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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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学校案内

「ここが初等部、小学生たちが通う校舎だ、こっちが上級生、あっちが下級生の校舎だから、二人は多分こっちに通うことになると思う」


アイナとレイシャの実際の年齢までは把握していないが少なくとも学力的には上級生側に通うことになるだろうと予想して静希達はその辺りの紹介をすることにしていた


アイナとレイシャも興味を引かれているのか窓から外を眺めたり教室の中を見ようとしていたりと落ち着きがない


自分たちと近い年齢の子供たちが授業を受けているという事実を確認しようとしているのだろう、窓の向こうに見える授業風景を眺めながら何やら観察している


「なるほど・・・こっちは給食だって言ってたけど、具体的にはどんなものを用意するんだい?」


「日によるな、ただ金曜日は麺類だった気がする・・・給食塔に行けばわかるかな」


給食塔、それは静希達学生がそう呼んでいるだけで実際はそう言う正式名称ではない


給食センターから食材を乗せた配膳台などがエレベーターで上がってくるために、まるで塔のようだという事で給食塔と名付けられたのだ


エレベーターの近くにはその月の献立などの紙が張り出されており、一ヶ月の献立全てを知ることができる


「こういうのって大概どこの学校でも同じなのね、うちもこんな感じだったわ」


「やっぱ姉妹校だから鳴哀とは似てるんだな、たぶん他の学校も同じ感じだろ」


喜吉、士怒、鳴哀、楽導の四つの専門学校は設立もほぼ同時期の姉妹校だ、設計コンセプトも敷地面積もほぼ同じであるために構造的に似通っているところが多い


どうやら鏡花の通っていた鳴哀学園も同じような構造や仕組みをしていたようだった


「あったあった・・・えっと、今日の献立は・・・ご飯に味噌汁、豚肉の竜田揚げ野菜の生姜醤油炒めに牛乳、カロリーは大体六百くらい」


「ふむふむ・・・カレン、栄養価としてはどんなものかな?」


「子供が摂取するには十分な量だと思う、シズキ、他の日も読み上げてくれるか?」


カレンの要望通り適当な日を読み上げると、カレンはそれらをすべてメモしていた、どれほどの栄養価になっているのかを後々調べるつもりなのだろう


「給食懐かしいな、たまにだけどさ給食のソフト麺が食いたくなるよ」


「なんとなくわかるわ、力うどんとかミートソースとか」


「中学上がってからは弁当だったからね・・・美味しかったことは覚えてるよ」


「私はラーメンとかも好きだったなぁ・・・あとはなんだっけ・・・ちょっと甘いパンがあった気がする」


それぞれが給食の思い出に浸る中、静希は献立を読み上げ続ける


食べ物の話ばかりしていたせいか妙に食指が刺激されるのは気のせいではないだろう


「こんなもんでいいか?」


「あぁ、ありがとう、一つ気になるとすればなぜこんなに毎日牛乳を飲むのかということくらいか」


カレンの疑問に対して静希は苦笑する事しかできなかった、なにせ静希もなぜ給食では毎日のように牛乳を飲むことになるのか理解はしていないのだ


体にいいことはなんとなくわかるが、何も毎日飲む必要はないのではないかと思えてしまう


体を作る時期にカルシウムをとるのは必要だというのはわかる、だが小学生の頃だけで一生分の牛乳を飲まされるのではないかというレベルで用意されるのだ


静希は別に牛乳は嫌いではなかったためにそこまで苦痛ではなかったが、牛乳が苦手な子供にはなかなか辛い日々だっただろう


「給食に関してはオッケーだ、後は運動をするところとかかな」


「それなら演習場だな、一通り校舎を案内したら今度はそっちに行くか」


喜吉学園の演習場はかなりの数が存在する、と言っても足場が違うだけなのだが初等部などの小さな子供たちが使う演習場は芝生などを用いており、転んでも怪我をしにくい場所を使うことが多い


逆に実戦に近づく中学や高校になってくると、そう言う足場などの状況も利用できるように危険な岩場なども使うようになるのだ


思えば最近芝生の地面で演習なんてやっていないなと静希は思い返す


「ミスターイガラシ、ここの生徒たちはどんなことを勉強しているのですか?」


「どんなこと・・・まぁ普通に勉強だけど・・・国語とか算数とか・・・あぁそう言えば日本特有の科目もあるもんな」


日本の教育に不可欠なものとして国語などが挙げられるが、アイナやレイシャは会話程度ならば日本語に苦労はしないが読み書きとなるとまだ不慣れなところが多い


それに加えて社会などでは歴史なども多少扱うことがある、日本文化に慣れていない彼女たちにはなかなかの障害になる可能性がある


「ちなみに二人は日本語ってどのくらい読み書きできる?」


「私はひらがなであれば」


「私も同じくらいです」


ひらがななら読み書きできる、となると漢字はまだ覚えられていないことになる、教科書などは基本漢字なども扱っているために読むのは難しいかもしれない


あらかじめ振り仮名を振っておいた方がよさそうだ


「どうするエド、あらかじめ教科書借りて読み仮名振っておくか?」


「ん・・・まぁ今回は学校がどんなところかを知るための留学だからね、勉強がメインの項目じゃないし・・・でも勉強内容も分かったほうがいいのかな・・・?」


エドの目的はあくまでアイナとレイシャを学校に通わせたいというものだ、そのきっかけ作りがこの留学なのであって勉強に熱を入れさせるためとかそう言う理由ではない


勉強が大事だという事も理解しているだけに悩みどころだが、そのあたりはまたあとで城島と相談したほうがいいだろう






「ここが主に小学生たちが使う演習場だ、こっちが芝、あっちが柔らかい土、向こうが砂地だ」


次に静希達は主な運動をする場所、演習場にやってきていた


主に転んでも怪我をしないという条件で作られた演習場ではあるが、その状況から時折中学生や高校生も使うことがある



特に砂地に関しては足を取られるという状況を想定するためにこの三つの中では最も使用されることが多いのだとか



「へぇ・・・細かい石とかもないんだね」


近くの地面を触って確認するが、その中には小さな石ひとつない、この辺りは能力者が定期的にメンテナンスをしているのだ、この程度の環境維持は何の苦労もないのである


「こういう場所ではどういう訓練をするんだい?」


「どうだったかな・・・前に昔の教科書を引っ張り出してみたんだけど・・・ちょっとした組手くらいだった気がする」


そう言って静希は陽太に素手で向かってくるように合図する


その意味を察したのか、陽太は腰を落として思い切り静希めがけて殴りかかった


能力を使っていないのであれば陽太の拳も静希程度の実力でも十分に見切ることはできる、自分の顔めがけて襲い掛かってきた拳を軽く受け流し、腕を掴んで思い切り捻りあげる


対人格闘の基礎ともなる受け流しと、そこから派生した拘束、静希達が小さいころから教わってきた技術の一つである


「大体こんな感じだ、小さい頃は全然うまくできないから結構勢い余って転んだりするけど、こういう地面だからほとんど怪我はしないな、たまに口の中に入るくらいか」


「あとはやりすぎて体の筋痛めるとかな、昔よくやったよ」


懐かしいなと静希と陽太は笑っているが、その度に明利に心配をかけていたので幼馴染としてはあまりいい記憶ではないのか、明利は複雑な表情をしていた


「なるほど、組手かぁ・・・能力の発動とかもこの辺りでやるのかい?」


「あー・・・その日によるな、演習場のスケジュールとかもあるし、能力によって場所の優劣とかもあるから毎回違う、能力発動だけならいろんな場所でやるぞ」


基本的に能力はあらゆる場所でも適応できるようにする方が良いために、幼少時からあらゆる場所での能力発動が好ましい、特定の場所でしか発動できないような能力は使い勝手が悪くなるため、多くの場所で能力を使えるようにするのだ


無論能力の特性などを無理に捻じ曲げると逆に弱くなることがあるためにある程度でしかないが、能力を発動させやすくする程度の効果はある、何事も子供のころからやっていけば苦手意識も薄れるという事である


「ちなみにアイナとレイシャの能力は?教えたくないならそれでもいいけど」


静希の質問にアイナとレイシャは顔を見合わせた後手を前にかざす


「私の能力は発現です、見たものか触れたものであれば透明にすることができます、ただ生物には使えません、光学迷彩みたいな感じです」


アイナの能力、恐らくは発現系統の光の操作に属しているのだろう、ハンカチを手に取って能力を発動すると確かにハンカチが消えてしまった、光学迷彩という事はもっと大きなもので使えば姿も消せるという事だろう


どうやら物質を透明になるように見せることができるようだった、だが実際に消えているわけではないために目の錯覚を利用しているのだろう


応用の利きそうないい能力だ、中衛としてのサポートもできるだろう


「私の能力は強化です、まだ時間に限りがありますが、早く動いたり耐久力をあげたりすることができます、私自身の方が能力は効きやすいですが近くの人であれば多少強化もできます」


レイシャの能力は強化系統、時間や対象にも制限があるものの生き物であれば強化を施すことができるらしい、こちらも十分にいい能力だ、サポートもできるし前衛として前にも出れる


レイシャが明利の手を取り能力を発動する、最初明利は何が起こっているのかわからなかったようだが、思い切りジャンプするように指示されると一メートル程垂直に跳躍して見せた


本来の明利の跳躍ではありえない高さだ、他人の強化は自身にかけるそれよりも効果が薄まるようだが、これだけ強化ができるなら十分役立つ、これは二人ともなかなかいい能力を持っている


エドが将来有望というのも納得の能力だった


「応用も利きそうだし普通に強そうだな、いい能力じゃないか」


「あ、ありがとうございます」


「ま、まだまだ未熟です」


アイナとレイシャは手放しでほめられてうれしいのか、若干照れていたが十分に強い能力だ


恐らく子供という事もあってまだ出力はそれほど高くはないだろうが、それもこれからの訓練で成長する可能性は高い


能力は個人の訓練の度合いとその性能にもよるが、おおよそ中学の半ばから高校の一年くらいには円熟期を迎えるのがほとんどだ


陽太のように少々特殊な能力であった場合その限りではないが、一般的な能力は中学生の上級生の頃には、操作や出力の面では一人前の能力者と同じくらいに扱えるようになる


と言ってもそれはあくまで訓練での話だ、基本的に中学までは実戦などは全く経験しないため、安全管理のされた平静を保てる状況においてのみ問題なく能力を使えるというものでしかない


かつて静希が戦ったことのある能力者や鏡花たち自身も当てはまるが、強烈な痛みや精神的に不安定になると能力の出力や動作は著しく低下する傾向にある


痛みに対して耐性を付けることができないわけではない、強い痛みを覚えている状態でも集中を維持できるようになるにはそれ相応に訓練が必要だ


教育上生徒に意図的に痛みを与えるわけにもいかないために、こういった訓練ができないのはなかなか難しいところである


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