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J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

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帰国

翌日、当然のように午前中にセラに買い物に付き合わされ、その後静希達は別れを告げ日本へと帰国出来ることになった


飛行機に揺られること十二時間、静希たちは無事日本に帰国していた


長時間の飛行というのは疲れた体にはなかなかに苦行だったが、帰るためだけに転移能力者を利用するわけにもいかない


静希は大野と小岩と空港で別れ、一人学校へと向かっていた


喜吉学園に到着したのはある程度予想した通り、十時をとうに過ぎたころだった


まだ学園内には多数の生徒がいる中、静希は荷物を持ちながら城島がいると思われる職員室へと向かう


すると、丁度これから授業なのか職員室から城島が出てくるところだった


「五十嵐か、その様子だとひと段落といったところか?」


「えぇ、今日は報告に・・・さすがにこの後授業を受けるのはちょっと・・・」


今さらという感じもあるのでと付け加えると城島は口元に手を当てる


教師としては生徒に授業を受けさせなければいけないのだが、今まで依頼で海外に行っていた静希に無理に授業を受けさせるというのも憚られたのだろう


「なら班員に顔見せくらいは行って来い、それが終わったら好きにしていい、報告はまた後日だ、お前も情報を整理する時間が欲しいだろう」


「お気遣い感謝します・・・んじゃ報告はまた後日・・・あぁそうだ、これだけは言っておかなきゃ」


教室に向かおうとした静希は踵を返して城島に鋭い視線を向ける


「今回の件、リチャードが関わっていましたよ」


「・・・そうか、詳しい話はまた後日聞く、今は体を休めておけ」


これだけは伝えておかなければいけないという事を伝え終えると、静希は再び教室へと向かおうとする


城島の表情は上手く見えなかったが、恐らく何かしら思うところはあるのだろう、僅かに漏れる感情の揺れのようなものを感じた


なにせ静希が関わってきた事件の半数近くがリチャードに関する物なのだ、何も思わない方がおかしいだろう、特に静希はその中の一つで重傷を負っている


教師として止めるべきか否か迷っているようだった


静希が荷物を持ったまま教室に入ると、中にいた数人がその姿を見て驚いた表情を見せていた


ともあれもうすぐ授業という事もあり、あまり大きなリアクションは取れないようだった


「静希君、帰ってきてたんだ」


「あぁ、ついさっきな、今日はこのあと何の授業だっけ?」


この後授業があるという事でほとんどのクラスメートは教科書やらノートやらを用意している、それに比べると静希の姿は異様だ


なにせキャリーバッグに私服という学校に来るための格好ではないのだから


「現国よ・・・お疲れさまって言ったほうがいいかしら?」


「まぁな、今回も疲れたよ・・・いろいろとわかったことはあったけど・・・まぁそれは今度話す・・・今日はもう疲れた」


荷物を近くにおいて項垂れる静希を見て班員である鏡花たちは気の毒そうにしているが、他のクラスメートたちは何で静希は私服なんだと首をかしげていた


まさか海外まで依頼を受けに行っていたとは言えないし、それを言ったらまた面倒になるのは目に見えている


「なんだよ静希、このまま授業受けてかねーの?」


「お前な、こちとら疲れてんだよ、先生からも許可は貰ってる・・・今日はゆっくりするよ」


「じゃああとで雪奈さんと一緒に行くね、晩御飯とか作ってあげる」


明利の気遣いに静希はほろりと涙を流しながらその頭を撫でていく、だがその瞬間明利は何かに気付いたのか、静希の耳元に口を近づける


「ねぇ・・・ずっと静希君から悪魔っぽい気配がするんだけど・・・どうして?」


そう言えば明利は悪魔の気配を多少なりとも感じることができるようになっていたんだったと気づき、さらにメフィを自分の体の中に入れっぱなしだったことを思い出し額に手を当てる


「しまった・・・気づかれて無けりゃいいけど・・・イーロンは今どこにいる?」


「今は多分他のクラスじゃないかな、どうなってるかわからないけど・・・」


悪魔を体の中に入れたまま学校に連れてきてしまうとは相当疲れているなと思いながら静希は苦笑する


イーロンが怯えているかもしれないため、これはすぐに帰ったほうがよさそうだ


「それじゃ俺は帰るよ、今度いろいろ報告するから」


そう言って静希は学校から足早に離れることにした


悪魔であるメフィを体の中に入れたことなどなかったのだが、いつもはトランプに入れたら基本放置することが多かったために体の中に入れても完全に放置してしまっていた


イーロンには悪いことをしたなと思いながら家に帰ると、トランプの中、そして体の中にいた人外たちが一斉に飛び出してくる


「あー・・・窮屈だったわ・・・シズキ、一回トランプの中に入れて、リフレッシュしたいわ」


「はいはい・・・ていうかウンディーネでて来てないじゃんか・・・ほいよっと」


静希がメフィをトランプに入れるついでにウンディーネを出すと、彼女は周囲を確認しながら戸惑っている


「あのシズキ、私はトランプから出て大丈夫だったのですか?」


「あぁ、ここは大丈夫だ、好きにくつろいでくれ、水が必要なら用意するけど」


新しく仲間になった人外、精霊ウンディーネ、と言っても新しい住処が見つかるまでの仮契約のようなものだが、彼女もこの場になじもうと部屋の中を物色し始めていた



「でしたら・・・コップ一杯ほどの水があれば」


「コップ一杯でいいのか?水槽とかじゃなくて?」


静希の家には水素を作る関係で小型の水槽程度であれば存在する、その中に水を入れれば十分ではないかと思ったのだが、コップ一杯とは随分と謙虚なものだ


「シズキ、可能なら藻とか水草とかがあると良いと思うわ、水の精霊は生き物とかにも影響されるし」


「へぇ・・・じゃあホームセンターとかで買ってこなきゃな」


「い、いえ、そのような手間をかけさせるわけには・・・」


どうやらウンディーネとしては静希に迷惑をかけるのは嫌なのか、随分と遠慮しているように思える


こういう反応をする人外は非常にありがたい、今まで常識人ポジションにはオルビアしかいなかったためにこれからの静希の人外生活がまた一つ快適になるかもしれなかった


「気にしなくていいぞ、どっかの悪魔はもっといろいろと要求してきてるしな、水槽と水草とかくらいなら安いもんだ、なぁメフィ」


「そうよ、私なんてゲーム機数台貰ったんだもの、安いものよ」


お前がそれを言うとなんか腹立つなと静希は若干呆れながらとりあえず近場で水草などを売っている場所を調べ始める


「マスター、衣類などは現在洗濯中、郵便物などはテーブルにまとめてあります」


「ありがとうオルビア、いやぁ、オルビアがいてくれて本当に助かるわ」


「お褒めに預かり光栄です」


この家の家事の約八割を担っているオルビアがいるだけで静希の負担は激減している、なにせ一人暮らしの時はすべて自分でやらなければならなかったのだ、やってくれる人がいるというだけでその負担はかなり減っていると言っていいだろう


「この家では我々のような存在も家事を担当するのですね」


「あー・・・オルビアがほとんどやってくれてるけどな、邪薙は結界だとかを張って周囲に勘付かれないようにしてくれてるし」


「ほう・・・ではメフィストフェレスは何を?」


ウンディーネの言葉にメフィはぎくりと擬音が出そうなほどに体を硬直させる


家事に関してはメフィはほとんど何もしていないと言っていい、彼女が日常的にやっていることと言えばゲームをやるかテレビを見るかの二択である


あとは時折静希の切り札である高速弾の作成に協力しているくらいだ


「わ、私はね、シズキのためにいろいろ作ってあげてるの、特に能力面でね」


「なるほど、確かにあなたの能力は多岐にわたりますからね、契約者にそう言う面でも貢献しているとは」


ウンディーネの疑いのない瞳にメフィは目を逸らしながら苦笑いを浮かべている、実際はただ一つの能力を使って物質を加速させているだけとは言えない


この汚れのない瞳が今後どの様に変わるのかと思うと静希は楽しみだった


「そうなると、私も何かお手伝いをした方がいいかもしれませんね、恩義のある中でただ怠慢に過ごすのも気が引けます」


どうやら静希の家では人外がそれぞれ仕事を持っているという風に解釈したのだろう、ウンディーネは頭をひねっているが今まで人間と契約したことは少ないのか、その手の知識はあまりないようだった


「ウンディーネって水の精霊だろ?なんか水回り関係でできないか?ていうかどんな能力使えるんだ?」


メフィが再現、邪薙が障壁、オルビアが保存、フィアが肉体作成という能力をそれぞれ持っているように、ウンディーネにもそれなりの能力があって然るべきである


たとえ自分の力の八割近くを失っているとはいえ、そこは人外なのだ、人間よりは強い能力を使えても不思議はない


「私は水の発現と操作を行えます、例えば雨を降らせることも、霧を発生させることも、津波を起こすことも容易です・・・もっとも淡水の方が操りやすいですが」


どうやら彼女は海水よりも淡水の方が能力を発揮しやすいタイプの精霊のようだ


力を失っている関係でそこまで強い力の発動はできないとあらかじめ訂正されたが、それでも人間、いやエルフと同等以上の力は使えると思っていいだろう


「やっぱり水か・・・となると洗いものとかか・・・?でもさすがになぁ」


四大精霊の一角に皿洗いや風呂洗いなどをさせるのも若干気が引ける、邪薙が障壁でこの家を守っているように、似たようなことができればいいのだが


「汚れを落とす程度であるなら容易に可能です、私にできる事であれば可能な限り手伝いますよ」


「いやでもお前四大精霊だろ?さすがにそんな大きな存在に皿洗いとかはちょっと」


「たとえ四大精霊だろうとここにいるのであれば仕事をするのは当然の事、恩を受けておきながらそのままというのはそれこそ精霊としての矜持に関わります」


やはりこのウンディーネはどちらかというとオルビアの方に近いタイプの性格をしている


オルビアよりも少しだけ強気な気がするが、それでもしっかりとした礼儀というか、恩を受けてそのままにしておけるほど高慢ではないようだった


「じゃあ・・・オルビア、ウンディーネにもできそうな仕事を軽く教えてやってくれ」


「かしこまりました、ではこちらへ、説明いたします」


「よろしくお願いします」


まるでメイド長と新人のメイドのようだと思いながら静希はどうしたものかと眉をひそめる


今まで人外たちは一緒にいたが、静希が知っているほど有名な人外はメフィだけだった


まさか四大精霊までもが人外レパートリーに加わるとは思っていなかったために静希としては反応に困ってしまう


依頼の後片付けと称して家事などを行っているとやはりというかなんというか、インターフォンがなり来客を知らせる、オルビアは今ウンディーネにかかりきりのために静希が出るとそこには明利と雪奈が立っていた


「おぉ、いらっしゃい二人とも」


「静おかえり、お土産!」


早速土産をねだる雪奈に呆れながらも二人を中に入れると、二人は機敏に何かを察知した


きょろきょろと部屋の中を探しながら首をかしげてしまう


どうかしたのだろうかと疑問を持つ前に気付く、恐らくは人外の気配が増えているから気にしているのだろう


「あぁ、そうだった・・・ウンディーネ、ちょっと来てくれ」


静希が呼ぶと恐らく風呂場に行っていたウンディーネがふわふわとこちらへとやってくる


「なんでしょうかシズ・・・キ!?」


その場に静希以外の人間がいたことに驚いたのか、彼女は高速で動いて静希の陰に隠れようとする


「安心しろ、こいつらはうちの事情を全部知ってるから、こっちの小さいのが幼馴染の幹原明利、こっちの大きいのが姉貴分の深山雪奈だ」


静希の知己であるという事実が彼女を安心させたのか、ゆっくりと前に出てきて二人にお辞儀をする


「は、初めまして、ウンディーネと申します」


「・・・ウンディーネってあの、ゲームとかに出てくるあれ?」


「そう、あれ、四大精霊の」


雪奈は目を丸くしてウンディーネの姿を凝視している、恐らくはその小ささに驚いているのだろう


実際今のウンディーネの姿はかなり小さい、体長は十五センチほどしかないのだ、これが四大精霊の一角と言われても信じがたいのも無理はない


「えぇ・・・なんかショックだよ・・・四大精霊って言ったらもっと大きくて威厳あるものと思ってたのに・・・」


「ある事情で八割近く力を失っていまして・・・お恥ずかしい限りです」


ウンディーネとしてもこの姿は恥ずかしいのか申し訳ないのか、少しだけ情けない表情をしていた


これで全盛期の力を持っていたらそれはそれで大きく面倒になっていただろう、そう考えるとこのサイズでも問題はないように思える


「でも静希君、どうしてウンディーネさんが?」


「ん・・・今回の事件に巻き込まれて住処を失ってな・・・新しい住処が見つかるまで住ませることにしたんだ、メフィの知り合いらしくて頼まれたんだよ」


メフィの知り合いという言葉に二人は納得する、メフィ程の存在となれば四大精霊の一角と知り合いでもおかしくはないなと思ったのだろう


何より静希はメフィに甘い所がある、恐らくは頼まれて断れなかったのだろうと推察し、ウンディーネの方を観察する


「でも住処ってどこにするの?そのあたりの水溜りじゃダメでしょ?」


「あぁ、綺麗な湖がお好みらしい」


「綺麗な湖・・・それだとこの辺りじゃ難しいと思うよ?日本でも北海道とか、それがだめなら海外とかじゃないと」


確かに日本の湖では海外のそれには劣るところが多い、規模もそうだが美しさという面では海外で有名な湖の方がよほど綺麗である


日本で探すのはある程度限界があるため、静希と共にいるというのはそれはそれで遠回りになってしまうという事は二人とも理解していた


「って言ってもな、さっきも言ってたけど八割近く力を失った関係で不安定になってるんだ、俺の能力に入れて安定させてるけど、長時間放置しておくとどうなるかわからないんだよ」


「あぁなるほど、そう言う事情があったのか」


それじゃあ仕方ないねと明利も雪奈も納得する、自分の存在の危険と少しの間人に匿ってもらう事、どちらを選ぶかと言われれば人に匿ってもらった方が安全であると判断したのだ


明利も雪奈もその存在の危機ともなればさすがにそこまで強く意見を言うことはできない


「そうだ明利、水槽に水草とかを入れて自生させようと思ってるんだけど、なんかいいのないかな?」


「水草?あぁ生命球みたいにしたいの?それならいくつか家にあるけど」


生命球とは水槽の中に水草や生き物を入れ、内部にある空気と餌のバランスが取れている状態の商品である


何もしなくても魚が水草を食べ、水草の再生速度と酸素の生成量を一定に保つというものである、植物を育てることに関しては明利の右に出るものはいない、水草まで育てているとは思わなかったが、これでわざわざ買う手間が省けたというものである


「こいつが水槽にいたほうが楽らしくてな、他にも水草とかがあるとなおいいんだってさ」


「じゃあこれを機に金魚とか飼えば?・・・ってこの面子じゃ無理かな・・・」


メフィ達のような人外がいると良くも悪くも動物たちはその場から逃げようとする、逃げられなければストレスで死んでしまう事もあるかもしれない


そう考えると金魚なども飼うことはできないだろう、となれば水草と軽い砂利を入れるだけになってしまう


「そもそも魚ってメフィに反応するのかな、そのあたり確かめてみるか」


哺乳類などはメフィに反応して逃げ出すことがわかっているが、魚や甲殻類、そして貝などがどのような反応を示すかは試したことがない


今度試してみようと思いながらとりあえず静希は久しぶりの日本を満喫することにした


誤字報告を五件受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


明日はちょっと事情があって予約投稿します、反応が遅れてしまいますがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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