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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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本物偽物

「それじゃあ書きますね?ハイできた!」


「おぉぉ・・・女の子に囲まれて食事をするっていうのはなんだか王様気分だなぁ・・・!」


買い物もそこそこに、静希達は宣言通りメイド喫茶に昼食をとりに来ていた

そもそも昼食をとる場所ではないと思ったのだが、セラや雪奈の希望という事でみんなでやってきたのである


そしてこの中で一番満喫しているのは雪奈だ、女の子を数人小脇に携えてご満悦といった様子だった


女としてどうなんだろうかと思ってしまうのだが、人の楽しみ方はそれぞれだ、楽しんでいるならいいのだろう


「これはあれだ・・・帰りにメイド服を買っていこう、これはいい!はまる!」


「ちょっと静希、あんたのお姉さんがはまっちゃいけないものにはまってるわよ、大丈夫なのあれ」


「あぁ・・・まぁ、あの人もいい歳だしさすがにわきまえてるだろ・・・たぶん」


メイドにあこがれる気持ちはわからないでもないが、きっとそれを自分で着るつもりはないだろう


恐らくは明利かオルビアに着せるはずだ、そして優雅に奉仕させる気なのである


雪奈のことだ、少ししたらマンネリ化を防ぐために別の服に手を出すはず、メイドに飽きるのも時間の問題であると信じたい


「鏡花ちゃんはメイドさんの恰好しないの?きっと似合うのに、きっと陽も喜ぶよ?」


「・・・私のメイド姿見たい?」


「・・・鏡花の場合メイドっていうか雇い主側になりそうな気がするぞ、似合うとは思うけど」


陽太の反応に鏡花はそれもそうねとうなずく、確かに鏡花は雇われる側というより雇う側の人間であると思われる


陽太のさりげない似合うと思う発言にほんの少しだけ顔を赤くしていたが、そのあたりは見過ごしてやった方が彼女の為だろう


「これが本物のメイド・・・うちのとは大違いだわ」


秋葉原のメイドというものに感動しているのか、セラは目を輝かせながらその姿を目に焼き付けている


どちらかというとセラが雇っている方が本物なのだが、彼女の認識では違うのだろう、あえて訂正することもないだろうと全員がスルーしていた


「そう言えばセラの家ではメイド雇ってるんだよな?どんな感じなんだ?」


「雇ってるって言ってもあれはお手伝いさんよ?メイドじゃないわ・・・こんなに奉仕してくれないし、掃除とか家事手伝いしかやってくれないわ」


本来のメイドも家事手伝いが主な仕事だと思うのだが、セラの中でメイドの仕事とは一体どういうものなのだろうかと全員が疑問符を浮かべる


実際にメイドを雇っているところなんてまだあるんだなと思ったが、現在の日本にもホームヘルパーなどの職業があるのだ、あれは家事を手伝う仕事なのだからメイドと言えるのかもわからない


「セラちゃんの家にいるお手伝いさんたちは普段どんな格好してるの?メイド服着てないの?」


「着てないわ、なんかもうちょっと作業しやすい服だった気がする・・・こんな風にひらひらしてないもの」


実際に着ている服がどんなものなのかが気になるところだが、やはり秋葉原のメイドはあくまでも外見重視のものが多い


実用性などを度外視し、可愛さなどを求めたメイド服なのだ、本業の方々とは違う服装でも仕方がないというものだろう


実際にメイド服を着ていたのは恐らくもっと昔か、あるいは特殊な職業の人間だけだろう


現代において外見から『メイド』とわかる職業の人間を雇えるかどうかは甚だ疑問である


そう考えるとセラが日本の喫茶店にいるメイドが本物であるという認識をしても仕方がないように思える、なにせ家事手伝いをするような職業の人間はメイド服を着ていないのだから


「ていうかメイドって結構昔からあるよね?今イギリスではメイドさんはいないの?」


「少なくとも見たことないわ・・・向こうにはこういうお店ないし」


店でなくては呼べないというのもまた妙な話ではあるが、そもそもメイドとは家事手伝いをする使用人のことを指したのだ


雇用者は主に中流階級の人間で、十九世紀後半から二十世紀初頭までに全盛期を迎えた女性の使用人のことを大まかにメイドと呼ぶ


イギリスではヴィクトリア朝時代にメイド、つまりは使用人を雇うのが中流階級の一種のステータスとなっていた時期もあり、大量の使用人を擁する家庭も存在したらしいが第一次世界大戦以降女性の社会進出と共にその数は激減した


日本においては女中、あるいは武士の奉公として女性が家事手伝いなどをする風習があるなど、世界各国において女性が家事をするという先入観を持って過ごしていたのだ


もっとも先にも記したように、女性の社会進出が増えることで徐々にその先入観も薄れ、同時に家事手伝いを職業にする女性が少なくなったのである


蛇足ではあるが、日本でも過去使用人税というものを徴収していた時代がある、現在それは無くなっているが、過去、いかに使用人という職業が多く存在したかがよくわかるシステムである


現在は女性が家事手伝いをするという固定観念もだいぶ薄れてきているために、そもそもお手伝いさんともいえる職種も女性だけのものではなくなっている感はある


セラが家事手伝いのヘルパーたちとメイドを別物と考えているのはこういう時代の変化が原因なのかもわからない







「いやぁ・・・なかなか楽しめたね、初めて行ったけど悪くない」


「けど凄い出費だったな・・・たったあれだけの食事で万単位かよ・・・」


六人で食事をしただけで万単位での出費が出るあたり、どれだけ高値に設定しているかがわかる瞬間である


以前テレビなどで紹介していた通りと言えばそのままだが、一種のキャバクラもどきなのではと思えるほどの値段設定だ、ぼったくりと言われても否定はできないだろう


あんな店に何度も何度も入ろうとする人間はよほど金に余裕がある人種なのだろうなと支払いをした静希は若干呆れていた


何が流行るかわかったものではないが、こんなに金のかかる趣味も他にないだろう


「さて、じゃあメイド服を買いに行こうか!明ちゃんのサイズあるかな?」


「明利いいの?あんたメイドさんにされそうになってるけど」


「ん・・・まぁ仕方ないんじゃないかな、もう慣れっこだし・・・そのうち飽きるよ・・・たぶん」


さすがに付き合いの長さゆえか、明利も雪奈がある程度すれば飽きるという事を理解しているようだった


ほんの一ヶ月程度の戯れであるのなら明利も付き合うつもりのようだ、これも一種の楽しみ方、本人が嫌がっていないのなら止める理由はない


「セラは他になんか見たいのあるか?ここはいろいろあるけど・・・」


「そうね・・・なんかこう恰好いいのとかないのかしら?変身とかできそうなの」


随分とマニアックなものを要求してきたセラに全員が陽太に視線を向ける


この中で変身できる人間と言えば陽太くらいのものだ、毎回能力を使うと悪役チックな鬼の姿になるために変身と言えば陽太という印象が強いのである


子供の頃に変身するタイプのヒーローなどはよく見ていたが、現在どのような番組がやっているかは全員知らなかった


「変身ベルトとかならそのあたりのおもちゃ屋で売ってると思うけど・・・本物となるとなぁ・・・」


陽太が自身の頼りない記憶をあさっていると何か思いついたのか、携帯で周囲の地図を映し出す


「確か・・・そうそう、この辺りだ、もうちょっと歩いていったところに武器屋があるぞ」


武器屋という言葉にその場にいた全員が眉をひそめる、海外でもなくこれだけ人が集まるところに武器屋があるとは考えられない


また陽太が変なことを言い出したなと鏡花は呆れてため息をつく


「・・・このご時世に武器屋?ゲームの中じゃないんだから・・・」


「いやいや、模造刀とかそう言うのだけどさ、たくさん武器を扱ってるところがあるんだよ、一度行ってみたかったんだよなぁ」


「お前近所にマジで武器を扱ってる店があるのに今さらそう言うところ行きたがるか普通」


静希や雪奈が使っているナイフなどの刃物関係はすべて大峡刃物店で購入したものだ


昔から付き合いがあったというのもあるが、店主である源蔵の作り出した刃物は定評がある、静希の家にも多数存在し、雪奈の部屋に至ってはもはや刃物の見本市のようになっている始末だ


頼めば比較的安価で刃物を作ってくれるし、自分でデザインした刃物なども作ってくれる


しかも性能がいいのだからありがたい、雪奈の手にしている刃物はほとんどが源蔵の手作りなのだ、一部使いすぎてもう使い物にならないものもあるらしいが


本物の刃物を振り回す雪奈や、それに近しいものを腕に埋め込み、何より剣を主武装にしている静希としては今さら偽物の刃物を扱っている店に関心はわかないのである


「わかってねえなぁ、こういうのは偽物だからいいんじゃねえか、なにせ所持してても何も文句を言われないんだぞ?なんつーか燃えるじゃん?」


「燃える・・・の?雪奈さんは?」


「ん・・・まぁ気持ちはわからなくないけど・・・毎日見てるからなぁ・・・」


毎日のように刃物を眺めて生活している雪奈からすれば刃物に対するあこがれというものはあまりない


なにせ刃物を所有し、それを使用するという事の危険性などを理解したうえで使っているのだ


たくさん刃物を持つという事がどういうことを引き起こすのかを理解しているだけに陽太程の関心はわかないようだった


そして手軽に刃物などを作り出すことのできる鏡花も同じように陽太の感性は理解しがたいようだった


要するに持っていないものや普段自分が触れる機会が少ないものにあこがれるという事だ、それは理解できる、だがそこまで行ってみたいと思うかと聞かれると微妙だった


鏡花も普段刃物を使うタイプではないが、わざわざ偽物を観に行くという意味ではどちらかというと芸術品などを観に行く感覚なのだろうかと首をかしげていた


「・・・まぁ一応行ってみるか、どこにあるんだ?」


静希は陽太の携帯に表示されている地図を見て現在位置と道のりを把握する、どうやらコスプレなどの衣装が売っている店の延長線上にありそうだった


「これなら服買った後に行けそうだな、セラはそれでいいか?」


「武器屋・・・大砲とかあるの?」


「そう言うのじゃないっぽいけど・・・まぁ一応行ってみよう」


陽太の言っている武器屋は剣や刀などの刃物系の武器が揃えてある店だ、もっともすべて刃の部分を潰してあるため殺傷能力は無いに等しいが、それでも観賞用としての価値はあるだろう


とりあえず静希達は雪奈ご所望のメイド服を求めてコスプレ用の衣装を売っている店へと移動した


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