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J/53  作者: 池金啓太
一話 「引き出し」
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挑発と挑戦

区切りが悪いので二話分


やっぱり話を区切るのが難しい・・・

「いい加減にしろお前ら、そろそろやめないと物理的に黙らせるぞ」


クローバーのトランプを二枚取り出して二人の顔面に突き出す


即座に陽太の顔が青くなる、対して鏡花は状況がわかっていないのか得意げな顔をしている


「あんた収納系なんでしょ?しかも能力値はほぼ最低ランク、このトランプがその能力なの?」


「そうだ、これの中に色々入れることができる」


「それでどうやって物理的に黙らせるのよ、あんた生物も入れられるの?」


「いや生き物は入れられない、でもこの状況ならもうお前を黙らせるくらいはできるぞ?」


「へえ、そんな能力で?『引き出し』さん?」


陽太も明利も顔を青くしておろおろしている


静希が本気になったらどのようなことをするのかこの二人は分かっているのだ


「陽太お前もわかっただろ、ちゃんと制御できてないから直線攻撃しかできないんだ。もうちょい反省しろ、感情の制御が難しいのはわかるけどもう少し加減を覚えろ、清水お前はいちいち言い方が攻撃的すぎる、もうちょい歯に衣着せろ、あれじゃ挑発越えて悪口の域だ、むやみに敵を作るな」


クローバーのトランプを懐にしまうと陽太と明利は安堵のため息をつく


「なによ、本当のこと言われて怒るなら自覚してる証拠じゃない、それを指摘して何が悪いのよ」


「何度も言わせるな、言い方がきつすぎるって言ってんだ、指摘は正しいのにこれじゃ言われた方も正直に受け取れない、指摘のつもりならもう少し言い方を考えろ」


「能力の持ち腐れをしてるやつに下手に出たって無駄よ、こういうのはガツンといかないとわからないんだから、それとも長年一緒にいるくせにそんなこともわからないの?」


「本人のやる気がないなら何を言っても無駄だ、逆に本人にやる気があるなら何も言わなくてもやる、今更何も言うことはねえんだよ」


いつの間にか口げんかの相手が陽太から静希へとシフトしてしまっている


口げんかというよりは言いあいというべきだろう、何気に殺気がぶんぶんとんでくるのは静希のものではなく鏡花のものだった


今度は陽太ではなく鏡花がいらいらしているようだった、どうやら静希と鏡花もそれほど相性がいいというわけではないらしい、鏡花がなにを言っても静希は軽くいなして受け流していた


「だいたい陽太の能力は前衛向きだ、小手先の戦術が合わないっていうのは確かにその通りだし、それに頼るのも納得できる、後はフォローしてやる奴がいればこいつだって十分に実力を発揮できる」


「へえ、複数戦だったらこんなイノシシ君も活躍できるって言うの?」


「そうだ、三人いりゃいいけど、二人でも十分実力を発揮できる、お前を倒すことくらいはできるだろうよ」


静希にしては珍しい挑発の言葉にまんまとかかり鏡花は額に青筋を浮かべる


「へぇ、上等じゃない!ならやってもらおうじゃないの、二対一でも二対二でもやってやろうじゃない」


さすがに見ていられなくなったのか、静希の服の裾を明利が掴む


「だ、ダメだよ静希君、そんなこと言っちゃ、怪我したら危ないよ」


「大丈夫だって、こいつに言わせりゃ本当のことを言われて怒るなら自覚してる証拠、指摘しても問題ないそうなんだから、事実なら何言ってもいいんだろ?」


「本気であったまきた!今すぐでもやってやろうじゃないの!」


「ざけんな、二対二でやるのにこんなとこでやったってつまらないだろう、明日か明後日あたりおあつらえ向きのイベントがあるから楽しみにしとけ」


「二対二?いいの?複数でかかってこなくて?」


「必要ねえよ、二対二でもおつりがくる、俺は陽太と組む、明利、悪いが清水のお守頼めるか?」


「え?う、うん・・・」


「お守ってあんた・・・」


「明利の能力はお前の能力と相性はいいぞ、せいぜい情報引き出して対策しておけ、それでも負ける気はしないけどな」


「いい度胸じゃない、いいわ完膚なきまでに叩きのめしてあげる、幹原さん、協力して!あいつら潰さないと気が済まないの!特訓よ!」


「え?あ、ま、またね静希君陽太君」


鏡花に引きずられるようにして連れて行かれる明利を見送って陽太はひきつった顔を静希に向ける


「おい静希、なんか挑発してたか?」


「おう、挑発した」


「なんでまた」


「個人プレーより連携の方が上だってわからせとかなきゃな、それこそ言っても無駄だからな、実践する」


「作戦は・・・?」


「ないこともないけど、場所次第だな、こればっかりは運だし」


「なんでそんな危ない橋渡ってんだよ、珍しい」


「俺だって多少なりともむかついたんだ、仕方ないだろう」


そういった後に静希は非常に邪な笑顔を浮かべる


「能力がなくたって使いようだってこと脳みその隅々までわからせてやる、そうと決まったら準備だな、陽太手伝え、徹底的に仕込みするぞ」


「・・・死人が出ないことを祈ろう」


静希はうまくいなしてはいたが、自分の能力を馬鹿にされている


自分だって散々バカにしてきたし何でこんな能力にとも思った、何度ももっとましな能力だったらと思った


だがそれを、十年近く試行錯誤を続けた能力をさも当然のように馬鹿にされるのはさすがに腹が立つ


「明利を巻き込んだのは悪いと思うけど、あいつにとってもいい機会だろ」


「そうか?振り回されてなきゃいいけど」


あの性格だと確かに鏡花にされるがままというイメージはあるが、静希と陽太の情報を持っているというだけでアドバンテージは持てる、対等な関係にはなれるはずだと静希は踏んでいた


「でもなんで明日か明後日にしたんだ?別に今日でもよかったんじゃねえの?」


「あぁ、それは」


翌日午前八時二十分、朝のHR


「連絡事項だ、明日の二限目から複数戦闘演習を行う、各員二人以上のチームを組むこと、演習場は森林地帯で行う、集合は二限の始まる時間に直接演習場までくること、それと一限はなしだ、なおこの実習は後日行われる校外実習の班を決定する上で参考にするからそのつもりで行動するように」


「こういうこと」


「なるほど」


申請を行う際に言っていた複数戦闘演習で他のクラスが使うことを知った静希は自分達は他の場所でやると踏んでいたが、予想は的中


入学式のその時に連絡事項がないので今日あたりで発表があるかと思っていたが予想通りだったということだ、さすがに後の班を決定するところは予想外だったが


「ふふん、なるほどこういうことだったわけね」


「自信満々のエリート様ご登場ですな」


律儀に腕組までして胸を張るその動作の後ろに隠れてゆっくりと明利がやってくる


「おはよう明利、疲れてるみたいだな」


「・・・うん・・・昨日は結構遅くまで能力の練習を・・・」


「自発的に?」


「清水さんに指導されて・・・」


なるほど、体力のあまりない明利にそんなことをさせるとは


「まったく転入初日に一人叩きのめして一人いびり倒したか、清水、恐ろしい子」


「人聞きの悪いことを言わないで、幹原さんはいい能力を持ってるんだから伸ばしていかないともったいないわ」


「だからってなぁ」


目に見えるほどに明利は疲労がたまっていた、恐らく筋肉痛も起こっているのだろう、身体を動かすたびに辛そうにしている


「筋肉痛とかは治せないからなぁ、こればっかりは」


「よくわかったね、筋肉痛・・・」


「そんな顔してりゃわかるっての」


能力の中には治療という概念の能力も存在する


強化系統能力者が人の自然治癒力を強化して行う治療なのだ


明利はその俗に言う治療を施せる能力者なのだが、一般的に筋肉痛など、人の駆動に関わる器官の治療は専門知識がなくては行ってはいけない規則になっている


無論緊急時においてはその限りではないが、ただの筋肉痛では治すわけにもいかないし、治して変に筋肉が増強されたりするとやっかいだ、そこが治療系能力の難しいところである


というより、筋肉痛ごときにわざわざ能力も使うほど明利は能力に依存していないのだ


「軽い筋肉痛だから明日には治ると思うよ、へーきへーき」


必死に笑みを作っているもののやはりつらそうだ


本来明利は運動が得意な方ではない、恐らく鏡花につきあって無理をしたのだろう


「清水、今日の特訓はせいぜいこいつから俺らの情報を聞いて分析する程度にしておけ」


「なんであんたの指図を受けなきゃいけないのよ、私達のチームの問題よ?」


「このままいきゃ明利は筋肉痛で動けなくなるぞ?お前のいうチームは相方に負担を強いるものなのか?」


「む・・・」


さすがに返す言葉がないのか鏡花は渋々納得した


「明利も今日はじっくり休んでおけ、昨日能力測定あったし、今日は座学だろうから」


「うん、そうする」


「そういうわけだ、情報戦も重要だぞ?」


「わかってるわよ、んじゃガールズトークでもしてましょ!」


ガールズねえと静希と陽太は呆れていた


だが静希は内心ホッとしてもいた


「実を言うとな、準備があまり進んでない」


「どういうことだよ、明日の二限だぞ」


静希は収納系統、戦いに対しても別の動作に対しても事前準備がなければ始まらない、基本的に収納系は入れておく装備で全てが決まると言っても過言ではないのだ、それが収納能力の低い能力者なら特に


「仕方ないだろ、春休みに一度全部使っちまったんだから、どっかの誰かさんのせいで」


「・・・誰のせいだろうな」


もちろん静希の視線は陽太から外れない


春休みにひと悶着あったのだが、ここではそれは割愛しておく


「昨日お前に手伝ってもらった分は準備できてるんだ、でも肝心の部分がなぁ」


「コツコツ準備してないからこうなるんだよ、お前らしくもない」


「本当にどっかの誰かさんのせいで」


「誰だろうなまったく」


大きくため息をついてこの話はお終いにしよう、そう思いトランプのハートのAを取り出す


「今回は相手が相手だから全力でいきたいけど、そうもいかないからな、しっかり作戦立ててくぞ」


「森林地帯だっけか、明利のホームグラウンドだぞ、どうすんの」


「こっちのホームグラウンドでもある、状況は五分五分だろ」


とはいったものの、明利のホームグラウンドというのは非常に運が悪い

岩石地帯であればこちらの有利だけを活かせたのだが、そう上手くいかないというところか


「細かい作戦は今日決めるとして、俺の準備が間に合うかの勝負だな、明日試合が始まる前に作戦を伝えとくよ」


「そんなギリギリでいいのかよ」


「さすがに準備もできてないのに作戦伝えられないって、今日ギリギリまで詰め込んでみるよ」


作戦考えてあったけど準備が間に合いませんでしたとなると目も当てられない


入念な準備とその準備に見合う作戦を作らなくてはならない


相手は自分達の手の内を知っているのだ、その分作戦をいくつか用意しておく必要があるだろう


結局その日は静希の予想通り座学、と言ってもこれから始まる授業のガイダンスのようなものだ、大まかな説明があっただけ、午後まであったのが唯一の誤算だろう


「よっしゃ終わった!んじゃな陽太、俺は準備があるから」


「おお」


帰りのHRが終わると同時に静希は机をけり全力で教室から出ようとする


「静希君」


「ん?どした?」


何か言いたげなのだが、何やら言おうかどうしようか迷っているようだった


もじもじしながら指をいじっている


「あのね、お母さんがね、久しぶりにうちのその、料理食べに来たらどう?っていっててね、その・・・」


言いたいことは理解した、静希は明利の家とは昔から面識がある、静希自身たくさん世話になっている


「あぁ、なら今度お邪魔するよ、それじゃな」


準備は一秒でも多くしたい、明利の誘いを快く受け、その場から全力ダッシュする


こんなときに肉体強化でもあれば楽なのだろうがそこは仕方がない、すでに諦めた考えだ


間に合えば勝てる可能性は七割、間に合わなければそれが四割まで低下する


それが大体の静希の目算だった


だからこそ間に合わせなくてはならない


時間との勝負だった


お楽しみいただけたなら幸いです

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