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J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

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契約者の戦闘

左腕はどうかはわからないが、右足は潰した、全身を巻き込むだけの爆発も起こした、さすがに身体能力強化を保有していようと行動不能にはできただろう


静希がそう確信していると爆発によって生まれた炎がうごめいていることに気付く


「・・・厄介なのが出て来たわね・・・」


メフィはすでにその存在を認識していた、そして数秒遅れて静希もそれを見た


そこには炎を纏った動物がいた


遠目であるためにどんな動物かはよく見えないが、それが四本脚で動いているものだというのが理解できる


そしてその動物に寄り添うようにその仮面の人物は悠々と立っていた


左腕は傷だらけ、右足は炭化し膝から先が無くなっている、すでに使い物にはならないだろう


「・・・あれ・・・悪魔か?」


「えぇ、それも飛び切り厄介な奴よ、私と同じ上級悪魔、能力は見ての通り、炎を操るわ」


メフィの能力によって浮かされている状態だというのに、その悪魔は意にも介していない、じっと静希とメフィに視線を向け続けている


どうやらまだ行動不能にはできていないようだった、いやな予感がここにきて的中してしまったと静希は歯噛みする


「メフィ、強引にでもいいからあいつを押さえこむこと、できるか?」


「難しいわね、静希を守りながらだとなおさら・・・いっそのことあのままにしておく?」


宙に浮かせている以上人間の方が動けないのは確定的だ、だが悪魔の方はそうではない


メフィと同じなら宙に浮くことも容易にできるはずだ、あの対処では動きを止められているとは思えない


相手の能力は身体能力強化と炎を操ること、どちらも静希の苦手分野だ、なにせ防御のしようがない


邪薙の防壁を使ったところで炎は常に流動的に動くものだ、壁を作ってもそこから回り込まれることもある


身体能力強化はそもそもその動きを捉えることが難しい、静希は陽太や雪奈のおかげで多少慣れてはいるが、あのままの速度で突破されたら二度と追いつけないだろう


だが逃げられる前に、静希にはやっておかなければならないことがある


携帯をトランプの中に入れオルビアに指示を送り、その後で左腕に弾丸を仕込む、やるべきことはやるべきだ、この場でそれができるのは自分だけ


エドとカレンもつれてくればよかったと静希はこの時本気で後悔していた


「メフィ、頼みがある・・・これでウンディーネの件は相殺でいいぞ」


「あら、一体何をさせるつもりかしら?」


「なに、あのいけ好かない奴に一発ぶち込んでやるだけだよ」


宙に浮いている二人には聞こえないように作戦を話すと、その隙を利用してか相手の炎が静希達めがけて放たれる


さすがに話をしているだけの余裕はないだろうかと思ったが、どうやら相手はあの仮面の男から離れるつもりはないようだった


遠距離からの炎でこちらを攻略するつもりなのだろうがさすがにこちらも黙ってやられるわけにはいかない


「メフィ、頼む」


「・・・むぅ・・・仕方ないわね!」


メフィは渋々了解して能力を発動した


宙に浮いていた辺り一帯のものにかかっていた力を反転、地面に向けて強力な力を発生させてたたきつける


周囲に浮いていた木々や地面も一気に叩き付けられたことで周囲に轟音が響き渡り、土煙が辺りに舞い上がる


急な力の反転、そして衝撃、さらに土煙による視界の悪化に相手が反応しきれていない間にメフィは人間の方だけを静希の方向へと引き寄せた


人間だけを攻撃する、それが静希の策でもある


無論、相手の悪魔もそれをさせるわけにはいかなかった、引き寄せられた仮面の人物の周囲に炎の膜のようなものを作り出し、防御、さらには自らも接近しその体を守ろうとした


だが仮面の男に近づくよりも先に、メフィが悪魔の眼前に直進し、思い切り殴りつける


今までメフィは能力で戦う事こそなかったが、その膂力は強化状態の陽太と同じかそれ以上なのだ


肉弾戦等を嫌っていたメフィにそれをさせるだけの代価はそろっている、好都合だったという事である


「あーあ・・・女の子に殴らせるなんてなんてことさせるのかしら・・・まったくもう仕方ないんだから、そう思わない?」


「・・・メフィストフェレス・・・!」


どうやら相手の悪魔もメフィのことを知っていたようだが、すでにもう遅い

メフィによって止められた悪魔、そしてメフィの能力によって静希の方へと吸い寄せられる仮面の人物


だがその体の周りには悪魔が作り出した炎の膜が作られている、ただ攻撃したところでほとんどはその効果を得られないだろう


だが静希は幸か不幸か、炎の相手は慣れきっているのだ


トランプを取り出し、静希は一気に接近していく


炎と自分の距離がゼロになる瞬間、トランプの中身を噴射した


それは二酸化炭素ガス、俗にいう消火ガスと言われるものだった


例え悪魔が作り出し、陽太が作り出す炎以上の高熱を有していたとしても炎は炎、二酸化炭素を噴射されれば炎は消えてしまうのだ


全ての炎を消す必要はない、ほんの少し穴さえできればいいのだ


なにせ静希は最初から、相手を殺すことを目的にしていないのだから


左腕の肘から先を外し、左腕に内包された砲身をそのわずかに空いた炎の穴に突っ込む


その向こう側ではすでに仮面の人物は自らの体を使って防御していた


急所だけは守ろうとしているのだろう、傷だらけの左腕を頭に、右腕を心臓部に宛がって盾にしている


だが無駄だ、静希が撃つ弾丸は、それでは防げない


静希が引き金を引くと、左腕から弾丸が放たれる、一発だけなら、あの防御でも防ぐことができただろう、だがそれは一発ではなかった


散弾、ショットガンなどで用いられる、内部に大量の小さな玉を内包した至近距離にばらまくように放たれる弾丸


まさに対生物用の弾丸というべきそれは、仮面の人物の上半身に襲い掛かった


上半身めがけて放たれた散弾は偏ることなくその体に命中していく、そしてその中の何発もがその仮面に吸い寄せられ、仮面を破壊していく


弾丸を放った衝撃で体が後ろに流される刹那、静希はトランプを二枚置いていった


炎という特性を持っているのであれば、これは絶対に有効だ、それがたとえ悪魔の炎であったとしても


静希を救出するべくフィアがその体を包み込んだ状態でその場から退避し、邪薙が障壁を発動する中、トランプの中身、水素と酸素が放たれる


周囲が炎で包まれている仮面の男はそれを防ぐことなどできず、爆発に包まれることになった


静希がフィアの中から出てきてトランプの中に収めてから、その爆心地を眺めると、そこには全身やけどを負っているが、いまだ健在な仮面の人物がいた


いや、その仮面は八割が砕けている、そう、静希の目的はあの仮面を吹き飛ばすことだったのだ


散弾によって仮面を砕き、爆風によって仮面を引き剥がす、いや『吹き飛ばす』という単純かつ簡単な方法だ


仮面に守られていたおかげか、顔の火傷は少ない、そしてその顔を静希はしっかりと確認することができた


「・・・ようやく素顔が拝めたな・・・お前の名前は、リチャード・ロゥで合ってるか?」


仮面の下にあったのは、四十代ほどの男性だった


白髪の混ざる黒髪、そして藍色の瞳、日本人ではなさそうだ


いや、どこの国の人間という事よりも、静希はその表情に驚かされた


してやられたという表情も、忌々しげな表情もしていない、彼はただ、楽しそうに笑っていた


「そう言うお前は・・・シズキ・イガラシで合っているか?そこにいる悪魔、見覚えがある」


メフィに視線を向けながら湧き上がるような笑みを浮かべるその男に、静希は強い不快感を覚えた


それと同時に確信する、メフィに見覚えがあるという事は間違いないかもしれない、メフィの姿を見たことがある人間は限られている


最初に召喚した時、そして静希と戦闘した時、去年の七月の交流会にいた人物


少なくとも七月の交流会にはどこにもこの男はいなかった、だとしたら、この男こそが、静希が人外と出会うきっかけを与えた張本人


「もう一度聞くぞ、お前はリチャード・ロゥか?」


「・・・ハハ・・・イエスと答えさせてもらおう、ではもう一度聞こう、お前はシズキ・イガラシか?」


「・・・イエスと答えてやるよ」


ようやくたどり着いた、ようやく見つけた


こうして静希がこの男を見つけることになるとは、何か縁があるとしか思えないがそんな事よりなによりもこの男を捕まえなければならない


何故この男がここにいるのか、何を目的としているのか、それは今考えるべきではない、考える事ではない


絶対に逃がしてはならない、ここで確実にとらえなければ


すでに片足を失い、左腕はほとんど動かないだろう、全身にやけどを負っているはずなのになぜかこの男の、リチャードの笑みは止まらない


「そうかそうか・・・お前がそうか・・・まったくもって邪魔な奴だ」


「邪魔なのはお前だ・・・よくもまぁ俺の周りに面倒を持ち込んでくれたもんだよ」


殺意と怒気を含めて静希は眼前の男を睨む、だが男は笑ったままだ、楽しそうに、嬉しそうに


その笑みを見るものが見たら、静希が時折浮かべる邪笑に似ているという感想を抱いただろう、静希が不快感を覚えているのは、一種の同族嫌悪なのかもしれない


「ここでお前を捕まえる、逃げられると思うな?」


「逃げる?違う、間違っている、私は観測する、故に移動するだけだ、お前達はそもそも眼中になどない、いやなかったというべきか・・・」


観測する、眼中にない、その言葉の意味を理解しようとするより早く、メフィが静希の前に立ち、盾になった


瞬間辺り一帯が一瞬にして炎に包まれる、それがあの悪魔の能力だと気づくのに時間はいらなかった


周囲に展開していた部隊の人間がどうなったか、それを確認することもできずに静希はその場に釘づけになってしまった


「ではさらばだ、あぁ一つだけ伝えておこう、お前は私の敵になった、喜べシズキ・イガラシ、お前は私に認識された」


高笑いを浮かべながらその場から去ろうとするリチャードを前に、静希は歯を食いしばる


「メフィ!あいつを追うぞ!」


「ダメよシズキ!動かないで!焼け死にたいの!?」


辺りは炎で満ちている、しかも今も静希に襲い掛かろうとしているようだった、メフィがかろうじてそれを押さえているため何とか生きていられるが、恐らく一歩でも前に出れば静希は丸焼きになるだろう


「部隊の人間じゃ・・・」


「捕まえられないでしょうね・・・今はこの場で耐える事しかできないわ・・・」


あの能力を悪魔であるメフィへの攻撃ではなく、契約者である静希への攻撃に瞬時に切り替えた


静希が弱点であるという事がわかっている、戦い慣れた契約者であることは間違いない


自分が足を引っ張っているという事実に静希は歯噛みしながら周囲の炎を眺める


力強い炎だ、あの悪魔が作り出した炎、陽太が作る炎とはまた別の意味で力強い


「メフィ、あの悪魔、なんて名前なんだ?」


「・・・あいつは・・・アモン、炎を操る上級悪魔よ」


アモン、その名を聞いたときにトランプの中にいた人外たちは記憶に残るものがあった


それはかつて、静希の父親である和仁が接触したことのある悪魔の名だったからだ


静希はそれを知らない、なにせ人外たちと和仁との間だけの内緒話だったために知らされていないのだ


「あぁ・・・くそ・・・カレンにどんな顔して会えばいいんだよ・・・」


カレンはリチャードに対して強い恨みを抱いていた、こんな状況になって、まんまと取り逃がした、そんなことを一体どう報告すればいいのか、静希は大きくため息をついて項垂れた









やがて火が収まると、あたりはひどい有り様だった


全ての木々が炭と化し、地面は黒く焼け焦げ、もはや生き物など存在できないほどの焦土と変貌していた


ここに足止めされたのは三十分ほど、すでにリチャードは遠くに逃げているだろう、自分がいながらなんて様だと静希は歯噛みした


「ミスターイガラシ!無事か!?」


声が聞こえた瞬間静希はメフィを自分の体の中に宿らせた、近くにやってきたのはカールとその部下の人間だった


この近くで悪魔の戦闘が行われていたのを彼らは見ていたのだ、唐突に地面ごと宙に浮き、叩き付けられてから少ししたら辺り一面が炎に包まれる


まるで映画のワンシーンのような凄惨な光景を前にカールたちはどう反応したらいいのかわからなかったが、とにかく炎の中心に立っていた静希を見つけ駆けつけたのだ


「少尉・・・すまない、取り逃がした・・・」


「あ、謝らないでくれ、我々も手も足も出なかった・・・君が包囲網を作る時間を稼いでくれたというのに・・・」


少尉の認識としては悪魔の力を押さえる間に包囲網を作り完全に包囲して捕まえるというプランだったのだろうか、その間違いは静希にとっては今はありがたかった


反省するのは後だ、リチャードがあの場にいたのであれば、今後の対応も少し変えなければならない、ここで彼奴に会えたのはむしろ幸運だと捉えるべきだろう


「少尉、負傷者は?」


「・・・何人かは意識不明の重体だ、ひどい火傷を負っている・・・幸いなのは死者がいないことくらいか」


意識不明の重体になっているのだから、まだわからないだろうが、即死していないあたりは軍人という事だろう、とっさの判断で攻撃の直撃だけは避けたらしい


それなりに優秀な人間がそろっているようだったが、やはり悪魔を前にすれば役に立たないのが現状だろう


「ミスターイガラシ、君がいなければ被害はもっと増えていただろう・・・礼を言う」


「やめてくれ、こっちは目的を果たせなかったんだ・・・失態だよ」


リチャードを捕らえることができなかった、静希が肝心なところで足を引っ張ってしまった、これほど悔しいことはない


だが目的の一つは果たした


『オルビア、ちゃんと撮影できてるか?』


『問題ありません、ムービーで撮影しましたのできちんと顔も映っています』


静希が先程オルビアに指示したのは、彼女の入ったトランプの中に携帯を入れ、仮面を砕いたらその素顔を撮影させるというものだった


静希のトランプの中からは静希、あるいはそのトランプを中心にした映像を見ることができる、それを撮影させたのだ


これでリチャードの顔は確認できる、そこから個人情報などの割り出しも可能なはずだ


悪魔の契約者などといわれながら、結果がこのざまでは笑えないなと、静希はため息をつく


「ミスターイガラシ、君は怪我はないのか?」


「あぁ、こっちは無傷だ・・・それよりも負傷者の救助を優先してくれ・・・こっちは研究者たちの方に戻る」


焦土と化した地面を踏みしめて静希は歩く、これほど屈辱を味わわされたのはいつ以来だろうか、自分が足手まといなのは十分理解していた


だからこそそれを逆手にとった行動をとり、相手を振り回すのが静希のやり口だった


だが今回はそれを利用された、まるで静希がそうするかのように


『すまんメフィ、お前はよくやってくれたのに、肝心なところで俺が足を引っ張った』


『シズキらしくないわね、それに最低限のことはできたわ、まだチャンスはある、そうでしょ?』


メフィらしくない励ましに静希はつい苦笑してしまう


彼女に励まされることになるとは思っていなかっただけに今の状況が情けなさを通り越して呆れを覚えるものであると静希はようやく気付ける


開き直ろう、自分は弱いのだ、自分一人で勝とうと思ったのがそもそもの間違いだったのだ、自分は誰かと一緒にいて初めて全力を出せる


そのことを思い出した静希は大きく伸びをする


『ウンディーネ、あの仮面の男はお前が見たうちのひとりだったか?』


『は、はいそうです・・・もう片方がまだこの辺りにいるのでしょうか・・・?』


確認が取れて静希はなんとなく、本当になんとなく感じ取った


もう一人の仮面の男は恐らく、リチャードのトカゲの尻尾にされたのだと


要するに、今までの召喚と同じだ、手順を教え、そして召喚を行わせた、その結果がこれ


そしてリチャードは安全なところでそれを眺めていた


恐らくはもう一人の仮面の男は、あの黒い歪みの中にいる、いやいたというべきだろうか


結局自分は何もできなかったに等しい、だがまだそれでいい


自分は弱いのだ、だからこそ今回の件で反省し次に活かせばいい、それができなければ自分は何の役にも立てないだろう


今回の件を分析して、周囲の人間に知らせて、全力で事に当たるしかない


まずはエドとカレンに報告しなければならないだろう、だがこれが最も難関だ


どう知らせるべきか、どう報告すればいいのか、どんな顔で言えばいいのか


静希はエドとカレンの状況を知ってしまっているためにどうしたものかと悩んでしまっていた


殴られるくらいは覚悟しておいた方がいいかもなと思いながら静希は大野と小岩が待つ研究者の集合地点に向かっていた


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


寒くて手が上手く動きません、キーボードを打つ指が震える・・・タイプミスが増えるかもなぁ・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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