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J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

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報告

翌日、静希は宣言通り城島に報告に来ていた、今回の件も含め、そして新しく加わった人外のことについても説明しておくべきだと思ったのだ


「・・・なるほど、では彼奴の目的、あるいはその過程に今回の事件があったと、そういう事だな」


「はい、現状ではまず間違いないかと」


静希が城島に報告を終えた後、彼女は大きくため息をついてから静希が用意した報告書を読んでいた


一見すればただの妄想ととられかねないその内容、悪魔のお墨付きとあれば信じざるを得ない状況であるのは彼女も理解していた


「世界と世界を繋げる・・・そして発生した次元の歪み・・・まるで漫画か映画の中の話のようだな」


「おっしゃる通りです、それにいろいろと情報も入手しました、報告書の中にまとめてありますので見ておいてください」


資料の中には動画の入った記憶媒体も一緒にしてある、この中にはリチャード・ロゥの素顔が記されているのだ、重要かつ、これが一番報告したい内容だと言える


城島もこれを眺めた後、小さく息をついて一瞬ではあるが静希の方を見てからもう一度ため息をつく


「随分と派手に暴れたようだな」


「・・・まぁ、今回ばかりは・・・相手も悪魔を連れていましたし・・・」


静希は今回切り札のいくつかを一気に使った、確実に足止めし捕えるつもりだったのだが、そう上手くはいかなかった


あの場に鏡花たちやエドたちがいればまた結果は違っていただろう、単独で行動したのが悔やまれる結果となった


「この件は連中には伝えたのか?」


「・・・いいえ、これから伝えるつもりです」


連中というのが鏡花たちのことを示すのか、それともエドたちのことを示すのか、静希は若干迷っていた


恐らくは後者だと思われるが、どちらにせよ静希はまだこのことを伝えていない


カレンの憎むべき仇だとわかっていて逃がしてしまったのだ、どんな顔をして報告すればいいのかわからないのである


「なら早めに伝えてやることだ、向こうも情報を待っているだろう・・・それと五十嵐、御苦労だった、この情報は十分役に立つだろう」


今回静希が向かったのは何も戦闘を行うのが目的だったわけではない、状況の把握と事態を進展させるためだ


そう言う意味では静希は十分以上に役目を果たしたと言えるだろう


静希からすればもう少し何とかできたのではないかと思えてならないが、こればかりは自分の力不足というほかない


「あと、一応これを報告しておかなきゃと思って」


「まだあるのか、今度は何だ?」


静希は近くに誰もいないことを確認しながらも小声で城島に話しかける


「今回、ある人外を引き入れました、精霊のウンディーネです」


ウンディーネの名前を出すと、城島は眉間にしわを寄せてから大きくため息をつく


恐らく『またか』という感じなのだろう、その反応は容易に想像できたが、こちらとしても仕方なかった部分があるためにこればかりはどうしようもない


「ここ最近はその類のものを増やしていなかったはずだが・・・またどうして増やすことになった?」


「まぁちょっと事情がありまして・・・今回の事件の被害者みたいなものだったんです」


精霊が被害を受けた、それだけ聞けば確かにこれだけの事件だ、そんなことが起きても不思議はないように思える


だがその精霊が四大精霊の一角ともなると話が変わってくる、また面倒の種を増やしやがってという表情をしている城島に、静希は冷や汗を隠せなかった


「とりあえず今までと同じだ、その類のものは隠しておけ、絶対に外には出すな、いいな?」


「了解しました、とりあえず報告は以上です」


報告を終えた後城島は頭痛の種が増えたのか頭を抱えていた、静希が持ち帰った情報は多い、今回起きたこと、そしてこれから起きると思われること、そして今回事を起こした人間の情報、さらには四大精霊の一角


すでに一学生が関わるような内容ではなくなっている、これから静希単体で行動させるのも、また静希の班員と一緒に行動させるのもどちらにも高いリスクが生じるだろう


学生にこれ以上深入りさせるのは危険だと思いながらも、悪魔相手に立ち回るには同じように悪魔を引き連れた人間でなければ厳しいのもまた事実


さらに言えば仮にここで城島が止めたところで静希は自分の人脈を使って依頼を持ってこさせるだろう、すでに静希は城島では止めることができなくなっているのだ


静希がその気になればどこにでも行ける、それこそ世界の滅びの中心だろうと歩を進めようとするだろう


教師としては止めるのが正解だ、だが元軍人の立場からすれば静希の行動は一見正しいようにも思えるのだ


「五十嵐、今後お前がどのようにするかは知らんが、命を粗末にするような事だけはするなよ」


「わかってますよ、俺も無駄死にはごめんです」


今言えるのはこれが精一杯だ、せめて静希が無駄に命を落とさないようにするだけ


教師というのは本当に悩ましい職業だなと思いながら城島は大きくため息をつく


自分の生徒がこんなことに巻き込まれるとはなと思いながら、城島は静希が作った資料を読み返していた










その日の夜、静希はエドに電話をかけていた、無論目的は今回の事の報告である


この電話をかけるまで何度もどのように説明するかで悩んだのだが、今回のことに限ってはしっかり自分の理解していることをすべて包み隠さずに教えたほうがいい


なにせあの二人にとってリチャード・ロゥは浅からぬ因縁があるのだ、隠しておいていいことなど何一つない


『やぁシズキかい?君から電話とは何かあったかな?』


「あー・・・いや、この前言ってた事件の結果だけ報告しようと思ってな、今平気か?」


問題ないよとエドが告げた後、静希はさてどう切り出したものかと悩み始める


実際どう伝えるべきか、最初にリチャードに会ったことを伝えるべきか、それとも今回の事件のあらましから伝えるべきか、結果的にはすべて話すことになるのだろうが順序良く話した方が理解は早いと思うのだが、こちらとしても心の準備が必要だ


「そこにカレンはいるか?一応あいつにも聞いておいてほしい話なんだけど」


『そうなのかい?わかったちょっと待っててくれ、スピーカーに切り替えるから』


受話器での通話ではなくその場にいる全員に聞こえるように切り替えたのだろう、多少の雑音の後で若干音質が悪くはなるがこれでその場にいる全員に話をすることができるようになった


『準備できたよ、で、前言ってたっていうと町一つ消えたってやつかな?』


「あぁ、その関係でちょっとな・・・」


さてここからが問題だと静希は一息ついてからまず今回の大まかな流れから話すことにした


あの黒い物体が空間、次元の歪みであるという事、あの黒い歪みの内部にあった街や人は恐らく消滅したのだという事、そしてこれと同様の事件がまた起きるであろうという事


それぞれを話した後、電話の向こう側でも神妙な空気が流れているのがわかる、なにせ最低でも八千人の人間が犠牲になったという事なのだ、人が起こした事件の中ではトップクラスに入るほどの規模であるのは間違いない


それが個人による犯行であればなおさらだ、今回のこれが何を目的に起こされたのかは、未だ確証はない


『ひどいものだね・・・結局あの町は『跡形もなく消えた』とそういう事なんだね・・・でもシズキ、僕らに伝えたいことってのはそれだけかい?』


正直に言えば、仮に世界の反対側で国が一つ滅びようと自分たちに関係がないのであればそれこそわざわざ電話で伝えるような事ではない


静希の無事が確認できているのであればメールでも問題なかったために、エドからすれば他にも何かがあるのではないかと思えていたのだ


そしてその予想は正しい、静希はまだ伝えていないことがある


「えっと・・・今回の件の首謀者らしき人間と接触した・・・そいつは悪魔を連れていた・・・契約者だったんだ」


『・・・それは・・・穏やかじゃないね、君は無事だったのかい?まぁこうして電話をしてるってことは無事なんだろうけど・・・』


結果的に見ればこうして電話をしていられるのだ、無事と言われれば無事という事になる


だが問題はそこではないのだ


静希は携帯で通話をしながらパソコンを使って動画ファイルをエドに送る、多少時間はかかったが、きちんと送られたのを確認すると静希は意を決して口を開いた


「エド、カレン、この動画を見ておいてくれ、今回俺が接触した犯人だ」


二人が再生する動画には、僅かに砕けた仮面が爆炎によって完全にはがれる瞬間と、その素顔が完全に映っているのがわかる


そしてその一瞬、僅かに砕けた仮面のその紋様を見て、カレンは目を見開く


『シズキ!どういうことだ!何故こいつが!?説明しろ!』


『お、おいおいカレン、落ち着いて、どうしたんだいきなり』


エドはまだ状況を理解できていないのか、仮面をつけていた男を見ながらカレンをなだめているようだった


エドはリチャードに直接会っていないからこの仮面のことをそこまで覚えていなかったのだろう、対してカレンはこの仮面を直接見ている、それこそ脳に刻み込むほどに記憶しているはずだ


「見ての通りだ、さっき言った首謀者・・・そして契約者がそいつ・・・リチャード・ロゥだった」


『・・・ぁ・・・ぇ・・・』


カレンだけではなく、今度はエドが過度な反応を見せたことで、静希は眉をひそめる


この場でカレンを止められるのはエドだけだ、もしここでエドまでもが前後不覚に陥ると厄介なことになる


それこそ単独行動で周りを危険にさらすこともあり得る、それを止めるために静希は声を出した


「話はここからだ、二人ともよく聞いてくれ・・・今後、こいつが同じ事件を起こすことになる場合、俺たちはその場所を予測できるかもしれない」


『・・・なんだと・・・?』


静希の言葉に一番反応したのはカレンだ、やはりというか当然というべきか、彼女はリチャードに対する強烈な憎悪を抱いている、行先がわかるというのならどんなことでもするだろう


もちろん静希だってリチャードがまた同じようなことを起こす確証はない、だが同じことを起こした時、周りよりも一歩先の場所に立てることはまず間違いないのだ


『・・・シズキ、今回僕たちは何もわからない状態だ、一から説明してくれると助かる』


「もとよりそのつもりだ・・・さっきの説明を踏まえてもう一度説明するからよく聞いてくれ」


静希が魔素のデータから事前に今回のような事が起きる場合予測が可能だという事を二人に知らせる、そしてテオドールやイギリスなどと共同でそれらの報告が上がった場合いち早く連絡を貰えるように通信網を築いてあるという事も


「カレン、お前が焦るのも分かる、でも今は待つときだ、情報源はどんどん増えて来てる、俺たちはあいつを追い詰めてるんだ、あともう少しだ、今はこらえてくれ」


素顔も判明した、いずれリチャードの個人情報も明らかになるだろう、さらに言えば先回りすることもできるようになるかもしれないのだ、今のところ得たアドバンテージは大きい


ここで彼女が勝手な行動に出ると厄介なことになる、だが彼女もどうやらそのことを理解しているようだった


『わかっている・・・シズキ・・・感謝する、これほどの情報を得てくれたのは本当に助かった』


「・・・こっちとしては捕まえるつもりだったんだけどな・・・それに関してはお前達に合わせる顔がないよ・・・」


静希はあの時、半殺し状態でもいいから行動不能にして捕まえるつもりだった、だができなかった


手足を潰して爆破までしてまんまと逃げられた、あれほどの失態は他にないと言えるほどに


『僕たちもその場にいられれば良かったんだけど・・・今回ばかりは運がなかったとしか言えないね・・・』


悪魔の契約者が三人がかりともなればあの場で捕まえることもできただろう、だが今回は運悪く静希の単独行動だった


事前にこの事を知っていれば


そう何度考えただろう、そして静希はカレンに、いや彼女の連れる悪魔に聞かなければならないことがあった


「カレン、そこにオロバスはいるか?」


『いるぞ、ちょっと待ってくれ』


どうやら彼女の体に宿っていたのだろうか、オロバスは数秒してから電話の向こう側に現れたようだった


『シズキ、私だ、何か用か?』


聞かなければならないこと、それは彼の能力に起因する


オロバスの能力は未来予知だ、今回のことを予知できなかったことに対して弁明が欲しかったのである


これがわかっていたら、三人で全力で制圧できたというのに


「オロバス、お前の能力は未来予知だろう?今回俺がリチャードに接触する未来は予知できなかったのか?」


『・・・私は基本カレンの未来を日常的に見ている・・・もちろん申し出があれば君の未来も見ることはできるが・・・今回のことはそもそも私も知らなかった』


予知の能力というのは万能ではない、未来が変わることもあれば、特定の未来しか見えないこともある


彼の場合カレンの未来という条件に固定していたのだろう、無論その固定を解除することもできるだろうが、わざわざ何の頼みもない状態で静希の未来を見るだけの余裕はなかったのだ


「・・・わかった・・・今後どういう風に動くかはわからないがお前の能力は頼りになる、カレンの力になってやってくれ」


静希の言葉にオロバスは勿論だと言葉を返してきた


未来を予知できる能力、はっきり言ってこれ程頼りになる能力も他にない


相手の攻撃を避けることも、動きを先読みすることもできるのだから


遠い未来であればあるほどその未来は変わりやすく読みにくいが、近しい未来であればほぼ確実に的中する


今後戦闘を行うにあたって彼の能力は絶対に必要だ、特に悪魔の戦いにおいて先読みができるのならこれほど心強いものはない


『シズキ、君はリチャードと戦ったんだろう?能力者だったのかい?』


「あぁ、たぶんだけど強化系統の能力者だと思う、少なくともただの人間にあの動きは無理だ」


静希の反応速度でもギリギリで防御できた攻撃、雪奈のそれに匹敵するかもしれない、それほどの速度で繰り出された蹴りだった


人間業ではない、少なくともあれほどの動きができる人間を静希は知らない


『悪魔の能力はどうだった?危険かい?』


「危険だね、炎を操る能力だ、悪魔の名前はアモンとか言うらしい」


アモン


その名前を聞いた瞬間に向こう側にいたであろう悪魔たちが若干の驚きを含んだ声をあげていた


悪魔の中でもそれなりに名の通った存在なのだろう、それが向こうについているとなるとこちらとしては旗色が悪いという印象がある


だがこちらとしても譲るつもりなどない、悪魔の契約者三人で押しつぶすつもりで行動する


相手がどこにいるかまでは把握できないが、どのあたりにいるかはすでに分かるところまで来ているのだ


後は索敵とオロバスの未来予知で場所を特定さえできれば、一気にことは進むだろう


『話が進んできたね・・・クライマックスが近いかな?』


「追い詰めてるのは確かだよ、あともう少し・・・ようやく掴んだ尻尾だ」


ようやく、本当にようやく掴んだリチャード・ロゥの尻尾、手がかりというにはあまりにも大きなそれを静希はようやく手にした


新たな人外であるウンディーネ、そしてリチャード・ロゥへの手がかり


この手がかりが大きく世界を震撼させることになるのは、また少し後の話である


多分誤字報告が五件分溜まってると思うので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


今回は予約投稿という事もあり、完全に予想しての投稿です、これで外れてたら恥ずかしい


これからもお楽しみいただければ幸いです

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