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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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高密度な我が家

「お・・・・おぉ?これは何だい?仮装パーティかい?」


エドたちがやってくると部屋の中にいる様々な格好をした面々に驚いているようだった


一気に人口密度が高くなったなと静希は眉間にしわを寄せながらこれからどうしようかと悩んでしまう


静希、明利、陽太、鏡花、雪奈、セラ、エド、アイナ、レイシャ、カレン、リット


この場所だけで十一人もいるのだ、さすがに人が多すぎる


そしてエドにもコスプレを見られたことで鏡花は許容限界を超えたのか、別室に逃げ出して即行で着替えを始めてしまっていた


「ん?見たことない子がいるけど・・・シズキ、この子は?」


「あぁ、そいつはセラ、イギリスのお姫様だ」


へぇそうなんだとエドは最初こそセラの顔を見て特に気にした様子もなさそうだったのだが、静希の言葉を何度か頭の中で反芻したときに疑問が生じたのか、首を傾げる


「え?お姫様?」


「あぁ、確か第三王子の娘だったかな・・・諸事情でちょっとうちで預かってるんだよ」


エドはもともとイギリスの人間だ、自分の国の姫様に遭遇するなんてことはほとんどというか一度もなかっただろう


日本で言えば皇太子に遭遇するようなものだ、びっくりするのも仕方のないことである


「え、えっとシズキ、確認しておくけどまさか誘拐したとかそう言う話じゃないよね?違うよね?」


「安心しろ、そう言うきな臭い話じゃない、こいつが家出してうちに来たってだけの話だ、ていうかこいつを誘拐するメリットが俺にはないぞ」


一国の姫を誘拐するなどという無茶を静希がするとも思えなかったが、必要に駆られれば何でもやるのが静希の信条である、それを理解しているエドとしては心配だったのだろう


一応は誘拐などの問題は起こしていないのだと理解し、エドは安心したのか小さく安堵の息を吐く


「でも、それはそれとして何でこんなにみんな仮装してるんだい?随分と凝った衣装だけど・・・」


「あぁそれはこいつがお土産が欲しいって言ってコスプレ用の衣装をみんなで買ったんだよ、これも楽しみの一環だって言ってな」


静希がそう話していると、明利がそれぞれの荷物を端に避け、エドたちに飲み物を用意していた


着ている服がメイドという事もあり、その佇まいはまさにメイドそのものである


「それでエド、カレン、セラの前ではあいつらは出すなよ?お前らのことは話してないんだ」


「わかった、ただの知り合いみたいな感じにすればいいんだね?」


「だがあまり長い期間は難しいぞ、いつまで預かる予定なんだ?」


「三日間の約束だ、明後日には迎えが来る予定」


悪魔の契約者同士で内緒話をしていると、唐突にやってきたこの人物は誰だろうかとセラは小首をかしげていた


静希の知り合いだというのはわかるのだが、学生であり同級生である明利達と違い大人と子供の入り混じるこの光景は共通性がわかりにくかったのか眉をひそめている


「ミヤマ、あの人たちはイガラシの知り合い?」


「え?あー・・・なんて説明すればいいかな・・・」


唐突に説明を求められた雪奈としてもどう答えたものか迷ってしまう、バカ正直に悪魔の契約者仲間だよというわけにもいかない、ここは多少嘘を吐いた方がいいのだろうがどう伝えるべきか迷ってしまっていた


「あの人たちは静希君のお父さんのお仕事の関係で知り合った人たちなの、丁度娘さんが私たちの学校に留学するかもしれないからその下見に来たらしいよ」


明利のさりげないほとんど事実を使った説明にセラは納得した様だった、アイナとレイシャはエドの娘というわけではないのだが、ここではそう言う嘘も必要だろう


そして明利はアイナとレイシャの方に視線を向けた時に気付いてしまう、彼女たちの身長が以前よりも若干高くなっていることに


「とりあえず、エドさん達が来たなら私たちはお暇するわね、この人口密度はさすがにきついでしょ」


どうやら着替え終わったのか、鏡花は若干耳を赤くしたまま奥の部屋から出てくる、まだコスプレ姿を見られたのが応えているようだった


「えー・・・どうせだからまだいようぜ、せっかくコスプレしたのに」


「さっさと帰るの!あんたもとっとと着替えなさい!」


どうやら相当恥ずかしかったようで陽太を即座に着替えさせその場から去って行った


「静希、とりあえず明日どうするかはメールで教えて!それじゃあね!」


「また明日なー」


鏡花に引きずられる形で陽太はそのまま引き連れられてしまう


一見すれば陽太が尻に敷かれているように見えるが、実際は鏡花が陽太に良い形で振り回されているのかもしれない


陽太が特にそうしようと思っているわけではなく、ただ単純に陽太の素直な行動に鏡花が狼狽しているだけなのだ


なんと言うか、案外あの二人は相性がいいのだなと静希は思ってしまう


「アハハ、僕たちはお邪魔だったかな?」


「邪魔っていうか・・・まぁあぁいう恰好を見られたのが恥ずかしかったんだろ、そのあたりは察してやってくれ」


静希達のように互いに信頼している中ならばともかく、エドやカレンのような静希経由でしか事情を知らない赤の他人に等しい人たちに露出度の高い恰好を見られるというのは鏡花としては許容しがたかったのだろう


妙なところで生娘らしさが残っているあたり鏡花らしいというべきだろうか


「それにしても・・・まさか僕たち以外にお客さんがいたとはね・・・」


「あぁ・・・まぁと言っても一人だけなんだけどな・・・」


セラのいる方を見てみると、どうやら歳も近いという事でアイナとレイシャと何やら話しているようなのだが、その近くで明利が項垂れているのがわかる


どうやらアイナとレイシャが自分よりも身長が高くなったことに気付いてしまったようだ


顔面蒼白、そして絶望しきった状態で項垂れているその様子に雪奈はどうしたものかと困ってしまっていた


こればかりは仕方がない、子供の成長とは早いものだ、明利があっという間に置いて行かれるのも仕方のないことである


「とはいえこの人数はちょっとあれだね・・・シズキの家に泊まるのは考え直した方が・・・」


「あ、それなら私の家でアイナちゃんとレイシャちゃんは預かるよ、あと明ちゃんとセラちゃんも」


エドがこの人数では泊まるのは無理だろうかと思っていた矢先、雪奈がそう提案すると静希は眉をひそめる


「雪姉、くれぐれも言っておくけど変なことするなよ?」


「静は私をなんだと思ってるのさ・・・私は静と明ちゃん一筋だよ」


二人いる時点で一筋ではない気がするが、そのあたりは静希も同じことだ、さすがの雪奈も未成年、しかも小学生の幼子たちに邪なことはしないと信じたい


『オルビア、一応お前を雪姉の部屋に置いておくから、万が一の時は頼むぞ』


『かしこまりました、お任せください』


女性であり、なおかつこういう場でしっかりと牽制を行えるオルビアであればあの場を任せても問題ないだろう


これでメフィをあの場に出すとなると多少心配が残る


メフィの場合むしろその動きを助長しそうなのだ、オルビアならばその心配もない、しっかりと雪奈の動きを封じてくれるだろう


「じゃあエドとカレン、リットはうちで、明利とアイナ、レイシャ、セラは雪姉の家で今日は寝るようだな」


「ふひひ・・・美少女に囲まれるというのはなかなかいいものだねぇ・・・」


今日メイド喫茶に行ったことである種ハーレム系の何かに目覚めたのか、雪奈は思い切り邪な目をしている


これは本当にオルビアのストップがかかるかもしれないなと不安になりながらも、静希はとりあえず買ってきたこのを片付けることにした


「・・・お、シズキ!これはもしかして忍者装備かい!?」


「そうだけど・・・お前もそういうのに反応するんだな・・・」


「そりゃそうさ!日本の忍者と言えば有名だからね!」


漫画などの影響もあるだろうが、日本は妙な先入観を持たれていることが多い


以前交流会でも多少その類のことがあったが、明らかに現実の日本とはかけ離れた内容があるのだ


例えば日本の私生活やその職業、本来あるはずの無いものやあってはならないものが日常的に存在するという風に思われることがある


近親相姦が日常茶飯事だとか、忍者や陰陽師の資格や職業があるだとか、明らかに日本の実情とはかけ離れている


「シズキ、君もこれらの道具を使えるのか?」


「・・・まぁ一応使おうと思えば使えるけど・・・」


カレンも一見すれば冷静なように見えるが、その瞳の奥が若干光っているのを静希は見逃さなかった


何故外国人は日本の人間が忍者のような道具を使うとテンションをあげるのだろうか、普段冷静なカレンが目を輝かせるというのは尋常ではない


「ちなみにこういうのは何処で買ったんだい?刃は潰してあるみたいだけど」


「これは秋葉原で買ったんだよ、本物を買いたいなら近くの刃物屋で作ってくれるけど」


秋葉原と本物という単語に、エドは大きく反応した


どうやら強烈に興味を引かれたのだろう、これはいうべきではなかったかもしれないなと思いながら若干後悔しつつ、自分の左腕がセラから見えないように体を動かす


「この仕込みナイフとかも近くの刃物屋で作ってもらったんだ、雪姉とかの刀も大体そこで作ってもらってる」


スキンを一度はずし、左腕の仕込み刃を突出させるとエドとカレンは「おぉぉぉぉ」と声を漏らして感動している様子だった


静希の左腕が義手であるというのは以前から知っていたが、まさかこんなギミックがあるとは思っていなかったのだろう


いかにもそれっぽい武器に、エドは興奮を隠しきれない様子だった


「いやぁ、これ欲しいなぁ!腕からシュッと出す刃!格好いいじゃないか!」


「あのな・・・この場合義手がないと成り立たないんだぞ?あ、でも籠手の奴があるか・・・」


以前雪奈が使っていた籠手型の仕込み刃、静希の腕の仕込み刃と同じ構造をしており、腕を失っていない人間でも籠手を着けることで刃を出せるようになる


ただ籠手部分が大きくなるのと籠手本来の強度が保ちにくくなるという欠点があるようだが


「シズキ、もしよければそのお店を紹介してくれないか?いろいろと品物の発注とかをしたいんだけど」


「え・・・あ・・・ま、まぁそうだな、日本を拠点にするならそう言うのもいいかもな」


これから日本を拠点に活動することになるなら、日本で売り物になる物を探すというのもいいだろう、それが源蔵たちの売り上げに貢献できるというのならなおの事だ


普段世話になっている分こういう形で貢献するのも悪くないかもしれないと、静希はそう思うことにした







土産物の片付けもそこそこに、静希達はとりあえず夕食を食べようとしたのだが、如何せん人数が多すぎるためにその日は外食をすることにした


この人数の食事は事前に用意をしていないと厳しいのだ


近くのファミレスで食事をした後、先の部屋分けで就寝することになる


静希宅の悪魔の契約者+リット、そして雪奈宅の美少女チーム


明らかに雪奈の煩悩が働きそうな構図だが、この場はオルビアにすべてを託すことにした





翌日、別に登校しなくても問題はないのだが、静希達は制服を着て学校に行こうとしていた


その目的は言わずもがな、エドたちに学校を案内するためである


セラは買い物などができないという事で若干不貞腐れていたが、鏡花に電話をかけて話をさせるとすぐに納得した


もはや完全に上下関係ができてしまっているあたり、さすが鏡花と言わざるを得ない、歴戦の問題児である陽太を一年足らずで手懐けた実績は伊達ではないという事だろう


「エド、カレン、悪いんだけどヴァラファールとオロバスを預からせてもらえないか?」


学校へ向かう前に、静希はエドとカレンにそう進言していた、一体なぜという顔を二人はしていたが、とりあえず静希は理由を話すことにする


「学校で動物を飼ってるんだけど、悪魔の気配がするとそいつがびっくりするだろ?前にも驚かせたからさ、今度はそうさせないようにしたいんだ」


「あぁ、そう言えば前にそんなことを言ってたね・・・わかった、それじゃあ頼むよ」


「事情があるなら仕方がない、こちらも異論はない」


まるで悪魔を荷物扱いしている点に関しては三人とも何の違和感もないのか、悪魔を出してすぐに静希のトランプの中へと収納させる


狭くなるかもしれないが、全員メフィと同じスペードのクイーンの中に入ってもらうことにした


時間は登校するには少々遅い時間だ、普通の学生であれば遅刻で大目玉を食らうところだろう


校門の前で陽太と鏡花と合流し、静希達は守衛の人間に生徒手帳と事情を話して職員室へと向かった


「なるほど、それでそいつらに学校案内か」


「はい、丁度いい日本観光ってことで」


朝のHRが終わり城島の授業のない時間を見計らって職員室に訪れ事情を説明すると、彼女はセラからエド、そしてアイナとレイシャ、最後にカレンの方へと視線を向ける


よくもここまで面倒そうな連中を集められたものだと辟易しているようだったが、それはもう今さらというものだろう


それにセラの方はまだしも、アイナとレイシャの方に関してはこれから留学することになるかもしれないのだ、これを機に学校見学をしておいて損はない


城島としても事前準備をしっかりとした状態で留学してほしいと思っているだけに断りにくかった


「・・・わかった、とりあえず許可は出してやる、少し待っていろ、来客用のバッジを持ってくる」


城島は職員室の奥に向かうと、来客用の名札のようなものをいくつか手に持って戻ってきた


正式な客の場合はこういうものを付けるのだろうが、静希達も見たのは初めてだった


「いいんですか?先生の一存でこんなことして」


「お前たちがいるなら問題はないだろう、元より案内はする予定だったんだ、その日程がずれるだけのことだ」


その代わり目を離すなよと城島に強く言い含められ、静希達は全員首を全力で縦に振る


そして城島の視線がアイナとレイシャの方に向き、最後にセラの方に向く


彼女の視線に明らかな怒気が含まれているのを感じ取ったのか、セラは雪奈の背後に隠れてしまった


「先生、一応こいつお姫様なんで、威嚇しない方がいいのでは?」


「勝手なことをした子供を叱るのは大人の務めだ・・・だが今の様子を見る限りもうすでに叱られた後のようだな」


城島が静希と鏡花の方に視線を向けると、静希は鏡花の方に目を向け、鏡花はばつが悪そうに視線を逸らす


どちらがセラを叱ったのかが分かったところで城島は満足そうに息をつく


「班長としてしっかりと仕事をしていて何よりだ・・・清水、こいつらの監督役は任せたぞ」


「・・・はい・・・わかってます・・・」


まじめな性格だと損をする、こういう時に自分の性格が恨めしくなる鏡花だったが、この状況でこんな面倒な人種を制御できる人間が自分だけというのも自覚していた


一年間面倒な人間を束ねてきた経験からか、多少の事ではもはや鏡花は動じない、悪魔の契約者がいようが一国のお姫様がいようがもはや彼女にとってはとるに足らないことである


「それじゃあ適当に案内するか、どっか見たいところとかあるか?そっちを優先的に案内するけど」


「そうだね・・・低学年の子たちのいる場所がいいね、この子たちもきっとそっちに行くだろうから」


「じゃあ初等部に行くか・・・んじゃいくぞ」


自分の気など知らないで悠長に案内の算段を立てている静希達に若干殺意が湧くが、それと同時に自分がしっかりしなければという責任感が鏡花に重くのしかかる


本当にまじめな性格だと損をする、鏡花は何でこいつらの班長なんて引き受けてしまったんだろうかと何度目かもわからない後悔をしていた


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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