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J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

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歪みへの対策

「なに?この辺りの魔素の?」


「あぁ、ここ一か月の魔素の計測結果を出してくれるように頼んでくれ、どっかで観測くらいしてるだろ?」


静希はメフィを収納し、一度仮設テントの方に戻ると大野と合流しカールの下へとやってきていた


まずは現在の魔素の観測装置によって事前の観測が可能かどうかを確認しなくてはならない、これができるか否かで今後このような事件を未然に防げるかもしれないのだ


「それはいいんだが・・・またどうして?そう言うのは研究者の仕事では?」


「他の研究者が今魔素の計測をやってるのは知ってる、でも俺が知りたいのは今じゃなくて過去のデータなんだ、この国の事なんだ、あんたの方がいろいろと話を回せるだろ」


現在あの黒い何かの周囲にいる研究者は常時魔素を計測しながら多岐にわたる実験などを行っている


好奇心をくすぐられるのは結構なことだが、今はこの黒い何かの利用法よりも対処法を考えたほうがいいのだ


静希の言葉にカールは一瞬渋っていた、国のデータを渡す、あるいは見せるというのは自分の一存では決められないと思っているのだろう


それは一軍人としては正しい判断だろう、だがこの状況下に関していうなら、未だ状況を読めていない


「いいか、その結果の如何によっては、またこれが起きた時に事前に防ぐことができるかもしれないんだぞ、この国だけで『これ』が起きるとも限らないんだ、データを解析して開示して、世界規模で対策を練らないといけないんだ、そのくらいのことわかるだろう?」


その言葉にカールは、なぜ静希がそこまでこの現象についての知識があるのかと疑問になったが、静希には悪魔がついている、その事実を思い出して半ば納得しかけていた


悪魔が何かしらの入れ知恵をしたのではないかと思い至ったのである


そしてその想像は正しい、静希だってメフィの助言がなければ次の行動を適切にとることもできなかっただろう


「後はこの黒いのが一体どこまで広がってるのか・・・地上だけじゃなくて地下にも広がってるはずだ、それを確認してその中心部を特定する、たぶんそこがこいつの発生源だ」


「・・・わかった、部下に調べさせよう」


カールはそう言った後部下に指示をだし、さらにどこかへと電話をかけ始める


恐らくは二つの案件を同時に片付けているのだろう、ことの重要性をようやく理解したようだ


正直に言えば、今研究者の護衛などしているよりもこれを起こした人間のことを調べるか、今後同じことが起きないようにした方がよほど有意義である

無論研究者の調査によってそれが明らかになる可能性もある、だがその線は薄いと静希も、そして現場を指揮していたカールも薄々勘付いていた


なにせ先ほどから見ると研究者たちは何故この黒い物体が現れたのかという事よりも、この黒い物体をいかに利用するかという事に御執心だ


どんな攻撃をしても砕けない、びくともしないようなそれこそダイヤよりも固い素材と言えるかもしれないものを見て好奇心を刺激されているのだ


無論静希もこれがただの物質だと思っているのであれば何とかして利用できないかと考えたかもしれない


もし収納できるのであればどのようにして使うかを考えたかもしれない、だが実際にメフィにその現実を知らされ、もはやそんなことを考えるだけの余裕がないという事をすでに理解していた


これは危険だ


この事態を起こしたのが一体どんな存在かは知らない、人間かもしれない、エルフかもしれない、あるいはメフィのような人外かもしれない


だがこれが起きたという事は、少なくともこの世界にはこれだけのことを起こせるだけの『技術』があることになる


以前メフィが見たというそれは、メフィと同じ悪魔が起こしたらしいが、今度はそれがこちら側でも起きた、という事はかつて悪魔が使っていたものと同じか、似た何かをこちら側の誰かが使ったという事になる


技術の進歩というのは恐ろしい、例えば兵器や道具などであれば一度でも作ってしまえば、改良を重ねてほぼ確実に量産化できてしまう


今回、人類史において恐らく初めてだろう事態が起きた、今回はまだはじめの一歩でしかないかもしれない、もしかしたらこのような事態を意図していないただの事故かもしれない


だがこれは起きた、となればこれを起こそうとする人間は他にも出てくるだろう


「あとこれを徹底させてくれ、このことをマスコミや他の人間にばらさないように、こんなことがばれたらパニックになる」


「・・・伝えておこう、だが確約はできない・・・決めるのは私ではなく上の人間だ」


上の人間、確かにカールはあくまで現場の人間だ、それを告げたところで結局のところ決めるのは上の人間に他ならない


となると静希もコネを使うべきなのかもしれない


この事態を前に自分ができることなどたかが知れているができる限りの手は打っておくべきだ


もし町一つを壊滅させられるような技術が確立してしまったら大惨事になる

今のうちに対処しておかなければパニックは避けられない


幸いにして今のところは情報の差押えは成功しているように思えた、だがここから先が問題だ、時間が経つにつれて事態が発覚する可能性は高くなっていく、それを防ぐためには強い力がいるだろう、そしてそれを納得させるにも、同じように強い力が必要になる



『イガラシか、何の用だ?今ものすごく忙しいんだが』


静希が連絡を取ったのはこの件の発端ともなったテオドールである、恐らくは情報の統制や収集などで大忙しなのだろう、それよりも先にやってもらわなければならないことがある


いくら現場で押さえようとしても限界がある、押さえるのであればもっと上から圧力をかけなければいけないだろう


「こっちは今例の件の現場にいる・・・単刀直入に言うぞテオドール、セラの父親・・・アランと話をさせろ、お前ならできるだろ」


セラ、そしてその父親のアラン


以前静希がテオドールに誘拐されかけた時、三回目の国外での行動で出会ったイギリスの王室の人間である


静希の言葉にテオドールは息をのんでいるようだった、一体何を話すつもりなのか、何を言うつもりなのか、それを考えた結果いくつかの回答を得ることができた


『何か対抗策を練ることができたと、そうとらえていいのか?』


「最低限の応急処置でしかないがな、現場の人間が言うよりも、上の人間が言う方が話は通りやすい、時間が惜しい、早く決断しろ」


テオドールにとって、セラの父親は級友だ、静希のような得体のしれない人間は可能な限り近づけたくないだろう、だが状況が状況だ


町一つ消える、その危険性をテオドールはほぼ正確に理解している、だからこそ彼は今情報を少しでも抑え込もうとしているのだ


『一つだけ聞かせろ・・・町は・・・住んでいた人はどういう状況になったかわかるか?』


「・・・どこか別の次元にとばされたか・・・あるいは町ごと消滅したか、そのどちらかだろうな」


静希自身メフィから聞いただけの話のために確証はない、だが彼女が言うことはあくまで可能性の話だ、とはいえこの状況を伝えるには十分すぎる


テオドールもその重要性と危険性を理解したのか、大きくため息を吐いた後で口を開いた


『・・・わかった・・・ダイレクトコールを教える・・・だがこれっきりだ、いいか、今回限りの回線だからな』


「いいから早くしろ、失礼なことは言わないようにする・・・ただ日本語が通じるかだけが心配だけどな」


『あいつは勉強家だからな、その点は安心しろ、ゆっくり話せば伝わるはずだ』


テオドールはアランへつながる番号を教えるとすぐに通話を切る


恐らくはあらかじめアランに報告しているのだろう、その程度の時間は待っておいてやることにした


確かアランは第三皇子だったか、自分の記憶を頼りにその顔や性格を思い出しながら静希は携帯を操りアランへ電話を掛ける


数回のコール音の後、向こう側から僅かに片言の日本語が聞こえてくる


「もしもし・・・お久しぶりです、五十嵐静希です」


『アァ、久しぶりだミスターイガラシ、テオから話がアルと聞いタ』


若干片言になっているものの十分話ができるレベルで安心した、オルビアの簡易翻訳は電話や機械越しなどでは効果を発揮できない、英語であればオルビアはある程度わかるかもしれないが彼女が生きた時代とは違いすぎるのだ


「単刀直入に言います、今回のオーストリアの事件についてです、この件の徹底的な情報規制と、この周囲の魔素の動きのデータを各国に開示するように要求してほしいんです」


『ソレは問題ないケド、ナゼ?理由があるとありがたい』


理由、ただ悪魔に教えてもらったことから最悪の事態を想像したにすぎないが、これからのことを考えるならばこれが今できる最善なのだ


だがそんなことをまともに言ったところで一国の王子が信じるとも思えない

かつて会ったことがあり、静希が悪魔の契約者だという事も彼は知っている、だがだからと言って他国の人間をそう易々と信じるとは思えなかった

それでも、今は信じてもらえるように話すしかない


「今回の事件がこれだけで終わるとは思えません、俺の契約している悪魔からある程度の情報を引き出しました・・・今回の事件が起こる前には多少なりとも魔素に何かしらの動きがあると」


『ナるほど、それで魔素のデータを・・・たシかにそれがワかれば前もって防ぐことができソウだ』


その通りですと静希が答えるとさらに付け足すようにこう告げた


「そして今回のことが衆目に晒されれば、これを真似しようとする人間が出るかもしれません、二次被害は避けるべきでしょう、能力者自体の印象が悪化することもあり得ます」


『・・・ナるほど、ワかった、こちらの要求として提出してオくことにするよ・・・だがモうテオがいろいろ手を回してイルとおもうよ』


「そうですか・・・感謝します」


国のトップの一端を担っているというだけあって頭の回転はかなり速いらしい、静希が今回の事件の危険性を少し話しただけで、彼自身としても防がなければならないことを理解したのだろう


そしてテオドールも今回のことがどのようなことになるかをいち早く察知したのだろう、これだけの事態になってもマスコミなどが動いていないのは何らかの形でテオドールが手を回して圧力をかけたからだろう


相変わらず手が早い奴だと思いながらも静希はその行動に内心安堵していた


情報が漏れるだけでも大惨事を引き起こしかねないのだ、そう言う意味ではテオドールが行ったことは正しいことである


『ミスターイガラシ・・・テオの言っていたことは本当ナのか?住んでいた人達ハ・・・』


「・・・少なくとも、もうこの場にはいないでしょう、どこか違う次元にとばされたか・・・消滅したか・・・こちらもまだ正確に事態を把握していませんので、確証はありませんが・・・この二つが一番有力だと」


八千人が消えた、いや最低でも八千人というだけだ、恐らくもっと被害者は増えるだろう


未曽有の事態となった、かつて起きた災害の中でも指折りの数と言える、だがこれほどまでに被害がピンポイントになった事件などは無いだろう


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