて放たれたナイフは、雪奈の片腕に簡単に止められてしまう、瞬間、先程雪奈が振りぬいたナイフが再び静希めがけて襲い掛かる


静希は若干体勢を崩しながらも後方にのけぞる形でナイフを回避し、胴体に蹴りを当てる形で強引に雪奈と距離を作る


「いったた・・・女の子を蹴るなんて随分とひどいじゃないか」


「そっちこそ、さっきの避けなかったら殺す気だったろ」


「避けるってわかってたからね、そのあたりは信頼の証さ」


静希と雪奈は互いに笑みを浮かべながら再びナイフを交差させる、ナイフだけではなく体も使っての攻防にアイナとレイシャは目を奪われていた


静希の動きは先程の剣を使っていた時のそれと比べると多少鈍く、ぎこちなさが残っている、だがそれでも雪奈の攻撃に反応できているように見えた


雪奈の攻撃は遅くない、自分達では目で追う事も難しいのではと思えるほどの速度だ


だがそれらを静希はすべて反応している、回避し、ナイフで弾き、体で強引に止める、どれもアイナとレイシャがまだできそうにない動きだった


自分たちが使っているナイフと同じなのにあそこまで違う動きができる、それは静希が積み重ねた努力の結果だ


剣での訓練を続けてきた静希にとってどうしてもナイフの扱いは剣に劣る、だがそれでも刃を扱う事には変わりない


互いに殺気を混ぜた視線とナイフを振るう中、エドとカレンは感心してしまっていた


「すごいね・・・ユキナと訓練するとみんなあんなふうになれるのかい?」


「雪奈さんと毎日訓練してるのは静希君だけですから難しいかと・・・昔私も訓練してもらってましたけど、才能無くて・・・」


明利も静希や陽太と同じように雪奈にナイフの指導を受けたことがある、投擲や近接戦闘において明利はそこまでの才能がなく、かなり苦労していた覚えがある


最低限の技術を受けたところで明利は訓練を止めてしまったのだ


「毎日か・・・あれを毎日となると結構きついかもね・・・」


「見ているだけで神経をすり減らしそうだ、本人たちの消耗はかなりのものだろうな」


見方を変えれば組み手を行っているようにも見えるが、その手に握られている刃物があるという事実が二人の緊張の度合いを一気に上げている


ただの組手から殺し合いにランクアップしてしまっているために肉体的な疲労だけではなく、精神的な疲労もかなり蓄積しているとみて間違いない


そしてそれは正しい、先程の剣の訓練に加えて不慣れなナイフでのそれに静希は高い集中を維持することを余儀なくされている


一歩間違えば大怪我に繋がるという緊張感が静希の全力を引き出している、命の危険がない状況で行う訓練と、自らの命がかかっている実戦に近い形の訓練では蓄積される経験値が段違いなのだ


まるで踊っているように見える二人の動きが止まったのは、ナイフを互いに突き出した時だった


静希の突き出すナイフは避けられ、雪奈の突き出したナイフが静希の喉に寸止めされている、どうやら決着がついたようだった


決着がついたと理解した瞬間、静希は大きく深呼吸して緊張を解いた、今までの疲労が一気に体に襲い掛かる中、エドたちが拍手をして静希の健闘をたたえていた


「すごいね、二人のそれとは全く違う、やっぱり日々の訓練ってのは大事だね」


「そりゃどうも・・・慣れてないからナイフは使いたくないんだけどな・・・」


静希は基本ナイフを使う時大抵投擲にしか使わない、自分の体を使ってナイフを扱うというのはあまりないのである


「さぁさぁ二人とも、静の動き見てたでしょ?自分がどんな動きをすればいいかしっかり考えてかかってきなさい!」


アイナとレイシャも先程の静希の姿に触発されたのか、ナイフを片手にやる気を出しているようだった


静希の技術のほとんどは自らの努力によって培われたものだ、よって努力さえすれば大概の人間は手に入るものである


特に静希はこれと言って剣術などの才能は無い、射撃の才能もそこまでないために、今まで努力によってこれらの技術を修得してきた、だからこそアイナとレイシャも頑張ればあれくらいできるようになるのかもしれないと思ったのである


「シズキ、君たちはあれを毎日やっているのか?」


「まぁな、お互いの都合がつかない日以外は毎日やってるよ、まぁ都合がつかないのなんて実習の日とかくらいだけどな」


静希と雪奈の都合がつかない日というのは実際ほとんどない、なにせ雪奈はほぼ毎日静希の家に遊びに行っているのだ


毎日のように静希の家に行き、静希の訓練をして帰るという毎日を送っているのである


「あれだけの訓練を毎日していれば上達するのも頷ける・・・うちのボスにも見習ってほしいものだ」


カレンの言葉にエドはひきつった笑みを浮かべる、どうやらエドは毎日訓練をするという事が苦手なようだった


普段仕事をしているからという事もあるのだろう、毎日訓練をするというのは少々酷な気もする


「カレンはどうなんだ?普段は訓練を良くしてるって聞いたけど」


「ふむ・・・私の場合能力を使えない状況にあるからな、どうしても肉体に頼らざるを得ない・・・特に射撃などはよく訓練しているぞ」


カレンは彼女の使い魔である弟のリットの関係から、余分な魔素を欠片も使えないような状態になってしまっている、その為満足に能力を使うことができないのだ


だからこそ能力ではなく、自らの技術で状況を乗り切るしかない、射撃などに重点を置いて訓練しているようだ


「あの二人に銃は教えてないのか?」


「幼いころから銃を教えるというのは憚られてな・・・もう少し能力もしっかり使えるようになってから指導するつもりではあるが・・・」


二人の能力を考えるとナイフや銃などとの相性はそれなりに良い、特にアイナに関していえば透明化の能力を使えば見えない武器による投擲や射撃攻撃ができるのだ


今のうちにナイフの投擲だけでも教えておいて損はないかもしれない


「雪姉、ちょっといいか」


「ん?なに?」


アイナの攻撃を軽く躱しながら雪奈は静希の方に目を向ける


静希は雪奈めがけて投擲処理のされていたナイフを射出すると、彼女はそれを難なく受け止めた


そしてその意味を理解したのだろう、なるほどねと言って二本のナイフをアイナとレイシャに渡す


いろいろと手ほどきをしているようで、ナイフのスイングの仕方などを教え込んでいた


「ナイフの投擲か・・・なるほど、二人の能力との相性もよさそうだ」


「透明化に身体能力強化、身に着けておけばそれなりに武器になるだろうからな・・・どうせならもっと大きなものを投げさせてもいいかもな」


静希は頭の中で将来二人が大きくなった時の戦い方についてシミュレーションしていた


物質を透明化させるアイナに、自らと他者に身体能力強化を施せるレイシャ

この二人が組んで戦えばかなり強い、見えない攻撃というのははっきり言ってかなり厄介なのだ


ただ投げられたナイフも、見えない状態で放たれると静希も避けることはできない、しかも彼女自身が透明になっていた場合、音などがしない限りそこに人がいると気づきようがないのだ


それこそ熊田のような音による索敵を行わなくては見つけることも難しい


それに加えてレイシャが強化の能力を使っていたらもう手が付けられない、ただの不意打ちではなくヒット&アウェイがより容易になる、なにせ相手から視認できないというのはかなりのアドバンテージになるのだ


銃などの音が出たり発光するものと違い、ナイフなどは音も光も放たない、一度扱えるようになればかなり強いのは言うまでもない


二人があこがれていた忍者ではないが、そう言った行動もできるようになるだろう


以前源蔵のところである程度指導されていたからか、アイナとレイシャは投擲用のナイフを上手く扱えているようだった、これならあのナイフを使えるようになるまで時間はかからないだろう


「ところでエドって銃とかナイフとか使ってるところ見たことないけど、お前ってなんか武器使えるのか?」


その言葉にエドは表情を変えずにゆっくりと視線を逸らす、その様子を見てカレンは小さくため息を吐いた


「うちのボスは残念ながらそう言ったスキルがからきしでな・・・ある程度扱えるようにしたいのだが・・・」


戦闘に関してはエドははっきり言って足手まといになるぞというカレンの言葉に静希は少しだけ呆れた表情を向ける、指導する人間がこんなで大丈夫なのだろうかと少し不安になってしまっていた











アイナとレイシャの留学の話が進む中、静希の携帯にある連絡が来ていた

それはある意味、静希達が待ち望んでいるものだった


「・・・じゃあ電話はポーランドからかかってきたってことか」


『そうなるな、ポーランドの中部だ、これだけでもかなりの情報だ』


電話の相手はテオドール、そしてその内容はかつて静希達が関わったジャン・マッカローネの所にようやくリチャード・ロゥ、本名チャーリー・クロムウェルから連絡がかかってきたのだという


かかってきたのは十二時間ほど前、金銭の要求というのもあったが、ジャンが多少世間話をして情報を引き出してくれたらしい


静希の見立て通り、彼は家族の為に本人がもつ以上のスペックを発揮してくれたことになる、この事件が終わったら正式に礼を言いにいかなければなと思いながら静希は情報を整理し始めていた


彼が聞き出せたのは『これからが本番だ』という言葉、一体何を表しているのかまでは不明だが彼奴が何かを企んでいるのはまず間違いないだろう


先に引き起こした召喚や歪みなどから、周りへの被害はかなり大きくなると思われる


「テオドール、魔素の反応はどうだ?周辺諸国での調査結果、お前の方に入ってきてないか?」


『生憎その手の内容は機密事項でな・・・正式な発表を待つほかない・・・少なくともお前の脅しが聞いている以上、ヨーロッパ圏内の人間ならこぞってお前に泣きつくだろうさ』


現状、歪みのことに対してアクションが取れる人間は限られている


特に静希の場合は現状を正しく把握した人間である上に悪魔の契約者だ、歪みの発生地点に悪魔の契約者がいたという事もあり、周辺諸国の人間としては静希に一報を入れてくるだろう


「そうだといいんだがな・・・少なくともイギリス国内には反応は無いんだろ?」


『あぁ、こっちは平和そのものだ、お前の手を煩わせることもないだろうさ、お姫様も人が変わったように大人しくなっているしな』


テオドールからすると歪みの一件よりもセラがおとなしくなった方がありがたいのだろう、セラがどんな状態になっているのか静希も少々興味があったが、今はそのことよりも考えるべきことがある


ポーランドの中部からかかってきたとされる電話、時間を考えるとまだポーランド国内にいる事も、周辺の国にすでに移動している可能性も十分にあり得る


地図でポーランドの周辺の国を確認する、ドイツ、チェコ、スロバキア、ウクライナ、ベラルーシ、リトアニア、陸続きになっている国はこのくらいだ


ポーランド自体が海に面した国であるためにどこに行くのかははっきり言って予想はできない、だが少なくとも海や飛行機などを通るより陸路で進んだ方が密入国は比較的楽だ


特に個人の特定ができてからは空路での移動はかなり制限がかかっている、それは恐らく向こうも把握しているだろう、今回は近隣諸国に警戒網を張っていた方が確実だ


「他の国がそれなりに本気になってくれればこっちとしても楽なんだけどな・・・俺たちだけじゃどうしても限界があるだろ」


『そうでもないぞ、先の黒いのの影響もあってか、かなり躍起になってる国がほとんどだ、自分の国であんなものを起こされちゃたまらないってことだな』


確かにそれが他国の問題であるのであればそれほど本気にはならないかもしれないが、それが自分達にも降りかかる火の粉であれば本気で振り払うだろう


あの場で静希が脅しをかけて正解だったという事だ、いつどこで同じことが起こるかわからない


『だがイガラシ、もし魔素の計測ができていないような場所にあれを起こされたらどうするつもりだ?こちらからは何のアクションもできんぞ』


「それは問題ない、あれを起こすのはかなり準備が必要だ、普通の召喚と同じか、それ以上に準備に時間がかかるはずだ、ある程度生活できる場所じゃないと効率が悪い」


ついでに言えば、召喚などで使われるのはエルフ達が龍脈と呼んでいる大地の力だ、そう言った力のある場所には総じて人が住みついているのだという


水のある場所に人が集まるというのは古来から共通することでもあるが、強い龍脈のある場所は栄えると言われているらしい


もちろん例外もあるだろうが、少なくとも人が全くいないところで事を起こすようなことはないだろうと静希は考えていた


これは静希の勘でしかないが、リチャード・ロゥは静希と同種の人間であると感じていた


目的のためには手段を厭わない、被害の大小など関係なく効率よく物事を進めることを重視している


次にアクションを起こす場所がどこなのか、次は何をしようとしているのか、それによって行動を決めなくてはならない


特に先の歪みの一件でリチャードが単独ではなく味方を連れているという事も分かった


カレンのようにたぶらかして協力させたエルフかもしれないが、また誰かを利用して事を引き起こそうとしていても不思議はない


どう対応するべきかはその場の判断で下すしかない、少なくとも静希単体ではなく、エドやカレンの協力が不可欠だ


そこに鏡花たちを巻き込むかは正直決めかねている、だがリチャードが連れていた悪魔に関しては陽太の力が必要だと考えていた


炎を発現する能力、陽太ならば問題なく対応できる、後はそれを鏡花が許してくれるかどうかである


「取り合えず他に情報が入ったら教えてくれ、こっちでも確認しておく」


『そうか、じゃあせいぜい大人しくしているんだな、こっちとしてもそのほうが楽だ』


テオドールとの通話を切ると、静希は小さくため息をつく、次は逃がさない、次こそは


静希はその想いを内に秘め、僅かに歯を食いしばっていた




「またあの困ったちゃんが動き出すわけね・・・ったく忙しいったらないわね」


通話を終えるとメフィがふわふわと浮きながら静希の下へとやってきた、先程の会話をある程度聞いていたのだろう、その表情はあまりいいとは言えない


「お前としてもリチャードの相手は嫌か?」


「いいえ、いやじゃないわ・・・私が嫌がってるのはその連れよ・・・」


リチャードの連れ、静希の頭の中に思い浮かぶのはあの時連れていた犬のような悪魔、炎を操るアモンという悪魔


あの炎を見ているだけに静希はその危険性を理解できる、あの時メフィがかばってくれたからこそ今こうして生きているが、あの場でメフィがいなければ一瞬で消し炭にされていただろう


「お前から見てもかなりやばい悪魔なのか?」


「やばいっていうか・・・まぁそうね、やばめの悪魔よ、ヴァラファールの沸点をかなり低くした感じかな」


ヴァラファールの沸点を低くした感じ、何とも妙な説明だが静希は納得してしまう


エドの契約する悪魔ヴァラファールは外見と違いかなり沸点が高い、それこそ子供二人に囲まれ戯れられても平気で佇んでいるほどだ


その風貌からまるで祖父のような暖かさを感じることもあるほどである、あれの沸点を低くした感じとなると、あまり想像したくない怖さを覚える


「でもそんな奴を従えてるって・・・やっぱ細工とかされてんのかな」


「その可能性が大きいわね・・・少なくともあいつは人に従うような奴じゃないし」


アモンのことを知っているメフィからすれば、人間に従っている姿を見た時目を疑ったものだ、そしてすぐに何か細工をされていると気づいた


可能なら静希のトランプの中に入れてやりたかったところだが、あの状況ではそれは許されなかっただろう


「あいつの能力、炎を出すだけならそれなりに対処できるけど・・・他に能力とかあるか?」


「ないわ、あいつはとにかく炎を出すしか能がないの・・・まぁそれが結構怖いんだけどね」


「お前からしても怖いのか・・・相当だな」


そりゃあねとメフィは軽く言ってのける、発現系の能力であればメフィの再現の能力の一つに加えることもできるかもしれないが、それは難しいだろう


メフィ曰く再現できるようになるまではかなり面倒な手順を踏まなくてはいけないのだそうだ、悪魔相手にそれができるとも思えない


「もしあいつと真正面からやり合うなら正直人間がいたら足手まといね・・・私とヴァラファール、オロバスがいればさすがに契約者だけを攻撃できるけど・・・」


悪魔が三人そろえばたとえ危険な悪魔であろうと問題はないのだろう、だがその場に静希達が立つ余裕は恐らくない


それほどまでに危険な相手なのだ、その危険性の片鱗は静希も感じている


「ちなみにさ、陽太があいつと戦った場合どうなる?」


「・・・勝つことは無理でしょうね、ヨータじゃ悪魔に対して致命傷を与えられないもの」


そもそも悪魔に対してどうすれば致命傷を与えられるのかは謎だが、少なくとも陽太の能力では悪魔を倒すことはできないらしい


かつてメフィに一撃を加えたことがあるが、確かにびくともしていなかった覚えがある


能力の相性というのもあるのだろう、悪魔に攻撃を加えるためには特別な何かが必要なのかもしれない


「ただ、アモンの出す炎じゃ少なくとも能力を発動したヨータを倒すことはできないわ・・・肉弾戦でどうなるかはわからないけど」


悪魔が肉弾戦、メフィが普段全くと言っていいほど肉弾戦を行わないからあまり印象に残らないが、彼女の基本的な力は強化状態の陽太のそれに勝る、青い炎を使った所謂全力を出した状態でどれだけその力に迫れるかはさておき、肉弾戦でも勝ち目がないかもしれないのだ


だがあの炎の中で自由に行動できる存在が身近にいるというのは大きい、なにせあの炎のせいで静希はリチャードを取り逃がしてしまったのだ


万全な状態にするのであれば、今回の件に陽太を連れていくべきだろう、どこに行くことになるかはさておき、その場にリチャードがいる可能性があるのだ


「陽太を連れて行きたいところだけど・・・どうするかなぁ・・・」


「何よシズキ、いつもみたいに連れて行けばいいじゃない、実習とかの形でさ」


「メフィストフェレス、マスターの気持ちも察しなさい、実習という形にすれば陽太様だけではなく、鏡花様や明利様にも危険が及ぶのですよ」


オルビアの言葉にメフィはあぁそういう事ねと静希が何故悩んでいるかを理解したようだ


彼女の言う通り、静希が悩んでいるのは陽太を含めた人間を巻き込むか否かである


巻き込むだけなら容易にできる、またテオドールに実習という形で任務を持ってこさせればいいだけの話だ、だがそれはつまり静希だけではなく鏡花も陽太も明利も全員巻き込むことになるのと同義である


召喚実験の日程が実習とかぶっていた以前の実習と違い、今回は実習のスケジュールともかぶっていない、まだどんなアクションをとるかも決まっていないために悩むのも早いかもしれないがどういう形で動くのかはあらかじめ決めておきたいのだ


なにせ今回はエド達とも合同で動くことになるだろう、悪魔の契約者が三人もいるような現場に鏡花たちを連れて行くのは少々考え物である


しかも実習という形となれば城島も必然的に巻き込むことになる、彼女は基本ノータッチを貫くだろうが、万が一の時どのような行動をとるかは静希も全く分からない


「マスター、一度他の方にも相談したほうが良いのではないでしょうか、一人で考えていても堂々巡りするばかりです」


「ん・・・それもそうだな」


オルビアの言う通り、一人で考えていたところで同じことを繰り返すだけだ、幸いに静希は相談できる大人が何人かいる、まずは身近な存在から頼ることにしようと思い立った











「なるほど・・・ポーランドか・・・」


静希はとりあえず昼休みの時間を利用して城島に今回のことを相談していた、もし今後動くことがあるとしても、委員会を経由して他国の救援要請がやってきたとしても城島に話が行くのだ、相談しておいて損はないのである


「一応その周辺諸国で何かしらアクションを起こすんじゃないかと俺は睨んでるんですけど・・・今回あいつらを連れていくかどうか悩んでて」


あいつらというのが鏡花たちのことを指すのは城島もなんとなく理解はしていた


静希が連れていくかどうか悩んでいるのは鏡花たちが足手まといになる可能性も、戦力になる可能性も秘めているからである


「一応聞いておくが、何故ためらう?あいつらなら戦力としては申し分ないと思うが」


城島の言うように、鏡花、陽太、明利の三人なら現場に行ったとしても十分に戦える、それがたとえ悪魔だろうと最低限の仕事はこなせるだろう


だがだからこそ躊躇うのだ


「正直言ってあいつらをこれ以上巻き込むのもどうかと思いまして・・・確実に悪魔がいるのも分かってるわけですし・・・」


静希はリチャードを個人的に止めたい、というか排除したいと思っているしそれなりに因縁があるが、鏡花たちは別にこれと言って戦う理由はないのだ

戦う理由も目的もないような人間を自分の勝手な都合で危険な目に遭わせるのはどうかと思ってしまう


「なら質問を変えよう、奴らはお前にとって戦力にはならないのか?」


「それは・・・なります・・・あいつらがいるかいないかっで戦い方もずいぶん変えられますし・・・」


鏡花たちがいる事によって静希が得られるアドバンテージは計り知れない、鏡花の万能な変換能力に陽太の前衛としての実力、そして明利の索敵能力、どれをとっても優秀だ、あの三人がいるだけで静希はかなり自由に戦えるのだ


「特に陽太は今回・・・いやリチャードのとの戦いでは必須と言ってもいいです・・・あいつが連れてる悪魔は炎を操るので」


「なるほど・・・なら何故連れて行こうとしない?お前らしくもない、必要なら連れていく、不要なら置いていく、それでいいんじゃないのか?」


「いや・・・だってさすがに危険すぎますよ、悪魔のいる場所にあいつらを連れてくのは」


城島も教師の立場としては鏡花たちを危険な場に連れて行くのは拒みたいはずなのに、随分と今回は印象が違う、今の城島は鏡花たちを静希と一緒に行動させようとしているかのようだ


危険なことに生徒を巻き込むわけにはいかない、城島はそう言う風に考える人間だったと思っていただけに、静希は若干違和感を覚えていた


「そう言う意味で言えばお前もそうだ、危険な場所に突っ込もうとしている、お前がよくてあいつらはダメというのは理屈が通らん」


城島の言葉に静希は返す言葉もなかった、静希の場合人外たちが身の回りにいるが、静希自身はただの人間だ、死なない体を持っているというわけでもない、そう言う意味では鏡花たちとリスクは何ら変わりはないのだ


ただ悪魔を連れているというだけで現場に行くのは城島としては容認できないのだろう


「こちらとしては依頼という形でお前が個人で現場に向かうより、少しでも管理できる実習という形の方がありがたい」


「・・・先生たちが少しでも手を貸してくれるならそれもありがたいですが・・・先生方は基本傍観の姿勢を貫くでしょ?」


「当然だ、基本は私達は引率だからな・・・まぁ自らに火の粉を向けられれば振り払うが」


城島としても手を貸したい気持ちはあるのだろう、とはいえ彼女にも立場がある、相当緊迫した状況でない限り彼女たち教師が手を貸すのは難しいと考えるべきだ


「だったらやっぱり俺みたいなのだけが行くべきです・・・俺と違ってあいつらはただの学生なんですから」


ただの学生、その言葉に城島は吹き出す、いや嘲笑すると言ったほうが正しいかもしれない、今まで見てきた彼女の笑みの中でも少し特殊なものであるというのが静希も理解できた


「ただの学生か・・・まるで自分が特別であるとでも言いたげだな」


「・・・そりゃ・・・一応面倒の中心になってるわけですし」


静希は良くも悪くも面倒の中心人物となってしまっていた、いや今まではそう見えていただけで実際の中心にいるのはリチャード・ロゥだ、静希も巻き込まれた立場とはいえ、鏡花たちよりは中心に近い位置にいる


悪魔の契約者という、普通の学生の立場とも異なる場所に立っているのも事実だ、だがそれを理解したうえで城島はそれを一笑に付す


「自惚れるな、お前がどんな存在になろうとうちの生徒であることに変わりはない、それもお前は能力的に言えばこの学校内で五本指に入るほどの劣等生だろうが」


「そ・・・それは・・・」


城島の言う通り静希の能力はこの学校内で五本指に入るほど弱い、喜吉学園の中に収納系統は何人もいるが、その中で最弱と言ってもいいほどの部類である


無論能力の強弱だけが戦闘能力の全てではないが、数字は正直だ、城島にとって静希は厄介や頭痛の種であり、ただの学生であるのだ、特別なことなどありはしない


「もし実習という形で関わるのであれば、少なくとも教師が一人、ついでに監視が一人つくんだ、戦力とカウントするのは間違いだが、そのプラスは大きいぞ」


「・・・先生は巻き込まれても何も思わないんですか?」


「実習の内容を決めるのは私ではない、それに何より、私は教師だ、子供のお守りをするのが仕事のようなものだ」


誤字報告を五件分、総合評価ポイントが10,000越え、累計pvが19,000,000突破したのでお祝い含め2.5回分(旧ルールで5回分)投稿


皆様のおかげでここまで来ました、本当にありがたい限りです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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