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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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彼女たちへの指導

「みんな、ごはんできたよ」


「ほら、アイナとレイシャも遊んでないで椅子に座れ」


料理を作っていた明利とカレンがテーブルに夕食を運んでくる、人数が多いからかなりの量になっているが、この量をさっさと作ってしまうあたりさすがというべきか、二人の料理の腕の高さがうかがえる


「ボス、今日この後ミスミヤマに稽古をつけていただけることになりました」


「なんでも刃物の指南だそうです!楽しみです」


楽しそうにエドに報告する二人を見て静希は雪奈の方に視線を向ける、静希の視線に雪奈は親指を立てているが、別によくやったとかグッジョブとかそう言う類の視線ではない


静希が向けたのは『本当にこの二人に指導なんてして大丈夫かよ』という心配の視線だ


「へぇ、悪いねユキナ、変なことを頼んじゃって」


「いやいや、この子たちに刃物の扱いを教えるのはなかなか楽しみだし気にしなくていいですよ、やってあげたいこともあるし」


雪奈の指導なら大丈夫と思っているのか、エドとカレンは何の心配もしていないようだったが、雪奈の指導を受けたことがある静希と明利は不安そうにしている


なにせ彼女は静希以上にスパルタだ、そんな指導にアイナとレイシャがついていけるか不安なのである


「雪姉、一応言っておくけど、こいつらは子供なんだから加減しろよ?」


「うん?大丈夫大丈夫、トラウマになるようなことはしないさ、きちんと教えるから大丈夫」


そのきちんと教えるという事が不安の原因なのだが、雪奈はそのことに気付いているだろうか


刃を扱うことの大切さを教えるのが雪奈の指導の始まりだ、まずは自らがどのような力を持つのかを理解させる、その為に一番手っ取り早いのが自らの体を自分の手で傷つけることだ


痛みと純粋な恐怖を与える、これほど正しい指導は無い


自らが得た経験程有用なものはない、雪奈の指導は正しい、だからこそ怖いのだ


「だったら雪奈さんと静希君の訓練の風景をまずは見せるといいんじゃないかな?どんなものかわかるだろうし」


「あー・・・見稽古か・・・まぁそれでもいいかもだけど・・・」


まずはアイナとレイシャに雪奈との訓練の恐ろしさを見てもらったほうがいい、それによってエドやカレンも意見を変えるかもしれないのだ


自分たちがどれだけ危険なことをやらせようとしているかをわからせた方がいい


「えー・・・ミスターイガラシは普段からミスミヤマと一緒にいるのですから今日は私達に譲ってくれても・・・」


「そうです、独り占め良くないです」


アイナとレイシャは頬を膨らませながら不満を述べる、先程までノリノリだっただけにその勢いを止められて面白くないようだった


どう説明したものか、口で説明したところでわかりっこない、エドに視線を向けて助け舟を求めると、エドもその視線の意味を理解したのか、小さくうなずいてアイナとレイシャを呼ぶ


「二人とも、シズキは普段から彼女と稽古してるんだ、つまり君たちの目標になるんだよ、なら訓練を始める前にその姿を見ておいた方がいい、実際に見ているかどうかで訓練の練度も変わってくるだろうさ」


エドの言葉にアイナとレイシャは渋々納得した様だった


エドの言っていることは正しい、どんな努力にもゴールや目標、目的があるかないかでその過程やモチベーションが異なるのだ


延々と走り続けなければいけないというものよりも、ゴールが最初から設定されている方が気持ちも持つ


静希は一年以上、ほぼ毎日雪奈と訓練を重ねてきた、これから稽古をしてもらう二人にとっては未来の自分となりえるかもしれない姿なのだ、見ておいて損はない


「アイナ、レイシャ・・・お前達は今日シズキに本気を出されたと言っていたな」


不意にカレンがそう告げたことでアイナとレイシャは同時に頷く、静希自身あの場では本気を出したと思っている、子供相手とはいえ自分にできる最良を尽くしたつもりだ


「しっかりとシズキが加減をしてくれていたというのが訓練でわかるかもしれんぞ、シズキの姿は見ておいて損はない」


静希がどれだけの訓練を重ねてきたか、どれだけ努力してきたか、実際に戦ったカレンはその片鱗を垣間見ている


その危険性も、その実力もこの中で誰よりも知っているつもりだった


なにせあの殺意を本気で、直接向けられたのはこの中でカレンだけなのだから


「シズキ、ユキナ、いつも通りの訓練の姿を二人に見せてやってほしい、変に気づかいをする必要はないからな」


カレンの言葉に雪奈はどうしようかという視線を静希に向けている、どうやら多少加減をする予定だったのだろう、自分の本気を見たらどんな反応をするか雪奈もある程度は理解していたようだ


保護者代わりの人間がこういっているのだ、静希達としてはいつも通りの訓練をすればいい、それ以外にできることはなさそうだと静希はため息をついて返す


「ミスミキハラ、お二人の訓練はそんなにすごいのですか?」


「ん・・・そうだね、すごいと言えばすごいかな・・・」


「そうなのですか・・・楽しみです」


明利の言葉にアイナとレイシャは目を輝かせている、それほど素晴らしい訓練なのだろうと思っているのかもしれないが実際は違う


あれは一見すればただの殺し合いだ、雪奈も刃が届くほんの数ミリまでは切るつもりで剣を振っている、本当に殺し合いをしているようにしか見えない訓練なのである



静希達は夕食を食べ終えた後、訓練をするためにマンションの屋上へとやってきていた


軽く準備運動を終えた後静希はオルビアを、雪奈は西洋剣を構える


「どうしよっか、ギャラリーもいるけど、ちょっと気合い入れていく?」


「いつも通りでいいだろ、変に気負うと怪我するぞ」


「へぇ・・・言うようになったね静」


一年以上も雪奈の剣を受け続けてきたのだ、多少なりとも静希の中に自信も芽生えている


今はもう雪奈の攻撃よりも遅い近接攻撃は当たる気がしない、だが雪奈の本気は未だに静希の命を脅かすのに余りあるほどの速度と威力を秘めているのだ


気を抜けばやられるのはこっち、そしてそれは雪奈も同じ


未だ完全な防御ができないにしろ、静希の実力は徐々に上がってきている、時折雪奈に対して的確な反撃ができる程度には


まだオルビアの実力にも及ばないが、少しずつ静希も強くなっている、いつか雪奈に一撃を与えることができるようになるのも、遠い未来ではないだろう


一体どんな訓練をするのだろうとアイナとレイシャは目を輝かせていたが、その目の輝きはすぐに失われることになる


静希と雪奈からほぼ同時に刺すような殺気が放たれる、どちらも鋭い刃物を連想させる、近くにいるだけで切り裂かれるのではないかと思えるほどの殺気だった


カレンやアイナとレイシャはそれを感じたことがある、カレンは静希と対峙した時に、アイナとレイシャは今日静希と試合をした時に


静希の殺気の根源を見た三人は、僅かに冷や汗をかいていた


そして次の瞬間、何の合図もなく雪奈が静希めがけて斬りかかり、静希はそれを難なく防御していた


夜も遅く、近くにある光源は限られている、月の光と僅かな蛍光灯がある中で静希と雪奈は剣を振い続ける


いや正確に言うのであれば雪奈が攻撃をし続け、静希がそれを防ぎ続けると言ったほうがいいだろう


金属音が辺りに響く中、その場にいる全員が二人の訓練をその目に収めていた


雪奈が剣を振る度に静希はそれを防ぎ、受け流し、躱し、次の攻撃に備える


雪奈が体を使って攻撃するたびに静希はそれを見切り、受け止め、避け、距離をとる


時に静希は雪奈めがけて剣を振うが、その剣は雪奈に掠る事すらない、剣で防御すらせずに体を柔軟に動かして容易によけていく


速い


その一挙一動を見る中で、エドもカレンも、アイナもレイシャもその速度に驚いていた


雪奈はもともと前衛だ、剣を振う事に長けており、その攻撃をほとんど考えずに本能で行っているだろう


だが静希はもとより中衛の人間だ、あれだけ高速で繰り出される攻撃をほぼ確実に、さらに最適な方法で防いでいる


雪奈が繰り出す剣撃はほぼランダム、静希の防御の構えがあろうとなかろうとその時の気分次第でどの場所に飛んでくるかわからない


本来ならば見てから反応できるはずはない、だが静希は雪奈の初動や視線の動き、さらに雪奈の癖などを見たうえで自分の処理能力の全てを使って雪奈の攻撃を防いでいた


判断の速さ、処理能力の速さ、そう言ったものが雪奈の訓練で培われているのである


少しでも迷えば雪奈の剣撃は静希の体に届き、その命を断ち切るだろう、だからこそ迷いなく最善を尽くし続ける必要がある


他に考えることなどない、一つの事だけに集中できる状況だからこそこれほどまでの対応ができているが、これが実戦で他に注意を向けていたらこうはいかないだろう


剣で、拳で、蹴りで、雪奈の繰り出す様々な攻撃を静希は防ぎ続ける、生半可な集中力ではない、一瞬でも気を抜けば首をおとされる、そう錯覚させるほどの殺気と剣技


そしてそれは雪奈も同じだった


自分の攻撃を防ぎ続ける静希、もし自分が一瞬でも気を抜けば反撃の刃を放ってくるだろう、自らの放つ攻撃を防ぎながら、虎視眈々とその機会を待っているのだ


一年前からは想像できない、昔の静希からは想像できないその姿に、雪奈は心から嬉しく思っていた


努力の結晶ともいうべき静希の技量、身近に雪奈という剣の達人がいたからこそ、静希はここまで剣技を身に着けたと言えるだろう


だからこそまだ勝たせるわけにはいかない、自分はまだ教えなければいけないことが山ほどあるのだから


静希の反撃の刃が襲い掛かる中、雪奈は薄く笑い全力で体を動かす


先程とは打って変わるその速度に静希は理解する、本気の一撃が来ると


雪奈が剣撃の中に時折混ぜる本気の一撃、静希も最近ようやくまともに防げるようになった、見てから反応することが困難な速度の一撃


それを察した瞬間に静希はすべての思考を防御の方向へと向ける、どこからくるか、どの角度で来るか、どのタイミングで来るか、どう防御すればいいか


受け流すべきか避けるべきか受け止めるべきか、頭の中で高速で対応を思い浮かべた瞬間、それは襲い掛かる


空気を斬る音という表現が、一番正しかっただろう、周囲にある空気をまさに文字通り斬り裂くような斬撃が静希めがけて放たれる


静希はオルビアと自分の左腕を盾にするように十字に構えその剣撃を真正面から受け止める


金属音と共に静希の体は後方へと弾かれ、僅かに体勢を崩す中、二撃目が放たれた


体勢を崩している状態でまともな防御などできるはずもなく、静希は何とか避けようとしたが間に合わず、肩口に剣を寸止めされる形で雪奈の剣は止まっていた


「一回死亡・・・さすがに二撃連続は防ぎきれないかな」


静希と雪奈が静かに息をつく中、それを見ていた全員が僅かに声を漏らしていた


「いやぁ・・・実際に見てみるとすごいね、まるで侍みたいだ、持ってるのは西洋剣だけど」


静希と雪奈の動きが止まり、その殺気が収まったのをきっかけに一度区切りがついたのを感じ取ったのか、エドは拍手しながら静希と雪奈の両方を称賛していた


静希と雪奈はそれぞれ大きく息をついて一度訓練を中断することにする、普段ならこの状態を何度も何度も繰り返していくのだが、今はギャラリーもいる、ある程度説明することも必要だろう


「普段からあんな訓練をしているのかい?あれは結構きついだろう」


「きついなんてもんじゃないよ、一歩間違えれば大怪我するからな、集中力高めないと危なくて危なくて」


実際静希は雪奈の攻撃をまともに受けられるようになるまでかなり時間がかかったのだ


一日の訓練で死亡した回数は二桁では足りないかもしれない、最近になってようやく一日の死亡回数が二桁に届かない日があるくらいなのだ


「どうだった?アイナ、レイシャ、君たちの目標の姿は」


話を振られたアイナとレイシャは放心しているようだった、静希と雪奈の訓練を見てどう反応したらいいものか、頭の中で処理がしきれなくなったのだろう


なにせ目で追うのが精一杯だったのだ、時にはどうやって動いているのか目で追いきれないところもあった


あれを自分たちがやるのか


そう思ったときに体が震えたのだ


「あ・・・えと・・・ミスミヤマ・・・私たちもミスターイガラシと同じように訓練するのですか?」


「あれだけの速度だと・・・私達ではその・・・訓練にならないかと・・・」


恐らく二人が感じている不安は、静希と同じような速度で同じような技術を求められていると思ったのだろう、近接戦闘における最低限の手ほどきは受けているがあれだけの速度での戦闘は彼女たちにはできない


レイシャの身体能力強化を行えばぎりぎりついていけるかもしれないが、それでは意味がないことは彼女たち自身理解していた


「安心してよ、最初からそんなにハイレベルなことはやらないから、最初はナイフの扱い方、そこから徐々に自分たちにあった武器を使わせていく感じかな」


最初はナイフ、もっとも扱いやすい刃物であり、格闘戦とも併用できる刃物である


ナイフから訓練を始め、徐々にそれぞれの特性や才能などを見極めた後でそれぞれに武器を渡し、訓練を本格的にさせていく


一ヶ月もあれば最低限のところまでは仕込めるだろうと雪奈は考えていた、実際それができるかどうかは疑問だが


「ユキナ、一つ確認するが、一応怪我などはさせないのだな?それだけが心配で・・・」


「あぁ、それに関しては問題ないよ、血を流させるのは一回だけだから」


一回だけ


その言葉に安心すればいいのか、それとも不安になればいいのか困るところではあるがエドとカレンは僅かに眉をひそめていた


なにせ公然と傷をつける宣言をしたのだ、これを簡単に許容できるはずもない


「一応聞いておきたいが、何故そんなことを?血を流すのは少ない方がいいと思うが」


「いいやダメ、自分がどんな力を持つのかを知っておかないと、その大切さもその怖さも理解できないからね・・・なんなら今やっちゃおうか」


静、ナイフ貸してと雪奈が告げると静希はトランプの中から二本のナイフを取り出して雪奈に渡す


両方とも投擲にも近接戦闘にも使える便利なナイフだ、どちらも源蔵が作ったナイフである


「な・・・何をするのですか?」


「い、痛いのは嫌です・・・」


雪奈は嫌がる二人にナイフを一本ずつ持たせ、明利に一瞬視線を向ける


血を流してしまった後はすぐに治してくれるようにという示唆だったようだ、明利はその意図を察したのか小さくうなずく


「二人とも、刃物は銃と違って扱う人の技量によって実力が変わるんだ、自分が持つ力がどんな意味を持つか、それを知らなきゃいけない」


雪奈が指導するうえで必ずやってきたこと、刃の痛さと恐ろしさ、それを知らないものに刃を握る資格は無い、これは雪奈の持論だ、自分がそう言う能力を持っているからこそ、この考えが正しいと信じていた


「自分の体のどこでもいいからそのナイフで傷をつけてごらん、どれくらい痛いか、どれくらい怖いか、実感できると思うよ」


静希や雪奈がもつ剣の半分どころではない短さの刃物、包丁のそれに近い長さの本当にただのナイフ


普段なら手軽にもてたのだろう、だが自分の体を傷つけてみろと言われると途端に手が震える


当然だ、自分の体を傷つけるのなんて初めてなのだから


アイナとレイシャはエドに助け舟を求めるが、雪奈が言っている言葉の正しさを感じ取ったのか、二人の目を優しく見つめるばかりだ


無理ならやらなくてもいい、だができるのなら、そう言う気持ちが含まれた瞳だ


誰かにやってもらうのではなく、自分がやることに意味がある、その恐怖を越え、痛みを覚えて初めて刃の怖さを知ることができるのだ


雪奈に指導を受けたすべての人間が通ってきた通過儀礼のような、教育の第一段階


アイナとレイシャは若干涙を浮かべながらゆっくりと自分たちの手にナイフを押し当てた


二人の手のひらから血が垂れる中、雪奈は二人の頭をやさしくなでる、そしてすぐ後ろにいた明利が能力を発動して二人の傷を治していった


「怖かったでしょ?痛かったでしょ?それが刃物が与える恐怖と痛み、それを忘れないようにね、これから訓練していくうえで絶対に必要なことだから」


何で自分の手を自分で傷つけなければいけないのか理解できないアイナとレイシャは涙目になりながら先程まで自分の手にあった傷の痛みを思い出していた


子供には少々刺激が強すぎる指導だ、小学生にやらせていいものではない


「ミスミヤマ・・・これは何の意味があったんですか?」


「痛かったですけど・・・それはわかりましたけど・・・」


ただ痛いだけだったのではないかと思ってしまっているようで、アイナとレイシャは雪奈に非難の目を向けている


だがこれもしっかりと意味があることだ、二人が雪奈に指導を受けるなら知らなければいけないことである


「二人は今刃物の痛みを知ったよね?これから私が指導をするわけだけど・・・今の痛みと怖さをどこかの誰かに与えるんだってことを意識しててほしいんだ、それだけ危ないものを扱うんだってことをしっかり覚えていてほしいのだよ」


刃物を扱う上で必要な、武器を扱う上で知っておかなければいけない知識、自分が今危険な道具を扱っているのだという自覚が重要なのだ


雪奈が教えてきた全員に指導し、理解させた痛み、これがあるか否かで上達にも大きく違いが出る、それがいい意味か悪い意味かは結果が出てみないとわからないが


刃物が怖いという認識があるからこそ、防御に対して真剣になれる、逆に攻撃の時にはあの痛みを与えるのだという自覚をしっかりと脳裏に焼き付けることができる


罪悪感というわけではないが、何かを傷つけることに対して無頓着ではいけないのだ


道徳の授業にも近いかもしれない独特の内容に、アイナとレイシャは自分の手にあった痛みを思い出すように手のひらを見つめていた


雪奈がなぜ自分たちにあのようなことをさせたのか、その意味を理解したからでもある


「さぁそれじゃあ本番といこうか、静、もう一本ナイフ貸して」


「はいはい・・・もう実践するのか?」


「早い方がいいでしょ、こういうのは口で言うより実際にやらせたほうが早いもん」


静希は雪奈にナイフを一本手渡す、すると雪奈は二人から少し距離をとって腰を軽く落して構える


「さぁおいで、巻き込むといけないから一人ずつね、そのナイフで自由に攻撃してご覧?」


攻撃の見本も何も教えていない状況で唐突に始まった指南に二人は少し戸惑っているようだった


なにせ先ほどの痛みの記憶がまだ手のひらに宿っている、あれを雪奈に与えてしまったら、そしてあれをもし体で受けてしまったら


二人の体は硬直とまではいかないまでも随分とぎこちなくなってしまい、動きにくそうにしていた


「で、では・・・いきます!」


まずはアイナがナイフを握って思い切り振りかぶる、剣道などで見る上段の振り下ろしの動きに似ている


ナイフの大振り、そんなものを雪奈が当たってくれるはずもなく、軽くナイフの切っ先を受け流し、ナイフをアイナの首筋にそっと添える


「はいこれで一回死亡、一回死亡したら交代にしようか」


まさか一撃で終わってしまうとは思っていなかったようで、アイナは安堵したような、少し悔しいような複雑な表情をしていた


「い、いきます!」


続いてレイシャだ、彼女は身体能力強化という体を使う能力を持っているために、剣術よりは拳を握るような要領で構えていた


タイミングを計り雪奈めがけて突きを繰り出すと、雪奈は先程と同じようにナイフの切っ先を受け流し、腕をからめとった後でナイフをレイシャの首筋に添える


「はい一回死亡、さぁどんどん行くよ」


雪奈の指導の中で必ずあるのが死亡カウントだ、その訓練でどれだけ死んだか、どんな死に方をしたか、先程の傷の痛みを連想させることでさらに緊迫感を植え付ける


そうすることで一回一回死亡するごとに自分のどこがダメだったのか、なぜこうなったのかを学習させるのだ


特に二人の攻撃は隙も大きく、静希でも簡単に対応できるようなものばかり


二人のナイフの使い方の特性を理解したうえでそれぞれにあっている使い方をさせるようで、雪奈は二人にはそれぞれ別の対応をしているようだった


「シズキ、あれ見てると随分危なっかしそうに見えるけど・・・あれでいいのかい?」


「ん・・・まぁあの人は刃物に関しては専門家だから大丈夫だよ・・・一見危なく見えるかもしれないけどな、後はあの二人がどれだけ雪姉の動きを学べるかだな」


雪奈の指導は基本二種類に分かれる、直接見せる指導と、やらせる指導、今回は二つとも実践するつもりだった


目の前でナイフの使い方を見せ、常に実践させる、静希もそうしてきたように比較的上達が早いのがこの方法なのだ


一回死亡するごとにアイナとレイシャのナイフの振りは鋭く、隙も少なくなっていく


まだほとんど素人に毛が生えた程度のものだが、少しずつではあるが確実に上達しているのは事実だ


かつて死亡しまくっていた頃を思い出している静希はしみじみとその光景を眺めていた


あのように死亡していた頃が懐かしいと思っていると、静希の前にアイナとレイシャがやってくる


誤字報告を十件分受けたので二回分(旧ルールで四回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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