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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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厳しい指導

「うぅぅ・・・ごめ・・・ごめんなさいボス・・・」


「うう・・・もう、申し訳ありま・・・せん・・・ボス・・・」


今この場にいないエドに詫びているのだろう、アイナとレイシャは号泣してしまっている、まるで自分が泣かせてしまったようで静希は非常に困ってしまっていた


二人はこれで留学の件がなかったことになると思っているのだろう、これはしっかりとフォローしなければいけない


「大丈夫だよ二人とも、留学の件はこのくらいじゃなかったことにはならないから」


「「・・・え?」」


状況を理解できていないのか、二人は大粒の涙を流しながら静希の方を見る

とりあえずこの泣き顔だけはやめさせないとなと、静希はポケットからハンカチを出して二人の顔を拭いていく


「能力の制御率を見るためには、精神的な負荷をかけた状態にしなきゃいけないんだけど、二人とも優秀すぎて用意してたテストじゃ測れなかったんだ、だから嘘を吐いて俺と戦わせたんだよ」


「嘘・・・?」


「・・・じゃあ・・・留学は・・・?」


たぶん大丈夫と静希が告げると、アイナとレイシャは大きく脱力する、恐らく安堵の割合が大きいのだろう、よかったと何度も繰り返しながら今度は嬉し涙をこぼしていた


「こうしてみているとお前が泣かしたようにしか見えんな」


「・・・実際に泣く原因を与えたのは先生でしょう?性格悪いですよ?」


何のことやらと城島はすまし顔を浮かべているが、今回のことを進言したのは予想通り城島だ


静希達の関係をほぼ正確に把握しているからこそ提案できたのだ、教師の中で静希達の状況を把握しているのは城島しかいないのだから彼女を疑うのは必然だ


「で?いたいけな少女を泣かしたんですよ?それなりの結果は出たんですか?」


「ん・・・ただ見せた時の能力発動より早く発動しているのが確認できた、レイシャの場合その分効果時間が短いようだったが、十分及第点だろう」


あくまで私見だがなと告げると、二人は涙をぬぐいながらもハイタッチしている


心理的な圧迫を受けてなお彼女たちは十分能力を制御できていた、その見解は城島だけではなく他の教師も同じだったようで比較的高評価を受けているようだった


これならば留学の件は問題なさそうだなと思う反面、静希は一つ気になったことがあった


「ちなみに、戦略面ではどう思いました?随分しっかりと役割分担してるみたいでしたけど」


「あぁ、それに関してはほんの少しだが私から助言をしておいたからな、お前は機動戦に弱いと」


その言葉に静希はようやく納得する、道理で妙にレイシャの能力発動に固執していた訳だと


確かにレイシャの身体能力強化は十分静希に通用する能力だ、機動力でかき回し、死角からの一撃を受ければ静希を行動不能にすることもできただろう

無論それを静希が許すはずはないが


「相手がお前だからこそ取れる手もあった、目くらましとタックルはいい対処だったと思うぞ、実戦では通用しないがな」


練習試合だったからこそ役に立つ行動というのは存在する、今回のアイナの目くらましとタックルがそうだ、実戦では使い物にはならないが、条件付きの戦いだからこそ使える手というのはあるのだ


例外的というか、ルールの外側を利用した良い手段と言えるだろう、エドが将来を楽しみにしているのも頷ける


「・・・ミスターイガラシからしたら私たちの行動はどうでしたか?」


「なかなか追いつめていたように思えますが、どうでしたでしょうか?」


結果的には静希の勝利だったが、確かに武器破壊までされるとは思っていなかっただけに静希はあの時少しだけ焦っていたのだ


レイシャと肉弾戦になった時、左腕でいつまでも防御できたかは怪しいものである、だからこそアイナを人質兼盾代わりにしたのだ、まさかあそこで戦いが止まってしまうとは思っていなかったが


「まぁ二人とも良くも悪くも正直だったな、俺が最初逃げ回ってもいいかって聞いた後、まったく警戒しなくなっただろ」


「う・・・」


「それは・・・」


静希の言う通り、城島に先の質問をした後アイナとレイシャは静希が自分たちから逃げ回ってくれるのではないかと勝手に勘違いした


そして静希はその逆をついて一気に接近し二人の混乱を誘った、意図的に作り出した状況とはいえここまで簡単に決まるのも問題である


「一時的にとはいえ敵対するんなら一挙一動を警戒しなきゃだめだ、事前に言うセリフなんて全部ブラフか混乱させるための罠くらいに思わなきゃだめだ」


「で、ですがミスターはもう少し手加減してくれてもいいと思います」


「そうです・・・腕とか結構痛かったです」


実際に静希の竹刀を受け続けていたレイシャとしてはもう少し手心を加えてほしかったのだろう、不満そうにしているものの一応痣などはできていない、いくら静希が本気で竹刀を振っていたとはいえ最低限の加減はしていたのだ、無論気づかれない程度のレベルで


いたいけな少女に傷を負わせたとあっては後でエドやカレンから何を言われるかわかったものではない、将来有望な子供をこんなところで傷物にするわけにはいかないのだ


「おーい、二人とも大丈夫だった?」


「アイナちゃんレイシャちゃん、怪我はない?」


離れたところから見ていた明利と雪奈がやってくると、アイナとレイシャは二人に勢い良く抱き着く


「痛いですミスミキハラ、ミスターイガラシにコテンパンにされました」


「私なんて踏みつけられました、とても痛かったです」


完全にウソ泣きだが、二人はいかにも自分たちが被害者であるという演技をしている


明利も雪奈もそのことに気付いているようだが、あえて気づかぬふりをして二人をいたわっていた


「おうおう可哀想に、お姉さんが癒してあげよう・・・まったく静、子供なんだから手加減位してあげなよ」


「そうだよ静希君、二人ともまだ子供なんだから」


「手加減ができるような状況じゃなかったのは二人とも分かってるだろ?・・・まぁ悪かったよ・・・」


明利と雪奈を味方に引き入れられては静希としては逆らうことなどできない、これはアイナとレイシャの作戦勝ちだなと苦笑する中、城島が教師陣たちとの話し合いを終えこちらにやってくる


「とりあえず能力面でのテストはこれで終わりだ、後は教師と保護者の話し合いで終わる、お前達は好きにしていろ」


「了解です・・・お疲れ様だ、よく頑張ったな」


静希はとりあえず二人の頭を撫でてやることにする、今日一日アイナとレイシャは本当によく頑張ったのだ、慣れないことをした上に、戦闘まですることになったのだから


「まだまだお粗末ではあるけど、エドに胸張って報告しておけ、俺と戦って時間切れにまで持ち込んだんだ」


「はい!行ってきます!」


「了解です!」


アイナとレイシャは自分の成果を報告するべく、エドたちのいる校舎へと走って行った


自分と時間切れになるまで戦えた、多少言葉足らずではあるが事実には違いない


エドが聞いたら驚くかもしれないなと思いながら静希達は二人の背中を見守っていた


「あの子たち良い能力を持ってるよね、集団戦の方が得意な能力だ」


「そうだね、いろいろできることもあるし、何より連携の方が得意みたいだし」


二人の能力は良くも悪くも集団戦、あるいは他者と協力することでその真価を発揮するタイプの能力だ


アイナは自分だけではなく、仲間の身を隠すこともできるようになるうえに、武器等も透明化させられるだろう、能力自体は単純だができることの多いいい能力だ


レイシャはまだ準備などに時間がかかるとはいえ他人との連携、そして協力において効力を発揮するだろう、他者の身体能力も強化できるというのは大きな強みだ


まだまだその使い方は未熟ではあるものの、今後その力を伸ばしていけば優秀な能力者になれるのは間違いない


今回は二人ともほぼ素手の状態で戦ったが、もし万全の装備を整えていたらどうなっていたか静希も分からない


「あぁいう能力を見ると専用の装備とか作ってやりたくなるよな・・・特にアイナはそう言うのがあるとかなり強いだろ」


「あー・・・確かにあの能力使われると相当厄介だよね、簡単に透明になれるんだもん」


彼女が透明にできるものは無生物に限られる、その為に衣服で全身を包んでいればほぼ周囲の風景と同化できるのだ


フルフェイスのヘルメットと全身を覆う衣服があれば簡単に完全な迷彩を作れるというのと同義である


「留学が決まったら鏡花ちゃんにお願いしてみようか?」


「なんか鏡花に頼むっていうのもなぁ・・・素材は俺たちで集めておくか、レイシャの方は・・・装備でどうにかなるもんでもないよなぁ・・・」


アイナと違いレイシャは本人の技量次第でどうにでもなる、武器を使うというのも一つの手ではあるがまずは自らの能力の扱い方を学ぶほかない


それから自分に合った武器や道具を選択していくのが一番いいのである


身体能力を強化するタイプの能力は良くも悪くもできることが多い、選択肢が多い分どれを選択すればいいかは本人によって変わるのだ


しかもレイシャの場合他人にもその力を与えられる、選択肢は通常の強化系統の中でもむしろ多い方だと言えるだろう


「明利とかも強化の力が若干入ってるよな?そう言う意味でなんか助言とかできないのか?」


「私のは本当にちょっとしか入ってないよ?筋力の強化はできないもん・・・力を伝搬するときのポイントみたいなのはあるけど・・・本当の強化系統の人と感覚は違うと思うよ?」


明利の能力は同調系統に加えわずかではあるが強化の力も含まれる、自己治癒能力を強化する事での治療を施しているのがそれにあたるのだが、明利の場合アイナのそれとは少々異なるようだった


どの系統がメインになっているかによって能力の性質は大きく異なる、例えば水を操る能力があった時でもその性質は能力によって全く違うことがあるのだ


発現によって水を発生させているのか、それとも水を念動力で操っているのか、水に力を付与しているのか、はたまた別の効果を使っているのか、能力によって特性は大きく変わる


同じ系統の能力でも扱いが異なることも多く、その性質を正しく理解していないとアドバイスをするのは難しいのだ


「明ちゃんは実月さんに結構アドバイスとかもらってたよね?同じ系統だとやっぱり感覚って同じだったりするの?」


明利は陽太の姉である実月に同調などの手ほどきを受けたことがある、その際のアドバイスも今かなり参考にしているのだとか


「私の能力と実月さんの能力は結構似てましたから、それに感覚としては同調系統は似ているところが多いですよ?」


同調系統は自分以外の存在と自らの存在を同期させることにある、鏡花もわずかながらその力を有しているが、実際にそれを認識するのはかなり疲れるというのを聞いたことがある


簡単に言えば脳に直接情報が流れ込むようなものだ、慣れていないと急激な情報の流入に酔ってしまうだろう


同調系統に共通しているのは自分以外の存在と文字通り同調することにある、その為同調系統の能力は似通っている点が多く、助言がしやすいのが特徴でもある


逆に共通点が少ないのが強化系統だ、どのような形で強化しているのか、そして強化するときの感覚などもすべて能力によって異なると言ってもいい


例えば単純に身体能力を強化していると言っても様々な強化の方法がある


純粋に筋力そのものを高めるものもあれば、別の力を使って力などを強くしているものもあるのだ


レイシャの能力はどちらかといえば後者に、明利の能力が有する強化は前者に分類されるだろう


雪奈の能力にも意味合い的には強化の力が含まれているのだろうが、彼女自身はその能力をコントロールできないのだ、なにせ刃物の性能によって強化の度合いなども変質するため、そもそも操作するというものですらない


陽太の能力も身体能力が高まっているように見えているが、実際には違うという事が最近判明している、メフィ達人外に言わせると存在を昇華させているのだとか


石動の能力も血液の量に応じた強化が発生するが、こちらも強化のコントロールができているとは言い難い


こうして考えてみると純粋な強化系統は静希達の周りにはいないのである


「エドモンドさんは確か光学系だったよね?投影だったっけ?」


「そう、だからアイナにもある程度アドバイスができるだろうけど・・・レイシャの方は大変だろうなぁ」


「レイシャちゃんみたいな能力者って結構珍しいよね、他人にも強化ができるっていうのは特に」


明利の言う通り、強化系統のほとんどは自身の身体能力などの強化がほとんどなのだ、他人も強化できる能力というのは案外珍しいのである


重宝されるし、できることも多いがその分学ぶことも多い


期待される分これからが大変だろうと静希達は少しだけ心配していた


「ところで静、今回の戦いってどれくらい本気で戦ってた?」


「・・・結構本気だったぞ?特にレイシャの能力を発動させたら厳しいのわかってたからな、とにかく能力を発動させないように気を付けてた」


静希は基本的に強化系統が苦手である、城島の指摘通り多方向からの連続攻撃、ないし高速機動による攻撃が苦手なのだ


その為にとにかくレイシャの動きを封じるべく動いていた、アイナが大きめの布を使って身を隠すのを見ていたために彼女の布を奪い、レイシャに攻撃を与えれば問題はないと思っていた


だがやはりそのあたりはエドの指導を受けているからか、準備はぬかりなく進めていたようで予備の布も持ち合わせていたために一度完全に見失う結果となってしまった


「いくら試験っていっても、子供相手なんだからもうちょっと手加減とかしてあげないとダメだよ、レイシャちゃんばっかり攻撃してたし」


「それは仕方がないだろ、能力的にレイシャの方が危なかったんだし・・・まぁ実戦ではアイナの方を先に潰すべきなんだろうけど」


身体能力強化と透明化の場合、厄介なのはむしろ後者である、静希は今回相手の能力を最初から把握していたからこそ対処できたが、まったく情報を知らない場合透明になる敵というのは厄介極まりない


今回アイナは武器の類を持っていなかったが、あれでもし静希を拘束できるような武器や道具を持っていた場合優先順位を変えなければならなかっただろう


こちらからは見えないのに向こうからはこちらを確認できているような状況になったら最悪だ、攻撃され放題もいいところである


そう言う意味では彼女には銃などでの攻撃を指導するべきだろう、見えないところからの射撃というのは脅威だ、その姿が見えないだけでかなり相手に圧迫感を与えることもできるし、隠密行動においては優位に進めることができる


熊田と一緒に行動させたらかなり隠密性が高くなるだろう


「ちなみに雪姉だったらどうやって戦った?」


「そうだなぁ・・・私ならとりあえずアイナちゃんを抱き上げるかな、その後にレイシャちゃんに突貫」


「・・・その心は?」


「逃げ惑う姿を追いかけるのがいいんじゃないか」


その回答に静希と明利はついため息をついてしまう、戦闘などのセオリーなどは完全に無視して自分のやりたいことをやっているようにしか思えない


そしてアイナとレイシャを襲うことを前提としているあたり、あの二人と雪奈は近づけない方がいいのではないかと思えてしまう


二人の方が雪奈のことを気に入っているためにそれは叶わないかもしれないが、一応頭の片隅に入れておいた方がよさそうだった









「シズキか・・・二人が世話になったようだな」


静希達がエドたちのいる校舎へと向かうと、そこにはカレンとアイナレイシャの姿があった


どうやらエドは教室の中で教師たちと話し込んでいるようだ


「世話になったっていうか・・・まぁこっちもいい経験ができたよ」


「随分と痛めつけられたと言っていたが、多少の手心くらい加えてやってほしいものだがな」


「お前もそれかよ・・・仕方ないだろ、露骨に手加減なんかしたら怒られるのこっちなんだから」


カレンはそう言いつつも静希の事情は大まかに察しているのか、それは大変だなと薄く笑みを浮かべている


試験である以上手を抜いたらアイナとレイシャが不利になるという事は静希にも十分わかっていた、だからこそ怪我をさせない以外の手は抜けなかったのである


ついでに言えば城島に教育指導されたくないというのもあるのだが、それはまたおいておくことにしよう


「ミスターイガラシは意地悪です、子供相手に本気を出していました」


「ミスターイガラシは大人気ないです、いたいけな子供にあんなひどいことを」


あの戦いが随分と根に持たれているようで二人は頬を膨らませて抗議している、確かに多少大人気なかったかもしれないがあれも必要なことだったというのはこの二人にはまだ理解できないのかもしれない


普段の訓練とは違う、どちらかというなら実戦に近い互いのやり取りをして二人としても得るものは多かっただろうが、そのことを認識できるようになるまであとどれくらいかかるだろうか


「二人とも、シズキを責めるのはやめろ・・・シズキはお前達のことを思って全力で戦ってくれたんだぞ、優しくするだけが指導ではないという事だ」


「・・・ですが・・・」


「・・・むぅ・・・」


二人としてもカレンの言っていることが正しいという事はわかるのだろう、だがそれでも納得がいっていないという表情をしていた


子供というのは難しいなと思いながら静希はどうしたものかと困った顔をしてしまう


「私やエドでは良くも悪くもお前達に甘くなってしまうからな、そう言う意味ではシズキは正しくお前達に指導できる・・・無論厳しいだろうがな」


エドやカレンは確かにアイナとレイシャに甘いように思える、普段一緒にいるということで多少情が湧いているのだろう、しっかりと訓練することはできても厳しく訓練することは苦手なようだった


「どうだろうシズキ、この子たちが留学している間、二人を鍛えてやってくれないか?」


「俺が?鍛えると言ってもできる事なんてたかが知れてるぞ」


思わぬカレンの申し出に静希は若干難色を示していた、なにせ静希の言う通り教えられることなどたかが知れているのだ


能力的なことではなく、どちらかといえば本人の技量的なものが多いためそれらが本当に必要になるかはわからないのである


静希の場合自分に必要だと思われる技能を取得してきたが、それがこの二人にも必要かどうかはわからない、教えたことが完全に無駄になるかもしれないのだ


「それで構わない、大事なのは甘さだけではなく厳しさを知ることだ、そしてそれが自らの糧になるという事を理解できればいい、今回の留学はいい機会だからな」


「・・・まぁ俺が教えられるような事であれば教えるけど・・・」


静希が教えられることと言えば隠密行動と剣術と射撃だろうか、隠密行動はさておき剣術は雪奈の方が得意だし射撃も明利の方が得意だ、自分が教えるような事だろうかと首をかしげてしまう


個人的に二人に教えてやりたいことはいくつかある、実戦に使えるテクニックもあるが、それをこの二人が活用できるかは疑問である


「ほほう・・・ならば私達もいろいろ教えてあげようじゃないか」


「ミスミヤマがですか?それは嬉しいです!」


「いろいろ優しく教えてください!」


優しくという言葉を強調するあたり、厳しいのは嫌なのだろうか、アイナとレイシャは雪奈の方に飛びつくように抱き着いていた


この中で一番のスパルタが雪奈だという事も知らずにのんきなものである


「シズキ・・・ミヤマの実力はいかほどだ?」


「少なくとも前衛としての力は確かだよ、特に剣術は凄い、俺も教えてもらってるんだ」


「ほう・・・それは頼りになる」


雪奈の剣術は通常のそれとは異なり相手を殺すことに秀でた剣だ、速さもそうだがその鋭さは他の追随を許さないほどである


静希は最近になってようやく雪奈の本気の攻撃を確実に防御できるようになってきてはいるが、それを連続で、移動しながらの攻撃だと若干運の要素が関わってくる


こればかりは才能の問題なのだろう、静希が一年以上受けている指導でもこれが限界なのである


「私の家にはそれなりに武器もあるからね、二人にぴったりの武器を見繕ってあげよう」


「本当ですか?嬉しいです!」


「本当ですか?ありがとうございます!」


二人はもともと雪奈に懐いてはいたが、実際に訓練が始まった時にこの反応がどうなるかはわからない


特に指導中の雪奈はかなり厳しい、そのことを二人が気付くのは一体いつになるだろうか










「いやぁ・・・ようやく終わったよ・・・長かったぁ」


その日の夜、エドはようやくすべての項目が終わったことで肩の荷を下ろしていた


これまで準備してきたことが今日でひと段落したのだ、未だ結果が出てないという事もあり達成感とまでは言えないものの、奇妙な充実感を得ているようだった


「お疲れさん、後は結果次第か」


「そうだね・・・あの子たちも頑張ったしそれほど悪い結果にはならないだろうけど・・・」


「まるで娘の受験結果を待つ親の気分だな」


静希が笑いながらそう言うとエドは茶化さないでくれよと笑って返す


エドにとってアイナとレイシャは弟子であり社員であり娘のようなものなのだ、手塩にかけて育てているからこそ気分は親のようなものなのである


「そうだシズキ、随分と二人に厳しく指導したそうじゃないか、二人がコテンパンにされたと言っていたよ」


「あー・・・なんか根に持たれてるな・・・まぁあれだ、試験って形をとる以上仕方無くてな、そのあたりは許せ」


「いやいや責めているわけじゃないんだ、あの子たちに厳しく何かを教えることができるっていうのは、今までヴァルしかいなかったからね、そう言う意味ではありがたいよ」


カレンが言っていたようにどうやらエドたちは基本アイナとレイシャに甘いようだ


無論しっかりと教えるべきことは教え、叱るべきところは叱っているのだろうが、それでもどうしても甘くなるらしい


そう言う意味ではエドの契約している悪魔ヴァラファールは二人に厳しく接しているようだった


それにしてはアイナとレイシャに懐かれている、恐らくは厳しくも優しいおじいちゃん的ポジションなのだろう


血のつながりのない数人がまるで家族のようなポジションにいるというのもなかなか奇妙な構図だ、エド達としてはその関係が心地いいのだろう


「カレンからも言われたかもしれないけど、もし留学することになったらあの子たちにいろいろと指導してくれると助かるよ、僕たちじゃ教えられないこともあるからね」


「お前もか・・・今回のことであの二人にちょっと苦手意識もたれたかもだからちょっと難しいかもな」


静希はしっかりと全力で二人と対峙した、だがその事実がアイナとレイシャからしたら大人気なく見えたかもしれない


子供相手にむきになって勝ちに行く姿、正直客観的に見ればあまり褒められるものではない


理由があるのも理解できるし納得できる話だったかもしれないが、それにしてもあまりにも大人気なさすぎる姿だったのである


「ハハハ、大丈夫だよシズキ、あの子たちだってバカじゃない、君が何故そうしなきゃいけなかったかくらいは理解してるさ、その上でちょっとした仕返しをしてるつもりなんだよ」


「そうか?明らかに嫌われた感じなんだが・・・」


「そうでもないさ、むしろ自分たち相手に本気を出してくれたって少し感謝してるかもしれないよ?」


静希は近くで雪奈と戯れているアイナとレイシャの方に視線を向ける、シズキの視線に気づくことなく二人はたわむれ続けている、本当に嫌われていないのだろうかと静希は若干不安になっていた


理由はどうあれ一か月近く一緒に住むかもしれないのだ、明利や雪奈がいるとはいえ嫌いな相手の所にいるのはストレスになるのではないかと思えてならない


「ふふ・・・女の子が結構近くにいるシズキでも女心を理解するまでには至らないってことかな」


「女心じゃなくて子供心って言ったほうが正しくないか?小学生相手に女も何もないだろ」


「ハッハッハ、その考えは間違っているよ、女の子というのは年齢問わず女の子なのさ、子供である以上に女性としての心も持ち合わせているんだよ」


自分よりも年上で、なおかつあの二人を育てているエドがこういうのだきっと何か実体験から学んだものなのだろうが静希からすると首をかしげてしまう


東雲姉妹と訓練したりしている時もそうだが、子供が遊んでほしいという感情以外のものは感じないのだ


慕ってくれていることはわかる、それが淡い恋心に発展しかけているというのも理解できる


だがどうにも子供特有の恋に恋するという恋愛ごっこの類にしか思えないのだ


「シズキの身近には小さな女の子はいないのかい?そういう子にいろいろ聞いてみるといいよ」


小さな女の子


その言葉に静希は真っ先に明利の姿が思い浮かび、台所にいる明利の方に視線を向けるがエドの言っている小さい子というのは身長的な意味ではなく年齢的な意味での話だろう


身近にいる小さな子供というと東雲姉妹が浮かぶが、彼女たちに女心の何たるかを聞くとまず間違いなく石動にも話が通る


石動に話が通ると妙にこじれる可能性がある、東雲姉妹以外に誰かいないものかと考えていると、先日勝手に日本までやってきたセラが思い浮かぶ


彼女は普通の女性とは明らかに違う、というか彼女は年齢の割に精神が幼い


今までしっかりと指導されてこなかったというのもあるのだろうが、妙に子供っぽいところがある、そう言う意味では東雲姉妹より幼く見えるほどだ


身体的特徴で言えば一番大人に見えるのにもかかわらず一番子供っぽいというのも考え物である


誤字報告を15件分受けたので2.5回分(旧ルールで五回分)投稿


現在総合評価ポイントが10,000を越えました、このお祝いは誤字がスッキリしたらやろうと思います、本当にありがたい限りです


これからも拙い話と文章ではありますが、お楽しみいただければ幸いです

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